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言ってる意味がわからないな!

病室に入って来た俺達三人を見て女子テニス部員は言葉を失い、皆驚いた表情をする。


ベッドで横になっている藤木だけは何が起こったかわかってないようだ。


ベッドの横には植木鉢に植えられた一本のアサガオが置いてある。


だから田中さんが協力したんだな…。


藤木は写真で見た時と同じくショートカットで可愛らしい顔をしているが体は写真で見た時より痩せていて体からは痛々しいチューブが何本か伸びている。


山下が俺達の顔を見る。


俺達の表情を見て全てを悟ったのだろう諦めた表情をしている。


「あの、間違ってたらすみません。生徒会の方々ですよね?」


藤木が弱々しく不安げな表情で俺達に尋ねる。


杏子がニッコリと笑う。


「そうよ、あたしは生徒会長の鳴海杏子。こっちの二人は風紀委員相談科の古村正信と家倉清一よ」


俺と清一は紹介され藤木に笑顔を向ける。


杏子は山下の方を向いた。


「話したい事はわかってるわよね?」


山下は目をつぶり息を吐いて言った。


「わかってる、花の事だよね。これは全部あたしが考えた事なの。だから全ての責任はあたしにある。だからお願い。他の部員には罰を与えないで」


山下はうったえるような目をする。


すると、山下の言葉を聞いた小柄な女子テニス部員が声をあげた。


「違います!実際に花をここまで持って来たのは私です!だから私が悪いんです!」


この子が新井結子か。


必死に山下を庇おうと身を乗り出して訴えかける。


他の部員も同じだ。


「夜行動しようと最初に言い出したのは私です!」


「田中さんからの伝言を伝えたのは私です!」


皆の口から出るのは仲間を庇うような言葉ばかりだ。


胸が痛い…。


「ちょっと待って下さい!」


会話の流れで何の話をしているのかわかったのだろう。藤木が言った。


「そもそも、私が花壇の花が見たいなんて言わなかったら良かったんです。あんな事を言ったから皆が私のために…。だから悪いのは私なんです!皆は優しくて…。だから…」


藤木が必死に訴えかけるような瞳で俺達を見つめる。


杏子は腕を組み目をつぶって黙ってそれらを聞いていたが、腕をほどき一文字に閉じていた口を開いた。


「皆何か勘違いしてない?」


病室が静かになる。


杏子は「ふぅ」と息を吐いた。


「花壇のアサガオは今10本ちゃんと揃ってるじゃない。あたしには皆がさっきから言っている意味がさっぱりわからないんだけど?」


そう言うと杏子はニヤリと笑った。


こいつ。そういう事か!


「ねえ正信、家倉くん。皆が言っている意味わかる?」


俺と清一はすっとぼけた表情をする。


「いや、さっぱりわかんねーな。なあ清一」


「ああそうだね。そもそも僕達はただお見舞いに来ただけだしね」


清一は女子テニス部員に笑顔でウインクする。


「そういう事。どうやら藤木さんも元気そうだし。あたし達はこれで帰るわね」


杏子は笑顔でそう言うと手のひらをヒラヒラとさせて扉に向かって歩いて行った。


「また三人でお見舞いに来るよ」


清一は笑顔で藤木にそう言うと、俺と共に杏子の後を追う。


病室の扉を閉めると扉の向こうから喜びの声が聞こえて来る。中には泣き声をあげる者もいるようだ。


ったくこいつ。始めからこうするつもりだったのか!


杏子はさっきの言葉を言う事によって女子テニス部員と田中さんの後ろめたい気持ちを取り除くつもりだったのか。


俺はすました顔の杏子を見る。


杏子は俺の視線に気づいたのか俺の方を見た。


「何よ」


「いや、お前も意外に優しい所があるんだなと思って」


「何よ。人の事鬼か何かと思ってたわけ⁉︎」


少なくとも俺に対してはそうだろ。


俺は心の中で突っ込む。


だが、それが表情に出てしまったのか、


「あっ。思ってたのね!本当失礼な奴ね!」


そう言うと杏子は俺の腹にパンチを食らわせた。


「ぐはっ!」


俺は痛みに腹を抑える。


俺は抗議の声をあげた。


「何すんだよ!まだ口には出してなかったろ!」


「ほら!結局心の中では思ってるじゃない!」


うっ。


「まあまあ鳴海氏落ち着いて。ここは病院だよ。大きな声を出したら怒られるよ」


清一が困った顔でオロオロしながらなだめる。


杏子は顔をぷくっと膨らませ俺を睨みつける。


まだ不満そうだ。


だが、その表情を見ると、あっ少し可愛いな。と思ってしまう。


正信思い出せこいつは腹黒女なんだぞ。


俺達三人は元来た道を戻り、田中さんが待ってる車へと向った。

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