第二話
目の前に広がるのは、ただただ白灰色の世界だった。
ごつごつした岩場というか、石灰の鍾乳洞というか。何もない不毛の地がそこには広がっていた。
歩くたびに、足の裏に硬い感触が届く。
上空には太陽のような明るい星があり、雲が流れている。ごみごみした故郷よりは、空気はきれいで、おいしく感じる。
「うーん、しかしこれ。資源とか何もないんじゃないか?」
思わず冷や汗が出る。
資源を探しに来たのだ。こう、もっと森があって川があって、自然がたくさん、という風景を想像していたのだ。
それがこの現実。
核爆弾か何かで生物が死滅したかのような風景。
雑草すら無い。
「おーい、宇宙船。ここらへんに生体反応はあるか?」
植物や鉱石などのほかにも、生き物もまた資源となる。豚や牛などを考えてもそうだろう。
『微弱な生体反応を検知しました。』
「お、いるんじゃん。よかったぁ。とりあえず何かは持って帰らないと怒られるしな」
人工音声が響く。
宇宙船本体は別次元に繋留しているが、右手首にまとわりついている緑色の光で出来たブレスレット<リンクブレス>が、宇宙船とこっちとを繋いでくれている。このリンクブレスで、翻訳や解析などの様々な支援が得られるのだ。
「よし、偉大な第一歩だ。ここを拠点にがんばりますか。」
宇宙船さえあれば、不毛の地であろうと食べるものには困らない。宇宙船に戻れば、確か移動用の一人用ホバーなどもあったはず。あとは、地道に村や鉱山を探して移動すればいいのだ。
まさかとは思うが、この世界全部がこんな不毛の地・・・ではないと信じたい。
「おおいっしょっとぉ!!」
希望を胸に、地面にゲートマーカーを叩きつけた。
叩きつけることで、ゲートマーカーの設置機能が働き、細かい根のような固定杭がドリル状になって地面に突き刺さるのだ。
不可解な事が起こった。
まず、バキンッと硬い地面が割れ、―――
―――ブシュッと、割れた地面から、赤黒い液体が噴き出した。
風向きが悪かったのか、運が悪かったのか、モロに全身に浴びてしまう。いくつかは口の中にまで飛び込んできた。
「うっわ! なんだよこの汁!」
『警告! 生体反応の活性化を確認。 注意してください。』
「え!? 何!? 何だ?」
嫌な予感がする。とてつもなく嫌な予感が。
足がガクガクする。
怖くて震えてる!?
いや違う! 地面が揺れている!
次第に大きくなってきた地面の揺れは、もう立ってはいられないほどになっていた。
両手をつき、這いつくばるようにして揺れに耐える。
(まさか。まさかこれ―――っ!)
『警告! 当座標からの移動を推奨します。当座標は、大型生命体の背部だと推測されます。』
(やっぱりか!)
移動しろと言われたところで、動けるものではない。せめて、ゲートから船内に移動しようと、一歩を踏み出した。
その瞬間、世界がひっくり返った。
移動しようとした不安定な姿勢に、強烈な重力が襲いかかったからだ。
「グッ――――!」
肺がつぶされて呻き声が出る。それだけでなく、元いた所から、十数メートルは転がされている。
(この・・・なんだ!? あれか! 飛ぼうってのか!?)
視界の中の地面は、もはやどこが上だかわからなくなっている。ただ、体にかかる重力の方向から、だんだんと傾斜がきつくなってきているのはよくわかる。
地面が割れる。
巨大な翼へと、変貌していく。
遠くに、大昔の恐竜を思い起こすような頭部が見えた。
最後にもう一度、ひときわ大きな揺れを感じた瞬間。
僕の意識は真っ暗な闇に落ちていった。
ファンタジーなら竜でしょ! 竜、好きです。