69話 魔王(仮)と遭遇したので全身全霊をかけて挑んでみた
ルーンベルクの王宮制圧は、あっけないほどに簡単に終わった。
たくさんの人たち――近衛騎士らしい人ともすれ違ったけれど、だれも俺たちの存在に気づかなかったのだ。
……これ、こんな緊迫した状況じゃなかったら、もっと人を驚かしまわって遊べたんだけどなぁ。
言ってる場合ではない。
会議をしていたらしい国王と側近たちを取り囲んだ状態で、透明状態を解除。あっという間だった。
「貴様ら……っただで済むと思うなよ! 朕のバックには、教団ならびにあの者がついているのだからな!」
「あの者……? だれだ?」
ライリーさんが、手の先からボッと炎の玉を出して、脅すように尋ねた。
小者感が半端ないセリフを吐いたルーンベルク国王が、「ひっ」と怯えた声を上げる。
「ライリー。このお方は、敵国とはいえ国王――」
「貴様らなど! 一人残らず吹きとばされればいいのだ!」
……やかましい人だな。
セリフを遮られたジェイドさんが、眉をぴくりと動かしたのち、剣を抜いた。
「そうか。その前に……貴殿が吹きとばされるか?」
「ひぃ!?」
国王が、口に手を当ててガクガクと震えた。
「お前もやってんじゃねぇか」
ライリーさんが肘で小突くと、ジェイドさんは苦笑した。
うん、いい関係だ。仲直りできて本当によかったなぁ。
「ねぇ。あの二人、なんか仲よくなってない?」
二人の様子を見て不審に思ったらしいトニーさんが、こっそり聞いてきた。
「ああ。仲直りしたんだよ」
「……へぇ。いつの間に。つまんないなぁ。ずっといがみ合っていたほうが面白かったのに」
「なんで。自分がそうだったから、周りもそうであってほしいとか?」
「……そんな性格悪くもないし卑屈でもないから」
「そっか」
トニーさんがそっぽをむき、ため息をついた。
「隠し通路があります!」
そのとき、ある団員が声を上げた。
国王の謁見の間からだ。
駆けつけてみると、数人の団員。幹部のグレイアムさんの姿もある。
その視線の先には、ぽっかりと開いた黒い穴があった。
……また隠し通路か。これは、どこにつながっているんだ?
「これは?」
ジェイドさんが、ルーンベルク国王に聞いた。
「……っ教団本部につながっている。貴様らのことは、すでに奴らに筒抜けのはずだ! 往生しろ!」
「それはお前のほうだよ」
吠える国王を一蹴し、ライリーさんが通路の前に立つ。
そして、険しい顔。
「なにか……くるぞ」
その言葉に、一気に緊張感が高まる。
俺も、右手をあげてすぐ応戦できるようにかまえた。
――けど。
「っ!?」
足元に、黒い渦が現れた。
見ると、ライリーさんの足元にも同様のものがある。
声を出す余裕もなく、俺とライリーさんは、渦に飲みこまれた。
◇◇◇
気がつくと、そこは薄暗い場所だった。
……なに? どこだ、ここ?
起きあがって、体に異常がないかと動かしてみる。
……うん、問題なし。
「……っライリーさん! いるのか!? 大丈夫か!?」
「ああ」
すぐにそばで聞きなれた声がして、ほっとする。
俺たち二人だけ、ここに飛ばされたようだ。
だれの仕業だ? そして、なんのために?
「どこだ、ここ」
「……さぁな。わかるのは、嫌な気配がするってことくらいだ」
ライリーさんと二人で、周囲の様子を探る。
そうしているうちに、だんだんと目が慣れてきた。
まず目に入ったのは、背中に翼が生えた、天使をかたどった巨大な立像。
人々を迎えいれるように腕を広げている……が、片方の翼が折れてなくなっているため、不気味でしかない。
壁には、火のついていない短いろうそくがつけられた燭台が、等間隔に並んでいる。
はめこまれたステンドグラスは、くすんだ色をしていて、割れているものもある。
床には座席が並んでいるが、ホコリだらけで朽ちはてている。
ここは……礼拝堂、だった場所か? 今となってはほとんど廃墟だけど。
「っわ!?」
突然、大きな音がした。
なんだこれ!? 教会で鳴っていそうな……パイプオルガンの音だ!
その音が合図になったように、燭台のろうそくに火がついた。
おかげで、周りの景色がよく見えるようになった。
――だれか、いる。
パイプオルガンを演奏していた人物が、それをやめてしずかに立ちあがり、こちらをむいた。
「待ちわびたぞ」
地を這うような、低い声が響いた。
背筋がぞっとするような冷たさを感じる。
「だれだ!」
ライリーさんの声が、反響する。
演奏者が、数歩だけこちらにむかって歩き、再び立ちどまった。
真っ黒な、襟が立っているワンピースのような服を着ている。
格好は、聖職者と似ているように見える。
けれど、その雰囲気は真逆と言っていいほど、闇にそまっている。
こいつ……まさか、魔王とか言わないよな?
「あの女……すぐこちらに誘導するかと思いきや、ここまで時間を浪費させるとは。やはり期待などするものではなかったな」
「あの女?」
独り言のように呟いた彼に聞きかえす――が、答えは返ってこない。
「俺たちをここに転移させたのはお前だな」
「…………」
謎の人物の冷たい視線が、俺とライリーさんをとらえる。
……こいつ、俺らの言葉が聞こえてないわけじゃないよな? さっきから無視しやがって。
「どれ。試すとしようか」
魔王(仮)が、手にしていた杖の先を床にトン、と叩きつけた。
すると、床から闇があふれ出し、それが獣――犬の形になった。
黒い犬……?
いや。似ているけど、だいぶ違和感がある。
陽炎のように揺らめいていて、きちんとした形をなしていないのだ。
それが一斉に動き、襲いかかってきた。
「黒い霧!」
ライリーさんより前に出て、魔法を発動。
すべての黒い犬に当たり、引かせることに成功。
――だが。
「は……!?」
黒い犬たちは、一瞬動きが鈍っただけで、またすぐに襲いかかってきた。
囲まれて、俺とライリーさんは背中合わせの体勢になった。
「無駄だ」
「なんでだよ!?」
「魔力の流れを感じない。こいつらは……ただの魔物じゃねぇ」
ライリーさんに言われて、うろたえる。
ただの魔物、じゃない?
……じゃあ、なんだよ!?
「ど、どういうことだよっ?」
「生きてもないし、死んでもないってことだ」
「わけわかんないんですけど!?」
俺が動揺している一方で、ライリーさんは冷静に敵を分析している様子だった。
……冷静なのが、もう一人。魔王似の奴だ。
「それは私の概念そのもの。貴様の魔法では、対抗するのは難しいぞ」
奴がそう言った瞬間、黒い犬たちがむかってきた。
「虚偽の刃は、己を裂く。呪いは巡り、主を示す!」
早口で呪いがえしの真言を唱える――が、変化なし。
呪術じゃないのか。
「白炎・滅閃!」
ライリーさんが、腕を横に振るう。
白っぽい炎の斬撃のようなものが、黒い犬たちを切り裂く。
犬たちは、見事消滅した。
おお! 俺のはだめでも、ライリーさんの魔法ならいけるんだな! 原理はさっぱりわからんけど!
……と、思ったのも束の間。
床から、じわじわと闇が立ちのぼり、復活する黒い犬たち。
いやいやいや! 反則じゃないですかね!?
「キリがねぇな」
ライリーさんが、苛立たしげに舌打ちした。
……そうだ! これならどうだ!
一匹の黒い犬の前足が振りおろされる寸前、俺はメンダコに獣化した。
その攻撃を、難なくよける。
「おらぁ! 当てられるもんなら当ててみろ!」
挑発して、犬たちの注目を俺に集める。
襲いかかってくる黒い犬たちの攻撃を、次々にかわす。
やっぱり、大勢の敵に囲まれた中で回避率アップのスキルは重宝するよな!
「……ほう」
魔王もどきが、感心したような声を上げた。
そして――
「白炎・烈光!」
俺により誘導された犬たちにむかって、ライリーさんの魔法が炸裂。
今度は、薄いオレンジ色の炎の輪が犬たちを囲って圧縮。はじけ飛んだ。
……また復活してきたけどな!
くそ、どうすりゃ退治できるんだよ。
あれは、「私の概念そのもの」とか言ってたよな。つまり、核はあの魔王もどきにあるってことか?
奴に攻撃が当たれば、なんとかなるかもしれない。
よし! このままよけてよけてよけまくって、間合いを……つめ、て……?
「う……!」
「ポルテ!?」
もう一度、と意気込んで動こうとしたのに、急に体が重くてだるくなり、たまらず人型に戻った。
床に手をつき、荒い息をする。
「どうした!」
「な、なんかムリ……!」
「無理?」
駆けよってきたライリーさんが、困惑した顔をむけてくる。
俺にもよくわからないんですけど。
たしかに、俺は陸上では長時間獣化していられない。だけど、どう考えても短すぎる。
「なにも不思議ではない。
儀式の準備はすでに整っている……つまりここは、生命が力を得るのを拒絶する場となっているのだからな」
動揺する俺たちを、あざ笑うような声が響いた。
儀式? 生命が力を得るのを拒絶?
……それって、まさか。
「単調な攻撃はやはり退屈だな。どれ……貴様への贈り物だ」
「……っ!」
次に魔王もどきが杖を叩き、出現させたのは……黒い犬ではなく、獣人だった。
――獣人の、屍兵。
それがみるみるうちに獣化して、四足歩行の獣の姿になり、間合いをつめてきた。
「待て、ポルテ!」
ライリーさんの制止の言葉は、聞こえたけど頭に入ってこなかった。
物質化で黒い霧の剣を出す。
それを、屍兵の首元にある紋章めがけて振るった。
たちまち消滅していく、屍兵。
「……名乗れよ」
俯けていた顔をゆっくり上げ、魔王もどきと目を合わせる。
「名乗れ?……名など意味があるか? 墓標に刻まれるだけのものだろう」
「あるに決まってるだろ。自分が倒す奴の名くらい、知っておきたいんだよ」
魔王もどきをにらみつけ、剣を差しむけて、言った。
しかし、奴は理解できないとばかりに、目を細めて鼻で笑った。
……ああ、そうか。先にこっちが名乗るべきだったな。それで機嫌損ねたか?
「俺はポルテ。こっちは相棒のライリーさんだ。お前の敵代表だよ」
「なに言ってんだ、ばか野郎」
「ばか!?」
貶してきたライリーさんの意図を理解できずに、眉を寄せる。
けど、なぜか魔王もどきも、呆れた様子でため息をついていた。
「知っている……そうだな。私のことは、ジョン・ディーとでも呼べばいい」
「そうか、ジョン。覚悟し――いてっ!?」
ライリーさんに頭を叩かれた。
「奴のペースに乗るんじゃねぇ」
「別にそんなつもりは!」
「あの名は、昔うちの国にいた賢者の名だ。どう考えても奴の名じゃねぇ」
「はぁ!?」
ライリーさんに言われ、魔王もどきを見る。
相変わらず、こちらを見下すような表情をしている。
こいつ……弄びやがって! 余裕こいていられるのも今のうちだからな!
読んでいただきありがとうございました!
教会といえばパイプオルガン……安直ではないはず。魔王戦のBGMにはぴったりではないでしょうか。もちろんいい意味で、ですよ。パイプオルガンの音、好きです。
続きは、来週火曜日の20時頃の更新を予定しています。




