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1章エピローグ


幸せな時間は一瞬で過ぎ去っていくものだって、よく兄は言っていた。


小さい頃の自分は、これを休日に友達と遊ぶ時間とか、農家の父が休みを見つけて家族をピクニックに連れていってくれる時間の事を言っているのだと思ったし、きっと兄もそのような意図で言ったのだと思う。

しかし、俺は思い知るのだ。


幸せというのは脆弱で、「■」の気まぐれですぐに終わってしまうことだと。


冷たい汗が背中を伝い、シーツが湿っていた。心臓が喉まで上がってくるような息苦しさで、ビリーは飛び起きた。

お日様がまだ顔を出さないような時間だった。

悪夢だった。最近は見なかったので油断していた。


炎。

叫び声。

崩れ落ちる家。

兄の手が、俺から離れていく——

家が、畑が、故郷が、自分の知らない大きな存在によって踏みにじられる。

そんな絶望を俺は、あの日から繰り返し見続けている。

「……はあ、はあ……」

息が荒い。

心臓が、激しく鳴っている。

動悸が収まらない。苦し─

「ちょっとビリー! 何!?」


…苦しさは今吹き飛んだ。

下のベッドから、雑音がする気がするが、気のせいだろう。

にしても空気の読めない雑音だ。こっちは結構まいっているのに。

まだ眠い気もするが、寝る気にもなれないので、ゴロゴロして——


「無視するな!!!」

そう言って、下の住民——セラは俺を殴りに、上のベッドまで登ってきた。


「痛っ……」

もう寝る気も失せた。

朝から肘打ちを打ってくる女子というのは、こいつ以外に存在するのだろうか。

なんで、こいつは朝からこんなにうるさいのだろうか。

もう少し頭が良ければこの超絶難問も解けたのかもしれない…


「うるさいぞ、セラ。他の子供が起きたらどうするんだ」

「え? これ、私が悪いの? 本気で言ってる?」

セラが、信じられないという顔で俺を見る。


「お前が、夜中に暴れたんでしょ! 下のベッド、揺れまくってたんだけど!」

セラは思ったより怒っているようだ。

こういう時は素直に謝ろう。あとでグチグチ言われるのも面倒だし……

「……悪かった」


「悪かった…? 聞き間違え? あのビリーが私に謝った……ごめん、これは夢だったみたい……それとも病気……?」

何かとても失礼な事を言い出したので、俺はベッドから降りた。


「……外、行ってくる」

「あ、ちょっと、ビリー!」

引き止める声は無視した。

俺の安眠を妨げる罪は重いんだ。



俺、ビリー・ナブルが今住んでいるのは「塔の家」という孤児院だ。

ここは、姫野城御という男が運営している施設で、才能ある孤児を保護し、育成する場所。

……とは言ってもそんなのは建前で、お人好しの院長はいつも子供を連れてきては、他の職員の人に「この子で最後だから」と頭を下げている。


俺も、その一人。

才能のさの字もない、落ちこぼれ。

勉強はお世辞にも出来るとは言えないし、運動もそこまで突出してる訳でもない。

そんな俺が拾われているのだから、「才能のある子供を拾っている」というのが建前なことがわかる。


そうこうしてるうちに子供たちが寝泊まりする建物から、普段授業などを行う校舎に入る。これが外に出るための最短ルートだ。


それにしても築何年だろうか。かなり年季の入ったものに見える。

外を見ると、少しずつ太陽が姿を表し、庭を照らしている。


「おはよう、ビリー」

廊下で、姫野先生とすれ違う。

「……おはようございます」

少し、本当に少しだけ、いつもより低いトーンで返してしまった。

「また、悪夢か?」

この人はいつもそうだ。

察しがいい。

理想の先生。教育者に求められているのは、こういう能力だろう。


「……はい」

嘘をついても無駄なことは自分が1番わかっている。

姫野先生は、優しく微笑む。

「無理するな。辛い時は、俺に言え」

「……ありがとうございます」

上手くは笑えてなかったと思うが、先生もそれ以上は何も聞いてこなかった。


中庭に出た。少しずつ日光が出てきたからか、芝がキラキラと輝いていて美しい。

ここはかなりの広さがあり、小さい子は職員の人が見張りやすいように、ここでよく遊んでいる。

まぁ今日はまだ、誰もいないが。


「……」


朝の涼しさは好きだ。特に冬は頭が冴えるし、何もかも忘れられる気がして、気持ちが楽になる。


(俺、何になるんだろう……)


ビリーは十六歳。

そろそろ独り立ちして、先生を安心させてやりたい。同学年の子供たちだって自分の道をどんどんと見つけている。

あの人は甘いので、「まだ残ってもいいんだぞ」なんて言うが、俺はこの施設がどれだけ金がないかなんてのは、十分承知している。


——そして。

俺は知っている。

この世界では、力のない者は守られない。

あの日、俺の家族も、故郷も、誰にも守ってもらえなかった。


だから俺は、決めている。

誰かに守ってもらう側じゃなく、守る側に回る。

理不尽に踏みにじられるものが、これ以上増えないように。


「……軍人」

ぽつりと、誰もいない中庭で呟く。

ずっと考えてきた道だった。

訓練はきついだろう。

着いて行けなくなるかもしれない。

第一、先生が認めてくれないかもしれない。


それでも…

あの炎の中で何もできなかった自分を、

これ以上、許したくなかった。


そして、あの炎の中で見た人影の正体が軍に行けば分かる。

そんな根拠の無い確信が心の奥底にあったんだ。

初投稿です!

自分のテンポでやってこうと思うのでよろしくお願いします!

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