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追放されたタコの獣人、海の賢者として覚醒する 〜異国で勇者と公爵令嬢に見出され、大賢者へ〜  作者: 手羽本 紗々実(てばもと ささみ)
七章 灰翼教団の四騎士・死の騎士編

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65話 一刻の猶予もなさそうなので大胆な提案をしてみた

「こんなカッコで会うはめになるなんて……屈辱以外のなにものでもないよ」



 悪態をつくその人。


 冷静に――そうなれているかは微妙なところだけど――よく考えてみても、その声は明らかにトニーさんのものだった。


 国を滅ぼそうと計画して、捕まっていた人が、なぜここに?


 ――そんなことは、どうでもよかった。


 すぐに駆けより、目隠しを下げた。


 ……やっぱり、本物だった。



「なに、その顔。面白いんだけど。会いたくてたまらなかった、とか?」


「そうだよ! 会いたかったよ、ずっと!」


「……いやいや。そこはそんなわけないだろって否定するとこなんだけど。

 ねぇ、ライリー。君はそうだよね?」


 トニーさんが、鼻で笑いながらライリーさんを見る。



「会いたかったに決まってんだろ。お前には、言いたいことが山ほどあるんだよ」


「……あ、そう……やかましそうだから聞かないよ」



 トニーさんが、気まずそうにそっぽをむく。


 まさか、また会えるとは思っていなかった。


 女王陛下のあのお言葉を疑うわけじゃないけれど、やはり処刑が妥当と判断される可能性は高かったはず。


 ……生きてまた会えるなんて。嬉しい。


 そう伝えたところで、うっとおしそうに拒否するだけだろうから、言わないけど。



「団長。どうしてトニーさんを?」


「ユリシーズ殿の話で思いだしたのだ。

 過去に、魔導列車のレールを敷設した際に、ある場所で問題が起こったと聞いたのをな」


「ある場所?」



 団長が頷いた。


 そして、落ちついて話をするために、それぞれが会議室のテーブルについた。


 トニーさんは、目隠しを外された状態で、専用のお誕生日席についた団長の右隣に座らされた。


 背後には、監視役らしい団員の姿がある。



「魔導列車は基本的には、禁足地をのぞいた国内すべての領地に駅があるが、例外もある」


「例外?」


「それが、さっき言ってた問題があった場所か?」


「そうだ」



 団長が、トニーさんを見る。


 トニーさんは、だるそうにため息をついてから、口を開いた。



「スターリングリーフ。国が管理している領地だよ。今はほとんど荒地で、だれも住んでいない」


「……なら、別にレールを敷設する必要はないんじゃ?」


「国が管理してるんなら必要だろ。問題ってのはなんだ? なんでそこだけ敷設しなかった?」



 俺の疑問を、腕を組んだ姿勢で聞いていたライリーさんが即座に否定して、トニーさんに聞いた。



「しなかったんじゃなくて、できなかったんだよ。っていうか、一度はしたけど廃止になったんだ」



 トニーさんが、納得していない様子で肩をすくめた。



「廃止?」


「そう。列車がその駅につくと、なぜかいつも動力炉で不具合が起こってたんだ。

 あたしも一度だけ同行して見たけど、異常だったよ。

 炉の中にあった魔石だけじゃなくて、くべる前の魔石までもが、次々と輝きを失っていったんだ」


「妙だねぇ。どうしてそんなことが?」



 ローズさんが、首を傾げながら聞いた。



「調べた結果、その土地の魔力が汚染されていることが判明してね。その影響を受けたみたい」


「……魔石が、汚染?」


「そう。知らないだろうから教えてあげる。

 汚染魔石は、魔物の魔力に触れた場合だけじゃなくて、魔力が汚染された土地に置いただけでもできるんだよ」



 トニーさんが、したり顔で言った。


 ……この人は、そうやって汚染魔石を作って、王都内に紛れこませていたのか?



「スターリングリーフは……なにかの実験に使われた土地、ってことか?」


「実験って……なんのだよ?」


「土地に影響を及ぼす禁断の魔術。もう知ってるんでしょ?」



 トニーさんの言葉を聞き、ぞくりと背筋に寒気が一瞬走った。


 まさか、魔導(アトラ・テラ)焦土(・ステリリス)


 ……いや、待てよ。それは土地の魔力を枯渇させるっていう魔法で、汚染させる効果はないはずだろ。


 同じ疑問をもったらしい全員が、ユリシーズさんを見る。



「憶測でしかありませんが……それがライリー様のおっしゃるとおり『実験』で、

 本来の効果が出なかった――すなわち失敗だったとすれば、

 結果的に土地の魔力が汚染されたというのは、ありえる話かと」



 マジだった。


 はた迷惑な話だな! やるなら自分ちの土地でやれよ!


 やっぱり、早くどうにかしないと。


 こちらから動きださないと、絶対に手遅れになる。



「さぁ、あたしが知ってることは全部話したよ。さっさと帰らせてくれる?」


「そうだな。ご苦労であった」


「待て」



 団長が立ちあがり、団員とアイコンタクトをしたところで、ライリーさんが制止した。


 彼は、ゆっくりと立ちあがってから、なめまわすようにトニーさんを見た。



「せっかくここまで来たんだ。もうひと仕事してけ」


「いやいや……囚人のあたしに、これ以上なにをしろって言うの?」


「とっておきの魔法があるだろ。転移魔法っていう」


「……転移魔法?」



 声に出して聞きかえすと、ライリーさんは俺を振りかえり、一瞬だけニヤリと笑った。



「あのねぇ。これ、なにかわからない?」



 トニーさんが両腕をすこしだけ上げて、手首についている錠を見せてきた。



「魔力の流れを制御する錠だよ。こんなのつけられた状態で魔法なんか――」


「んなもん、外せばいい」



 トニーさんの言葉を遮ったライリーさんのセリフに、周囲――特に騎士団の団員たちがざわついた。



「はは……そうだね。外してもらえたらありがたいけど。

 それでもしあたしが逃亡したらどうするの?

 転移魔法、君たちにかけるふりして自分にだけかけることだってできちゃうよ?

 そしたら、ライリー。君や団長殿の責任になるよ?」


「ならねぇよ。お前は絶対、逃げたりしない」



 ライリーさんが、再び俺を見る。


 その顔は、自信に満ちあふれていた。


 ……なんか、この人らしいな。


 そう思いながら、俺は頷いた。



「ああ。トニーさんは絶対逃げない」


「……師弟そろってばかなの? どこにそんな根拠があるのさ?」


「トニーさんだからだよ。あんたはいつだって逃げなかっただろ。

 俺の得体の知れない魔法をくらったときも。

 アンデッドの集団に襲われたときも。

 ……あと、駅で逮捕されたときもさ。

 逃げるチャンスっていうか、安全な場所に隠れるチャンスはいくらでもあっただろ?

 あんたは、いつだって逃げずに立ちむかってた。国にまで歯向かったのはどうかと思うけどな」


「…………」



 そこまで言って、一旦切る。


 ……他言無用って言われてたけど、まぁいいか。



「国家転覆を企てた者が無罪になることはない。だが、私は罪だけで人を測るつもりはない……だそうだから。

 あんたは、自分にできることを精一杯やればいいと思う」



 ニヤリと笑って言うと、トニーさんが困惑げに眉を寄せた。



「待ってよ。それ、だれの言葉?」


「言えねぇ。他言無用だって『命令』されたから」


「命令?」



 動揺している様子のトニーさんを見て、溜飲が下がった。


 ……性格悪いな、俺。


 でも、これくらいは許してもらえるはず。



「ポルテの言葉の意味はさておき、ライリー。具体的な考えを話せ」



 団長が、椅子に座りなおしながら言った。



「トニーの転移魔法で、ルーンベルクの本拠地に乗りこむんだよ。

 正面突破するのはどう考えてもリスクがでかすぎるし、時間もかかる。

 けど、ど真ん中にいきなり敵である俺たちが現れたら、あっちはすくなからず混乱するはずだ」


「君らしくない雑な作戦だね。いや、むしろ君らしいって言ったほうがいいのか……

 自らクモの巣に飛びこんでいく虫がどこにいる?」


「貴様! 我らを虫扱いするなど――」



 団員の一人が怒りの声を上げたが、団長に目線で制されて、口をつぐんだ。



「虫で上等だ。クモを倒すには、まずは巣を破壊する。

 そのあとで、地に堕ちた奴を叩きつぶせばいい」



 ライリーさんが、トニーさんを小馬鹿にしたようにすこし顔を上にむけ、物理的に上から目線で言った。


 素晴らしきドヤ顔だ。


 クモで喩えるのはちょっとアレだけど、筋は通っている気がする。


 ローズさんも俺と同じように思っているのか、声を出さないように笑っていた。



「奇襲を仕かけるんだよ。まずは王宮、次に教団の順に制圧する。

 灰翼教団の騎士団を叩くには、土台を潰してからのほうがいい」


「……それは一理あるな。当然、危険度はかなり高いが」


「ああ。けど、このまま正攻法で進めてても同じだし、限界がある。

 考える時間はあまりないが……検討してもらいたい」



 ライリーさんが、団長に真剣な眼差しをむけて言った。


 団長はその視線を受け、しばらく考えこんだのち、頷いた。



「わかった。今夜中に決断しよう」



 団長はそう答え、団員たちに目配せをした。


 トニーさんは団員たちに連れられて、別の場所に移動させられていった。


 団長が決断を下すまでは、本陣内に身柄を留めおくようだ。



「トニーさんって、転移魔法使えたんだな」


「ああ。他に使える奴は山ほどいるだろうが……精度でいえば、国内じゃあいつの右に出る奴はいねぇ」


「私もそう思うよ。何度か助けてもらったことがあるからねぇ」



 俺は感心して、トニーさんがつれていかれた方向を見た。


 ライリーさんとローズさんにそこまで言わしめるとは。


 やっぱり、すごい人だったんだなぁ。もっと早く知りたかったよ。




 ◇◇◇




 すこし時間をおいてから、俺はライリーさんたちの目を盗んで、拘束されているトニーさんに会いにいった。


 椅子に座らされ、手は後ろに回されて縛られ、足首にも錠がつけられている。


 加えて、目隠しと猿ぐつわまでつけられている。


 ……この状態で一晩か。つらいな。



「どうかされましたか」



 監視役の団員二人にあいさつの敬礼をされ、そのうち一人が尋ねてきた。



「お疲れ様です。ちょっと話がしたくて……だめですか?」


「問題ありません。

 ポルテ殿やライリー殿がそうおっしゃった場合は好きにさせるようにと、団長から命じられておりますので」


 そう言って、団員はトニーさんに近づき、猿ぐつわだけを外して元の位置に戻った。


 ……団長、俺の行動を予測してたのか? さすが、なんて言うのは逆に失礼か。


 ありがたく、トニーさんに近づく。



「……暇なの?」



 目の前まできたところで、彼女が口を開いた。



「まぁな。カトリーナは元気か?」


「さぁね……捕まってすぐの頃はそばの牢にいたから話もできたけど、すぐに別の場所に移送されちゃったから」


「……そっか。伝言頼みたかったんだけどな」


「できたとしてもご免こうむりたいけど……なに? 恨み節とか?」



 トニーさんは、口角を上げて小馬鹿にするような口調で言った。


 終始そんな態度だったけど、俺はちっとも腹が立たなかった。

読んでいただきありがとうございました!

次回はあさって土曜日の20時頃更新予定です。


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