揺れる心
「復讐の夜に」6話です。
最終回に向けて一気に加速しています。
では楽しんでください。
「私はね、あいつを殺すのは兄さんの命日がいいな」大学の近くのさびれた喫茶店で先輩と話していた。
「じゃあちょうど一か月後ですね」オレは言う。今は10月9日で先輩のお兄さんが殺されたのは11月9日だ。
「東条に呼び出しの電話をかけるのはその3日くらい前が良いかな」先輩は長い髪を掻き揚げ、髪をくくろうとしている。
「声を変えるためにヘリウムガスを調達しておきます」
「いろいろありがとうね」先輩がそそ笑みながら言った。先輩の笑顔には癒される。お礼を言われるともう天にも昇る気持ちだ。
それだけに東条を殺したらもう会えなるのかという不安も会った。いままで先輩と話したりできたのもこの計画があったからこそなのだ。出会ったのもそうだ。このことがなかったら先輩と出会うことは絶対になかったのだ。
先輩との関係は1カ月後に終わってしまうのかと思うと胸が締め付けられる。
「私そろそろ行くね」先輩は伝票を持って立ち上がった。
「わかりました」オレも立ち上がる。もう行くのかとがっかりした。
「ここはオレが持ちます」オレは先輩から伝票を受け取ろうとした。しかし先輩は「こんなことまでさせられないわよ。あなたにはほかにいろいろやってもらってるんだから」
「でも・・・」オレは納得できない。
先輩はオレに背中を向け、振り向いた。
「女にもプライドがあるのよ」
また一つ、彼女に惚れてしまった。
決戦前夜、11月8日オレはコインランドリーにいた。オレのアパートの洗濯機は住民の共有で、その日は隣の大学生が大量の洗濯物を洗っていたので使うことができなかった。
オレは一仕事を終えてホッとしていた。東条に呼び出しの電話を掛けたのだ。あれは緊張した。ヘリウムガスで声を変えていたとはいえボロを出せば怪しまれる。
内容はこうだ。
「オレはお前を監視している者だ。いやがらせを止めてほしければ明日午後9時に首吊ふ頭のS倉庫まで来るんだ。その時に話し合おうじゃないか。警察に言った場合はお前の命が無いと思え。オレはいつでもお前を殺せる。では明日来てくれるのを待っている」
東条は困惑し、何か言いたそうだったがオレは構わず電話を切った。この内容は先輩と何回も話し合って決めたものだ。
東条は自信過剰なところがあるから、いやがらせを止めてもらうためにきっと来るだろう。
コインランドリーには誰もいなかった。それはそうだろう。深夜1時を超えている。
オレはパーカーやらTシャツやらが入った籠を置き、硬貨を機械に放り込んだ。
そして洗濯物を入れ、作動させた。洗濯物がグルグルと回っている。まるで今のオレの気持ちみたいだ。なぜかオレは笑えた。
明日で先輩と会えるのも最後だ。明日、東条を殺してしまえば、もう先輩と関わる理由がない。いっそのこと明日の計画を失敗させてみようか。できないことは無い。いくらでも方法はある。たとえば明日、警察に嘘の通報をして、首吊ふ頭をパトロールしてもらえばオレ達も手をだせない。
オレの頭にそんな考えが浮かんだ。が、そんなことはできない。先輩のいままでの行動を水に流すことになる。
「あれ?お兄ちゃん」ふと後ろから声がした。




