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追放されたタコの獣人、海の賢者として覚醒する 〜異国で勇者と公爵令嬢に見出され、大賢者へ〜  作者: 手羽本 紗々実(てばもと ささみ)
七章 灰翼教団の四騎士・死の騎士編

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71話 対抗する力を得たのでラスボスをぶちのめしてみた

 次に見えたのは、ろうそくの火で照らされた、朽ちはてた礼拝堂。


 ――現実世界に、戻った。



「どうした。本当にこれで終わりなのかと聞いている」



 魔王もどきの声が響く。


 振りかえると、脇腹をおさえてうめきながら必死に動こうとしているライリーさんの姿もある。


 ……時間が、ちっとも経過していない?


 体の疲労感も、重苦しい空気も、さっきのままだ。


 これはノクスヴァルド――ノックスの力なのか?


 それとも、あれはただの夢だったのか? あいつと契約したのは、俺の妄想?



 (理は、すでに汝の中にある)



 たしかに聞いた、あいつの言葉。


 一瞬浮かんだ不安が、途端に霧散する。


 頭の中に、呪文らしきものが浮かんできた。


 歯を噛みしめ、腹に力を入れる。


 今しかない。


 奴の悪事を食いとめて、みんなを救ってみせる!


 指輪を見せつけるように、右手をまっすぐ上にあげた。


 深呼吸を、一回。



「我は鍵にあらず。檻にあらず。ただ呼ぶ者なり!」



 頼む、ノックス。


 落ちついた口調で呪文をつむぎつつ、心の中であいつの姿を思い浮かべた。





 ポルテが、妙な呪文を唱えはじめた。


 聞きおぼえはないはずなのに、なぜか懐かしさのようなものを感じる。


 ライリーは、痛む脇腹をおさえつつ、不思議な気持ちでその堂々たる横顔を見つめていた。



「応えるなら来い。拒むなら眠れ。契約の下、血と名をもって、今ここに誓う!」



 ……あれは、まさか。


 ライリーの脳裏に、嫌な予感が走る。


 次の瞬間、ポルテの背後にありえないものが出現した。


 巨大な、黒い扉。


 とてつもない威圧感がする。


 ――召喚呪文、だと?


 見れば、敵の男も圧倒されているかのように、口を半開きにして立ち尽くしていた。



(なんだ……? なにを召喚しようとしているんだ!?)



 ライリーは必死に体を起こし、光りだしたポルテの指輪と巨大な扉を注視した。





 ……指輪が、熱い。


 呪文を詠唱しはじめた頃から、熱を帯びてきた。


 どうなるかはわからない。不安がまったくないわけじゃない。


 けれど、ノックスはまちがなくきてくれる。


 なにも怖くはない。


 ――今だ。


 ――ああ。



「現れよ――ノックス!」





 ポルテがその名を唱えた瞬間、右手にあった指輪がパキンと乾いた音を立てて、中央に光が走って裂けた。


 直後、彼の背後にあった扉が、ゆっくりと開いていく。


 そして――ライリーは、信じられないものを目の当たりにした。


 両開きの扉が完全に開くのを待たずに、その隙間から、巨大なごつごつした腕が飛びでてきたのだ。


 それが、地に下りた瞬間、地鳴りが響く。


 ――空気が、重い。


 もはや声を上げる余裕すらなく、ライリーはただしずかにそれを見つめていた。





 俺がつけた新しい名前を読んだ瞬間、あいつの気配がした。


 懐かしくて、嬉しい。


 変だな、懐かしいなんて。さっき夢の中で会ったばかりなのに。


 ズシン、と地鳴りが二回。


 背後から、強風とともに獣の咆哮が鳴りひびいた。


 壊れかけた礼拝堂が、ビリビリと鳴って震える。



「……久しぶりの現世は、どうだ?」


「どうもこうもない。相変わらず、窮屈で薄汚れた世界だ」


「そこに出たがってたのはどこのだれだよ?」


「ふん……だからこそだ。破壊しがいのないものなど、興味はない」



 声色が、心なしか生き生きとしている。


 暴れたくてうずうずしている、といった感じか。



「いいけど、好き勝手破壊するのはなしだからな。壊すのは……あいつだけにしておけ」



 俺はまっすぐ、魔王もどきを指さした。


 奴は、ノックスを見て目を見開き、体をわなわなと震わせていた。


 ノックスが怖すぎて声も出せない……わけじゃ、なさそうだな。



「お……おお! これは……! これこそ、ルーン様と対をなす邪竜!」


「はっ?」



 魔王もどきは、腕を左右に広げて迎えいれるような体勢をした。


 ウソだろ。あいつ、ノックスのこと知ってるのか?


 ……ルーン様と、対をなす? なんの話だ?



「ここで現れるとは都合がいい! 今こそルーン様と一体化し――」



 魔王もどきが言いおわる前に、ノックスが腕を振りかぶって奴を吹きとばした。


 その体が、奥にあった祭壇のようなものに直撃。


 起きあがるのを待たず、ノックスが咆哮とともに黒いブレスを吐いた。


 うっわ……えげつねぇな! なにもそこまでしなくても。



「これでいい」


「へっ?……もう? ルーン様の加護、とれたのか?」



 ノックスが、ゆっくりとこちらをむいた。



「見ればわかる」



 ノックスが軽くあごを動かして示したところを見る。


 湧きあがったホコリの中から、よろよろと立ちあがる人影が一つ、ぼんやりと見えた。



「ぐ……う……っ」


「は……っ!?」



 そこにいたのは、白髪を落ち武者のように垂らした、顔中シワだらけのよぼよぼな老人だった。


 ……だ、だれ?



「奴はルーンの加護により、生命を維持していたのだ」


「生命を……維持」



 つまり、不老不死、的な?


 ……そうか。


 禁術の資料紛失事件の犯人があいつなら、実年齢は70、いや、80歳以上だとしてもおかしくはない。


 それにしても、老けすぎている感は否めないけど。


 ……加護がはずれた、その代償といったところか?



「契約どおり、我ができるのはここまでだ。あとは……(ぬし)次第だ」


「主……」



 はっとして、ノックスを見上げる。


 それまでずっと、「汝」なんて他人行儀な呼び方だったのに。


 認めて、くれたんだな。本当に。


 嬉しさを噛みしめながら、ライリーさんのほうを振りむく。



「……っ行け」



 痛みで荒い息をしながらも、口角を上げて言った。


 それに頷き、魔王もどき――よぼよぼの老人を見据える。


 ……あれ?



「指輪がない!」



 右手に触れて指輪を確認しようとしたら、そこにはなにもなかった。


 そ、そうか……あれがノックス召喚の鍵になったから、今は使えないのか!


 どうすりゃいいんだよ!? とどめ、させねぇじゃん!


 まさか、あの老人を素手で倒せと?



「まったく……締まらないものだな」


「俺のせいじゃねぇし、別にふざけてなんかねぇから!」


「主の目は節穴か。我がいるだろう」


「……は? どういうことだよ?」



 呆れたようなその言葉に、俺は首を傾げた。



「我を通せ。さすれば主の魔法は成立する」


「……お前が、媒介になるってことか?」



 ノックスが、鼻で笑った。


 肯定、ととらえていいんだな?


 ……まぁ、ずいぶんでかい媒介ですね。前代未聞だろ。


 うまくできるだろうか?……なんて、迷っている場合じゃないな。


 今は、一世一代のチャンスなんだ。逃してなるものか。


 俺はノックスに触れてから、目を閉じて心の中で念じた。


 そして、よぼよぼの魔王もどきの目の前へ。



「きさ、ま……っ」


「往生しやがれ――黒い霧(ブリュム・ノワール)!」



 腕を振って、いつもの魔法を唱えた。


 一瞬、背後のノックスのほうから怪しげな気配がした。


 そして、俺の手の先から出た黒い霧が、奴を包む。


 ……マジでできちゃったよ。



「……っ!」



 喜びに打ちふるえる間は、なかった。


 黒い霧が晴れて見えた魔王もどきが、かすかに笑っているのが見えて、身を固くした。



「これも……一つの、死の形……か……ああ……美し、い……」



 最期の言葉を口にした直後、みるみるうちに白骨化。


 それもすぐに崩れおち、砂のようになって消滅した。


 ……自分の死にも、美学を追求するのか。いや、だからこそ、か。


 これで、終わったんだよな。


 俺たちが勝ったんだよな!?



「……! ライリーさん!」



 ほっと息をついた瞬間、ライリーさんの存在を思いだし、駆けよった。


 浅くて速い呼吸をしている。出血もひどい。


 これは、相当にヤバいぞ。


 自分の服の裾を破って、それを傷口に当てて止血を試みる。


 くそ、ガーゼとか清潔な布があったらよかったのに! けど、今はとにかく止血が先決だ!


 傷口をおさえつつ、布をきつめに巻いた。



「我慢しろよな! すぐザックさんのところに連れてくから!」


「……ポルテ……」


「いい! 無理に喋るな!」



 荒い息をしながらなにかを言おうとしたのを、遮る。


 しかし、肩を強くつかまれて顔を上げさせられた。



「よく、やった」



 ……なに、この人。


 しんどいだろうに、それでも優しい笑顔を浮かべて。


 そんなん言われたら、普通に泣くだろ!



「にしても……こんなの召喚できるなんて、聞いてねぇぞ。いつの間に契約した?」


「夢の中でな」


「……じゃあ、なんだ? こいつは、お前の中にでも封印されてたのか」


「俺の中っていうか、俺のあの指輪の中に。だよな?」


「それにこたえる義理はない」



 ノックスは、不機嫌そうに鼻息を噴射して、そっぽをむいてしまった。


 ……なんだ、こいつ。


 力を貸すって自分から言いだしたり、機嫌悪くなったり。気まぐれな奴だな。


 って、ばか! 優先順位を考えろって!



「ノックス! 力を借りるって話、まだ有効か!?」


「ならば、どうだと言うのだ?」


「俺とライリーさんを、ザックさん――医者のところまで運んでくれ! あ、けど建物は壊すなよ!?」


「こんな場所、破壊すれば済むではないか」


「だめだって! すぐそばに味方がいたらどうすんだよ!」


「……致し方ない。さっさと乗れ」



 頷いて、ライリーさんと肩を組んで助けおこし、屈んだノックスの背中によじのぼる。


 ドラゴンの背に乗っちゃった!


 って、本来は喜ぶところだけど。それはまたあとで。



「ふん……やはり、な。我を封印した者と同じにおいがする……」


「は? 封印した者って?」


「…………」



 急になにを言いだすんだ、こいつ。


 わけがわからない。けど、聞くのはまた今度、覚えてたらにしよう!



「ライリーさん、もうちょいがんばれよ!」


「……まさか……な」


「え? なに?」



 俺の膝枕に頭をのせて体を横にした状態のライリーさんが、ぼそりと呟いた。


 聞きかえすと、苦笑した顔をこちらにむけてきた。



「俺の……ガキの頃の夢、を……お前が、叶えるとは、な……」


「ガキの頃の、夢? なんの話――」



 聞きおわる前に、ずるりとライリーさんの体が力を失った。


 ――目を閉じている。



「ライリーさん? ちょ……ウソだろ!? 待てよ! だめだって! ライリーさん! ライリーさんっ!」



 彼の体をゆさぶりながら叫ぶ俺の声が、むなしく響いた。

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