76話 食レポうまい人にべた褒めしてもらえたのでついでにお願いしてみた
戦後処理の慌ただしい雰囲気が、やっと落ちついてきた。
被害が大きかった領地のほうは、まだまだこれからな部分もあるけれど。
俺たちが住む王都では、市場も活気を取りもどし、人々の生活が元に戻りつつあった。
そんな今日。
「お誘いいただき、ありがとうございます。しかし……私まで、よろしいのですか?」
恐縮しまくっているコーデリアさんを、家の中へ通す。
先に入っていたルーファス先生が、ニコニコと優しい笑顔を浮かべつつ、見守っている。
コーデリアさんも招待したい旨を連絡したら、快く予定を調整してくれたのだ。
「もちろんですよ。ライリーさんの療養中もそうですけど、今まで大変お世話になったので。
お礼と、諸々お疲れ様でしたっていう慰労会もかねてるんで!」
どうぞどうぞ、と言って上がるように促すも、彼女はそれでもまだ遠慮するようにぎこちない動作をしていた。
ふふふ……楽しみだな。
俺の作った料理を食べて、その目が見開く瞬間が!
二人とも、満足度100パーセント、いや、120パーセントになってもらえたら最高なんだけど。
わくわくしつつ、すでに食堂にいたライリーさんのもとへ、二人をご案内。
そして、温かい料理を運んでいった。
今回のメニューは、メインがロールキャベツ。
スープはいつもの野菜の出汁ベース。トマトやデミグラスソースでやりたかったけど、ないものはしょうがない。
それから、ホウレンソウのキッシュ。
ベーコンもすこし入っているが、メインとの相性的に重くならないようにと、野菜の分量を多めにしたあっさりタイプだ。
あとは、お好きなパン。
デザートには、プリンが控えている。以上だ。
さぁ驚け、皆の衆。なんつって。
「今日もまた……見たことのない料理ばかりだね。とても美味しそうだ」
「前と同じく、味は保証しますので。どうぞ」
ルーファス先生が嬉しそうに言ってくれたので、俺もわくわくしながら席についた。
そして、他の三人が食べるところをしばらく観察する。
「こ……これは……! お肉もキャベツも、なんて柔らかいんでしょう!
香草の香りがふわっと広がって、ほどよい塩味を感じます。噛むほどに旨味がにじむようです」
ロールキャベツを食べ、コーデリアさんが完璧な食レポをしてくれました。
キャベツは普通に出回っているから、ひき肉さえあれば問題なく作れる料理の一つなんだよな。
まぁ、魔導調理器があるのも重要なポイントだけど。
「本当だね。スープも野菜の旨味が溶けこんでいて――」
「これはホウレンソウのパイ、ですか? 味は濃厚ですが、ホウレンソウの苦みが全体を引きしめていますね……!」
ルーファス先生のセリフを遮り、コーデリアさんが食レポをかぶせてきた。
驚きすぎて、周りが見えていない、聞こえていないのか。
……面白すぎる!
あの、めちゃめちゃ仕事ができる真面目で謙虚なOL風のコーデリアさんを、ここまで興奮させられるとは。
完全に予想外だった。もちろん、いい意味で。
俺は、食べる前からすでに満たされたような気分で、自分のロールキャベツにナイフを入れた。
まもなく、目の前に突きだされる、空の皿。
「キャベツ?」
尋ねると、皿の主――ライリーさんが頷いた。
はい、ロールキャベツおかわりですね。今日はたんまり作ったから、好きなだけ食べるといい!
それでは、デザートのプリンを出したときのコーデリアさんの反応をば。
「これは……! なんてなめらかなんでしょう!
卵とミルクの風味、と……ハチミツ、ですか?
コクが広がって、でも、このほろ苦いソースのおかげで甘すぎず……! 絶妙です!」
あなたの食レポのほうが絶妙です。
嬉しくて、ため息が出た。
これまでいろいろお世話になった件、まとめてお礼できたかな?
腹も心も満たされつつ、食後のお茶を配る。
今回は、甘くてさわやかな香りで、肉料理を食べたあとの口にも相性ばつぐんなフェンネル。
「ポルテさんは、プロの料理人だったのですか? 一体どこで習ったのですか?」
お茶を飲み、またすこし驚いたような顔をしたコーデリアさんが言った。
「習ったっていうか……やってるうちに身についたといいますか。一人で食っていくためにいろんな仕事をしてきたので」
「それでここまでの腕前に……?」
「素質もかなりあったんだろうね」
「私もそう思います。お店を開いたら、たちまち人気店になるのでは」
コーデリアさんが、すこしだけ身を乗りだし、真顔で俺を見つめてきた。
べた褒めだな、おい。なんかこそばゆいぞ!
気恥ずかしくなり、目をそらす。
「い、いやいや……そこまでじゃないですよ」
「いや、私もそれは過言ではないと思うよ。これだけ腕がよければ、きっと繁盛するだろう。そう思わないかい、ライリー」
「……思わなくはねぇが、そしたらだれがうちの片づけをするんだよ」
「君がするべきなんだよ? 本来は」
「あ! たしかに! どれくらい散らかってるかって気にしすぎて、店どころじゃなくなります!」
「君も。そんなだからライリーが調子にのるんだよ」
ルーファス先生にそうたしなめられた直後、クスクスと笑う小さな声が聞こえてきた。
コーデリアさんが、口元を押さえて肩を小刻みに震わせている。
笑って……いるのか?
「あ……っし、失礼いたしました。申し訳ございません」
「お前、なんか今日機嫌いいな。ポルテの飯のおかげか?」
「……そうですね。なんだか心まで満たされたような気分です」
彼女は、ほんのりと赤くなった顔を俯け、お茶の入ったカップに手を添えた。
……ぐあっ! なんていいことを言ってくれるんだ!
今日はなんだ? なんのご褒美デーだ!?
嬉しすぎて、かえって怖くなってきた。
……さて。
気を取りなおして、例の話をしてみる。
「ルーファス先生。ルーンベルクは今どんな状況か、ご存じですか?」
「ルーンベルク? いや……残念だけど、こちらにもあまり情報が入ってこなくてね。
あいまいな話しか聞いていないんだが……なぜだい?」
「用事ができたので。近々行けたらなって思ってるんですけど」
「ほう。もしや、ノクスヴァルド絡みかい?」
「いえ、ノクスヴァルドじゃなくてノックス――は、別にいいんですけど。そっちじゃなくて」
身をのりだしてきたルーファス先生から、すこし離れる。
ノックスを召喚した件をライリーさんから聞いたらしく、突然来訪して「詳しく教えてほしい」と言われ、根掘り葉掘り聞かれたんだよな。
その熱心な探求心には、恐れいった。
……いや、それはひとまず置いといて。
俺は、フレッドさんの遺品であるベンダントを預かった件を話した。
途端に、ルーファス先生が悲しげにすこしだけ眉を下げる。
「……そう。それは、是が非でも届けてあげたいところだね」
「そうなんです。なるべく早く行きたいんですけど……今はまだ難しそうですね?」
「そうだね。国民でも出入国は厳しく制限されているらしいから」
……やはり、そうか。残念だけど、もうすこし様子を見るしかないな。
でも、大丈夫。きっとそのうち、外国人でも自由に行き来できるようになるさ。
「じゃあ、今のうちにルーンベルクについて勉強しておこうと思います。コーデリアさん、図書館によさげな本はありますか?」
「はい。たくさんありますよ。ルーンベルクは、元はアルケミリアと同盟国でしたから」
「……えっ」
同盟国? うちと?
ライリーさんのほうを見る。
「知らなかったのか?」
平然と、ティーカップを口にもっていく彼。
まるで、知らないほうがおかしい、とばかりの言いぐさだ。
いや、知らねーよ。知るタイミングがなかったし。
っていうか、戦争仕かけてきた奴らと同盟組んでた時期があったなんて、夢にも思わねぇよ。
「魔素結晶の輸出入に関する取り決めの交渉が決裂して、解消されてしまったんだ。今から……6年ほど前になるかな。
当時も一触即発の状態になったけれど、かろうじて武力衝突は回避したんだよ」
「その鬱憤がたまりにたまって、今回爆発したともいえるかもな」
お茶のおかわりを配ってまわりつつ、感心して頷いた。
貴重かつ重要な資源を豊富にもつ国と、その隣国。
政治的な面でも、いろいろあったんだろうな。
また同盟を組むなんてのは……難しいのか。
「じゃあ、灰翼教団が力をもつようになったのは?」
「かなり前からだよ。それこそ……数百年単位になるんじゃないかな」
「そんなに!?」
おいおい。そんな長きにわたって実権をにぎられるとか、王族なにしてんだ。
「ある宗教の信奉者が集まって、教団ができた。
のちに人口が増えてきたことで、その中から統治者が選出され、王族が誕生した……という話だよ」
「え、じゃあ、王族は元々教団内から生まれた一族なんですか?」
「血筋をたどれば、そうなるはずだ」
納得した。
それなら、教団より立場が弱いのもわからなくはない。
たとえるなら、クラスの中から学級委員を決めた、みたいなものだろう。
学級委員とは、「クラスをまとめる役を担っている」だけであって、クラスで一番偉い奴ってわけじゃないからな。
「ある宗教って言いましたけど、ルーンベルクで信仰されてる宗教ってどんなのなんですか?」
「そこはよくわからないんだ。あまり記録もないらしく、教団の活動内容についてもほとんどが闇に包まれているんだよ。
同盟を解消してしまったのが大きな原因だろうけど」
「……そうですか……」
「逸話とか昔話レベルの話では、こう言われているよ。翼をもった神が降臨して、人々に慈愛の心を説いた……と」
翼をもった神。
もしや、それって。
『古来よりこの地を守護してきた――ひいては、汝らが言う教団とやらが崇拝している、神の名だ』
ノックスがそう言っていた神か? 名前は……ルーン、だったっけ?
曰く、あの魔王もどきに加護を授けた張本人。
慈愛の精神を説いた神様が、なんであんな奴に加護を?
……うう。またわからなくなってきたぞ。
「ポルテさんがお知りになりたいことが書いてあるかはわかりませんが、関連する資料を集めておきますね。
図書館にお越しの際、お声がけいただければすぐにお出しします」
フォローするかのように、コーデリアさんがそう言ってくれた。
「ありがとうございます! すみません、お忙しいのに」
「いいえ。今日いただいたごちそうのお礼――に、なるかはわかりませんが。私のできる範囲でしたら、喜んでお力になります」
コーデリアさんは、俄然やる気を出したように、力強く頷いていた。
こちらが、今までお世話になった件のお礼のための食事会だったんだけどな?
まぁ、また機会をもうけて誘えばいいか。
さて……しばらくはルーンベルクについての勉強だな。
ノックスにも詳しい話を聞けたらいいんだけどなぁ。




