花壇の花が一本足りない?
次の日。
今朝も昨日と同じく空は雲一つ無い青空が広がりジリジリと太陽が照りつける。
もう梅雨も終わりに近づいている。
朝礼が終わり、俺と清一は廊下で喋っていた。他の生徒も一時限目の授業が始まるまで思い思いの事をしている。
すると、俺達に気づいた杏子がロングヘアの髪を揺らしながら近づいてきた。
「あ、いたいた。正信と家倉くんに依頼があるんだけど」
俺と清一は杏子の方を振り向く。
とうとう朝から依頼が来るようになったか。
俺は顔をしかめた。
「朝から依頼か、誰の依頼だ?」
俺は杏子に聞いた。
「あたしよ」
「は?」
「だから依頼主はあたしよ」
朝から依頼してくる非常識な奴の正体はお前か!
「それで鳴海氏、依頼の内容は何なのだ?」
清一が不思議そうな顔で尋ねる。
「実はあたし登校する時に毎日花壇の花を見てるの」
花壇は学校の正門入ってすぐ右にある。
こいつにこんな趣味があったのか。
もちろんそれは言わない。
「今日もいつものように花壇を見たんだけど何か違和感を感じたのよ。それで、近づいてよく見たらアサガオが一本足りない事に気づいたの」
「枯れていたから田中さんが引っこ抜いたんじゃないか?」
すかさず俺が思ったことを口にする。
「いや、それはありえないと思う。だって昨日の夕方も花壇を見たんだけどその時はどの花も皆元気だったから」
「朝、花に水をあげてるのは田中さんだろ?田中さんにはこの事話したのか?」
「いや、話してないわ。それに水をあげてるのは田中さんじゃなくて女子テニス部よ」
何で女子テニス部が花の水やりをしてるんだ?俺は疑問を口にすると杏子は神妙な面持ちで話し始めた。
「実はもともと一人の女子テニス部員と田中さんの二人で花の水やりをしていたみたいなの。でも、そのテニス部員が突然重い病気になってしまって、入院する事になったの。入院してる間その子は花壇の花を凄く心配していて、その子が心配しないように残りのテニス部員が花の世話をするとその子に言ったらしいわ。だから今は田中さんと女子テニス部員が水やりをしているってわけ」
なるほどな。そんな深い事情があったのか。
清一も珍しく真面目な表情で話を聞いている。
「ちなみに朝は女子テニス部員が水をあげて、部活がある夕方は田中さんがあげてるらしいわ」
ということは花が消えた事を田中さんに聞いても無駄だということか。
「少し調べてみるか。どうせ最近は依頼も少ない事だし」
俺は清一に言う。
「そうだね。花が消えた理由なんてすぐ調べればわかりそうだしね」
清一が快く了承する。
「助かるわ。入院した女子テニス部員が大切にしていた花だからちょっと気になってね。あたしに協力出来ることがあったら遠慮無く言って」
「ああ、わかった」
生徒会長の権限が必要になったら頼るか。まあでも花をちょっと調べるだけだし、もしかしたら頼る必要もないかもな。
「なあ二人とも、もうすぐ授業が始まるよ」
清一が時計を見ながら言った。
時計を見るともうすぐ一時限目の授業が始まる時間だ。
俺達三人は話を切り上げ急いでそれぞれの教室に戻った。