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追放されたタコの獣人、海の賢者として覚醒する 〜異国で勇者と公爵令嬢に見出され、大賢者へ〜  作者: 手羽本 紗々実(てばもと ささみ)
七章 灰翼教団の四騎士・死の騎士編

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73話 友情はこれからも続くと確信できたので安心してみた、けど

 ルーンベルクの名ばかり国王から、正式に降伏宣言が出された。



「一番の頼みの存在が倒されたと知ったせいなのか、ひたすら平身低頭で、こちらの判断に委ねると言ってきたそうだ」



 そう、うちの騎士団団長が嬉々として話してくれた。


 ……あの、「俺のバックには怒らせたら怖い人がいるんだぞ!」的な、小者感漂う国王が、なぁ。


 よほど、魔王もどきが倒されたのがショックだったのかもしれないな。


 そういえば……結局、あの魔王もどきの本当の名前は、わからずじまいだった。


 名前に意味なんてない、とか言っていたけど、本当にそう思っていたのだろうか。


 最期の瞬間に見えた、本当の姿――よぼよぼの老人の姿。


 あれが本当の自分だと、肯定したくなかったのではないか。人に知られたくなかったのではないか。そんな気がしてならない。


 ……なんて、ちょっとかっこつけてみたりして。


 なにはともあれ、奴がやろうとしていた禁術が発動されずに済んで、よかった。


 戦争は、終わったんだ。


 俺とライリーさんは、ジェイドさんに用意してもらった馬車に乗って、帰路についた。


 ……ああ、久しぶりの我が家! やっと落ちつけるぞ!


 これから国内は、戦後処理でなにかとバタバタするだろうけど。


 まずは、ライリーさんをしっかり療養させないと。


 俺なら獣化して水に入ればすぐ全回復するけど、他の人はそうはいかないからな。



「あれ?」



 家の前で降りると、玄関扉の前に見慣れた背中があった。


 ――コーデリアさん。


 彼女はすぐに振りかえり、見開いた目で俺たちを見た。



「ただいま戻りました!」



「……っポルテさん。ライリー様。ご無事のお戻り、心よりお慶び申し上げます」



 コーデリアさんが、ぐっと歯を噛みしめてから、腰をほぼ直角に曲げて頭を下げた。



「帰ってこないほうがよかったんじゃねぇのか? そしたら、自動的に秘書やめられてたわけだし」


「とんでもない! これからも喜んで務めさせていただきます!」


「……そうかよ」



 ライリーさんが肩をすくめて、続けて「じゃあ頼むわ」と言った。


 ……ん? 照れてるな? 面白い。


 ニヤニヤしていたら、気づかれて、腕を首に回されて絞められた。




 ◇◇◇




 まもなくして、ずっと気にしていたトニーさんの処遇について、進展があった。


 結果的に言えば――女王様は、お約束を守ってくださった。


 処刑は免除。これからも国のため奉仕するように、との決定が下された。


 また、トニーさんの父親である男爵についても、娘の監視体制を徹底することを条件に、お咎めなしとなった。


 ……が、最終的には、自ら爵位を返上。そのうえで、娘と共に歩んでいくと誓ったそうだ。


 ようは、監視がつくようになるだけで、トニーさんはこれからも魔導列車の整備に携われるのだ。


 これのどこが罰になるのか、とも思うけど。


 よくよく考えたら、かなり厳しい話だ。


 トニーさんが国家転覆を企てていた件は、ほとんどの人が知っている。


 つまり、これからはみんな、「そういう目で」彼女を見る。


 もしかしたら、いっそ死んだほうが楽だった、と思うほどの罰かもしれない。


 ……でも、生きている。それを、保証してもらえたのだ。



「遊びにこいよ、絶対。待ってるから」



 手続きが始まる前に一度だけ檻ごしに会うのを許されたので、そう伝えた。


 しかし、トニーさんは自嘲気味に笑っていた。



「嫌だし……無理だよ。どの面下げていけばいいのさ」


「どんな面でもいい。何事もなかったみたいに、しれっと来ればいいんだよ」



 続けてもう一度、待ってるから、と言った。



「……君のこと、見くびってたのが致命的だったなぁ。味方につけておくべきだった」


「味方だけど? 前も今も、これからも」


「……ああ、そう」



 トニーさんは、笑った。


 今度はちゃんと、心から笑っているように見えた。


 よし。次会ったら、問答無用でうちに引きずりこんで、ハンバーグ食わせてやる。




 ◇◇◇




 数日後。


 療養中のライリーさんのもとへ、お兄さんのアッシュボーン伯爵がルーファス先生とともに訪ねてきた。


 予想していたとおり、内陸側に位置するアッシュボーンには被害はほとんどなかったそうだ。


 よって、戦後処理の中での伯爵の役割は、他の被害があった領地への支援が主だとか。


 ……それにしても、お忍びで訪問してくるとは思わなかったので、驚いた。


 ルーファス先生は、



「今は療養中だからとお伝えしたんだが……だったらなおさら見舞いにいかねば、とおっしゃってね……」



 そう、申し訳なさそうに言っていた。


 先生のせいじゃないのにな。



「我が家で休めばいいものを。うちの医師団に診せれば、きっとすぐに回復するぞ?」


「いや、いい。住みなれたこっちのが落ちつく」



 ベッドに半身を起こした状態のライリーさんが、言った。


 そばの椅子に座った伯爵様は、それを聞いて「そうか……」と、肩を落としてしょんぼりしていた。



「それなら仕方ない。好きにするといい」


「ああ――って、おい」


「ん?」


「ん、じゃない! なに人の布団に入ろうとしてんだ!」



 伯爵様が、流れるような動作で、ライリーさんのベッドに入りこもうとしていた。


 すごいな。自然すぎて気づかなかった。違和感、まったくなかったぞ。



「温めてやろうと思っただけだが?」


「なに当たり前のこと言ってる、みたいな顔してんだ!……っおいポルテ! 先生! どっちでもいいから、なんとかしろ!」



 布団に入ろうとする伯爵様を、ライリーさんが必死に追いだそうとしている。


 ルーファス先生と一緒にぼけっと見ていた俺は、呼ばれてはっとして、駆けよった。



「伯爵様――」


「なにか問題でもあるのかね。私はライリーの兄だが」



 キリッと鋭い目をむけられ、すこしのけ反る。


 ……いやいや。それ、理由になってませんけど。



「存じております。けど……私は、ライリーさんの相棒です! 困っている相棒を見捨てるわけにはいきません!」



 伯爵様を引きとめるように、肩に手を置いてじっと目を見つめる。


 すると、伯爵様はキョトンとしてすこしの間固まったのち、声を上げて笑った。



「そうか……! よくわかった。ライリーが孤独にさいなまれずに済んだのは、君のおかげだな」


「孤独……ですか?」


「弟は昔から、一人になることを極端に嫌っていたのだよ。いつも私にくっついて歩いて……ああ、懐かしい。かわいい」


「やめろバカ兄貴」



 ライリーさんが、恍惚な表情を浮かべて変態くさくなってきた伯爵様の頭を叩いた。


 ……なるほど。だから、食事のときにはいつも、俺も一緒に食べるようにと勧めてくるんだな?


 そして、そんな過去があるから、伯爵様は未だにブラコン気質なんだな? 納得。


 ルーファス先生を見ると、遠くを見るような、懐かしむような顔で頷いていた。


 一方、ライリーさんはふてくされて窓辺に頬杖をつき、外を眺めていた。



「『いい奴を見つけたから、もう従僕は必要ない』と連絡を受けたときは……驚いたよ。

 どんな者かと思っていたら、君のような子で。正直、不思議でならなかった」


「そうですね。ポルテくんには申し訳ないが、私も同じく」


「ああ。それは……はい。心配されるのも当然です」



 なにせ、メンダコ獣人の移住者なんていう、得体のしれない奴ですもんね。


 自嘲気味に笑って頷いたが、伯爵様もルーファス先生も、柔らかい表情をしていた。



「撤回する。君は、ライリーにとって欠かせない存在だと認めよう。これからも、弟をよろしく頼むぞ」



 伯爵様に満面の笑みで言われて、ルーファス先生が頷くのを見て、俺は胸がいっぱいになった。


 ヒレをぴんと立たせて、背筋ものばす。



「っはい! おまかせくださ――」


「だから入ってくんじゃねーよ!」


「なぜだ」


「なぜだじゃねぇ! ふざけんな!」



 ……また、伯爵様がライリーさんの布団に入ろうとする攻防戦が始まってしまい、俺とルーファス先生は笑いながら止めに入ったのだった。




 ◇◇◇




 アッシュボーン伯爵とのひと騒動を終えて、領地にお戻りになるのを見送ったあと。



「君たちも気にしているだろうから、報告しておくよ。ユリシーズ・エイジャー氏の処遇について」



 禁術の資料紛失事件で、それの隠ぺいに関わったあの人。


 先生曰く、彼は魔導研究院の相談役の立場から下りることになった――いや、下ろされたらしい。


 さらに、すでに亡くなっている、管理責任者だったメルヴィン・トラヴァーズ氏については、遺族がその責務を負うべし、と決定したそうだ。


 具体的な内容は、不明だそうだけど。


 ……寝耳に水だっただろうな。やるせない。


 けど、ユリシーズさんは一応、できるかぎりの責任は果たした。


 これからは、後ろめたさなど感じずに、穏やかな余生をすごせるといいけどな。


 その話の後、俺は一言断って買い物に出かけた。


 お客様のルーファス先生をおいていくのはどうかと思うけど、突然の訪問だったので食材も茶葉もほとんど空の状態だったのだ。


 そろそろ、本格的な料理を作ってみたいな。やっぱりハンバーグか?



「……あ」



 ある人の姿が脳裏をよぎり、気づけば俺は、踵をかえして路地裏に入っていた。


 まっすぐ、目的地へと進む。


 ――あった。


 木のぬくもりが温かい、「炉辺亭(ろべんてい)」の文字。


 今日は、外に下がっているランプに灯はともっていなかった。


 休業日、か?


 不安になりつつ、入口の扉に近づく。


 すると、そばに落ちていたものに目を奪われ、足を止めた。


 茶色くて、ペンのように大きな……鳥の羽。



「……っカトリーナ?」



 いるのか? ここに来たのか?


 お前も、生きていたのか? 処刑されずに済んだのか?


 疑問が次々噴出するが――だれも、こたえてはくれなかった。


 諦めて、その羽を拾い、俯く。



「ありがとう」



 声がして、すぐに顔を上げる。


 姿は、見えない。



「ハンバーグ、おいしかった。もう会うことはないだろうけど……元気で」


「カトリーナ!」



 名を叫んだ瞬間、鳥が羽ばたいて飛びたつような音がして、それきり辺りはしずかになった。


 ……言い逃げかよ。


 もっと、話がしたかったのに。ずるい奴だな。



「あら? ポルテの坊やじゃないか――って、ど、どうしたんだい? そんな顔して」


「……女将さん……」



 女将のステイシーさんが出てきて、感情がぐちゃぐちゃな状態の俺を見てうろたえた。


 厚意で、休業中の店の中に入れてもらえた。


 客がいない店内はシン、としていて、俺が知っている賑やかさも明るさもなかった。



「せっかく来てくれたのに、こんな状態で悪いね」



 女将さんが、白湯を入れたカップを持ってきてくれた。



「いえ。俺のほうこそ突然すみません。どうしてるかなって気になっちゃって」


「私は見てのとおり元気だよ。ただ、まぁ……フレッド、のことは……残念だったけど」



 女将さんは、ほほえみながらもその顔を俯け、カップの縁を指でなぞった。


 無理して笑っているのが、手にとるようにわかった。



「これから……どうされるんですか?」


「もちろん店は続けるよ。これでたたんだりしたら、天国にいるあの子が悲しむだろうし」


「……ですね」


「大丈夫だよ。始めた頃は私一人で切り盛りしてたからね。新しい子を探しつつ、ぼちぼちやっていくつもりだよ」



 女将さんが、自分の胸をドン、と叩いて言った。



「そうですか……応援してます。あ、俺にできることがあればなんなりと」


「ありがとねぇ。けど、あんたはライリーのお世話で手一杯なんじゃないかい?」


「それは言えてます」



 顔を見合わせて、笑いあう。


 それから、「仕込みをしないとね」と、言った彼女に別れを告げて、店を出た。



「落ちついたら、またライリーと一緒に食べにおいで!」



 と、たくましい言葉を背に受けて。


 空を見上げて、フレッドさんを思いうかべる。


 ……心配してるか? でも、たぶん大丈夫だから。あんたが大切にしてきたもの、精一杯守っていくよ。


 なんだか、心の中がスカッとした気分だった。


 ――この後、家では王宮からの使者が待ちうけていたとは、夢にも思わなかった。

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