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追放されたタコの獣人、海の賢者として覚醒する 〜異国で勇者と公爵令嬢に見出され、大賢者へ〜  作者: 手羽本 紗々実(てばもと ささみ)
八章 白翼の神と邪竜編

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74話 ご褒美をやると言うので遠慮しつついただいてみた

 帰り道にて。


 孤児院の前を通ってみると、広い庭に院長のローズさんと子どもたちの姿があった。


 子どもたちが彼女を取りあっているかのように集まっていて、みんな笑顔を浮かべている。


 ……久しぶりに会えたんだもんな。よかったなぁ。仲良くしろよ。


 胸のあたりがなんだか温かくなるような感覚をおぼえ、俺も笑顔になる。


 ほっこりした気分のまま買い物を済ませ、そのまま軽い足取りで家に帰った。



「獣人ポルテ。女王陛下からのお呼び出しだ。ライリー・クロックフォードとともに、至急王宮へ参れ」



 玄関扉を開けた途端、すぐそこにいた知らない人にそう言われ、固まった。


 正装をしたその人は、立ちつくす俺の脇をすり抜けて、颯爽と出ていった。


 ……え? なに、今の? 不審者?



「ポルテ! すぐ出るぞ!」


「ら、ライリーさん? なに? どゆこと?」


「どゆこと、じゃねぇ。聞いただろ。女王陛下から呼び出し食らったんだよ。さっさと支度しろ」



 上着を羽織りながら部屋から出てきたライリーさんに言われても、俺の頭上は未だにクエスチョンマークだらけだった。


 女王陛下からの呼び出し……へぇ。


 なんでまた?


 ……あ、そうか。この戦争が終わったらまた会おう、とか言われてたな。


 マジか。社交辞令じゃなかったんだな!


 急いで買ってきた食材を片づけて、支度をして、ライリーさんとともに家を出た。


 馬車に乗って王宮前までいくと、招待状もなにも見せていないのに、すぐに中に通された。


 ……セキュリティ、大丈夫か?


 俺ら、王宮に顔パスで入れるようになったのかな?……んなばかな。



「ようこそお越しくださいました。陛下がお待ちです」



 出迎えてくれた、メイドに似た格好をした女性の使用人に案内され、中を進む。


 前は、ベアトリス様が案内してくださったんだよな。


 宰相補佐だし、忙しくしてるんだろうなぁ。


 まもなく、見覚えのある扉――温室の前に到達。


 使用人が扉を開け、中に入るように促された。



「……ここはなんだ?」


「温室っていうか、植物園みたいなもん。陛下がいろんなとこから集めた植物を育ててるんだってよ」


「前もここで話したのか?」


「そう。いや、びっくりしたよ。急に後ろから声かけられて――」


「それはすまなかったな」



 体が、びくっと跳ねあがった。


 振りかえると、生い茂る草木のむこうに人影。


 不敵な笑みを浮かべ、優雅にティーカップを傾ける女王様のお姿があった。


 一気に冷や汗が噴きでる。



「人の驚く反応を見るのが好きなのだ。悪趣味に付きあわせてしまってすまない」


「……い、いえ。めっそうもない」



 振りかえり、最敬礼して返事をする。


 まずったな。休憩スペースの位置は知っていたはずなのに。


 なんで、そこにいるかもって思いいたらなかったんだ。


 ……まぁ、女王様は嬉しそうだし。結果オーライだな!



「さぁ、座るがいい。ウォルター」


「は」



 女王様は、俺とライリーさんに椅子を勧めつつ、前にもお茶をいれてくれた執事さんを呼んだ。


 無駄のない動きで、素早くかつ丁寧な所作でいれてくれたウォルターさんは、一礼して無言で立ちさった。


 ライリーさんが女王様の隣、俺がさらにその隣に座った。



「御前会議のあとにお話しさせていただいたときのことを思いだします」


「私もだ。だが、今日の茶はあのときのものとは違うぞ。当てられるか?」



 女王様が、すこしだけ首を傾げ、試すような不敵な笑みを浮かべた。


 いただきます、と一言言って、カップを持ちあげる。


 ……嗅ぎなれた優しい甘い香り。味も、覚えがある。



「カモミール……ですか?」



 よく飲む茶葉の種類を口にした途端、女王様が一瞬だけ真顔になり、そしてまたほほえんだ。



「さすがだな。そなたの舌は、本物のようだ」



 そう言い、自分のカップに指を添える。


 意外だな。カモミールは庶民むけの茶葉のはずなんだけどな。



「ここだけの話だが……私はこれが一番好きなのだ」


「もしかして、故郷でよく飲まれていた、とか?」


「そうだ。母との思い出の味でもある」



 懐かしむように、女王様はカップに両手をそえて、目を閉じた。


 彼女が王座につく前に、病で亡くなったお母さん。


 きっと、娘が国王になり、大いに喜んでいるだろうな。


 と、そこまで考えたところで、横のライリーさんに肘で突かれた。


 ……あんまりなれなれしくするな、と?



「大ケガをしたと聞いたが、もう大丈夫なのだな?」



 女王様が、俺からライリーさんに視線を移す。



「は。ご心配には及びません」


「そうか。療養中に呼び出してしまい、すまなかったな」


「問題ありません。陛下にお呼びいただけるのなら、いつどこにいようと駆けつける所存です」


「うむ」



 ライリーさんは、唇を若干震わせていた。


 お茶ではなく唾を飲みこんだようで、大きく喉が動く。


 きちんと返事をしているように見えて、内心ドギマギしている様子だ。


 やはり、女王様に直接話しかけられるなんて、ありえないことだからだろうか。


 俺はもう三回目だし、だいぶ慣れたもんだけどな。自慢じゃないけど。



「クラーク伯から報告は聞いた。そなたらの活躍なくして、戦争を終結に導くのは不可能だったと」


「いいえ、そんな。私たちだけではとても。周りの方々の助けがあってこそです」


「……ふふ。相も変わらず、謙虚なのだな」



 女王様が、感心したように二度頷いた。



「そうであったとしても、大仕事をやってのけたことに変わりはない。

 私から直々に、褒美をやりたいと思い呼び出したのだ。受けとってくれるか?」


「そのような……っこの身には過ぎた栄誉にございます」


「いろいろ考えたのだが、ライリー。そなたには勲章を授ける。これがあれば、王宮でも顔がきくようになるだろう」



 ライリーさんの遠慮の言葉をガン無視して、女王様はテーブルの上に置いてあった薄くて平べったい箱を手にとった。


 開けて見せられたそこには、メダルのようなものが入っていた。


 ドラゴンと杖の国章が刻まれた、放射状に輝く金の勲章だ。


 首からかけるように、紺色のリボンがついている。


 王宮内で顔がきくって、相当だぞ。金色だし、やっぱり格が違うんだろうな。


 ライリーさんが椅子から立ちあがり、女王様の前に移動。


 ひざまずき、女王様に差しだされたそれを、うやうやしく一礼しながら受けとった。



「ご厚情、誠に痛み入ります。陛下のご信頼に恥じぬ働きを、今後もお約束いたします」


「よろしく頼むぞ」



 ライリーさんは、大事そうに箱を抱えて再び一礼。元の席に戻った。



「さて……次に、ポルテ」


「はっ」


「そなたにはやはり、爵位を与えるのがふさわしいと思う」


「……爵位?」



 そのお言葉を、頭の中で何度も唱え、意味を考えた。


 爵位をもらうってことは……どの程度にもよるだろうけど、つまり領地をもつってこと、だよな?


 俺が、領地経営?


 おお! 楽しそうだな!


 ……いや、やっぱ無理。別のおかしな物語が始まっちまう。



「恐れながら、それは私にはふさわしくありません」


「ふさわしくない……なぜだ?」


「私は、今のままライリーさん――や、ライリー殿? と、共に暮らし、歩んでいくのが一番の望みだからです。

 私には、荷が重すぎます」



 頭を下げ、訴えた。


 爵位をもつ――すなわち、領地をもつとなると、いろいろ考えなければならなくなる。


 のんびり気ままなスローライフができるわけではないのだ。


 俺が貴族社会の一員になるなんて……うん。考えただけで混乱してきた。


 結論。俺には無理です。


 女王陛下、どうかわかってください!



「……なんとなく、そんな気はしていた」


「えっ」



 ふう、と残念そうに、女王様が息を吐いた。


「たしかにそなたは、なにかに縛られるのは合わないように思う。

 ただ……その功績が歴史に残らぬのは、国にとって損失になるだろう」


「いえ、そんな――」


「そこでだ。もう一つ、考えていたものがある」



 女王様が、俺の顔の前に立てた人差し指を近づけてきた。



「名だ」


「名?」


「ポルテという名はそのままに、新しく名を授ける。責務を負う爵位とは違い、そなたを縛るものにはなりえない……どうだ?」



 女王様が、小首を傾げて尋ねてきた。


 つまり、家名をくれるってことだよな?


 たしかにそれなら、なんの問題もない。


 いわゆる、功績をたたえる印みたいなものだからな。


 念のため、横のライリーさんを一瞥。


 ちらりとこちらを見ただけだった。


 ……受けとってもいいんだな?



「ありがたきお言葉にございます。慎んで拝命いたします!」



 返事をすると、女王様が満足げに口角を上げて、頷いた。



「ポルテ・リベルテ。これからはそう名乗るとよい」


「リベルテ……ですか?」


「私とそなたの故郷――シャルマンが建国されるより前に使われていた、ウィステリア語からとった。『自由』を意味する」



 女王様は、そこで一度言葉を切った。


 なにか、ゆっくりと味わっているかのような雰囲気だ。



「しがらみに囚われぬそなたに、ふさわしい名ではないか?」



 言われて、俺はしばらく唖然としていた。


 女王様……ネーミングセンス、神か? 語感めっちゃいいじゃん!


 ポルテ・リベルテ。


 俺の、今日から使える新しい名前。


 ああもう。最っ高じゃないか!



「これ以上なき栄誉にございます。この名に恥じぬよう、王国のため力を尽くしてまいります!」



 ライリーさんと一緒にひざまずいて頭を下げる。


 顔を上げると、満足げにお茶を飲む女王様の姿があった。


 ――本当に、この国にきてよかった。


 温室をあとにして、さらに王宮の外に出てからも、なんだか夢を見ているような感覚だった。



「名前もらっちゃったんだけど!」


「うるせぇ。叫ぶな」


「ライリーさんもよかったじゃん。その勲章があれば、自由に王宮に出入りできるんだろ?」


「なわけねーだろ……っていうか、してたまるか」



 ライリーさんが、肩を落として脱力しながらため息をついた。


 緊張がとけたせいだな。たしかに、俺もなんだか腹が減ってきたぞ。


 ああ。せっかくもらったこの名前、早くだれかに名乗ってみたいなぁ。初対面の人がベターかもな。


 もしそのときがきたら、堂々と胸をはって言おう!


 わくわくしながら、若干元気がないライリーさんを促して、歩きだした。


 ……まぁ、その機会は案外すぐに訪れることになるんだけどな。

ここまで読んでいただきありがとうございました!

これより新章突入しました。

この章では、ある過去の清算がテーマとなっております。どうぞ楽しみに。

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