64話 異質さが判明して驚かれたのでこちらも驚いてみた
謎を抱えたまま本陣に帰還し、団長へと報告をした。
「魔獣兵団か……やはり奴らは、他の禁術も使える状態にすでになっているようだな」
「まちがいない。これ以上、後手に回っていたら取り返しのつかないことになるぞ」
ライリーさんの言葉を聞き、団長は「ふむ……」と言って口元に手を当てて考えこんだ。
そのとおりだ。されたあとで対処するんじゃなく、先回りしてさせないようにしないと。
加えて、あの魔狼の最後の言葉。
「舞台が整ったって、どういう意味なんだろうな」
「舞台?」
「ああ。あの魔狼が言ってただろ?」
首を傾げながら聞くと、ライリーさんは意味がわからないとばかりに腕を組み、眉を寄せた。
……え? マジで聞こえてなかったのか?
「お前やっぱり……使い魔だけじゃなくて魔物の言葉もわかるんじゃねぇのか?」
「いや、そんなはずは……」
首を振って否定する。
おかしいな。シャルマンで冒険者やってた頃に魔物と遭遇したときは、言葉なんてさっぱりわからなかったんだけどな。
「あ! そうか。アレだよ。あいつら改造されてたから。人の手が加わってるからわかったのかも。
その点、使い魔と似てるじゃん。そうですよね、ユリシーズさん」
隅のほうに居心地が悪そうに立っているユリシーズさんに、話をふる。
「……申し訳ありませんが、私からはなんとも言えません」
「なんでっ!?」
「そもそも、使い魔だろうと魔物だろうと、その言葉を理解できる時点で……奇妙だと言わざるをえません」
非常に困惑した様子だ。
……うん。冷静に考えたら、たしかにそうだ。
俺は獣人だけど、それは別に魔物の言葉を理解できる理由にはならない。
なんか……俺の妄想みたいな空気になってないか? いや、違うから!
「それは声域移動かもしれないね」
ローズさんが言ったので、彼女に視線が集まる。
「声域移動?」
「媒介を通じて声を遠くに飛ばす魔法さ。一度やってみせただろう? 魔導列車の事故のときだよ」
「列車の事故……あ! アスタロトを通じて喋ってたやつですか?」
「そう。あのときのは、声だけじゃなくて視覚も加えていたけどね」
さらっと言ったローズさんに、舌を巻く。
あれは、魔法の一種だったのか。てっきりアスタロトの能力かと思ってたぞ。
いいな、便利そうで。
……ん? 待てよ?
「自分の声を遠くに飛ばせるっていうんなら、ライリーさんにも普通に聞こえるはずですよね?」
「声域移動には、一対一の原則があるんだよ。
声を発する者と、声を受けとる者。それらが媒介を通じて一本の線でつながったときに、発動できるんだ」
「じゃあ……その受けとり先が、たまたま俺になったと?」
「そうだと思うけどねぇ……いや、もしかしたら指定してきたとも考えられるよ。
なにしろ相手は、禁術を扱えるほどの高い技術を有しているようだから」
ローズさんが、興味深そうに俺をしげしげと眺めた。
俺を、指定?
……なんで? だれが?
「つまり、魔獣兵団の術者が、かろうじて生きてた魔狼の口を通じて声を飛ばしてきたってことか……なんつってたんだ?」
「え? えっと……舞台は整った、早く来いって」
答えると、ライリーさんの眼光が鋭くなった。
団長も同じく。
まぁ、でも早く来いなんて言われたところで、わかったすぐ行く、とはならないけどな。
なんのつもりだろう?
「失礼いたします」
全員が考えこんでいる中、団員がしずかにやってきた。
団長のそばに駆けより、耳元でこそこそとなにかを話している。
その話を聞いた団長が、頷いて立ちあがった。
「すこし席を外す。王宮にて直接うかがいたいことがあるのでな」
「それって、今回の件ですか?」
「ああ。禁術に関する資料の紛失の件と……今は言えぬが、もう一つある」
もう一つ? なんだろう。
……いや、今はそれよりも!
「待ってください! それ、報告なんてしたらユリシーズさんがどうなるか!」
会議室を出ていこうとした団長の前に立ちふさがって、阻止する。
高身分の人になんて無礼な、なんて、気にしている場合じゃない。
すると、団長は険しい顔で頷いた。
「当然、ただでは済まないだろう。だが、すでに実害が出ている以上隠しておくわけにはいかぬ」
「でも――」
反論しようとした俺の腕をだれかがつかみ、言葉が切れた。
――ユリシーズさんだった。
「かまいません。事実なのですから。資料を紛失した件も、それを隠ぺいしてきた件も。
加担した以上、なにかしらの罰は受けるべきです」
「罰って……!」
「ローズマリー殿から連絡を受け、こちらに呼ばれたときから覚悟はしておりました」
ユリシーズさんは、俺から団長のほうにむきなおり、しゃきっと背筋をのばした。
「すべてを委ねます。どうぞ、よろしくお願いいたします……」
そのまま、深々と頭を下げた。
団長が頷く。
「そなたの頭脳は、まだ必要だ。すくなくとも、この戦いが終わるまでは私の預かりとさせていただけるようお頼みするつもりだ。
それでよいな?」
そう言って、俺を見た。
……いいもなにも、そう言われたら反対なんてできっこない。
「了解しました。ご無礼をお許しください」
返事をしつつ、ユリシーズさんと同じように頭を下げた。
すこしして、だれかはわからないが、ふっと笑ったような声が聞こえた。
「許すもなにもない。そなたの力は絶対に必要なのだからな……よき相棒をもったな」
声の主は、団長だった。
最後の言葉は、俺ではなくライリーさんにむけて言ったらしい。
そうして、団長は会議室をあとにし、報告のため王宮にむけて出かけていった。
……なんだか、あの人と俺の、器の大きさと経験値はどれだけ差があるか、思いしらされたような気分だった。
◇◇◇
その後、団長が戻るまでは、ユリシーズさんを中心にして禁術の対策を練ってみた。
「見れば見るほど不思議ですな……この魔法陣は……」
マンガのアホな科学者キャラがしていそうな、ぐるぐるメガネをかけたユリシーズさんがそれを持ちあげ、俺が描いた魔法陣を見つめた。
そんなメガネ、現存してたんですね?
――なにをしているかと言うと。
やはりまずは、俺の魔法が効くか否かを確認したかった。
それで、彼から「どんな魔法なのか」と聞かれ、答えた結果がこれだ。
「過去の文献にも……似たものは存在しません。そんなわけはないとは思いますが……水、火、風、地のどの属性でもない気がしますな」
「あ、はい。俺の魔法は無属性だそうです」
「……無属性?」
「ザックさん――ターナー卿に調べてもらったんで、まちがいないかと」
「なんと……! 無属性!? 信じられない!」
ユリシーズさんが、持っていた分厚い本を半ば放りなげ、両手をテーブルに叩きつけて立ちあがった。
ぽろりとメガネが落ちたが、気にする様子はなかった。
「……そんなにおかしいですかね?」
「おかしいさ。私も無属性の魔法なんて聞いたことがないよ」
俺とユリシーズさんの様子を見ていたローズさんにこっそり聞くと、彼女は苦笑しながら答えた。
うーん。俺には未だによくわからない。
どの属性にもあてはまらないのは、そんなに変なのか?
「どんな魔法でも、四属性が基本。光は火、闇は地から枝分かれして生まれた属性だとされています。
つまり、無属性とはなにもないところから湧きでてきたようなもの。
……ありえなさがおわかりいただけるでしょう?」
「……ああ、たしかに」
ユリシーズさんが力説してくれたおかげで、やっと納得した。
なにもないところから湧きでてきた……か。
それはたぶん、俺が現代日本から異世界へ転生した身だからではないだろうか。
俺そのものがまさしく、「湧きでてきたようなもの」だし。
「一体どこでその魔法を習ったのですか?」
「使えるようになったのはライリーさんのおかげです。けど、元から身についていたみたいなんですよ」
答えたら、ユリシーズさんは一瞬固まり、どさりと椅子に座りこんで、「ますますわからない……」と呟いた。
はい。俺にもさっぱりわかりません。
唖然としたユリシーズさんを現実に引きもどすため、彼の顔の前で手を振る。
すると、なにやら外に出ていたライリーさんが、汗を拭きながら戻ってきた。
「なんの話してんだ? 禁術の対策を練ってたんじゃねぇのか?」
「してたけど。ライリーさんこそ、どこ行ってたんだ? 鍛錬?」
「まぁな」
ライリーさんは、汗を拭いた布を通りすがりの団員に渡して、椅子に座って一息ついた。
こんなときにも鍛錬か。いや、こんなときだからこそか? ストイックだなぁ。
「で? なにかいい方法は思いついたのか?」
「思いついたっていうか、魔導焦土以外は俺の魔法でいけるっぽいんだよ」
「はーん……逆になんでそれはだめなんだ?」
「えっと……人とか生き物じゃなくて土地にかける魔法だから。
発動前は無効化しても意味ないし、発動後はそもそも魔法が使えなくなるから。
……でしたよね?」
「おっしゃるとおりです」
「……そうか」
ライリーさんが納得し、神妙な顔で腕を組んで顔を俯ける。
敵は、俺の魔法を知っていると思っていたほうがいいだろう。となると、相手も対策を練っているにちがいない。
どれも発動されたらまずいけれど、魔導焦土は一番まずい。
絶対に、阻止しないと。
……方法? わかんねぇよ! 発動しようとした人を捕まえるしかないか!?
「団長がお戻りになりました」
会議室の外から、団員のハキハキした声がした。
出迎えるため、椅子から立ちあがる。
「今戻った」
「お疲れ様です!」
頭を下げて、あいさつ。
ローズさんとユリシーズさんも同じようにしていた。
ライリーさんは、変わらず座ったまま。
団長は、一回頷いたあと、ユリシーズさんのほうをむいた。
「許可が下りた。事態が終息するまでは、ユリシーズ殿は私の預かりとなった」
「……っ感謝申し上げます……!」
ユリシーズさんが、泣きそうな声で言って腰を思いきり曲げ、頭を下げた。
「それで、もう一つのご用って……あ、聞いてもよろしいですか?」
「かまわぬ。言葉より見てもらったほうが早いな」
なんのこっちゃ、と首を傾げる。
団長は、背後に付き添っていた団員のほうを振りかえった。
無言の合図に団員が頷き、ある人物を連れてくる。
――ライリーさんが、椅子をふっ飛ばす勢いで立ちあがった。
「やあ。ライリーにポルテ。いるんでしょ? 久しぶりだね」
腕に手枷をつけられ、目隠しをされた状態の金髪の人。
すくない情報でも、すぐにわかってしまった。
――トニーさんだった。
読んでいただきありがとうございました!
会話回が続きますが、事態は急展開を迎えました。この先もどうかお読みいただければと思います。
次回は、あさって木曜日の20時頃の更新予定です。




