68話 全員集合したのでそろって敵地に乗りこんでみた
五日後。
トニーさんの体調、特に魔力循環が正常に戻り、魔法が問題なく使える状態にまで回復したらしい。
……それで、いきなり消耗が激しい魔法を使っても大丈夫なんだろうか?
聞いてみたら、
「まぁ、たしかにすごい疲れはするけど、問題ないよ。
むしろ最近やってなかったから、いい運動になると思うし」
……だそうだ。
そういうものなのか。
俺は、たまっていく一方でたまりすぎると害になる潜在魔力もちだからわかるけど。
そうじゃなくても、魔法使いは定期的に魔力を放出したほうがいい、とか?
「変なところに飛ばすんじゃねーぞ」
「心配なら自分だけ歩いていけば?」
トニーさんの返しに、ライリーさんが舌打ちをする。
王都の駅で、彼女の悪事を暴いたときのような険悪さはないので、すこしほっとする。
そうして、準備が整った。
団長は、団員に指示して、トニーさんの手首と足首に新たな錠をつけさせた。
なんの変哲もない錠。鎖でつながっていないので、ただの腕輪や足輪みたいに見える。
「監視機能をそなえた魔道具だ。監視役から離れるなど不審な行動をすれば、すぐに罰が与えられる」
「罰?」
「その場から動けなくなる――へたをすれば、長時間気を失うほどの罰だ」
……なんだろう。電気ショックか?
爆発する、とかじゃないよな? こわっ!
「肝に銘じておきますよ。しっかり送り迎えはしますから」
トニーさんが、俺を見てクスクス笑いながら言った。
おいコラ。俺は子どもじゃないんですけど。
「じゃ、始めるよ。魔法陣を描くから、転移希望者はその魔法陣の中に入って」
トニーさんが、魔法の墨で魔法陣を描きはじめた。
最初に大きな円を描き、そこに幾何学的な文様を描いていく。
……あ、風の流れのような紋章。風属性の証だな?
そうか。転移魔法は風属性なのか。
「詠唱するよ」
トニーさんが言ったので、俺たちは魔法陣の中に入った。
俺とライリーさんはもちろん、ローズさんにザックさん。
それから、複数の団員と、彼らを率いる部隊長であり、騎士団の幹部の人が一人。
名前はたしか、グレイアムさん。フライドチキンで有名なあの店の創業者に似ている。髪もヒゲも黒だけど。
よし、このメンバーで行くぞ!
……と、思ったら、詠唱が始まる寸前でだれかが駆けこんできた。
ジェイドさんだ。
「間に合ってよかった……っ」
「お前……レイヴンホルムはどうした?」
「部下に預けてきた。問題はない」
ジェイドさんは短くそう答え、次に団長とアイコンタクトをし、頷きあった。
「頼んだぞ」
団長が、引き締まった表情で全員を見て、言った。
俺たちは頷き、グレイアムさんと他団員たちは、「はっ!」と大きな声で応答した。
特にグレイアムさん……声、でかっ。耳鳴りしそうなんですけど。
「うるさいなぁ、本当に……」
トニーさんも俺と同意見だったらしい。
彼女は周囲を見回したあと、大きく息を吐いた。
「一歩はここに、一歩は彼方に。重なり合う刹那の狭間を渡り、我は場所を替える――座標転移」
魔法陣が光る。
光の柱が立ちのぼり、その中にいる俺たちが包まれる。
直後、かすかな浮遊感。
「……うお!?」
気づいたときには、見慣れない景色が目の前に広がっていた。
草木が枯れている痩せた土地。曇り空で、薄暗い。
……ここが、ルーンベルク王国のど真ん中?
ただの荒野にしか見えないんですけど?
俺以外の全員が、困惑して同じように辺りを見回している。
「おい――」
「ポルテ。右にむかって歩いてごらん」
ライリーさんが抗議するより早く、トニーさんが言った。
「右?」
「うん。そうすれば、あたしがめちゃくちゃな位置に飛ばしたわけじゃないってわかってもらえるはずだから」
……不敵な笑みを浮かべて言うトニーさんの意図はよくわからないけど、そういう話なら。
言われたとおり、右向け右をして、歩いてみる。
「ぎゃっ!?」
五歩目の足を地につけた瞬間、なにかの機械が動くような、激しい音が突然聞こえてきた。
俺の目の前の地面が盛りあがり、穴が開く。
その穴の先には――階段があった。
なんだこれ!? 隠し通路か!?
「王宮につながってる隠し通路だよ。驚いたでしょ?」
「な、なんでこんなものがこんなところに!?」
「こんなところ、だからこそだよ。
だれもこんな荒野のど真ん中に、隠し通路があるなんて思わないでしょ」
「……本当に王宮につながっているのか? でまかせではあるまいな?」
グレイアムさんが、疑うような険しい表情でトニーさんを見た。
「信じがたいかもしれませんけどね。あたしは実際、これを使って王宮に忍びこんだことがあるんですよ」
「忍びこんだ……っていうのは、うちに宣戦布告のタイミングを伝えるためか?」
「ううん。それよりも前の段階の話。
戦争を起こしてアルケミリアを潰してくれって頼みにいくためだよ。
国王その他には起こって追いだされたけど、教団側には歓迎されたんだ」
「…………」
全員が、トニーさんの話を信じてもいいのか、といった様子で困惑。
各々、そばにいる人と顔を見合わせている。
「わかった! じゃあ、俺とトニーさんが先頭で行く!」
トニーさんの腕を引いて、階段を一歩下り――
「ばかか!」
た、ところで、ライリーさんに引き戻された。
「なんで」
「敵地だぞ! もっと慎重に行動しろ!」
「慎重になりすぎてもだめだと思うけど? 先に進まなきゃどうしようもないだろ。
この先に王宮があるんなら、いい感じにライリーさんの作戦どおり進められるじゃん。
な、トニーさん」
「……あたしに同意求められてもね。まぁでも、安心して。通路に罠の類はないから」
トニーさんは苦笑して、ライリーさんを見上げた。
「どうする? ここでこのまま二の足を踏んだままでいる? それとも、進む?」
「……だったら、俺が――」
「俺が先頭に立とう」
ライリーさんの言葉を遮って、ジェイドさんが前に出た。
「考えたくないが、万が一にもなにかあっては取り返しがつかん。
特に……ポルテにライリー。お前たちは我らの戦力の要だからな」
「自分はなにがあっても平気だとでも言うのか」
「そうではない。だが、もしもなにかがあっても……お前たちなら必ずなんとかしてくれるだろう?」
ジェイドさんが、余裕の笑みを浮かべて言った。
仲間を信じる、強者の笑みか。
かっこよすぎだろ!
「おまかせください! ジェイドさんの背中は、俺とライリーさんが死守します!」
「……落とし穴にははまるなよ。お前を引っ張りあげるなんて、しんどすぎるからな」
俺たちの言葉を聞いたジェイドさんは、笑顔をそのままに、「頼んだぞ」と言った。
そして、グレイアムさんとアイコンタクトをしたのち、トニーさんを連れて中へと進んでいった。
その後ろに俺、それからライリーさんが続く。
ローズさんとザックさんは、団員に挟まれる位置に入っているようだ。
「火をもらえるか」
振りかえったジェイドさんに言われたライリーさんが、指を軽くはじいて火を出し、たいまつを作った。
真っ暗な通路が照らされ、安心して先に進めるようになった。
……先頭のジェイドさんが歩くたび、カンカンと音が鳴っている。
どうやら、地下を掘っただけの通路ではないらしい。
「この隠し通路って、なんのためのものなんだ?」
「さぁ。元々は緊急事態下の、王族のための避難通路とかだったんじゃない?
他にも用途はいろいろあるだろうけど」
「位置的にはどのあたりなんだ?」
「ちょうどレイヴンホルムとエルドミアの境界線を、まっすぐいった先ってところかな」
「……うちの内情を探るためにも使われてそうだな」
「だろうね。ちなみに、王宮にさえ入れればその中から教団の本部に行けるようになってるからね」
トニーさんのセリフを聞いて、息をのんだ。
まずは、首尾よく国王ならびにそれに近しい家臣たちや王族を捕らえて、王宮を制圧。
次に、灰翼教団。
最後は、それお抱えの騎士団だ。そこまで滞りなく進めばいいけど。
「扉だ」
先頭を歩いていたジェイドさんが立ちどまり、たいまつをすこし上げた。
たしかに、彼の目の前には重厚な黒い扉が見える。
「頃合いだね」
列の中心あたりにいたローズさんが、人をかきわけて前に出てきた。
その腕には、奇抜なものが抱えられていた。
「出番だよ、バラム」
「はぁ……本当にこんな大勢にやんなきゃいけないの……? 疲れるなぁ……」
巨大なカエルだった。しかも、めっちゃやる気なさげ。
ヒキガエル、いや、ウシガエルをさらにもう一回り大きくしたような見た目だ。体はベージュ色。
でかさはともかく……なんか、かわいいな?
「バラムっていうのか。俺はポルテ」
「知ってるよ。フォカロがうるさく言ってたし。
……あんま近づかないでよね。おいら、やかましい奴は苦手なんだよ……」
「うるさくしなきゃ、近づいてもいいんだな?」
「……やっぱめんどくさい人だ……もうやだ、帰りたい……」
バラムと呼ばれた巨大カエルの使い魔は、哀愁漂う様子で天井を見上げた。
本気で嫌われるのは困るので、話しかけるのはこのへんにしておこう。
「ローズさん、バラムはどんな能力を?」
「聞いて驚きな。私ら全員を透明人間にできるんだよ」
「透明人間!?」
「ああ。潜入にはぴったりだろう?」
ぴったり、どころじゃない。欠かせない能力じゃないか!
なでようとバラムに手をのばしたが、フイッと顔をそむけられてしまった。
照れ屋だな。
「バラム、いい子ね」
「はぁい……ご主人様のおっしゃるとおりに……」
相変わらずやる気がないバラムが、口を大きく開いた。
そして、その口を閉じたり開いたりを繰り返す。
……ん? 音波かなにかを出している、ように見えるな。
「えっ!?」
目線を上げた瞬間、俺は驚愕した。
前にいたライリーさんが消えて、代わりに白く激しく光る人影があった。
お……お、オバケ!?
「お前……変だな」
「オバケが喋った!」
「だれがオバケだ」
オバケが――ライリーさんの声をしたオバケが、俺の後頭部を叩いた!
いや、これは……本物のライリーさん?
「透明人間になった者同士は、体内を循環している魔力が輪郭になって見えるんだよ。
だれがだれかは……まぁ、わかるだろう?」
ぼんやりと赤く光る人影――ローズさんが言った。
へええ。面白いな。人によって色が違うんだな。
にしても……ライリーさん、眩しいな!
魔力オバケだからか。あ、やっぱりオバケじゃん。
「俺よりお前のほうがオバケだろ。黒いもやにしか見えねぇぞ」
「え? そう?」
俺は黒らしい。魔法が「黒い霧」だからかな。
まぁ、それはどうでもいい。
ここからが、正念場だ。
先頭のジェイドさんらしきグレーの人影が頷き、王宮につながる扉に手をかけた。
読んでくださった方々に感謝いたします。
次回、いよいよラスボス戦です!
あさって土曜日20時頃の更新予定です。どうぞお楽しみに。




