Dead End Journey:Chapter1 小さな家
マップ切り替えのための霧が晴れると、庭を持った小さな一軒家が現れた。自慢だったと思われる芝生は随分と踏み荒らされ、大きな窓ガラスは外から砕かれている。
「なかなか不気味だねぇ」
4人乗りのオフロード車からするりと降りたナギサは、インベントリから取り出した警棒を取り出して右手に握る。先端にLEDライトの取り付けられた優れものだ。
空は霧に覆われ、太陽光が地上まで直接届くことはない。夜ほどの暗さがあるわけではないけれど、世界は薄暗く、屋内となれば尚更闇が目立つ。そんな、全く見えないわけではないけれど薄暗い場所を探索するなら、光源はあった方がいい。銃さえ手に入ればお役御免になるけど。
『いい雰囲気』
『いかにも何か出そうじゃん』
「何か出るかな? 出るよね?」
出なかったらホラーとして成り立たないか。コメントの意見に賛同しつつ、ナギサは柵に近づいた。
「開いてる」
鍵が無理やり破壊された感じだ。フリーの左手で押すと蝶番が軋み、ギィと音を鳴らしながら道を開ける。玄関まで続く石畳を踏みしめ、芝生の横を通って建物に近づく。すると建物の2階の方から、からんからんと規則的な音が聞こえてきた。
「なんだろ? この音」
何かのぶつかるような音だ。足音にしては硬い。ナギサがイメージしたのは鐘の音だったけれど、それにしては軽量だ。コメント欄では知っているらしい視聴者があれか、とかまあ妥当とか打ち込んでいる。とりあえず、初手で出くわすのがまずい相手ではないらしい。
「入るよ」
玄関の鍵も開いていた。というか、壊れていた。いつでも殴りつけられるよう、警棒を肩に構えながらノブを引く。やはり室内は屋外と比べて一気に暗さが増した。何かがあるのはなんとかわかるってくらいの暗さ。懐中電灯の灯りが闇を照らすけれど、その範囲は頼りない。
「とりあえず、近くにはいないかな。音は2階だね。やっぱり。慎重に行こう」
まずは階段を見つけないといけない。音で気づかれないように気をつけながら、ゆっくりと中を進む。なお、Dead End Journeyには配信者用のモードがあって、プレイヤーが発した声は認識されないようにできる。オンにしているのでナギサが実況を続けても呼び寄せることはないはずだ。
「やっぱり荒らされてるね。死体、はないか。今のところ」
リビングらしき場所に入ると、すぐ近くに食器棚が倒れているのが見えた。外側から押し倒されたというよりは、中から引き倒された感じに見える。籠城したけど窓のバリケードを突破され、こっちから逃げ出した、という感じだろうか。あるかもわからないバックストーリーを想像しながら、散乱している食器を踏み砕かないように注意して進む。
「あっちは台所だね。私知ってる。ああいうところに食べ物があるんだよ」
水道は止まっているけれど、飲み水も見つかるだろう。ほかにも電池や医薬品、武器など、必要なアイテムは山ほどある。
リビングを抜けると奥に階段があった。ライトを上に向ける。何も映らない。左手で手すりを掴み、足音を殺して2階へ上がる。階段を登るほど、鳴り響いている音は少しずつ大きくなっていった。やはり2階にいる。その確信を持ちながら登り切り、あたりの様子を確認。どうやら2階にあるのは部屋2つだけらしい。廊下の左右にあるドアはどちらも開いているみたいで、音はそのうち、左側から聞こえてきていた。
「この先、だね」
ドアのそばまでゆっくりと進む。からんからん。何かは中にいる。部屋の奥の方。
「行くよ」
覚悟を決めてばっと顔を出し、音源に向けてライトを照らす。
巨大な頭蓋骨が浮かんでいた。大きさは1メートルくらい。けれど目を引いたのはサイズではなくて、骨の中に転がる2つの目玉だった。それらがぶつかることで音を鳴らしていたらしい。
ナギサが頭蓋骨を見つけたように、あちらもナギサの存在に気付いたようだ。髑髏の中で目玉が蠢き、本来あるべき眼窩にはまる。不気味な動きだ。まったく身のない骨なのに、ギョロリと動く目玉だけがやたら生々しい。
光る。
悪寒を覚えたナギサが身を引っ込めた直後、赤い閃光が目の前を駆け抜けた。
「うわっ。殺意高っ」
コメントによると4発受けないとやられないらしいが、物資が乏しい状態ではダメージを受けたくない。
廊下で壁の後ろに隠れていると、再びからんからんという音が聞こえてきた。しかもその音は少しずつ近づいているようで、ナギサに対応を迫る。逃げ道はない。階段を降りるところを撃ち抜かれればそれこそ避けようがないし、右の部屋に入ろうとすれば背中を撃たれるだろう。なのでナギサは息を殺し、その場で警棒を握りしめる。
「はあっ!」
頭蓋骨が部屋から出た瞬間、目の前のそれを思い切り殴りつける。バキッ、と硬い感触が腕に伝わり、頭蓋骨が大きくのけぞる。ガラガラと内部の目玉が激しく暴れ回った。それでも頭蓋骨は諦めないようで、跳ねる目玉を眼窩にはめて、再びビームを撃とうとする。
この距離なら、殴る方が早い。
警棒を叩きつけるたびに目玉が暴れる。殴られる側になれば、もはや何もできないらしい。床にぶつかり、勢いでバウンドする。跳ね返ってきたところを叩くと、その一撃がとどめとなったようだ。くるくると力なく数回まわり、ボンと紫の煙を出して消滅してしまった。
「これでもう終わりかな」
念のため右側の部屋も確認してみるが、動くものの姿はなし。これで小さな家の平穏は得られたわけだ。とはいえ時間が経てばまた新手が現れるだろう。その前に撤収するべく、ナギサは物資漁りを始めるのだった。
★ ★ ★
カラドクロ
空中に浮かぶ頭蓋骨。骨の中に目玉があり、動くたびに転がってからんからんと音を出す。獲物を見つけると目玉が眼窩に正しく嵌り、瞳からビームを発射する。準備を始めてから発射までには数秒のタイムラグがあるため、知っていれば対処は難しくない。発射される前に詰めて殴っても、発射後の隙を狙ってもどちらでも良い。
発射態勢に入ると目玉が固定されるため音が消える。なのでカラドクロの存在がわかっているときは、音に注意すると良い。
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