噂になった男
次の日、学校ではある噂で持ちきりだった。その中身は、この学校に全身真っ黒の男が紛れ込んでいるという内容だ。
昨日のテレビを見た学生が結構いたようで、 あの時清一は「僕は七夕高校に通う…」まで言ってしまった。
そのせいで、外出する時は必ずあの格好をする変人が学校に潜んでいると噂されているのだ。
噂とは多少の誇張があるものだ。どうやら、清一は外出時は必ずあの格好をすると勘違いされているらしい。
黒男の正体を知っている俺は苦笑いするしかなかった。
「学校では妙な噂が飛び交っているようだね。外出する時は必ず全身真っ黒の服を着用する男だって?僕もぜひ見てみたいものだね」
自分の事とは知らない清一は呑気な調子だ。
お前の事だよ!
冷静に考えれば自分の事だとわかりそうだが、変人のこの男は自分が噂の原因だとは微塵も思っていないらしい。
全く、「馬鹿と天才は紙一重」という言葉はこいつのためにあるような言葉だな。
清一はこのように普段はかなりの変人なのだが、稀にあっと驚くほど頭が冴える事がある。
以前この学校で発生したお金の盗難事件を見事な推理で解決したのだ。
普段からあの時の真剣な顔つきでいれば、もともとイケメンなのだから今頃モテていたはずなのにな。
以前も同じような事を考えた俺は残念なイケメンを横目で見ながら思った。
「学校には他にもいろいろな噂があるだろう?もしかしたらその中の一つになるかもしれないね」
清一は笑顔で言う。
実はこの学校には他にも色んな噂がある。
他の学校で言う「七不思議」のようなものだ。
例えば、 体育館のスピーカーと音楽室のピアノから突然ベートーベンの「月光」がなり始める、花壇の花が動き出す。といったこの学校特有のものから、「トイレの花子さん」「こっくりさん」などといったスタンダードなものまで。
大小数えると7個以上は存在する。
その中の一つにこいつは今なろうとしている。
それが名誉な事なのかそうでないのかは、俺にはわからない。
だが冷静に考える。
内容からして不名誉だな。