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追放されたタコの獣人、海の賢者として覚醒する 〜異国で勇者と公爵令嬢に見出され、大賢者へ〜  作者: 手羽本 紗々実(てばもと ささみ)
七章 灰翼教団の四騎士・死の騎士編

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72話 高みに到達したのでその景色を堪能してみた

 ノックスのおかげですぐにザックさんが見つかり、ライリーさんの手当てをしてもらえた。


 当然ながら、現れた直後はめちゃくちゃ警戒されたけどな!



「もう心配はいらないよ」



 ライリーさんを診察したザックさんが、笑顔で言った。


 彼の治癒魔法のおかげで、青白かった顔にほんのりと赤みが戻っていた。



「ありがとうございます……!」



 泣きそうになり、目を閉じて頭を下げる。


 ああ、もう……マジで手遅れになったかと思った! よかった……!


 あのとき、ライリーさんに庇ってもらわなかったら、俺は切り刻まれていた。


 そうならずに済んだおかげで、戦況をひっくり返せたわけだけど。


 そのせいでライリーさんが死んでしまったら、勝利に意味などなくなってしまう。


 勝っても負けても、生きていればこそだ。


 目を閉じ、穏やかに規則正しく胸を上下させているライリーさんを見て、俺は心から安堵した。


 ……前に俺が死にかけたとき、ライリーさんもこんな気持ちだったのかなぁ。



「ポルテ。あまり気に病むな。ライリーは生きている。戦争の黒幕も消滅し、我々が勝利をおさめた。

 それでいいのではないか?」


「ジェイドさん……」



 俺の肩に手を置き、優しくほほえむ彼の顔を見上げる。



「……ジェイドさんに優しくされると、なんかすげー違和感するんですけど」


「な!? ど、どういう意味だ!」



 至極真面目な顔で言うと、ジェイドさんがうろたえて数歩下がった。


 すると、そばでクスクスと笑う声が聞こえてきた。



「そのまんまの意味だろ。たしかに、気持ち悪いな」


「……貴様ら……」



 体を起こしたライリーさんが、辛辣な言葉を吐く。


 ジェイドさんはたちまち不機嫌になり、そっぽをむいてしまった。


 一方で、顔を見合わせて笑いあう俺とライリーさん。


 ……うん。よかった。本当に。


 改めて、周りにいる人たちを見回す。



「外でいろいろ手を尽くしてくれたみたいで。おかげで助かりました」


「大したことはできなかったけれどね」



 ザックさんが、苦笑しながら言った。


 俺とライリーさんが転移させられた直後、灰翼教団の騎士たちが突っ込んできて、戦闘になったそうだ。


 けれど、幹部のグレイアムさんの指揮でこちら側の騎士たちが応戦し、撃破。


 ザックさんが事前に教えてくれた、呪いがえしの真言が大層役に立ったらしい。


 そのザックさんやローズさんたち賢者の面々は、引きずりこまれた俺とライリーさんを救出すべく、怪しい気配をたどっていた。


 そのうちに、一定間隔で打たれた杭を複数見つけ、それを抜いたり壊したりしていたらしい。



「その杭ってなんだったんですか?」


「確証はないが……もしかしたら、魔導(アトラ・テラ)焦土(・ステリリス)を発動させるために必要なものだったかもしれないという話だ」



 ジェイドさんが、神妙な顔で言った。


 ……いやいや、大したことしてくれてたじゃん! マジで助かったよ!



「ねぇ。それはいいけどさ……これ、どうするつもり?」



 監視役のグレイアムさんのそばにいたトニーさんが、あごを上にむけてクイッと動かし、ノックスをさした。


 そういえば。大人しくしてくれていたから、軽く風景と同化していて忘れてたな。



「乗れ」


「えっ?」


「これから元の国に帰るのだろう? 我もこの国のありさまを空からたしかめたい。もののついでだ。乗れ」


「……い、いいのか?」



 意外だ。


 さっき頼んだときは不服そうだったのに。自分から申し出てくれるなんて。


 しかも、この大人数だぞ。



「いいと言っている。我の厚意を無下にするか」


「しないしない! けど……! 俺、お前のこと乗り物だなんて思ってねぇからな!」



 胸の前まで上げた手で拳を作って、言った。


 しかし、ノックスはどうでもいいとばかりに顔をそらして鼻息を噴射した。


 まったく。気まぐれな奴だな。


 よし。じゃあ、こいつの気が変わる前に。



「はい、じゃあ皆さん! そういうわけなんで、ノックスの背に乗ってください!」


「待てばか野郎。なにがどういうわけだ」


「え? いや、聞いてただろ今の――」


「お前がこのドラゴンとなにか話してるのはわかった。けど、なにを話したかまでわかるわけねーだろ」



 ライリーさんに軽く頭を叩かれる。


 俺はわけがわからず、首を傾げた。


 え? どゆこと?


 もしや、みんなにはノックスの言葉が聞こえてない?


 いや、通じていない、のか?



「呆れたものだな……当たり前だ。我の言葉は契約を結んだ(ぬし)にしかわからぬ」


「……それってやっぱり、使い魔になっちまったってことじゃね?」


「なにが悪い。見てわからぬか。そこらの魔物とは、あきらかに格が違うではないか」



 ……あ、それでいいんですね。


 格か。うん、たしかに。でかいし強いし偉そうだし。


 ノックス本人がいいって言ってるんだから、俺が気にする必要はないか。


 味方全員を誘導して、身をかがめたノックスに乗せる。


 騎士たち、それからローズさんとザックさんが乗り、ジェイドさんがライリーさんに肩を貸して乗る。


 取り残されている人がいないか確認してから、最後に俺も乗った。



「安全運転で頼むぞ!」


「知らぬ」



 不穏なセリフを吐いた直後、ノックスが翼を広げ、羽ばたいた。



「おお……!」


「……最初からこうしてくれたら、あたしが転移魔法使わずに済んだのに」



 感嘆の声をもらす騎士の中、なにやら文句を言っている人がいたけど、スルーした。


 ぐんぐん高度を上げて、やがてルーンベルク全体が見渡せる場所まで到達した。



「…………」


「ノックス?」



 なぜか、ホバリングした状態で動かなくなった。


 荒れた国内を見て、悲しんでいる……ような。



「民が荒れ、国が荒れれば……こうも堕ちるものなのだな」


「うん?」



 ノックスは呟いただけでなにもこたえず、旋回してアルケミリアの方角へと飛んでいった。


 さらば、ルーンベルク。


 どうか、生き残った罪のない人たちが、無事で健やかに暮らしていけますように。




 ◇◇◇




 ノックスが安全に降り立てる場所はどこかと探しつつ、アルケミリアをぐるっと見てまわった。


 変わりはない様子で、安心。


 まもなく、騎士団本陣があるグリムフォード領の空き地に、ドカンと豪快に着陸。


 背中から降りて、振りかえる。



「ありがとう、ノックス! 助かった」


「礼など言われる筋合いはない。さっさと我を元に戻せ」


「元って……いいのか? 窮屈じゃねぇの?」


「ならば、このままここにいろと申すか?」


「……いや、それは無理、だな。悪い」



 気まずくなって目をそらし、頬をかいた。


 だが、ノックスは気にしていないとばかりに、また鼻息噴射。


 騎士の数人が、軽く飛ばされて転がった。


 いやいや。だから、加減しろって。



「案ずるな。我にとっては、破壊できるものがなければどこだろうと窮屈だ」


「それはどうなんですかね」


「ふん……いつか主が見つけるのだろう? 我が、自由になれる場所を」



 小馬鹿にするような、見下すような口調で、ノックスが言った。


 期待はしていないけど、その気持ちは受け入れる、みたいな感じか?


 ……ああ。それでいいよ。



「もちろん。俺が生きているうちに、できることは全部やるつもりだよ」


「その言葉、忘れぬぞ。また……あのように封印されるのはごめんだ」



 ノックスが、にらみつけるような鋭い目をした。


 うん……? ライリーさんのほう、見てないか? なんで?


 なにか恨みでもあるのか?……いつの間に?



「手を近づけよ」


「手?」



 なんの疑問も解決させないまま、ノックスが言った。


 俺はほとんど反射的に、ノックスが下げてきた鼻先に右手を近づける。


 瞬間、ノックスの背後に巨大な黒い扉が現れた。


 この、重苦しい感覚。


 あのとき、ノックスを召喚したときに感じた空気と同じだ!


 扉がきしみ、音を立てながら開いていく。


 完全に開いた瞬間、中から無数の鎖がのびてきて、ノックスの体を捕らえた。



「ノックス……!」


「案ずるなと言っている……契約を、忘れるな」



 その言葉を最後に、ノックスの体が扉の中へと引きずりこまれていく。


 そして――扉が勢いよく閉じ、消えた。


 気づけば、俺の右手の人差し指に指輪が戻っていた。


 それをしばらく眺めてから、拳を強く握る。


 ……忘れねーよ。お前の声には、ちゃんと応えるから。



「やっぱり、坊やだったんだね」



 決意をこめたあとで顔を上げると、ローズさんがゆったりと歩いて近づいてきた。



「やっぱり?」


「あんたのこと、占っただろう? そのときに見えた光景が……今、現実になった」



 ローズさんは、空を見上げて感慨深そうに遠い目をした。



「坊やが――あのドラゴンに触れたときの光景。

 女王陛下の謁見の間にあるタペストリー、救世主レリエルスと眷属のドラゴンを描いたあれと――まったく同じだったよ」


「へ……?」



 動揺して、顔が引きつる。


 しかし、その場にいた騎士たちは、もっと動揺している様子だった。


 ざわついて、なにか異質なものでも見ているかのような視線が、一斉にむけられる。



「そりゃまちがいねぇな」



 自力で立ちあがったライリーさんが、近づいてきた。



「『真の力は真の力の持ち主のもとに現れる』……覚えてるか?」


「あ、ああ。この指輪が封印されてた本に書いてあった言葉だろ?」


「あれには続きがある」



 目を丸くして、ライリーさんを見る。


 続き?


 ルーファス先生は、それしか解読できなかったって言ってなかったっけ?



「真の力は真の力の持ち主のもとに現れる。救世主が再来し、世界が救われる」


「……えっ」


「ルーファス先生には、ポルテには言うなって言っておいたんだよ。調子にのってなにかやらかすような気がしたからな。

 俺も先生も、そんなわけないって思ってたのもある」



 ライリーさんが、肩をすくめて言った。


 そして、俺の頭に手を置いた。



「信じるさ。今なら。お前こそ――この国の救世主だ」



 笑顔のもと、ライリーさんがみんなに聞こえるように、はっきりとそう言った。


 その言葉が、ゆっくりと胸に落ちていく。


 世界が、すこしだけ違って見えた。


 俺は――なにも言えなかった。

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