さっさと行くぞ
さて、清一を探さなくてはいけない。
俺はとりあえずクラスの教室がある一棟を目指して歩きはじめた。
生徒会室は二棟にある。
一棟と二棟を結ぶ渡り廊下を渡り二年生のクラスがある四階を目指す。
すると三階と四階を結ぶ階段で大きめの声が聞こえはじめた。
なんだ?
今は放課後で部活動生は部活に行き帰宅部は帰っているはず。
そんなに人が残っているはずはないんだがな?
嫌な予感がした俺は階段を一段飛ばしで登り声がする教室の扉を開けた。
すると衝撃の光景が目に飛び込んで来る。
数人の黒人と清一がくるくる円を描いて回りながら手でタッチの応酬を繰り広げている。
その間「カバディ」と言い続けている。
何やってんだこいつら。
はぁ、とため息をつく。
俺は清一の方へと歩いて行き。回っている清一を捕まえ教室の後ろに向かってぶん投げた。
「ぐはっ!」
清一は吹き飛ばされ机を巻き込みながら派手な音を立ててて教室の角で止まった。
黒人はそれを見て驚いた表情で「オー」と言う。
「ひどいじゃないか。何もここまで投げ飛ばす必要はないだろう」
清一は机の山の中に埋れている。その中から抗議の声が聞こえてくる。
「お前、教室に黒人なんか呼んで何変なダンス踊ってんだよ!」
俺は清一を怒鳴りつけた。
すると清一がピョンと机の中から飛び出す。
「正信よ。これはダンスなんかではない。カバディというインド発祥のれっきとしたスポーツなんだよ」
清一がよくぞ気いてくれたと言わんばかりの笑顔で言う。
俺が言った事に対しての返事が間違ってる!
それにどうでもいい事だが、では何故インド人を連れて来なかったんだ⁉︎
目の前の黒人は明らかに英語を話している。
清一がカバディのルールやその起源の説明を俺にしているが俺は真面目に聞いてはいない。
清一の声は俺の右耳から入り左耳に抜けて行く。
後ろにいる黒人はどこから取り出したのか大きなラジカセを肩に担いでヒップホップと思われる歌を全員でのりのりで歌っている。
何だこのシュールな状況は…
今清一はカバディの起源の話から何故かゾウの糞で紙が作れるという話をしている。
全く話を聞いていなかった俺はカバディがどういう流れでゾウの糞に話を踏み潰されたのかわからない。
まあ興味もないんだが。
俺はまたため息をついて言った。
「ゾウの糞の話はもういいんだよ。相談科に依頼が入ってる。校務員の田中さんが手伝って欲しいことがあるから校務員室に来て欲しいんだってよ。さっさと後ろの黒人を返して行くぞ」
清一はゾウの糞の説明を止める。
「なるほどわかった。じゃあ仕方ないカバディはまた今度正信も連れてすることにしよう」
そう言うと清一は後ろの黒人に自分は用事が出来たから今日カバディはもう出来ないと説明した。
ん?今さらりと妙な事言わなかったか?まあいいか。
黒人は帰る途中「マジ、タノシカッタゼ!」と清一に言って帰って行った。
清一は親指をビッと立ててウインクする。
あいつら日本語喋れるだろ。
だが、それ以上は言わなかった。
あまり田中さんを待たせるのも申し訳ない。
ぐしゃぐしやになった机を急いで片付け清一と共に校務員室へ走って向かった。