表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/5

旅立ち

先生との話し合いから二日後。

時刻は午前二時。真冬の真夜中というのは、人が生きていける環境ではない。マジで寒い。


「なぁ……本当に行くのか……?」

「何お前?今さらビビってるの?」


一昨日、俺のことを慰めてくれた優しい幼なじみ人格は引っ込み、今はこの、ろくでもない方の人格が前面に出てきていた。

(口に出したら殺されるので、絶対に言わない)


「でもやっぱり……恩を仇で返すようなものなんじゃ……」


自分でも脱走するプランは考えていた。

けど、さすがに良くないと思ってやめていたのに。こいつは……


そしたら、悪そうな顔で笑ってセラが言う。


「だってさ。授業でいつも『自由に生きろ』って言ってたの、姫野先生じゃん?」


……そうだけど!


「ほら、早く行って!」

「……はい」


結局、押し切られてしまった。


しばらく歩いてから、ビリーは一度振り返った。

もう孤児院の明かりも見えない。


(姫野先生……ごめん)


「何してるの?早くして」


その声に引き戻されて、前を向く。

二人は再び歩き始めた。


「少し風強いな。寒くないか?」

「ん?大丈夫だよ。歩いてれば体も温まって来るしね」


――


ユートピア。今この世で最も力をもつ国家である。


姫野は、中心都市から少し離れた場所にあるホテルのバーに居た。


「なんでこんな所を拠点にしてるんだ?」


隣に座っている「友人」に問いかける。

返事は帰ってこない。


透き通った目に綺麗な白髪。少し小柄だが、それも彼女の魅力だろう。


「無視は酷くないか?『暴食』」

せめて何か言って欲しい。


「……」


……また無視か。なかなか酷いやつだ。


「流石に傷つくぞ?同じ神じゃないか」


それが聞こえたのかは分からないが、やっと口を開いた。


「『無』が探してた」


そう言うと、彼女は退屈そうな顔でどこかへ消えた。


「……それはどうも。」


あっちも俺を探しているなら好都合である。

なぜなら今日は「無」と話に来たのだから。


――


風は、弱くならなかった。


それから何時間歩いただろうか。

正確な時間なんて分からない。空はずっと暗いままだし、雪なのか霜なのか分からない白いものが、ずっと足元を覆っている。


ただ、確実に言えるのは――

体が、もう言うことを聞かなくなり始めている、ということだった。


「……ちょっと、休もう」


セラがそう言った。

声はいつもより少しだけ低くて、息が混じっている。


「……ああ」


二人で、風を防げそうな岩陰に身を寄せる。

腰を下ろした瞬間、足の感覚がふっと抜けた。


……やばいな、これ。


寒い、という感覚すら、だんだん曖昧になってきている。痺れが酷く、手の先が熱いのか冷たいのかも分からない。


それが一番、まずい。


(準備不足だった。)

無謀すぎた。ましてや冬の夜中である。

衝動的に動きすぎだ。これではただの自殺行為である。


「セラ」

だから死ぬ訳にはいかない。

「なに?」

疲れきった声で返ってくる。

「……眠くないか?」

「……大丈夫だよ」

「寝るなよ」

「……分かってるよ」


風が、また強く吹いた。

視界の端が、少し暗くなる。


……ああ、これ、本当にまずいな。


その時だった。


遠くから、規則的な音が聞こえた。


……足音?


「……セラ」

「うん、聞こえた」


暗闇の向こう、白い地面の上を無数の影が動いている。


「――止まれ! 何者だ!」


光がこちらを照らす。


「……子供?」


近づいてきた先頭の影が言った。


軍服だった。


「おい、どうした。こんな時間に、こんな場所で」

なんて答えるべきだろうか。変な事を言ったら孤児院に帰されるかもしれない


「…あの」

駄目だ頭が働かない。


「私たち、道に迷ってしまって!ユートピアに用があるんです!」

…セラ


「本国に?ここから馬でも1晩はかかるぞ」

「まさか敵国のスパイなんじゃ…?」

「隊長!ここで始末するべきなのではないでしょうか!」


まずい…怪しまれている…

なんとか…なんとか……

そう思った瞬間、足の感覚が完全に抜けた。


地面が、妙に遠く感じる。


――あ。


視界が傾いて、空と雪がひっくり返る。


どん、と鈍い音が鳴った。


……ああ、これ。


体が、もう言うことを聞いていない。


立てない。本当に、まずい。


「ビリー!」

セラの声もよく聞こえない。

だが、

「隊長。相手は子供です。ここは私が保護します。」

先頭の方にいた。俺より四つくらい年上の兵士が言った。


……助かった。


背後で、セラが小さく息を吐いた。


「よかった…」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ