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海の賢者、気づけば国の命運背負ってました 〜追放されたタコの獣人が異国で勇者と公爵令嬢に見出され、大賢者になる〜  作者: 手羽本 紗々実(てばもと ささみ)
一章 移住編

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7話 お下がりもらったので試しに使ってみた

 突然アポなしでやってきた友人に対し、俺の魔法の的になれ、とか言い出すのはもはや鬼畜の所業じゃないですかね。ライリーさん。



「いきなりなに言い出すの?」



 ごもっともだ、トニーさん。



「別にいいだろ。お前、魔法耐性ばかみてーに高いんだからよ」


「そりゃそうだけど……」



 トニーさんが、緩慢な動作で俺のほうをむいた。



「で、その……ポルテだっけ? 君はなんの魔法が使えるの?」


「……煙幕的な?」


「煙幕ぅ?」


「黒い墨みたいなのを出して、相手の視界を奪うんだよ。一時的にだけど」


「ええ……? あたしにそれを食らえっての? すっごいやなんだけど」



 トニーさんが、腕組みをして若干ふんぞり返っているライリーさんに険しい顔をむけた。


 そうだよな。髪や服が大変なことになるし。好きこのんでかかろうとする人なんて、いるわけがない。



「いいから。お試しだよ、お試し」


「はぁ……分かったよ。けど、中途半端なやつだったら遠慮なく弾きかえすからね」


「そうしろ」



 ライリーさんに押し切られ、トニーさんは肩にかけていたショルダーバッグのような形の荷物を床に下ろした。


 ライリーさんがこちらをむく。



「じゃあ、媒介出せ」


「……ん?」


「媒介だよ、媒介。魔法かけるときに使うだろ」


「ないけど」


「……は?」


「ずっと前に壊れたから。魔法使うときはそこらに落ちてた枝とかで代用してたんだよ」



 呆然と口を半開きにして固まる、ライリーさんとトニーさん。


 へぇ。杖は媒介っていうのか。初めて聞いた。なにかの拍子で壊れて、新しいのを買う余裕もなかったんだよなぁ。っていうか、壊れた原因も戦闘とは関係なかった気がするな。忘れたけど。



「……こいつ、大丈夫?」


「大丈夫じゃねぇな」



 トニーさんが、困惑してライリーさんを見る。


 ライリーさんは、舌打ちしながら本棚のある部屋に入った。しばらくして、ある一冊の本を手に戻ってきた。


「これ使え」


「使え……って?」


「媒介としてに決まってんだろ」



 ライリーさんは、もってきた本を俺に渡してきた。


 ちょうど文庫本くらいのサイズの小さな本だ。表紙にも裏表紙にも、三角形や四角形、その他多角形が描かれている幾何学模様があって、タイトルはない。


 これを媒介――杖代わりにする? いや、できるのか?



「本も媒介になんの?」


「当たり前だろ。自分に合ったものならなんでもいいんだよ」


「そうそう。質の問題もあるけどね」


「そいつは俺が昔使ってたやつだから、問題ねーよ」



 へー、とか、ほー、とか、そんな言葉しか出てこなかった。


 魔法使いといえば、木製で先がくるりと渦巻き模様になった杖を振りまわしているようなイメージがあった。昔話で出てくる魔法使いとか魔女は、大体そんな感じだったはず。



「じゃあ、二人は? なに使ってんの?」


「俺はこれ」



 ライリーさんが、上着の内ポケットから黒い手袋を出した。手袋まで黒か。黒、好きなんだな。


 彼がその手袋をはめると、右の手の平から丸い形をした炎の球のようなものがほわっと音をたてて出現。一瞬で消えた。手品か!?



「かっこよ!」


「かっこよ?」


「あ……えと、カッコいいって意味!」


「ふーん……だろ?」



 ライリーさんは、まんざらでもない様子でにやつきながら手袋をしまった。


 視界の端に、呆れたように目を細めてじっと見ているトニーさんが見える。



「トニーさんは? ってか、トニーさんも魔法使い?」


「一応ね。専門は生活技術で非戦闘員なんだけど。媒介として使ってるのは工具。かける魔法によって変えてるよ」


「へー! そういうのもありなんだな」



 床に置いたショルダーバッグを指さしたトニーさんを見て、感心する。不思議なもんだな、魔法って。


 ……ああ、そうか。人によって剣とか斧とか槍とか、持ちやすい武器っていうか、得手不得手があるのと同じだと考えればいいのか。


 それにしても、本が杖代わりになるのは意外だ。なんていうか……頭がいい奴みたいでいいな! しかもこの本は、ライリーさんが昔使ってたやつだって言ってたよな?



「これ、もらっていいのか?」


「ああ」


「やった! お下がり!」


「お下がりって……まぁそうなんだけど、なにがそんなに嬉しいんだよ」


「嬉しいに決まってんじゃん!」



 詳しく説明しろと言われても難しいけれど、なんか嬉しい。俺は今生でも、実は前世でも一人っ子だったから。そういうものをもらった経験がないせいか。



「っていうかそれ、たしかいわくつきのやつじゃなかった?」


「違う。いわくつきじゃなくて――」


「いわくつき!? 呪われた書ってこと!?」


「なわけねーだろっ!」



 トニーさんの言葉を聞きかえしたら、ライリーさんに後頭部を叩かれた。とっさに足をふんばってこらえる。



「ただの言い伝えだ。迷信みたいなもんだから、気にすんな」


「ええ……?」



 そう言われると、すっげー気になるんですけど? なに? ホラー的な意味じゃないよな? 古代の魔物が封印されてる、とかだったらめっちゃアガるんですけど!


 気になって、本をぱらぱらとめくってみた。


 ……なんだこれ。読めん。古代文字のような複雑な文字が書かれてあって、さっぱり分からない。


 詳しく聞きたかったけど、ライリーさんに「集中しろ」と言われたので、しかたなく口を閉じた。興奮してしきりに動かしていたヒレも、大人しく垂らす。



「まずはなにも考えるな。目を閉じて、心を落ち着けてみろ」



 無言で頷いて、言われたとおり目を閉じる。


 心を落ち着ける……って、意外と難しいんだよな。とりあえず深呼吸でもしてみるか。



「魔法をかけるつもりで念じてみろ」


「…………」



 トニーさんがいるはずのほうへ、空いている手を軽くのばして手先に意識を集中させてみた。指先が、ほのかに温かくなったように感じる。



「名を呼べ」



 ……名? 名って? なんの名?


 わけが分からずそのままなにもできずにいると、ふと、脳裏になにかがよぎったような気がした。


 なんだろう。あれは――?



黒い霧(ブリュム・ノワール)



 無意識に、言葉を口にしていた。



「うわっ!?」



 トニーさんの慌てる声がして、すぐに目を開けた。そこには――黒いもやのようなものにまとわりつかれているトニーさんがいた。


 俺は、首を傾げた。


 あれは……なんだ? まさか、俺が出したやつなのか? でも、今までのタコ墨のようなものとは似て非なるものだ。タコ墨は液体だけど、今トニーさんにまとわりついているのは気体、のような。



「なに、これ……っう……!」


「どうした?」


「体が……っ重いんだよ……!」



 なんとか霧を振りはらったトニーさんだけど、苦しそうな弱々しい声でその場に膝をついた。額には脂汗がにじんでいる。



「解除は」


「してるよ……! でもなぜか発動しないんだよ!」



 トニーさんは、右手の人差し指を振ってなにかしようとしているが、まったく変化はない。


 そんな彼女を、頭上に疑問符を大量に浮かべて見ている俺と、あごに手を当ててなにか考えこんでいるライリーさんが見ている。


 すると、ライリーさんがトニーさんの前にしゃがみこみ、彼女の額にむけて指を弾いた。いわゆる、デコピンだ。



「いっ!? いった……っ! なにすんだよ!」


「ちょっと指で弾いただけだ」


「ウソだろ!? そんなんでこんな痛いわけ――っうわ、血ぃ出た……!」



 尋常ではない様子で痛がっているトニーさんを、俺は呆然と見つめていた。トニーさん本人も、患部をおさえた手に赤い液体がついたのを見て驚いている。


 一体、なにが起きてるんだ? ライリーさんはちょっとデコピンしただけだぞ。それがどうして、出血するほどのケガになってるんだ?


 わけが分からず、トニーさんとライリーさんを交互に見る。


 ライリーさんは――笑っていた。興奮を隠しきれない様子で、目を輝かせて口角を吊りあげている。



「ポルテ」


「う、うん?」


「お前の魔法は、ただの煙幕なんかじゃねぇ」



 ライリーさんが、俺のほうを振りむいた。



「弱体化の魔法だよ。それも……超高ランクのな」



 それを聞いて、俺は瞬きを繰りかえすことしかできなかった。

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