63話 非道な手段を使われたので辺り一面燃やしつくしてもらった
不穏な報告を受け、俺たちは状況をたしかめるため外へと飛びでた。
「……あれか」
目を細めて前方を見ていたライリーさんが、呟いた。
俺にも、見えた。
遠くに、規則正しく行進している謎の部隊。
腕の振り方も、足の動かし方も、歩くペースも。
すべてが訓練された軍隊のように、ぴったり合っているのがわかった。
注目すべきは、その数。
正確な数はもちろんわからない。
けれど、すくなくとも数百におよぶほどの規模だ。
……あれは、本当に全部が屍兵なのか?
一人作るのに、高度な技術と多量の魔力を必要とする魔術だぞ。それを、あんなに。
「……っ行こう、ライリーさん」
「ああ」
ごちゃごちゃ考えている場合じゃない。早いとこ止めないと。
ライリーさんが、団長のほうを振りかえり、頷きあった。
「先頭は頼んだぞ」
そう言った団長は、次に俺を見てきた。
そして、俺も力強く頷く。
「よかったら、この子も連れてっておくれ」
ローズさんが、ゆったりとした足取りでやってきた。
その足元には――赤茶色の体毛に覆われた、二足歩行をするサルのような動物がいる。
「おっしゃ! やっとオレの出番やな!? 待ってたで!」
……まさかの関西弁!? なんで使い魔がそんな言葉を!?
そのサルは、俺と目が合うと途端に興味を示したようで、ローズさんから離れて俺に近寄ってきた。
「あんたがポルテくんか! フォカロがめっちゃ褒めてたで。逆にカミオはほんまに機嫌悪かったけどな」
「あ、ああ……うん。戻ったらカミオに謝っといて」
「ええで。けど、その前にちょっと暴れんとあかんわ。
さっきはなにもさせてもろてへんかったからな。今度は思いっきり行かしてもらうで!」
そのサルは、やる気満々とばかりに腕をぶんぶん振りまわしていた。
「さっき」とは、たぶんメリッシアーノとセラフィアの軍とぶつかりそうになったとき。
あのときは、ライリーさんが一人で二軍を蹴散らしたと聞いた。
つまりこいつは、ローズさん曰く「出番がなかったことが心底気に食わなかったみたい」だった使い魔だ。
「フール、で合ってるか? 名前」
「そやで。よぉ知っとるな」
「ローズさんから聞いたよ。お前、なにができるんだ? 攻撃に特化してるって聞いたけど?」
「雷魔法使えるで。相手は屍兵なんやろ? コア壊すのはお手のもんや」
「雷魔法か! それはいいな!」
「せやろ?」
自慢げに俺の顔をのぞきこみながら飛びはねているフールの頭をなでてやり、落ちつかせる。
「さっきから一人でなに言ってんだ? だれと話してるんだよ?」
「こいつとだよ」
怪訝そうに聞いてきたライリーさんに、腕にぶら下がった状態のフールを突きだした。
「……魔物の言葉がわかるのか?」
「ああ。魔物っていうか、使い魔限定かもだけど」
「…………」
「そんな目で見ないでくれます!?」
心底意味がわからないといった様子のライリーさんにむけて、手のひらを振ってツッコミをいれた。
「この子もポルテの坊やと相性よさそうだね。よかったよ」
「そうですか?」
「ああ。じゃあ、フール。その坊やとライリーの言うことをよく聞くんだよ」
「えー!? ご主人、一緒に行かへんの!?」
フールが俺から離れて、ローズさんに駆けよった。
すがりつくように足にしがみついているのを、ローズさんはにこにこと見下ろしている。
「私は行かないよ。足手まといになりかねないからねぇ。
その代わり……たっぷり魔力を注いでおくよ」
ローズさんが、フールの頭の上に手を置いた。
途端に、フールの体が淡い光に包まれる。
「ほおう! 元気いっぱいや! 何人でもかかってこいやぁ!」
光がおさまると、フールがますます元気になって、飛んだり跳ねたりした。
体も、一回り大きくなったように見える。
……へぇ。使い魔は、魔力を与えられたらでかくなるのか。知らなかった。
そして、ほほえみを浮かべたローズさんが、俺とライリーさんを見る。
「頼んだよ」
頷く俺と、ライリーさん。
そうして、団長が指揮をし、騎士団の部隊とともに進軍してくる屍兵の軍勢と会敵した。
「おらおらおらぁ!」
フールが大暴れしている。
しかし、好き勝手暴れているわけではなく、着実に屍兵に攻撃を加え、倒している。
さすがだな。フールもそうだけど、あいつを召喚したローズさんも。
「ポルテくん! 後ろおるで!」
「っ!」
フールに言われ、振りかえる。
そして、忍びよって不意打ちをしようとしていた屍兵を、黒い霧の剣で斬って倒した。
「ありがとう!」
「ええで! まだまだ来るから、注意してや!」
「おう!」
フールのたくましい激励を聞いて、気を引きしめる。
あいつに感心してばかりいられない。周りの敵に集中しないと!
「妙だな……」
「なにがっ?」
そばで何人目かわからない屍兵を燃やしたライリーさんが、険しい顔をしながら言った。
「俺らがこいつらの対策――倒す方法を知ってるのは、あっちも気づいてるはずだ。
なのに、なんで今さらこいつらをけしかけてきた?」
「それは……アレじゃないか? 数で押しきろうとか?」
「そんな雑な戦法使ってくるわけねーだろ。幹部を三人も討ちとられてる状況で」
「じゃあ――うわっ! 危なっ!……っ他に、狙いがあるってことか!?」
二人で一斉に襲いかかってきた屍兵を蹴散らしながら、聞いた。
ライリーさんは、もはや敵を見ずに考え事をしながらでも戦えている。
百戦錬磨の強者はやっぱ格が違うな!
……うん? 待てよ。ちょっと思いついちゃったんですけど!
「これ、もしかして偵察とかじゃね!?」
「偵察?」
「そう! 俺らの手の内を知るためにっていうか、どうやって屍兵に対応してるかを見るためにとか!」
「それだけのために、これだけの屍兵を?」
「……まったくないとは言いきれないだろ!?」
「たしかに。だが……」
納得いっていない様子だ。
俺も、またやってこようとする屍兵たちを見つめて、考える。
それだけじゃないなら、他になにがあるだろうか。
こちらの軍の消耗? それとも、本陣を手薄にすること?
前者は、あるかもしれない。けど、後者はないな。
本陣には、団長含めた精鋭がまだまだ控えているから、防御は完璧。手薄にはなっていない。
なにが狙いだ?
……やめてくれよ。このタイミングで別の禁術ぶっぱなすとか!
「……なんやろ」
そのとき、ずっと暴れまわっていたフールが止まって、あごに手を添えて考え事をしはじめた。
「フールっ? どうした?」
「いやな? なにか変な気配がすんねん」
「変な気配!?」
おいおいおい! やめてくれよ。
マジで俺の勘、当たっちまったとか言うなよ!?
近くの屍兵を倒したあと、フールの視線の先を見る。
あれ……? 本当だ。なにかがくる。
――オオカミの大群だった。
そいつらが、なにか合図があったかのように一斉に、それぞれの近くにいた騎士に襲いかかった。
「なんだあれ!?」
「魔狼や! しかも、改造されとる!」
「はぁ!?」
改造魔狼って、なに!? 魔物って改造できんの!?
屍兵の大群の上に、改造魔狼の大群。これは大混乱だ!
魔狼の動きは素早くて、もうこちらにまで近づいてきている。
「がああっ!」
「……っ!」
一匹の吠える姿を見て、脳裏にあの光景がよぎった。
――屍兵にされたフレッドさんが、俺に襲いかかってきたあの瞬間。
動けなくなった俺の前に、ライリーさんが躍りでる。
むかってきた魔狼と屍兵を、瞬時に蹴散らした。
「……っ! ご、ごめん! 俺、足手まといに――」
「落ちつけ。俺がいるだろ」
謝罪を切り捨てられ、力強い言葉をかけられる。
短いけれど、気持ちがめいっぱい詰まっている。
今の俺には、一番効く言葉だった。
頷いて、すぐに新たな敵へとむかっていく。
「フール! あいつら、改造されてるって言ったよな!?」
「そうやで。魔法で操られとるみたいや。まちがいない!」
フールに確認して頷き、ライリーさんの横に立つ。
「ライリーさん! フールが、あの魔狼たちは改造されてるって言ってる!」
「改造だと?」
「ああ。それで、魔法で操られてるって!」
ライリーさんは手を止め、魔狼の集団を見つめながら考えている様子だ。
そして、まもなく目を見開いた。
「まさかそれ……っあのひげじじいが言ってたやつじゃねぇだろうな?」
ひげじじいってだれだ、と一瞬思ったが、すぐに理解した。
そうだ……! ひげじじいもといユリシーズさんが言ってたじゃないか。
魔狼などの魔物を強制的に従わせる魔導兵器。
禁術の一つ、魔獣兵団。
本当にそうなのだとしたら、ルーンベルクの連中は屍兵以外の他の禁術も使えるようになっている証明になる。
……なんでだよ。そこまでして、アルケミリアを滅ぼしたいのか?
なんの恨みがあるって言うんだよ!
「ふざけんな……っ」
ライリーさんが、怒りをにじませて言った。
憤りを感じているのは、彼も同じのようだ。
若干顔を俯けた状態で、わなわなと震えた右手をあげた。
「清浄なる焔よ、ここに満ちよ。穢れを灼き、この地すべてを獄となし、燐のごとく散れ!」
え、ちょ、待って? それ呪文!?
珍しいな、ライリーさんが呪文詠唱なんて――
「白炎・燐獄!」
ライリーさんが前方を指ししめすようにのばした手の先から、白い炎が湧きあがるように出現した。
その炎は、屍兵と魔狼たちを覆いつくした。
途端に、断末魔の悲鳴があがる。
……なんか、デジャヴ。
ああ、思いだしたぞ。
これ、いつぞやの大量に出てきた、ゾンビ他アンデッド系の魔物と対峙したときにやっていた魔法だ。
呪文詠唱したせいか、威力も範囲も桁違いだけど。
辺り一面を覆いつくした白い炎は、しかし味方の俺たちに影響はなかった。
敵だけを狙った、のか? それとも、そういう魔法なのか?
どっちにしろすごすぎる!
「……っ」
本人は、まだ怒りがおさまらない様子だけど。
めちゃめちゃ怖い顔で、遠くをにらみつけていた。
「はぁ……あの兄さん、怖いわぁ。意外と短気なんやな?」
「や、怒らすと怖いタイプってとこかな……」
ドン引きしたフールに答えつつ、ライリーさんの背中を見る。
たしかに怖いところはあるけど……強い。
やっぱ憧れるよなぁ。さすがは炎魔法のエキスパートだ。
なんて思いつつ、生き残った敵がいないか確認するため、周囲を見回した。
すると――一匹の魔狼らしきものが、よたよたとおぼつかない足取りでこちらに近づいてきた。
すぐに攻撃しようと手をのばしたライリーさんの、その腕をつかんで制止する。
「なんだよ」
「いや。なんか様子おかしくねぇ?」
訝しげに眉をひそめるライリーさんも、俺に言われてその魔狼を見た。
白い目は虚ろで、なにも見えていないかのようだった。
「……ア……ブ……舞台……整っ……た……早、く……来い……」
「!?」
魔狼が、喋った?
俺もライリーさんも、すぐに対処できるようにとかまえる。
しかし、魔狼はそれだけ言って、黒い塵のようになって消滅してしまった。
……舞台が整った、だって? どういう意味だよ?
困惑したまま、俺もライリーさんもただその場に立ちつくしていた。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
呪文、考えるの楽しいです。厨二心が爆発しますね笑
次回は、来週火曜日20時頃の更新を予定しております。




