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新たな仲間

# 第二話:新たな仲間


4月上旬。うららかな春の日差しが、ガタンゴトンと規則正しいリズムを刻む電車の車内に差し込んでいる。俺の肩の上では、文庫本サイズの半透明な少女――プリエスが、楽しそうに足をぷらぷらさせていた。彼女は俺の視界にだけ映る、秘密の相棒だ。


## 1. 電車での出会い


ちなみに、美少女姿なのは「円滑なコミュニケーションのため」ということだ。別に俺やじぃちゃんの趣味に合わせているわけではない。念のため。


『ハルト、次の探索エリアの事前分析は完了しています。ですが、やはり単独での深部への侵入は推奨できません』


思考に直接響く、鈴が鳴るような澄んだ声。まあ、その通りなんだけどさ。


前回の探索で猫型魔物に襲われた恐怖が、ふとした瞬間に蘇る。プリエスがいなければ、俺は今頃どうなっていたか。考えただけで背筋が凍る。ソロ活動の限界は、初日にして痛いほど分かっていた。


車窓の外では、満開の桜並木が淡いピンク色の帯となって、猛烈なスピードで後ろへと流れていく。なんて長閑な風景。今の俺の心境とは大違いだ。


ぼんやりと車窓を眺めていると、同じ車両の向こうから、頑丈そうなリュックを抱えた女の子が乗り込んできた。探索者用のプロテクターやポーチを身につけている。同業者か。


日に焼けた健康的な肌に、強い意志を感じさせる真っ直ぐな瞳。探索者用の丈夫なジャケットを着込んでいるが、隠しきれない華やかさがある。まるで、物語に出てくる女剣士みたいだ。


『おや、ハルト。心拍数が上昇しています。何か問題でも?』

プリエスが俺の顔を覗き込むように、少しだけ傾いた。


『(うっせ!男なら美少女にドキドキするのは生理現象だろ!)』


慌てて思考を打ち消す。彼女も一人で活動しているようだった。これは、またとないチャンスかもしれない。


『(話しかけるか?いや、でも怪しまれるか?でも、このチャンスを逃したら…)』


俺が一人で葛藤していると、プリエスが冷静な分析を差し挟んでくる。


『外見からの判断ですが、装備の着こなしから、かなりの実戦経験があると推測されます。おそらく、近接戦闘に特化しているタイプかと』


『(マジかよ。ますます話しかけづらい…いや、だからこそだ!俺に足りないものを持ってる!)』


電車が遺跡の最寄り駅に近づき、彼女も立ち上がる準備を始めた。やはり目的地は同じらしい。俺は意を決した。


駅のホームに降り立つと、彼女の方が不意にこちらを振り返り、太陽みたいな笑顔で話しかけてきた。


「こんにちは!あなたも遺跡ですよね?もしかして、一人ですか?」


その声には、警戒心なんて微塵も感じさせない、人懐っこい響きがあった。


「え、あ、はい。あなたもですか?」

突然のことに、俺は少しどもってしまった。情けない。


「そうなんです!もし良かったら、遺跡まで一緒に行きませんか?」


予想外の申し出に驚いたが、悪い話ではない。プリエスの助言も頭をよぎる。


「あ、そうですね。ぜひ、お願いします!」


「よろしくお願いします!私、サクラって言います」


「俺はハルトです」


サクラ。春の陽気によく似合う、元気な名前だと思った。


## 2. 補い合える関係


遺跡へ向かう道すがら、俺たちは自然と互いの身の上を語り合った。


「ハルトは、この遺跡は初めて?」


「いや、今日で二回目。サクラは?」


「私はもう十回目くらいかな!でも、思ったより稼げなくて…」

サクラはそう言って、少しだけ表情を曇らせた。


「稼げない?結構来てるみたいだけど」


「んー…魔物とかが出ても大丈夫なんだけど、情報結晶化がどうも苦手でさ」


なるほど。魔物と戦えるということは、それなりの戦闘能力があるということだろう。俺とは正反対だ。


「魔物と戦えるの?」


「うん!おじいちゃんの道場で小さい頃から鍛えられてるからね。でも、結晶化は…集中力が続かなくて」

サクラは「えへへ」と照れ臭そうに頭をかいた。

「一応できることはできるんだけど、品質が悪いって言われちゃって、いつも買い叩かれるんだよね」


その気持ちはよく分かる。俺だってプリエスがいなければ、高値で売れるような結晶は作れなかっただろう。だが、それはつまり…


「じゃあ、結晶化さえうまくいけば稼げるってことか」


「あはは…まあ、理屈の上ではね!」


「俺は結晶化は得意だけど、戦闘は全然ダメで。この間も魔物に襲われて死にかけたんだ」


「えっ!?大丈夫だったの?そういえば、最近ここの遺跡でも魔物の目撃情報が増えてるって聞くね。私はまだ会ったことないけど」


「そうなのか。単に俺の運が悪かっただけなのかな」


「ん〜、じゃあハルトは、もっと鍛えれば稼げるってことだね!」


「あはは、確かに!」


見事に話を返されてしまった。まあ、その通りなんだけど。


## 3. 即席パートナーシップ


歩きながら考える。彼女とチームを組むのは、悪くない選択かもしれない。俺に足りない戦闘能力と、彼女に足りない結晶化技術。見事な補完関係だ。


『プリエス、どう思う?この子とチームを組むのは』


『能力的には理想的な補完関係にあり、極めて合理的です。ただし、信頼性については情報が不足しており、判断できません』


『だよな。まだよく知らないし…』


『しかし、彼女があなたを騙すメリットも特に見当たりません。現在のハルトには、金銭的価値も社会的地位もありませんので』


『…身も蓋もないな。まあ、確かにそうだけど』


『殺人鬼の類であれば話は別ですが』


『なにそれ怖い』


『…冗談です。結論として、まずは一度、お試しで行動を共にしてみてはいかがでしょうか?』


プリエスの妙に説得力のある分析に後押しされ、俺は思い切って提案してみることにした。


「あのさ…もし良かったら、今日一日、試しに一緒に探索してみないか?」


サクラが少し意外そうにこちらを見る。


「え?」


「俺は結晶化は得意だけど、戦闘は苦手。サクラは戦闘が得意だけど、結晶化が苦手。お互いの得意分野で、うまく補い合えるかもしれない」


「でも…迷惑じゃない?私、自分で言うのもなんだけど、戦闘以外じゃ足手まといになると思うけど…」


「とんでもない。前回、一人で魔物に遭遇して本当に死にかけたんだ。サクラがいてくれたら、すごく心強い」


俺が真剣な顔で言うと、サクラの表情が一気に華やいだ。


「それなら任せて!私がハルトを守ってあげる!」


彼女は自分の胸をドンと叩いて見せた。その頼もしい言葉に、思わず笑みがこぼれる。


「じゃあ、まずは今日だけ。今日の報酬は二人で山分けってことでどうかな」


「いいの、それで?この辺じゃ魔物なんてそんなに出ないし、私が随分得しちゃう気がするけど…」


「問題ないさ。もし魔物が出たら、逆に俺が随分得することになるんだから」


「わかった!じゃあ、よろしくね、ハルト!」


「ああ、よろしく、サクラ」


こうして、俺とサクラは即席のパートナーシップを結ぶことになった。さて、吉と出るか凶と出るか。チームを組んだからには、俺も情けないところは見せられない。今日は一層気を引き締めていこう。

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