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幼馴染みだよ  作者: 塔子
13/17

【12】省吾①

省吾視点です

いつも傍に、智美が居た。


何をするのも、どこに行くのも。


だから、理不尽で馬鹿げてる異世界召喚なんていうのも、智美と一緒なら受け入れる事が出来た。










幼稚園から帰ると俺の家で智美と遊ぶ。


クレヨンと紙を母親から貰い、グルグルと円を書く。



「智美ちゃん!もう、ひらがな書いてるの!?」



それは、母親の言葉だ。



「うん」



と言って智美は「なまえ、かけるよ」と紙を母親に見せている。



さこ ともみ



智美に対して、驚嘆と賞賛の中、母親はその日から俺にひらがなを教え始めた。


ようやく、ひらがなが完璧になった頃、智美はカタカナを書いていた。


習い事のピアノもスイミングも、智美と一緒だった。


でも、先に上達するのはいつも智美で、俺が出来た頃には智美は次の目標を目指していた。










勉強もスポーツも、智美に追いつこうと必死だった小学生時代。


母親も「○○が出来たら、智美ちゃん、省吾の事、褒めてくれるよ~」と言うから、単純だった俺は何かにつけ頑張り結果を出した


母親の言う通り「省吾、スゴい!」と、智美は褒めてくれる。


後で知ったが、智美は母親に頼まれて言っていただけなんだと…。


だからと言って、頑張る事は止めなかった。


智美に追い付き追い越せた時、俺はずっと智美の傍に居る事が出来ると信じていた。










中学に入学して、すぐの頃。



「お前ら、付き合ってんの?」



智美とは同じクラスだったから、自然と一緒に居る事が多い。


同じ小学校の奴らは、俺と智美は幼馴染みで家も近いというのを知っているし、こうして二人並んで帰るのもきっと見慣れてしまっているだろう。


もう、からかいも何もない。


が、他の小学校から来た奴は、俺達の関係が不思議なものに見えたんだろう。



「幼馴染みだよ」



先に、智美が答える。


そいつは「ふ~ん」と言って去って行った。


確かに俺達は幼馴染みだ。


他にしっくりくる言葉は今の所ない――でも。


たかが訊かれただけ、だから答えただけ。


智美の口調は、あまりにも事務的だった。










僅かな変化に気付いたのは、いつだったか。


智美と俺の間に薄い膜があるような。


はっきりと形になったのは――学級委員会が終わり下校しようとした時だった。



「片桐くん、一緒に帰らない?」



それは同じクラスで同じ学級委員の峰岸まどかだ。



「いつも、佐古さんと帰ってるでしょう。これからは、私と帰らない?」



返事をするのも、面倒と言うか。


ここは「お前とは帰らない」と言いたい。


が、言葉にするのが、とにかく面倒臭い。


“言わないと伝わらないよ”と、智美にはよく言われてきた。


でも、俺には克服しなくてはならない欠点だと思ってなかった。


まさかの異世界召喚してしまうまでは――。


いつものように、無視を決め込むと、峰岸まどかは「了承した」と思ったのか、俺の隣に並んで歩き始めた。



「今日みたいな定例会って、必要無いと思わない?」

「……」

「今の執行部のやり方って、無駄が多いと思うの」

「……」

「次の会長に立候補してみない?私が副会長するから」

「……」



一方的な峰岸まどかの会話なんて、聞いていない。聞く気もない。


まして、執行部だと?会長?


冗談は止めてくれ。


智美が書記でもするなら、立候補して会長にでも何でもやるが…。


はっきり言って、ふざけるな!という感情しか出て来ない。



「――片桐くん、私と付き合わない?」

「…は?」



理解出来ない言葉に、思わず言葉が漏れた。



「佐古さんは、片桐くんの事“幼馴染みだよ”って言っていたわ」

「………」



智美は、いつだって、俺の事を「幼馴染みだよ」と言う。


俺にとって、それは“特別な存在だ”という意味だと思っていたのに、峰岸まどかのどこか勝ち誇ったかのような言い方に無性に腹が立つ。



「“幼馴染み”だからと言って、いつも一緒に居るのって変でしょう」

「………」

「佐古さんだって、嫌なんじゃない?もっと自由が欲しいって思ってるよ」

「……!」



もし、智美が峰岸まどかの言う通りの事を思っていたら…。



「悪いけど、急ぐから」



素っ気無くひと言だけ残し、俺は駆け出した。


行き先は、智美の家だ。


チャイムも声も掛ける必要も無い。


門扉を開け、鍵の掛かってない玄関を開け、靴を脱ぎ、リビングを覗くとテレビを観ている智美が居た。



「――智美」

「おかえり、省吾。委員会、早く終わったんだね」



ちらっと俺を見ただけで、すぐにテレビを観る。スプーン片手に、もう片方にはプリン。



「省吾の分も冷蔵庫に入っているから、後で食べていいよ」

「…智美」



もう一度、ちらっと俺を見て、今度はテレビを消し、食べかけのプリンをテーブルの上に置いた。



「何か有った?」

「智美」

「だから、訊いてるじゃない」

「―-峰岸、まどか」



“峰岸まどか”というキーワードだけで、智美は小さく溜め息を付く。


智美にとっては、予想の範囲内だったんだろう。



「省吾とはどういう関係ってしつこく訊くから、その度“幼馴染みだよ”って答えた」

「………」

「峰岸さんって、省吾の事、好きなんだろうね。あんなにアピールしてるもん」

「………」

「告白された?OKするにしても、ちゃんと言葉にした方が相手も喜ぶよ」

「智美」

「ん?」



今は、峰岸まどかの事なんてどうでもいい、顔だってうろ覚えで思い出せないと言うのに。



「智美は、変だと思うか?」

「…何を?」

「俺と、一緒に居る事?」

「別に」

「俺の事、嫌いか?」

「はあ?」

「俺って、智美の事、束縛とか――」

「ちょ、ちょっと!待って!!」



智美が、頭を抱え「どうして、そういう方向に話が行くかな~」と言う。


“待って”と言うから、俺は素直に智美が話し始めるのを待つ。



「私と省吾は幼馴染み。それを理解出来る人と出来ない人が居るんだよ」

「…?」

「つまり、これを機に少し距離を置こうと思うわけ」

「…?」



他人の理解がないと幼馴染みではいられない?


そんなの、こっちが理解不可能だ。


距離を置くというのも、意味がない。


俺の12年間の想い出には常に智美が居た。


この先の自分史に、必ず智美が登場する事は、決定事項だ。



「智美」

「何?」

「確認したい」

「…どうぞ」

「俺の事、嫌いか?」

「!」



智美は一瞬気まずそうな顔をしたが、すぐに何でもないような顔をして溜め息を一つ。



「省吾の事、好きか嫌いかって訊かれたら、ちょうど真ん中って、答える」

「それ、どういう意味?」

「好きだけど嫌い、嫌いだけど好き、って事」

「…智美?」

「喧嘩だってするし、仲直りだってする。面倒だなって思う日もあれば、構ってあげたくなる日もある」

「……」

「えーっと、省吾とは、ずっと、幼馴染みでいたいって事」



智美の言いたい事は分かる。


でも、俺の気持ちは少し違っている事に、この時、気が付いた。

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