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幼馴染みだよ  作者: 塔子
2/17

【2】

異世界へと喚ばれたのは、私ではなく省吾だった。


まあ、そうだろうね、と思ったけど。


じゃあ、私は、どうして?


召喚した神官長さんに尋ねたら「一緒に居たので、巻き込んでしまいました」と頭を下げられ謝られた。


私のお父さんと同じ年ぐらいのおじさんが必死に謝罪を繰り返すので、可哀想に思えて許す事にした。


私は巻き添えを食らっただけで、特に使命とか役目とか無く。


でも、省吾はこの国の姫様を攫った魔王を倒す勇者として召喚されたらしい。


うわ、王道だ。ベタ過ぎる。


ライトノベルか、RPGか。


でも、神様はよく理解している。


全ての祝福を持っている省吾が勇者に選ぶ。


納得だ。






あれよあれよと言う間に姫君奪還と魔王討伐の旅の出立の日がきた。



「智美、出発前に話がしたい」

「うん、いいよ」



省吾は勇者として、王城では最高級の待遇だけど、私はあくまでも省吾のおまけ。


召喚後、身の置き場も無く、仕方なく神殿に身を寄せていた。


訪ねて来た勇者様を追い返すなんて出来ない。


しかも、省吾には護衛騎士が2人も付いている。


大変だね~、見張り付きなんて。


さすがに護衛騎士は私の狭い部屋まで入って来なかったけど、少しでも私が不穏な動きをすれは容赦ないんだろうね。


神殿内の隅の隅。


私が選んだ部屋はベッドとチェストがあるだけの小さな部屋。


居候の身だ。


豪華な部屋へと案内されたけど、どこぞの令嬢でもないしセレブでもない。


なので、丁重にお断りした。


椅子もテーブルも無いから、立ったまま話すかベッドの脇に座るか。



「話って、何かな?」

「………」



あ、また、だんまり?



「明日でしょう、出発。早く休んだ方がいいよ」

「――智美」

「ん?」



意外に省吾はヘタレだ。


実は、ここぞって時に実力を発揮出来ない残念な男。


なので、私はいつものように叱咤激励をする。



「頑張って!お姫様を助けて、魔王を倒すんでしょう!」



省吾は私の言葉を静かに聞いている。



「待ってるから。省吾の無事を願って、待ってるから」



そこまで言うと、省吾は小さく頷いた。


よし!


迷いは去った!


おお!集中してる!


気合いも入った!


行って来ーーい!


私は、省吾の背中を押す。


本当に背中を押す。早くこの部屋から出て行って下さい。


私が護衛騎士さんに省吾を託し、部屋に戻る。


ベッドの下から麻袋を出して、旅の準備の最終確認をする。


明日の出立式には参加しない。見にも行かない。


私はここ――王都を出て国境沿いの名も忘れられた小さな村に移り住もうと思っている。



ごめん、省吾。


私は嘘を付いた。


今まで隠したり、言わなかったり、というのは有ったけど、嘘は付かなかった。


“待ってるから。省吾の無事を願って、待ってるから”なんて嘘っぱちだ。


私は待たないし、無事も一応願うけど――まあ、私が願わなくても大丈夫でしょう。


これで、私は省吾という完璧な幼馴染みから解放される。



さて、私も朝早いから、もう休もう。



ずっと、離れたかった。


決して嫌いじゃないけど、好きでもなかった。


完璧な人間の傍に居ると自分というものが空しくなっていく。


あとは、ちょっとヘタレな所と無口な所を直せば良いんだけど。


まあ、頑張って!


その気持ちは嘘じゃない!


省吾なら、どんな局面になっても大丈夫だよ。


だって、異世界へ勇者として召喚されるぐらいだもん。


頑張って!お姫様を救って、魔王を倒して、王道を行こう!


きっと、勝利を得て、凱旋して、お姫様と仲良くなって…と、そんな未来が省吾には待ってるはず。


だから、ちっぽけな私の事など早く忘れて――。





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