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幼馴染みだよ  作者: 塔子
4/17

【4】

移動手段が、徒歩のみの異世界。


勿論、馬や馬車は存在するけど、一般庶民には手の届かない高価なもの。


ひたすら、歩いて行く。



「ねえ、ラウルー!次の町まで、あとどのくらいー?」

「あと1時間ぐらいでしょうか」

「う~ん、頑張る~~」

「無理は禁物ですが、天気が怪しいです。急ぎましょう」



振り返ると黒い雲が追いかけてくる。


きっと、あの雲の下は土砂降りだろう。


完全に棒になっている足に激を入れて、私は町へと急ぐ。


だけど、歩くスピードより雨雲の方が速かった。


町の宿に着いた時には、全身びしょ濡れになってしまった。



「宿の女将さんから、タオルを借りてきましたよ。湯浴みの準備が出来次第、声を掛けて下さるそうです」



ラウルからタオルを受け取る。


少し寒気を感じる。早くお風呂に入って温まりたい。


髪を拭きながら、ふと思う。


今頃、省吾もこんな風に急な雨に打たれて、びしょ濡れになってたりするのかな?


傘なんて、この世界には無いし、外套でしのぐしかないよね。


私は何とか宿に辿り着いたけど、省吾は――。


旅って、もっと、行く先々で楽しんで、気ままにその土地の人と交流なんかして現地の特産品なんか食べさせて貰ったえりなんかして…。


ラウルが居なかったら、旅立って2日もしない内に行き倒れだよ。



「ラウル、ありがとう」

「…サコ?」



同じ部屋で私に背を向けて身体を拭くラウルに感謝の言葉を掛ける。



「私と一緒に旅をしてくれてありがとう」

「僕の方こそ、サコと一緒に旅が出来て楽しんでますよ」

「ラウルが居なかったら、とっくに私は野晒しだよ。でも、どうして私と一緒に旅なんてしようと思ったの?」

「サコが――」



ラウルの話は、肝心な所で宿の女将に遮られた。お風呂の準備が出来たのだ。


女将は何一つ悪くない。仕事をしてるだけ。


結局、ラウルの話は聞けず仕舞い。


お風呂から出た私は気を抜けたのか、発熱してしまいそのまま寝込んでしまった。













熱はそれほど上らず、微熱程度で、ちょっと雨に打たれたのと疲れが溜まっていたのが重なったんだろう。


ラウルの魔法と、一晩、ぐっすり眠ると翌朝には平熱に戻っていた。


でも、雨は降り続き、ラウルは雨が上るまでこの宿で休むと決めてしまったようで、私が「大丈夫」と言っても首を縦に振る事は無かった。



「ラウルにも、何か目的は有ったんでしょう?」



窓を打つ雨粒を見ながら、私は小さなテーブルにお茶を飲むラウルに問い掛けた。


既に、この部屋に泊まって3日目。


ちょっと退屈になってきた頃。



「目的ですか?サコと一緒に居たかったからです」

「……」



目だけで「嘘でしょう!」と投げ付ければ。



「まあ、アルジー村は本当に小さな村です。小神殿は有っても神官は居ない。寂れた村ですが、国境沿いという事で重要な村でもあります。いずれ誰かが――僕が立候補したという訳です」

「……」

「サコにアルジー村の事を言えば、行きたいと言うと思って話をしました」

「……」



確かに国境沿いの小さな村の話はラウルから聞いた。


何より王都から離れていて、長閑で自然いっぱいで、老後に住むには適しているだろうと勝手な想像だけで旅を決めてしまった。



「神殿内での部屋も父は客室を用意していたのに、サコは要らないと言って…」



本当に気の毒なのは、私ではなく、神官長さんだと思う。


私まで召喚してしまった事をあんなに申し訳無さそうにして、私に気を遣うばかりで。


私は単に勇者として召喚された省吾の幼馴染みというだけの存在だ。


いつまでも神殿居ると私というものは“勇者様の幼馴染み”という名で生きていかなくてはならない。


それじゃあ、私の居た世界と同じで何も変わらない。




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