表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/35

すれ違い

玉石一磨たまいしかずま……ヤコージュ学園三年生。退魔士。暗い過去を持つ。

竜野たつのらい……ヤコージュ学園へ転入してきた少女。退魔士。神虫と呼ばれる人外の能力を持つ。

岡留美之おかどめよしの……ヤコージュ学園の教員にして退魔士。専門は妖怪解剖学。

 夜になった。

 宿坊は二部屋とってある。一磨が一部屋、岡留とらいで一部屋だ。

 精進料理をいただき、風呂に入り、一磨は割り当てられた部屋でぼうっとしていた。

「……父さん、母さん」

 父からの手紙を、何度も何度も見返した。

 一磨の名前をつけたのは母だ、と。

 母と一磨を守りたい、と。

 父の字で書かれた言葉。何度読んでも喜びと哀しみがないまぜになった切なさを感じる。

 思えば、あの商家だったという実家も、母と一磨を守るために父が用意したのだろうか。

「大丈夫だよ、父さん」

 独鈷杵を見つめる。

「母さんは……ずっとここにいたんだね」

 母さんの仇を取る。そして我が身を守りきる。

「一磨さん」

 部屋の仕切りは襖だ。その外から声がした。

「らいか?」

「はい。入ってもいいですか?」

「あ、ああ」

 静かに襖が開いた。

 らいがバッグを持って入ってくる。何故か浮かない表情だ。

「どうした? こんな時間に」

「……一緒に、寝てもいいですか?」

「はあっ!?」

 一磨は目を剥いた。

 いかにコンビを組んでいるとはいえ、健全な年頃男女が同室で寝るのはおかしい。

 おまけにここは寺の宿坊。不健全と見なされる行為はご法度だ。彼女もわかっているはずだ。

「な、何があったんだよ?」

「…………」

 らいは黙りこくった。うつむいて、口を真一文字に結んでいる。

「黙ってちゃわかんないだろ?」

 首筋に手を当てながら、一磨は尋ねる。

「……それとも、言えないことなのか?」

「…………」

 何度かためらったあと、らいはようやく口を開いた。

「岡留先生に訊かれて、神虫のことをお話ししたんです」

「ああ、それで?」

「そしたら……」

 らいが話そうとした矢先、小走りの足音が近づいてきた。

「玉石君! いる? 入ってもいいかしら?」

 ふすまの向こうから、岡留の声がした。

「あ、はい」

 一磨が返事をすると、岡留がふすまを開けて入ってくる。

 らいが表情をこわばらせる。

「ああ、よかった。ここにいたのね」

 岡留はホッとした様子だ。らいを探していたらしい。

「さっきは私が悪かったわ。謝ります。だから機嫌を治して?」

 岡留はらいの前に座ると、彼女に謝罪しなだめ出した。

 らいはうつむいている。

「あの……何があったんですか?」

 一磨は岡留に尋ねた。何が起こったのか、さっぱりわからない。

「私の失言で、竜野さんを怒らせてしまったの」

「失言?」

「神虫は大喰いなんですってね……って」

 一磨はキョトンと二人を見つめた。

「なんだ、そんなことか」

 一磨はハア、とため息をついた。

「ち、違います! わたしは……」

「怒らせるつもりはなかったのよ。ごめんなさい」

 らいの言葉にかぶせるように、岡留は詫びる。

「らい、先生も悪気があったわけじゃないんだし。そう怒るなよ」

「そんな! そんなことじゃ……」

「ごめんなさい、竜野さん。」

「仲直りしてさ、部屋へ戻れよ。もうすぐ消灯時間だし」

「わたしは……」

「もー、夜も遅いんだ。あまり俺たちを困らせないでくれ」

 思わずうんざりした口調になってしまう。

 らいは目を伏せた。

「……ごめんなさい」

 らいは小さな声で謝る。

 岡留とらいは部屋から出ていった。

「なんだったんだ、あいつら?」

 さして気にもせず、一磨は就寝した。

初出:2013年癸巳09月15日

修正:2013年癸巳11月15日

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ