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僕と双子の姉  作者: 朱砂 晃
夏zero
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水色とオレンジの敗北

 新しい朝が来た。希望の朝だ――

 そう歌ったのは誰だろう。朝が希望にあふれているかはおいておいて、それでも朝のすがすがしい気分は好きだった。

「レイちゃーん、ユウくーん、ねぇねぇこのワンピース、水色とオレンジどっちがいいかな?」

 ドタドタと階段を駆け下りてきたのは、毎度のことながら玲奈だった。

 右手には水色の、左手にはオレンジを基調としたワンピースがある。正直どちらでもいい。勝手に好きな方を着ろ。

 今、問題なのは姉の恰好だ。

「いい加減やめてよ。下着姿で家の中ウロウロするの」

 いくら身内とはいえ、この恰好はどうなのだろう。僕だって年頃の男の子だ。健全な男子学生だ。まだまだ成長過程にいる女性の体に興味を抱かないこともない。身内だとしても。はい。身内だとしてもです。

「玲奈、その恰好はいささか年頃の男の子には刺激が強すぎるようだ」

 軽い零の注意を受け、玲奈は自分の体に目をやる。

「え? なに? ユウ君……いやん」

「〝いやん〟じゃねーよ!! なんで今更照れるんだよ!」

 朝のすがすがしい気分は台無しになった。こんな毎日を送っていて、正直疲れてしまうところがある。正直いって鬱陶しい家族だ。

 

 今日は日曜で季節は夏。午前中から市立図書館に行く予定だった。半年後には受験を控えている。玲奈の洋服選びに付き合っている暇があるなら英単語を一つでも多く覚えたほうがいいに決まっている。

「ねぇ、どっちがいいかなぁ」

 もうかれこれ十分以上そのまま悩んでるのではないか。これ以上玲奈の甘ったるい声を聴くのは嫌だったので、適当に答える。

「オレンジ」

「水色」

 何故か声がかぶった。

「オレンジ」という彼女の雰囲気に合った色を選んだ(適当)僕だったが、一方で「水色」と言ったのが、扇風機の一番近くに座っていた零だった。文庫本を手にした彼女は面倒くさそうに顔を上げた。たぶん僕も同じ顔をしている。お互いに「なんで被せてくるんだよ」っていう顔。

「ええーどうしようかなー。意見わかれちゃったしなぁ」

 余計に混乱させたようで玲奈は必死に両方のワンピースを見比べる。

 本当にどちらでもいいので早くしてください。そして早く出かけてください。

 そんな僕の願いが届いたのかどうなのか、玲奈は「よし!」と言って立ち上がった。

「じゃぁ間をとって、ピンクにしよう!」

 はい、今日も絶好調のようですね。

 もう「間じゃねぇし!」という突っ込みも入れる気すら起きず、僕は自分の部屋へ駆け上がっていく玲奈を冷めた目で見送った。

 そして扇風機の風の向こう、同じ目で零が階段を見続けている。もうそこに玲奈はいないのに、ずっと階段を見続けている。手に持った文庫本が風に煽られようとも、彼女は冷めた目で一点を見続けていた。


 玲奈は出ていくときに言った。

「前にね、ピンクの洋服着てマコト君とデートした時、一番似合うって言ってくれたんだー。えへへへへ」

 なら最初からソレでよかっただろう。そう思ったけど、口には出さなかった。出したら負けだと思った。ただ横で零が「なら最初からソレでよかったよね」って言ったのにひそかに首を縦に振った。


 僕が図書館に出かける前、零を見たらなんか扇風機に向かって話しかけてた。「あー」とか「うー」とか言ってたけど、暑いからしょうがないって思うことにした。

 僕の双子の姉は変な人だ。そう改めて認識した日曜日の昼。


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