雨の日の帰り道
雨が降っていた。
今朝からずいぶんと強い雨が降り続けていたにもかかわらず、私は学校に傘を置いて、バスに乗り、駅に着き、電車に乗って、家の最寄駅に着いた。
ちなみに、今日は財布を忘れているから、傘を買うことも出来ない。
土砂降りだ。
ついでに、あと30分もしたら、塾が始まるので、ここで雨宿りすることも出来ない。
不思議と焦ってはいない。塾が嫌いなわけでもない。雨に濡れる気はない。
そこに、車が一台止まっていた。
タクシーではない。親の車でもない。知り合いの車でもない。
でも私は自然とその車に乗り、運転手はこちらを見もせずに、走り出す。
運転手はもちろん知らない人だった。後部座席からは性別も分からない。ただ、まっすぐに前を見つめて運転をしていた。
私は、肩にかけていたカバンを下ろして、ペットボトルのお茶を飲んだ。文庫本も出す。栞の挟んでいるところから読み始めた。
ずいぶんと走っている気がした。
それに、急に周りが暗くなった気がした。文庫本から目を上げると、トンネルに入ったようだった。オレンジ色の光が、車の後ろへと流れていった。
私はまた文庫本に目線を戻した。
そういえば、私が住んでいる街にトンネルがあっただろうか。
ここは何処?
文庫本を読みながら、私は考えた。
眠ってしまったようだった。
目を開けると、そこには海が広がっていた。
はじめて見た。
私は、文庫本を閉じると、窓に顔を近づけた。雨はもう止んでいた。さんさんと照りつける太陽が私の目を細くさせた。
車は走っている。
車から降りて海を近くで見たかったが、車は走ることをやめない。
家に着いた。
車を降りると、すぐに走り去ってしまった。
今日の帰り道は楽しかった。
明日は山を見たい。雪も見てみたい。
手に持っていたカバンを肩にかける。少し軽いことに気がづいた。
ペットボトルを車に置いて来てしまった。
また、あの車に乗らなくてはならない。