俳文ショートショート集1
第1話 路傍の花
文字数 376文字
桜花も散り、暖かさの増してきた時季、買い物の為繁華街の通りを車で走っていた。歩道を歩いている女性もカラフルな出で立ちである。ふと目をやると、心地良い気分となった。群衆の中に一際目立つ若い女性がいた。足にフィットした白のコットンパンツに、薄いピンクのTシャツが似合う美形の女性である。その陽春の装いに、道行く男性の注目の的となっていたようである。
目指す電器量販店に着き、買い物を済ませると、更にスーパーに寄る為先を急いだ。と言っても両者の店は、程近い距離にあった。街路樹の植えられた道を行くと、路傍の赤紫と白の点々をまとった植込みが、先に見えてきた。ふと目をやると、先程と同様の美形を見た心地良さを覚えた。
排ガスを物ともせずにツツジ咲く
(徹斎句) 完
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第2話 意気消沈の日々
俳文ショートショート集
清川孤舟
第2話 意気消沈の日々
文字数 346文字
ある公立大学医学部を、この三月三日、四日に受験した。現役受験生であった為、落ちても浪人すればいいぐらいに考えていた。受験勉強と言っても、人並み程度にしたに過ぎず、それで医学部合格出来る程、世の中甘くない。猛勉する気が起きなかったのには理由わけがある。同じクラスの女子生徒で、好きな子がいた。夏休みの事、思い切って彼女に電話して、自分の気持ちを素直に告白し、交際を申し込んだ。結果は、他に好きな男の子がいると、体良く断られた。好きな子にはふられるは、受験に失敗するは、で散々な高校生活だった。
今は予備校に通う身であるが、予備校の授業にも今一つ気が乗らない。予備校の帰り道、生活道路を歩いていると幼稚園があり、俯うつむいていたので園庭のある物に、今気が付いた。
風凪ひで意気消沈の鯉のぼり
(徹斎句) 完
第3話 出番の時刻
俳文ショートショート集
清川孤舟
第3話 出番の時刻
文字数 358文字
子供の頃、自宅の裏に銀行の社宅があった。昭和三十年代の当時、小学校から帰宅すると、その社宅の中庭で、近所の子と遊ぶのが常だった。色々な遊びをしたが、ドッジボールも人気があった。遊び仲間の中に、横手から速いボールを投げる、可愛い女の子がいた。私はその子に対し関心を引こうと、けなしたり、からかったりしていたが、その時女の子は嬉しげな様子で、不可解であった。大人になって思い至った事だが、当時の少女漫画雑誌に、男の子がけなしたり、からかったりしてくるのは、好意を抱いている証拠である、というような記事が掲載されていたのではないか。それならつじつまが合う。とまれ、日が長くなった晩春、つい遊びに夢中になり、帰宅時間を過ぎる事も時々あった。そんな折、怖い存在の出番の時刻である。
鬼ごっこ母の呼ぶ声日脚伸ぶ
(徹斎句) 完
第4話 石の命運
俳文ショートショート集
清川孤舟
第4話 石の命運
文字数 358文字
女友達の美那と付き合い始めて間もない頃、それは1年程前の水温ぬるむ日和ひよりだった。川遊びの為、相模川にドライブに出掛けた。川原で、カセットコンロに掛けたヤカンで湯を沸かし、珈琲を淹れて二人で飲んだ。それから二人で珍しい形の石を探そう、という事になった。川原をしばらく探していると、美那がハート形の石を見つけた。縁起がいいねと言い合う。そして彼女が、あなたも見つけたらゴールインするかも、と笑う。それから必死に探したが、見つからなかった。その後も一人で二度探しに来たが、駄目だった。それからしばらくは仲良く交際していたが、最近急に冷たくなった。問い質ただすと、他に好きな人が出来たと言う。今日は一人で思い出の相模川にやって来た。適当な石を探して持ち、石に始まり、石に終わるか、と呟つぶやく。
春の川かなわぬ恋に水切り石
(徹斎句) 完
第5話 雀の子
俳文ショートショート集
清川孤舟
第5話 雀の子
文字数 361文字
一年生の愛息の初登校の日、小学校まで徒歩十分程の距離だったので、送って行き校門の前で別れた。母親としては、息子が上手くクラスに溶け込むか、先生の言う事を聞いて集団生活が出来るか、心配は尽きない。昼までに息子が帰宅したので、学校がどうだったか尋ねる。全員が好きな事とか先生に聞かれ、息子はゲームが好きで、去年のクリスマスに、任天堂スイッチを買ってもらったと答えたそうである。そこまでは良かった。その後、休み時間に隣席の女の子が、どこに住んでるの、幼稚園はどこだったの、などとひつこく聞くから、ブスと言ったら泣き出したと。それを聞いて相手の母親に、あわてて謝罪の電話を入れた。昼食後、息子は近所の子と遊ぶ為出掛けた。自分も夕食の準備の為買い物に出る。か細い鳴き声に、ふと空を見上げた。
電線に生徒の雀の子並び
(徹斎句) 完
第6話 期待の女性
有名なZ大学の学生は男子が多く、他の女子大生に人気があった。そこで秋の文化祭では、「見合いでデート」なる催しがあった。男女出会いの場である。女性は一人では不安だろうと、二人で参加し、男性は好みの方の女性を選べる。シートに自己紹介文を書き、写真は無し。これにT氏は参加する羽目になった。というのも、彼はS社の本社採用で就職が決まり、研究室の同僚が後は嫁さんだけだと、勝手にこの催しに申し込んでしまった為である。当日、Tが会場に行くと、シートを渡され、相手の名は美香と香奈とあり、姉妹かなと思った。現れたのは一卵性双生児だった。1時間余り喫茶店で話して別れる。その後、Tは一人を選ぶに忍びなく、交際を断った。夏に彼は似たような期待の女性に、心ときめかした経験があった。道脇のアパートのこと。
気配見て美人と思う簾越し(すだれごし)
(徹斎句) 完




