第三話
寒い。
息がしにくくて、苦しい。
前から風を吹き付けるのを、やめてくれ。
うっすらと目を開いた。
前から吹き付ける轟風に、薄目しかあけられないが。
「―――――――――っ!?」
何だ! ここはどこだ!? 何があった?!
『マスターの意識覚醒を確認。』
気持ち悪い。ジェットコースターで、胃が持ち上げられるような感覚のアレだ。
『警告! 現在高度2300メートルから落下中。至急対策を取ってください。』
いや、待て。ちょっと待て。
何があった?
地面が揺れて、地面の正体は実は馬鹿でかい竜で。
最後に何かがあって、吹っ飛ばされたのか?
よく死ななかったな。
緑が見える。樹木だ。森だ。
木々の間から飛び立つ鳥のような動物。大きな山に、滝。
豊かな、本当の大地が見える。
遠くには村や、お城のようなものまで見える。
「だってのに!」
このまま落下すれば死ぬ。トレイルブレイザーとして配属されてから、ここに来るまでの間の訓練で、多少は体力がついているとは言え、この高度から落ちれば死ぬ。
死体すら残さず木っ端微塵になって死ぬだろう。
「くっそ! どうにかならないか!」
『3通りの解決策を提示します。』
「言え!」
宇宙船の機能だろう。空中に3枚の光のウィンドウが出る。リンクブレスと同じ色だ。ホログラフのウィンドウのようなもので、具体的な解決策が文字と図で表示されている。
『解決策①。緊急ワームホールを使用し。宇宙船内に帰還します。』
「それだ! すぐやれ!」
そりゃあそうだ、緊急脱出機能くらいついてないと、最新の宇宙船とは言えないだろう。
いまだ落下で気持ちが悪いままだが、心のほうは安心する。
『エラーが発生しました。』
「は!?」
目の前の3枚のウィンドウのうち、一枚が赤く染まる。
『マスターの生体データが一致しません。体の組成に変化が起きています。このままの稼動では、マスターの体が計35のパーツに分裂します。』
「使えないってことか!?」
『解決策②を提示します。リンクブレスをオーバーロードすることで物理的干渉を引き起こし、落下速度を相殺します。ただし、宇宙船の機能に障害が出る恐れが多くあります。』
「3つ目は!?」
『解決策③。エネルギー展開装甲を稼動し、落下ダメージに耐え切る方法です。』
死にそう。たぶん死ぬ。鎧みたいなの身に着けたところで、落下に耐え切れるとは思えない。
「②だ! やれ!」
こうしている間にも、ぐんぐん地面が近づいている。もう、真下の森の木々がよく見えるようになってきている。
『宇宙船の機能に障害がでる恐れがあります。実行しますか?』
目の前のウィンドウに『OK』と『CANCELL』が表示される。
「死ぬよりマシだろオオオオオ!!」
全力で叫びながら、『OK』を押し込んだ。死にたくない!
『承認されました。リンクブレスのオーバーロードを実行します。』
リンクブレスがまばゆい光を放つ。
ただ光が強くなるというよりは、思いっきりだしている水がのたうつ様子に見える。または、蛇がもがき苦しむかのように、光が舞う。
同時に、落下速度が緩くなってきたのがわかる。相殺がうまくいっているのだ。
何か。何か他にできることは無いか!
見つけた。湖だ。あそこに飛び込むようにすれば、さらに助かる確率が上がる・・・はず。
必死に両手両足を動かして空中を泳いだ。少しでも湖の真ん中に近づけるように。
(よし! コースに乗った!)
泳いだかいがあった。このまま落ちれば湖へと落下する!
ぐんぐん落下速度は落ちている。だんだんと湖の水面が近づいてきていた。