【1】
見知らぬ女子に「片桐くんとは、どういう関係?」って訊かれたら――。
「幼馴染みだよ」
と、答える。
それ以外に答えようがない。
私――佐古智美は、本当に片桐省吾とはただの幼馴染みだ。
お互いの母親達がもともと同級生で仲が良く、結婚後も友情は続き、今もなお、継続中だ。
故に、私と省吾は必然的に仲良くするしかなかった。
しかも、小中学校が同じで、高校は別々だと思っていたら、入学式の日の新入生代表で壇上に立つ省吾を見て「あっ!」と驚きの声を上げてしまい回りから不本意な注目を浴びてしまった。
志望校は私立の有名男子校だったはずなのに、どうして?
「智美をビックリさせようと思って」
母親の言葉に、開いた口が塞がらない。
おばさんも省吾も、今まで黙っていたなんて。
第一、そんなサプライズ要らないって!
「だって、智美。省吾君の志望校、聞いてから自分の決めていたでしょう」
……それは、否定出来ません。
完璧な幼馴染みは、平凡な私にとって眩しい太陽と同じ。
遠く離れているから、その温かい存在が大切に思える。
でも、近付けば近付くほど、熱さに負けて火傷だけでは済まなくなる。
適度な距離と、節度ある対応が必要なんだよ。
省吾を好きか嫌いかと問われたら“嫌いではない”というのが本心。
あまりにも長く近くに居たせいか、恋愛感情なんて全く無い。
「佐古さんって、片桐君と付き合ってるの?」
中学の時、散々尋ねられて言葉。
同じクラスの女子から、他の中学の女子から、塾で知り合った女子から。
もう、ウンザリするほど。
その度に「幼馴染みだよ」と、機械的に答えるのみ。
そして、違う高校へと通えば、こういう事は無くなるって思っていたのに。
「ねえ、サコ」
「ん?」
「片桐君と仲良いよね?」
「そうかな?」
「付き合ってるの?」
「ううん、幼馴染みだよ」
高校入学から仲良くなった同じクラスの女子の言葉。
また、こういうやり取りが続くのか。
予想通り過ぎて、もう、笑えない。
「智美、帰るぞ」
授業も終わり、放課後になれば、必ず省吾が私の教室まで迎えてきてくれる。
仲良くしているように見えるよね。
こんな風に毎朝一緒に登校して、一緒に下校していれば。
いくら、ご近所さんでも一緒に行動する必要は無いと思うんだけど。
「買い物、頼まれているから」
「うん、分かった」
スーパーに寄って、省吾は買い物を始める。
別行動で私はお菓子売り場へ。
美味しそうなチョコをじっと見ていれば、省吾がやって来て、カートにそのチョコを何も言わず黙って入れてくれる。
「買ってくれるの?」
「………」
省吾は、何も言わない。
言わないって事は、買ってくれるって事。
格好良くて、秀才で、スポーツ万能で、手先も器用、ピアノだって――性格も悪くない。
ただ、無口な所がちょっと難点かな。
それより、チョコを手に入れる事が出来て、私は嬉しい。
こんな小さな事でも、私は嬉しい。
凡人の私は小さな喜び得て、毎日を静かに目立たず密かに生きていきたい。
なのに――。
目の前が一瞬のして暗闇に包まれたと思ったら、目も開けていられないほどの真っ白の光の渦の中に引き込まれる。
目が覚めて、気が付けば、そこは――異世界でした。