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追放されたタコの獣人、海の賢者として覚醒する 〜異国で勇者と公爵令嬢に見出され、大賢者へ〜  作者: 手羽本 紗々実(てばもと ささみ)
八章 白翼の神と邪竜編

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78話 麗しき令嬢と話をしたらチャンスが巡ってきたので乗ってみた

 美しい花々が咲きほこる、広大な庭園。


 一体、どこまでが敷地なんだよとつっこみたくなるほどだった。


 その庭に面した場所に設置された休憩所のようなところに座っている、俺。


 むかい側には――



「こうして、救世主様をここにお迎えできて光栄ですわ」


「それはこちらのセリフです。ありがとうございます。アリア様」



 そう。いわずとしれた、グレイキャッスル公爵家の令嬢、アリア様。


 ……なんで、こうなったか。


 それはもちろん、彼女から「会いたい」と申し出を受けたから。


 でも、てっきり前にお邪魔した別邸で、かと思いきや、まさかのグレイキャッスル領にある本邸だった。


 招待を受け、すぐライリーさんに電話でどうするべきかを聞いた。



「ばか野郎。すぐ行ってこい」



 ……と、いうわけで。


 急きょ、列車に乗ってグレイキャッスル領へ。


 最寄駅を降りてすぐに、アリア様の使いの人が待っていて馬車にのせてもらえたので、かなりスムーズにここまでこられた。


 期せずして、ちょっとした旅行ができた気分だ。


 やっぱり列車旅は、それなりに距離があるところを目的地にするべきだな。



「どうぞ、ごゆるりとお過ごしください」


「ありがとう。マルセル」



 マルセル、とアリア様が呼んだのは、図書館の帰りに会った、あのヤクザ風のいで立ちの人だ。


 彼は、丁寧に、かつてきぱきとお茶の支度をしてくれて、ほとんど音を立てずに下がっていった。


 グレイキャッスル家の使用人だったとは、思いもよらなかった。


 ……ヤクザか、とか思っちゃってすみません。


 でも、アリア様といえば、いつも侍女のクレアさんが一緒ってイメージなんだけどな。



「クレアさんはお出かけですか?」


「里帰りしている最中ですの。実家が大変だとかで……落ちつくまでは、遠慮なくゆっくりしてきていいと伝えてあります」


「実家って、どちらですか?」


「エルドミアです」


「……そうでしたか」



 ルーンベルクと国境を接していて、あのマッドサイエンティストが荒らしまわった領地だ。


 実家、大丈夫なのか? ご家族が無事だといいんだけどな。



「ルーンベルク軍がエルドミアに侵攻してすぐに、とある方々がそれを食いとめたと聞きました。

 一人は、賢者のお一人のターナー伯爵。そして、もう一人が、奇妙な獣人のお方だったと」



 アリア様が、熱い視線をこちらにむける。



「ポルテ様。あなたのことでは?」


「あ、はい。ザックさ――ターナー卿にお供を頼まれて、駆けつけました」


「そこで暴れまわっていた敵を退けたのですね!? ああ……! さすが救世主様!」



 両手を合わせて、キラキラした目で俺を見てくる。


 彼女には、最初からその呼び方をされていたけど。今となっては本物になったわけだ。


 調子にのるわけじゃないけど……けどさ……すこしくらいならいいよな!


 そうとも、俺が救世主だ!



「今日は、詳しいお話を拝聴したく、お招きしましたの。ぜひとも、ポルテ様のご活躍のほどをお聞かせくださいな!」


「活躍っていうか、右往左往していただけのようなものですが。そんな話でよければ」


「はぁ……その謙虚さも素晴らしいですわ……」


 アリア様は、うっとりした目になり、すこし身をのりだして俺の話を催促した。


 俺は、あったこと――覚えていることを、できるだけ細かく、けどショックを受けそうな部分は省略ないしは別の表現に置きかえて話した。


 特に、禁術の詳しい内容については、あきらかにタブーだ。



「そのご友人は……結局間に合わなかったのですか?」


「はい。もっと……早く気づければよかったのですが」


「……なんておいたわしい……」



 フレッドさんが屍兵(アンデッド・トループ)にされた件は、「敵の攻撃で毒を食らった」としておいた。


 それでも、アリア様は自分のことのように受けとってしまったらしく、ほろりと涙を流していた。


 ……心がきれいな人なんだなぁ。



「近々、ルーンベルクに彼の遺品を埋めにいきたいと思っているんです」


「そうなんですの。そうすればきっと、ご友人も安らかにお眠りになれるでしょうね」


「そうだと俺も嬉しいです。ただ……いつになるかはわかりませんけどね」


「なぜですの?」


「復興途上だからじゃないでしょうか。国民でさえ出入国するのは厳しいらしいんですよ」



 俺の言葉を聞いたアリア様が、ティーカップに触れた指をびくっと震わせ、固まった。


 ……なんだ? なにかまずいこと言ったか?



「え……あの……アリア、様?」


「そうですわ……なんという巡りあわせでしょう……! さすがは救世主様ですわ!」


「はい?」



 アリア様は立ちあがって、俺の手をとってブンブンと上下に振った。


 うん、あの、普通にわけがわからない。


 顔を引きつらせていると、アリア様はようやく落ちついた様子で、椅子に座りなおした。



「先日、お姉様がいらしてお話ししてくださったのです。

 近々、ルーンベルクへ復興に関する支援内容を精査する調査団を派遣する予定だと。

 その人員をだれにするかが、なかなか決まらないと悩んでおられました」


「ルーンベルクに、調査団を?」


「はい。今確信しましたわ。救世主ポルテ様、あなたこそふさわしいお方ですわ! さっそくお姉様に推薦してまいります!」



 再び立ちあがって、どこかへ行こうとするアリア様を止めるべく、素早くその前に立ちふさがる。



「お、お気持ちは嬉しいですが! 調査団といいますと、その……俺では荷が重いといいますか」



 きょとんとするアリア様をこれ以上先に進ませないように、腕を軽く広げて阻止する。


 そりゃそうだろ。遊びにいくわけじゃないし。


 どんなメンバーかは知らないが、そんな真面目な目的をもった集団に俺が混じるのは、場違いにも程がある。


 ライリーさんやルーファス先生が聞いたら、白目をむくレベルのありえなさかもな。



「ご心配には及びませんわ。メンバーは、なにもポルテ様だけではありませんから」


「それはもちろんそうでしょうけど――」


「ルーファス・エヴァンス先生はご存じでしょう? ポルテ様とも親しいお方だとお聞きしましたわ」


「え……はい。そうですが」


「あのお方も、候補にあがっていると聞きました。ポルテ様とルーファス様、お二人をセットで推薦すれば問題ないのでは?」



 小首を傾げて、不敵な笑みを浮かべるアリア様。


 ちゃっかりしてるな。


 調査はルーファス先生にまかせて、俺は通常運転でいいってか?


 それでいいなら、大歓迎だけど。



「そうですわ! せっかくですし、お二人だけでなく勇者様を含めたお三方を推薦するというのはいかがでしょう?」


「それは……ありがたいお話です。けど、大丈夫ですか?」


「なにがですの?」


「公爵様――グレイキャッスル公爵閣下がお知りになったら、なんとおっしゃられるかと思いまして。

 お言葉に甘えても、差しつかえありませんか?」



 そう尋ねると、アリア様はハッとした顔をした……次の瞬間、とろんとした目で俺を見てきた。


 感情の起伏が激しいなぁ。見ていて飽きない。



「私の心配をしてくださるなんて……なんてできたお方ですの」


「いえ、そんな。当然ですよ」


「いいことをお伝えしますわ。お父様からは、好きにしていいとおっしゃっていただいておりますの。

 それどころか……今日の件も、むしろお父様から提案していただいたことなのです」


「え……? そ、そうなんですか?」


「ええ。お父様も、ポルテ様のご活躍を耳にしたそうで。ここのところは大層ご機嫌がよろしいようなのです。

 自分が目をかけていたお方が国を代表する存在に昇格したと、周囲の方々に自慢げに話されていて……申し訳ありません」



 アリア様が、しょんぼりと肩を落とし、体の前に手を添えて頭を下げた。


 おい、グレイキャッスル公爵閣下? いつ、あんたが俺に目をかけたんだよ。


 一回会って、ちょろっと話しただけなんですけど。それが、「目をかけた」ことになるのか?


 あれか?「目が合った……! 俺のことが好きなんだな?」的な解釈か?


 そんな、小学生みたいな勘違いをするなんて……公爵様、心が若いんだな。


 ひとまず、アリア様はなにも悪くないのはまちがいない。



「謝らないでください。むしろ光栄です。アリア様が動きやすくなったのなら、こちらとしても嬉しいです」


「……ポルテ様は優しすぎます。器が大きくて……私などが気軽に話しかけてはいけないのではないかと思うほどですわ」



 それは俺のセリフですが。


 普通だったら、平民が公爵令嬢と二人きりでお茶なんて、考えられないだろう。


 ……ほんっとうに、つくづく思うよ。今生の俺の人生は、奇妙な縁でつながっているよなぁ。


 アリア様が、ふう、と息をついて、改めて俺の目をじっと見つめた。



「では、調査団への推薦の件。進めさせていただいてもよろしいですか?」


「はい! ぜひお願いします!」


「承知いたしました。

 今の時点では確実とまでは言えませんが、お姉様もあなたのことはよく思っていらっしゃるはずですし。

 まずまちがいないかと思いますわ。どうぞご期待くださいな」


「光栄です。ありがとうございます!」



 深く頭を下げて、感謝する。


 にこにこと笑顔を浮かべるアリア様を見て、俺も心が温かくなった。



「お世話になってばかりで申し訳ないです。なにかお返しできることがあればいいんですが」


「……でしたら……その……」


「はい?」


 急にモジモジと、下げた手をすりあわせているアリア様。


 顔もどこか、恥ずかしそうに赤らんでいる。



「あの、奇妙な獣のお姿に、なっていただけませんか?」


「え? あ、はい。そんなんでよければ」



 俺は、すぐさま獣化。


 アリア様はこの姿をとてもお気に召してはいるようだが、これが本当にお礼になるのだろうか。



「ああ……愛らしい……いつまでも見ていられますわ……」



 ……なっているようで、よかった。


 恍惚な表情で俺を眺め、触れてくるアリア様。


 その後、獣化していられる限界時間まで、そうしていた。


 ……はぁ。調査団の件、無事に決まるといいな。


 いつになるかわからない。ひょっとしたら年単位で待つ必要があるかも、なんて思っていた部分もあったけど。


 こんなに早くそのチャンスがやってくるなんて、死ぬほどラッキーだ! アリア様様だな。


 ライリーさんも、ルーファス先生も、きっと喜んでくれるはずだ!




 ◇◇◇




 後日。



「なにか遺言はあるか」


「……いや、そんなに怒らなくても。ねぇ、ルーファス先生?」


「…………」


「今白目むかないでください!」



 ルーンベルク調査団のメンバーに決まった、と知らせが入った今日。


 二人は寝耳に水とばかりに驚いていたけど、事の次第――俺がアリア様に頼んで推薦してもらったおかげで実現したことを知り、それぞれ違うリアクションをしていた。


 ライリーさんは、媒介の手袋をはめて、俺に炎魔法をぶちかまそうとしている。


 ルーファス先生は、白目をむいて沈黙。


 ……しょうがない。万が一のときは、ルーファス先生の後ろに隠れて難を逃れよう。



「候補にあげてくださっているとはうかがっていたが……まさかねぇ……」



 先生は、天井を見上げてぼそりと呟くと、くるっと素早く動いて姿勢を正し、お知らせが書いてある文書を手にとった。



「……マリナス騎士団からも、護衛役として二人ほど同行してくれるそうだ。こちらはジェイド氏の推薦らしいね」


「ジェイドさんの?」



 ルーファス先生が、頷く。


 へぇ。それならまちがいないよな。


 ライリーさんが、いら立った様子で手袋を外し、大きなわざとらしい音で舌打ちしてそっぽをむいた。


 なんとか自力で怒りをおさめてくれたのを見て、ほっと一息。


 さぁ、明日は念願のルーンベルクに出発だ! どんな旅になるんだろうか。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

本編もこれで残り5話となりました!

どうか最後までお付き合いください。

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