倉庫整理
俺と清一は校務員室前に到着した。
気温が高いのと走って来たせいか俺は夏用のシャツの下に若干汗をかいた。
だが、隣にいる清一は涼しい顔をしている。学校ではいつもブレザーを着ているこいつは夏にもかかわらず汗一つかかない。
化け物か!
呆れながら清一を見る。
「よし、入ってみようか」
清一は校務員室の扉を二回「コンコン」とノックした。
「はーい」
中から優しそうな声がする。
扉が開くと中から人の良さそうな60過ぎの男が出迎えた。
「おや。随分と急いで来たんだね。とりあえず中に入りなさい。お茶でも出すよ」
田中さんは申し訳なさそうな顔でうっすら汗をかいている俺を見ながら言った。
しまった、気を使わせたか。
「では、お言葉に甘えて」
そう言うと清一は校務員室の中に入って行く。
お前は少しは気を使え!
俺と清一はテーブルに着くと田中さんが「どうぞ」と言い冷たいお茶を出してくれた。
田中さんも自分の席に座る。
校務員室は畳張りの質素な部屋でエアコンが完備されているため中は涼しい。窓際には田中さんが趣味で育てているのだろう。植木鉢に花が植えてある。
「ありがとうございます。それにしても綺麗な花ですね」
清一は言った。
植木鉢にはアサガオとカスミソウが数本植えられている。
田中さんが優しい目で花を見る。
「ああ、そうだろう。実はここの生徒から種をもらってね。地道に育てていたんだよ」
花を褒められたのが嬉しかったのか自然と笑顔になる。
「ところで依頼の内容は倉庫整理で間違いないですか?」
俺は聞いた。
「ああ、最近倉庫の整理をしていなかったからね。皆が夏休みに入る前にやっておこうと思ったんだ」
倉庫は三棟校舎のさらに奥にある。
倉庫には体育祭で使う道具や、園芸用の植木鉢、工具や農具などが入っている。
整理は一年にそう何回もするものでは無い。夏休みに入る前と冬休みに入る前の二回ほどだ。
お茶を飲み終えた俺と清一はお茶の礼を言い早速田中さんと共に倉庫へ向かった。
校務員室を出て数分、倉庫の前に到着した。
田中さんが立て付けの悪いシャッターを持ち上げて開ける。
俺と清一は中に入った。
倉庫の中はかなり埃っぽい。特に何回も出し入れするわけじゃない体育祭の道具は埃が凄かった。
余談だが、以前スコップを使用する機会があったのだがそれはここにあったスコップを持って行った。
目がかゆい。マスクとゴーグルを持って来るべきだったか。
そう思い隣を見るとガスマスクをつけた長身の男が立っている。
田中さんは目を丸くしている。
「予想はしていたんだが随分埃がすごいね。マスクを持って来ていて正解だった」
ああ、お前の言うマスクは普通の人が考えるマスクでは無いがな。
俺はガスマスクを引っぺがし外に放り投げた。
倉庫整理はかなりの重労働だった。
まず、倉庫に入っているものを外に出し、雑巾や箒で埃を取る。
その後使用頻度の低いものから奥に詰めて行く。中にはジンギスカン鍋やどこかの民族の仮面などが出て来た。
こんなもの何に使うんだ?
俺は当然それらを一番奥にしまった。
倉庫整理はみっちり二時間やり俺と田中さんはボロボロになり地面にへたり込んだ。
清一は一人涼しい顔で立っている。
流石に着ているブレザーは汚れているが清一本人は汚れが一つも着いていない。
「凄いね。家倉君はぜんぜん疲れてないみたいだ。私ももう年かな」
田中さんは「はは」と笑う。
「いやいや、僕も随分疲れましたよ」
清一は全く疲れを感じさせない笑顔で言う。
田中さんそいつがおかしいだけです。
俺と田中さんはその場からしばらく立てなかった。
倉庫整理が終わると三人は校務員室に戻りお茶を飲みながら休憩をした。
「しかし、倉庫の中には妙なものもありましたね。あんなもの何に使うんでしょう?」
清一はお茶を飲む手を休め田中さんに尋ねた。
ガスマスクを持っているお前が言うな!
「私にもわからないんだよ。ずいぶん前に学校の行事か何かで使ったんじゃ無いかな?」
田中さんは困ったような顔をする。
長年いる田中さんでもわからないんだな。
長々と校務員室にとどまるわけにもいかないので俺と清一はしばらく田中さんと話をした後お茶の礼を言い校務員室を後にした。
この後特に用事があったわけではない俺と清一はその日は何もせず家に帰る事にした。