婚約破棄された伯爵令嬢は、護衛騎士の一途な溺愛で救われます:シリーズ
婚約破棄された後の伯爵令嬢は旦那と一緒に王太子妃のもとで働きます!
シリーズもの第3作目です!
1作品目=婚約破棄「N6378MQ」
2作品目=溺愛日常「N7480MQ」
「姉上、今日は待ちに待ったお茶会ですわね!」
リリアナは、アイヴィーの宮の庭園に用意された丸テーブルの前で、ふんわりと微笑んだ。
その笑顔を見て、リックの顔は崩壊する。
「リック、顔!」
(愚弟が大切な義妹リリアナに変態って思われたくないわ!)
アイヴィーはリリアナに見られる前に何とかしたい。
「だって姉上。あの服装、反則じゃないですか?」
白いメイド服に淡い水色のエプロン。
名目上は勤務中のため、ドレスではなくメイド服となっているのだ。
「んん゛っ!!リリアナ、リック。そちらの椅子に座りなさい」
気を取り直して、アイヴィーは優雅に椅子へ腰掛け、リックとリリアナを手で促した。
「はい、姉上……」
リックはばれていないか心配で、少し緊張し背筋を伸ばす。
そして、アイヴィーに言われた通りリリアナの隣に座る。
「では、私が淹れますわね!メイドですから」
リリアナは、思いのほか今の職場を気に入っているのだ。
それは、リックも同じ。
リリアナはティーポットを手に取り、香りを確かめるように目を細める。
アイヴィーお気に入りの紅茶は茶葉が香ばしく、苦みはなく、ほんのり甘い。
「毒見を致しますね!香りは問題ないので今日も大丈夫でしょうけれど、念のため!」
「ごめんなさいね。毒見なんていいのに……」
アイヴィーは大切な妹に危険な仕事をさせるのを申し訳ないと思っている。
しかし、以前アイヴィーは毒見役の侍女に裏切られたのだ。
その侍女は、毒見をした直後に即効性の毒を入れられてしまう。
それで、死にかけている。
なので、信頼のおけるリリアナのほうがよっぽどそばにいてほしい。
リリアナはティーカップに注ぎ、そっと口をつけた。
……その瞬間
「っ……!」
リリアナの肩がびくりと震えた。
「リリアナ!?」
リックの椅子が倒れる。
リリアナは胸元を押さえ、苦しそうに息を吸った。
「けっほ、けっほ、こほ、ごほ、ごっふ!」
リリアナの口元から赤い液体があふれ出す。
「リリアナ!!」
リックは叫び、椅子から落ちるリリアナの体を抱きしめた。
「落ち着きなさい、リック!部屋の奥へ運ぶわよ!」
アイヴィーは内心はとても焦っていたが、こういう時にこそ冷静であれという王妃教育のたまもので、とても冷静だ。
「リリアナ、しっかり……!」
リックは震える腕でリリアナを抱き上げ、アイヴィーの指示通り、宮の裏口から入り、とりあえず客間の寝台へ運ぶ。
リリアナの呼吸は浅く、唇は青い。
胸元に赤い染みが広がっていく。
「毒……だ。これは……姉上を狙ったものなんじゃないのか?」
リックの声は震えていた。
「わかっているわ。リック、あなた……解毒魔法、使えるのでしょう?」
アイヴィーはリックの瞳をまっすぐ見る。
リックは歯を食いしばり、頷く。
「……はい。あの女のせいで……使えます……」
リックは、リリアナを前にアイヴィーに食い気味に言う。
「なら、早くしなさい!」
アイヴィーは、リリアナの口元をハンカチでぬぐう。
「わかってるよっ!!」
リックはリリアナの手を握り締め、上半身を起こす。
「リリアナ……お願いだ、ここで失いたくない。また、大切な存在を……!」
琥珀色の瞳が揺れ、リックの体を白いもやが覆う。
リックの手から淡い光が広がり、リリアナの体へと流れ込む。
「……っ……!」
リリアナの体が小さく跳ねた。
「リリアナ!」
リックは、リリアナに向かって呼びかける。
「リック!集中しなさい。あなたが取り乱したら、魔法が乱れるわ」
アイヴィーの声は淡々としていて、普段よりも冷静だった。
「……っ……はい……!」
リックは深く息を吸い、震える手を押さえつけるようにしてリリアナに魔力を流し続けた。
光がゆっくりとリリアナの体を包みこむ。
「リリアナ……戻ってきて……!」
リックの声はより一層震える。
やがて、リリアナの呼吸が少しずつ整い、胸がゆっくり上下し始める。
「……リック……?」
かすれた声が、静かな部屋に落ちた。
「リリアナ!!」
リックは涙をこぼしながら、リリアナの手を握りしめた。
その様子を見たアイヴィーは、そっと部屋を出る。
「よかった……本当に……よかった……!」
リックはリリアナを強く抱き寄せ、ほっと息をついた。
リリアナは弱々しく微笑む。
「リック……ごめんなさい……」
「なにをだ!そんなことはない。無事なだけでいいんだ!」
扉の外から、アイヴィーはその様子を聞いていた。
(リックは、幼い時に最愛の母を失っているから。やっと手に入れた心の支えを失わずにすんで、よかった)
◇◇◇◇◇◇◇◇
—翌日
王太子の執務室にて。
「アイヴィー?……どうしたんだい?君から訪ねてくるだなんて珍しい」
王太子は山積みになっている書類から顔を上げた。
その顔ははっきりと目の下が黒くなっている。
アイヴィーは静かに近づき、机の前で立ち止まる。
「昨日、私の部屋で毒が使われたわ」
王太子の顔が強張る。
「……なんだって?」
「まだわからない。でも、リリアナが味見して倒れたの。リックが解毒魔法で助けてくれたわ」
王太子は椅子から立ち上がり、アイヴィーの肩を掴んだ。
「なぜ、それを早く報告しないんだっ!」
王太子は、アイヴィーの目を見て大声で怒鳴った。
「いろいろ大変だったのよ?無理よ!これ以上早くだなんて……どうして、毒なんかリリアナがっ!」
アイヴィーは今まで弟と義妹の前だからと涙を必死に抑えていた。
しかし、ここでその緊張の糸がプツンと切れる。
「アイヴィー……本当に、すまない……」
「謝っても意味がないわ!」
アイヴィーはうつむきながら言う。
「あなたは、いつも私を助けてくれない。政略結婚だから?愛する気はないと言ったから?……でも、私は王太子妃よ。あなたの妻なのよ」
王太子は唇を震わせた。
「……アイヴィー……俺は……」
「謝罪はもういいわ。行動で示してよ!」
アイヴィーは背を向けた。
「リリアナとリックを守るためにも、私自身のためにも。あなたが動かなければ、私は……」
王太子は拳を握りしめ、震える声で言った。
「言ったでしょ?行動で示してって!」
アイヴィーは肩を震わせ、声を荒らげる。
「必ず守る。今度こそ……必ず!約束するっ」
アイヴィーは一度も振り返らないまま部屋を出る。
◇◇◇◇◇◇◇◇
リリアナの寝台のそばで、リックは彼女の手を握りながら小さく呟いた。
「……また約束守れなかったな。伯爵様に何と言われることやら。でも、今回は落ち度があるから、何も言えないな。絶対に今度は、誰にも傷つけさせない!リリアナは守らないとね……騎士だし!」
その言葉は、いつもの優しい夫のリックではなく、騎士としての強い覚悟があった。しての強い覚悟があった。
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