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追放されたタコの獣人、海の賢者として覚醒する 〜異国で勇者と公爵令嬢に見出され、大賢者へ〜  作者: 手羽本 紗々実(てばもと ささみ)
七章 灰翼教団の四騎士・死の騎士編

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66話 突破口が見えたのでまっすぐ手をのばしてみた

「……友達を殺したことだよ」



 心の中で、ほほえむフレッドさんの顔を思いうかべながら、言った。


 声を絞りだしたつもりだったけれど、かなり小さな声になってしまった。



「友達?」


「ああ。屍兵(アンデッド・トループ)にされたあの人に、俺が……とどめをさしたんだ」


「……あ、そう。そうなったのはお前のせいだって言いたいの?」


「違う。謝りたいんだよ。フレッドさんは、カトリーナにとっても大切な恩人だから。

 守れなくてごめんって、謝りたくて」



 フレッドさんと支えあってなんとか生きてきた、と言っていたカトリーナを思いだす。


 今、あいつはどこでどんな気持ちでいるんだろうか。


 生きてる……よな?


 顔を俯けて考えていたら、舌打ちのような音が聞こえた。



「なんでだよ……父さんと同じじゃんか」


「えっ?」


「父さんが面会にきたんだよ。お前と似たようなこと言ってた。謝りたいって。

 お前を救ったつもりだったが、心までは救えてなかったことに気づけなかった。それを謝りたいって。

 どいつもこいつも……なんで? ねぇ。あたしに同情してるの?」


「不服なのか」



 トニーさんが早口でまくしたてた直後、背後から声がして、反射的に振りかえった。


 いつの間にか、ライリーさんが俺のすぐ後ろに立っていた。



「自業自得だ。お前に不満を言う資格はねぇよ」


「……君、ホント性格悪くなったね」


「元からだ。俺はこいつと違って同情なんてしねぇ。

 人の命が軽視される戦争なんてもんを引き起こしたお前を、だれが同情するか」



 ライリーさんが、吐き捨てるように言った。


 ……うん? ちょい待ち?



「戦争を引き起こしたって……だれが?」


「こいつに決まってんだろうが。捕まえた直後に三国同時に宣戦布告されたんだぞ。関係ないわけがねぇ」



 愕然としながらも、考える。


 たしかにそうだ。


 でも、捕縛されて身動きできない、魔法も当然使えない状態で、どうやって他国に宣戦布告するように伝えたっていうんだ?



「……あのときの……魔法?」


 ――だれも答えなかった。


 つまりそれは、肯定だった。


 トニーさんが、ライリーさんの炎にまかれる前にやろうとした魔法。


 あれは、逃亡するための隙を作るために仕組んだブラフかと思っていたけれど、そうじゃなかったのか。



「わからねぇのか。お前は、ジルドレの奴らを虐殺した連中より、もっと悪質なことをしたんだよ」


「……素敵な感想をどうも。あたしを非難したところでなんにもならないってわかってて言ってる?

 ご苦労様」



 トニーさんが、一瞬唇を震わせたのが見えてしまった。


 いろいろ思いだしてしまい、俺はぐっと歯を噛みしめる。



「顔が見られないのが残念だよ。ポルテ、今どんな顔してるの? 黙りこんじゃってどうした? まさか怖気づいた?」


「……代価」


「は?」


「ミンチ肉製造器の代価。いつ払えばいいんだよ? 払えねぇじゃん、もう」


「……お前な。今はそんな――」



 俯けていた顔をバッと上げて、トニーさんを見た。


 それを見たライリーさんが、途中で言葉を止める。



「やだからな、俺。代価払わないで平然と使えるほど、肝太くねぇから。

 ……生きててくれよ。そしたらいくらでもチャンスあるから」



 ……言いながら、目頭が熱くなってきたのですぐに目を閉じた。


 黙ったままのトニーさんやライリーさんが、どう思ったかはわからない。知りたくもない。



「そのとおりだ」



 直後、再び背後からだれかのよく通る声がして、振りかえる。


 夢か、もしくは幻覚かと思った。


 そこにいたのは――女王陛下だった。


 会議のときとは違う、幾分かは動きやすそうなドレスをまとったその人が、そこにいた。


 彼女の後ろには、団長もいる。


 即座に、その場にいた、トニーさんと俺以外の全員がひざまずく。


 呆然としていると、ライリーさんに腕を強く引っ張られたので、俺も慌てて同じようにひざまずいた。



「生きていれば、どうとでもなる……また会ったな。ポルテ」


「は……! 俺、じゃない! 私も、心より嬉しく思います!」



 頭上で、ふっと笑うように息をもらした音が聞こえた。


 女王様に名前、呼ばれちゃったよ……!


 って、そうじゃない!


 なんでこのお方がこんなところに!? 王宮にいなくてもいいのか!?


 まさか、お忍びで、なんて言わないよな!?



「国の要衝、レイヴンホルムとエルドミアが甚大な被害を受けたのだ。

 すでに王都は完全に安全だとは言いきれない……すなわち、緊急事態だ。

 どこにいようと、たいして変わらぬ」



 女王様が言った。


 ああ。なるほど。納得。


 ……また心読まれたか?


 いや、たぶん「みんなが疑問に思っているだろう」と推測して言っただけだな。


 そうに違いない、と思いたい。


 こっそり、すこしだけ顔を上げてみる。


 女王様が、トニーさんのほうをむいたのが見えた。



「クラーク伯から話は聞いた。

 トニー・ファーロウ。そなたの力があれば、現況を打開するきっかけをつかめるかもしれない、と」


「反逆者の私に命令なさるおつもりですか?

 すでに処刑されると決まっているのに、陛下の命令をきく義務がどこにあると?」


「貴様! 陛下にむかって――」



 団長が吠えたが、女王様が手を軽く前に出しただけで、それを制した。



「そなたに私から命じることはなにもない」


「えっ」



 意外なセリフに、思わず声を出してしまった。


 たちまち、横にいるライリーさんに足を叩かれる。



「そなたが起こしたこと……その結果奪われたものはもはや戻らぬ。

 こうなった以上、終わらせる以外に道はない。

 そうだろう。ポルテ。ライリー」



 名指しされ、俺とライリーさんの肩が同時にビクッとはねた。


 ――陛下が、俺たちに答えを求めている。



「……陛下の、おっしゃるとおりだよ。トニーさん」



 ひざまずいた状態のまま、しっかり顔を上げてトニーさんを見つめた。


 意図したわけじゃないけれど、口を開きかけたライリーさんを遮るようなかたちになってしまった。


 ごめん。でも、先に言わせてほしかったんだよ。



「君は……あたしを信じられるの?

 一度裏切って、お友達を死なせるきっかけを作っちゃったあたしを? どうして?」


「あんたがしたことは許せない。けど、全部トニーさんのせいだとは思わない。

 これは……同情とか、そういうもんじゃない」



 そう言ったあと、俺はすこしだけ顔を横にむけた。


 ライリーさんは、一度目を閉じてから開け、決意を固めたような真剣な表情をして、前をむいた。



「ポルテの言うとおりだ。悪かった」


「悪かった? なに、それ……なんの謝罪?」



 トニーさんの声は、若干震えていた。



「お前が、自由に選べるようにするんじゃなく、選ばざるをえない状況を作っちまってた。

 だから……いい。

 ここでなにもしないで牢に戻って、ただ罪を償う道を選んだところでだれも責めない。俺が責めさせない」


「いやいや。罪を償うったってねぇ。あたしはもう処刑が決まって――」


「そなたの身は、今は我が国の預かりとなっている。裁きはしっかり受けてもらう。

 ……が、私は命で償わせようとは思っておらぬ」



 ――瞬間、だれも声には出さなかったが、動揺が広がっている空気を感じた。


 トニーさんが、俺を見ているような気がした。



「……爵位もなにもかもを差しだす。国から永久追放になってもかまわない。

 そう訴えてきたそなたの父の覚悟を、無駄にしないためにもな」



 女王様の比較的穏やかな口調の言葉を聞いたせいか、トニーさんは唇を噛みしめた。


 ……トニーさんの親父さん、娘の命だけは助けてもらえるようにって奔走していたんだな。


 その想いは、多少なりとも彼女に届いているはずだ。



「……そうだよ。あたしはさ……ずっと、『選ばされて』生きてきたんだよ。

 ジルドレから逃れて、王都に住むって決めたのも。

 父さんの跡を継ぐって決めたのも。

 国に復讐するって決めたのさえも。

 生きるために、自分を守るために、仕方なく選ばされてきたんだ」



 トニーさんは、そこまで言って顔を俯け、そしてしばらくしてまた上げた。



「陛下。今のお言葉は、あなたの思いつきで勝手に言ってるだけのものじゃありませんよね?

 やっぱり処刑だ、なんてことにはなりませんよね?」


「無論だ。この場で誓おう。仮に反対する者がいたとしても、決して許さぬ」



 凛とした態度の女王様のお言葉を聞き、トニーさんがわずかに頷く。



「……転移魔法ってさ、疲れるんだよね。なにをどれくらい飛ばすかにもよるけど。

 だから……処刑されない保証があるんなら、しないほうを選ぶのがどう考えても楽だよね」



 トニーさんが、薄く笑いながら言った。


 目隠しの下で、その口元だけがわずかに歪んだ。


 まぁ、そうなるよな。


 飛ばすのは二、三人なんてレベルじゃない。


 俺とライリーさんと、ローズさん……はわからないけど。あとは騎士団の団員が……何人だ?


 とにかく、大勢になるのはまちがいない。


 正面突破でもなく、転移でもない他の方法を考えたほうがいいよな。


 ……なにがあるんだろう?



「やるよ」


「……えっ?」



 決意をこめたような、力強いトニーさんの声が聞こえて、場が再びざわめいた。



「国はどうなってもかまわない。けど……どうなったとしても生きててほしい人は、すくなからずいるから」



 トニーさんは、今度は自嘲気味に笑った。


 ……表情豊かな人だなぁ。



「ルーンベルクのど真ん中に飛ばしてあげる。あとは知らないからね」



 俺はトニーさんのそばに近寄り、後ろ手で縛られたままの手に触れた。



「まかせろ! 絶対、無駄にしないからな!」


「……はぁ」



 なぜかため息をついていたが、気にならなかった。


 ルーンベルクを倒す見込みができたわけじゃないけれど、突破口は開けたんじゃないだろうか。


 ほっとしていると、四つん這いのような恰好で近づいてきたライリーさんに頭をつかまれ、軽く押さえつけられた。



「よく決断してくれたな」



 女王様が言った。


 ……あ、そうだった。このお方がいらっしゃってたんだった。



「この戦争を終わらせるため――行ってまいれ」


「はっ!」



 俺も含めた全員が、そろって返事をした。


 そのあとで、ちらっとトニーさんを見てみると、不服そうにそっぽをむいていた。


 それが、ふてくされた子どものように見えて、笑いそうになったのは秘密だ。

読んでいただきありがとうございました。

いよいよ事態が大きく動きだします。最終決戦まで、どうぞお見逃しなく。

次回は、来週火曜日20時頃の更新を予定しています。

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