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追放されたタコの獣人、海の賢者として覚醒する 〜異国で勇者と公爵令嬢に見出され、大賢者へ〜  作者: 手羽本 紗々実(てばもと ささみ)
七章 灰翼教団の四騎士・死の騎士編

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62話 予想以上にやばい話だったので決意を固めてみた

【更新日時変更のお知らせ】

前回、次回更新を木曜20時とお伝えしましたが、仕事の都合でその時間の投稿が難しいため、本日更新に変更しました。

なんとか予定より早くお届けできたので、嬉しいです!

 翌日、ローズさん曰く禁術に詳しい人物――ユリシーズさんがやってきた。


 腰が若干曲がっていて、灰色のふさふさの毛が特徴の老人だ。眉毛もヒゲも毛量が多くて、目が隠れている。


 たとえるなら、一人で森の奥にこもって魔法研究をしている魔法使い。っていうか、まさしく賢者じゃないか?


 ここにきて、ようやくそれらしい人が現れたか。面白いな。



「さっそくだが、禁術について詳しくうかがいたい」


「はい……ずっと危惧していたことが起こってしまい、私としてもとても心を痛めております」



 ユリシーズさんが、団長にむけて深々と一礼する。


 団長に促され、ユリシーズさんが団長とは反対側のお誕生日席に座る。


 俺とライリーさん、ローズさんは立ったまま話を聞いている。



「危惧していたこと、とは?」


「実は……今から50年ほど前に、封印されていた禁術の研究資料が紛失する事件が起こったのです」


「なんだと?」



 ライリーさんが、すこし身を乗りだした。



「犯人と、資料の行方は?」


「いずれも不明です」


「……まさか、ルーンベルクの仕業ではあるまいな?」


「その可能性は、十分あるかと」


「十分あるかと、じゃねぇよ! 屍兵(アンデッド・トループ)が使われたのはどう考えてもそのせいだろうが!」


「ちょ、待て待て待て!」



 ライリーさんが、飛びかからんばかりの勢いでユリシーズさんに詰めよろうとしたので、間に入ってなだめる。


 珍しいな、こんな怒るなんて……腹でも減ってるのか?



「その紛失した資料とは? まさか、すべてではあるまいな?」


「さすがにそこまでは!……いえ。かろうじて、と言うべきでしょうか。なくなったのは、術式が書かれたもののみです」


「それじゃあ、心得がある奴ならすぐ使えてもおかしくねぇだろ」


「とんでもない! ほとんどが一歩まちがえれば大惨事につながる魔術です! 術式がわかったところで、簡単に扱えるものではありません!」



 ユリシーズさんが、怒鳴るように返事した。


 それに、ライリーさんがまた詰めよろうとしたので、ユリシーズさんのほうをむいて間に入った。



「それ! 詳しく教えてもらえませんか。本当に資料を盗んだのがルーンベルクで、すでに使える状態なら、かなりまずいじゃないですか。

 だから、対策を探しておく必要があるかと思って。ですよね、団長」


「そのとおりだ。教えてもらえるか?」



 団長に話をふり、同意してもらって流れを変えるのに成功。


 怒りをぶつける場所を見失ったライリーさんは、はっきり聞こえるように、わざとらしく舌打ちしていた。


 一方でユリシーズさんは、目を伏せて口をつぐんでいた。とても話しづらそうだ。



「……私が記憶している内容と、伝え聞いたことをもとにお答えいたします。中には不適切な表現となる部分もあるかと思われますが、どうかご容赦ください」



 ユリシーズさんはそう言って、テーブルに額がつくほどに深く頭を下げた。


 それに対し、団長が頷いた。



「まずは……すでにご存じかと思いますが、屍兵について。

 あれは、亡くなった兵士の遺体を、再び兵力として……利用、するために開発されました」



 ライリーさんの腕を事前に捕まえておいたので、飛びかかろうとしたのを防げた。



「すぐに、非人道的だと非難の声が上がりました。『屍兵』という名前は、その一部の研究者が揶揄するためにつけたものだったのです。

 やがて禁術として封印され……兵器開発は別方面へと舵を切られました」


「別方向?」


「魔獣を使うことです。人に危害を加える魔獣を兵力とするならば問題ないのでは、と。その名も、魔獣(ベスティア)兵団(・ドミナータ)



 ……ネーミングセンス、優秀だな。語感がすごい強そうでかっこいい。



「それはなぜ禁術になったのだ?」


「使われた魔獣は、群れをなすものばかり……たとえば、魔狼などです。術者に強制的に従わせるため、群れの秩序を壊してしまいます。

 そのせいで暴走してしまい……兵士のみならず、一般人にも多大な被害が出たと聞いております」


「当たり前だろ、そんなの」



 ライリーさんが、ぼそりと呟く。


 ユリシーズさんを責めるわけじゃないけど、同意する。



「次に開発された兵器名は、魔導鎧(アルマ・アニマ)。こちらに関しては、資料を読んだだけなので……実在していたとは断言できません」


「どんな兵器なんですか?」


「兵士の能力を底上げする兵器です」



 うん? それなら問題なさそうに思えるけどな。


 なにがだめだったんだろう?



「魔導鎧は、装着している兵士の魔力を常に吸いあげるそうです。そのうち魔力が底をつき、命を落とす者が続出した……と」



 ……全然、問題なくなかった! なんでそんなのばっかりなんだよ!?



「あと二つ……一歩まちがえれば大惨事になる禁術って、なんだよ?」



 落ちついた様子で、ライリーさんが尋ねた。


 ユリシーズさんは、すぐには答えなかった。顔を俯かせ、手を震わせている。



「あの、無理にとは――」


「いいえ。お答え、します。お役に立てるのであれば」



 ユリシーズさんは、ローズさんがこっそりいれてくれたお茶を一息に飲み、大きく息を吐いた。



「……申し訳ありませんが、残る二つについては実在していたか非常に曖昧です。私も、資料を読むことさえ許されませんでした。

 管理責任者からうかがった話になるので、かなり不確かな部分が――」


「いいから話せ」



 ライリーさんに前置きを一刀両断され、ユリシーズさんがぶるりと体を震わせた。



「はい……では、魔導疫兵(モルブス・マギア)について。これは、知られず侵す兵器、と言えるでしょう」


「知られず、侵す?」


「元となっているのは、魔力に反応して活性化する胞子だそうで。

 農業部門で開発途上だった魔法技術を応用しようと考えられたと聞きました」


「胞子って、まさか……人に感染させる、とか?」


「おっしゃるとおりです。人の体内に入ると、魔力経路を侵食する作用があるそうです。

 魔法を使えば使うほど感染力が高まり、症状も全身に広がっていくとか。

 なぜ禁術に指定されたかは……お察しのとおりです」



 会議室に、重苦しい空気が流れる。


 わかる。どうせまた、兵士だけじゃなくて無関係の一般人にも広がって大惨事に、とかいう話だろ。そりゃそうなるって!


 ここらへんで、魔法を応用した兵器開発自体をやめさせればよかったのに。


 こんなに、何人もの人の命が失われて、危険にさらされてもなおまだ行われていたなんて。



「最後に……魔導(アトラ・テラ)焦土(・ステリリス)。これはもはや、永遠に封印しておくべきものです」


「それだけ凶悪な兵器なのか」


「はい。万が一にも、アレが実在していて、本当に使われたら……っ私一人の命で償えるほどの事態ではありません」


「いいから説明しろ! なんなんだよ、魔導焦土ってのは!」



 ライリーさんに怒鳴られると、ユリシーズさんはぶるぶる震えながら、「申し訳ございません」と言って頭を下げた。



「魔導焦土とは、土地の魔力を枯らす兵器だそうです」


「魔力を枯らす……」


「広範囲の土地から、魔力を吸いあげるのです。そこはたちまち不毛の地となり、魔法が一切使えなくなります。

 そうなれば……魔法技術により行われる農業や医療の仕組みが崩壊。魔法を前提とした文明そのものが成り立たなくなってしまう、と考えられます……」


 ユリシーズさんは、最後は尻すぼみになり、顔を俯けた。


 この場にいる全員が、言葉を失った。だれもが、その危険性を想像しているのだろう。


 ……俺にも、なんとなくわかる。


 それは、絶対に使ってはいけない、使わせてはいけない兵器だ。



「その……五つの禁術の、術式が書かれた資料が紛失したんですね?」



 おそるおそる尋ねると、ユリシーズさんがかすかに頷いた。



「資料が盗まれたのは50年前……その後、奴らは今の今までそれを研究して、実用化できるまでに至って、満を持して宣戦布告……ってことかよ」


「およしよ、ライリー。盗んだのがルーンベルクと決まったわけじゃ――」


「だれが盗んだかなんてどうでもいいんだよ! 問題なのは、奴らがその禁術を使ってるってところだろうが!

 こうなるかもしれないって予想していたのに、なんでなにもしてこなかったんだよ!? あぁ!?」


「ま! ちょ、だから落ちつけって!」



 ユリシーズさんの胸倉をつかむ勢いで詰めよったライリーさんを、なんとか引きはがす。


 チラッと見えたけど……ユリシーズさんの目、死んだ魚のような目だったぞ。



「ユリシーズ殿。なぜそのような重大な事件が世間に公表されていないのだ?」


「隠ぺいしたんだろうが、どうせ」


「やめろって! この人の糾弾大会してるわけじゃないん――」


「そのとおりです!」



 それまでにないほどユリシーズさんが声を張りあげて、言った。


 そして、なぜか息を切らせながらゆっくりと立ちあがった。



「最高責任者の、メルヴィン氏の判断により……資料紛失の件は、我々管理者たちの中だけの話にする。決して口外しないようにと、指示があったのです」


「となると……陛下も」


「ご存じないはずです」


「そのメルヴィンとかいう奴はどこだ」


「今から三年ほど前にお亡くなりになりました。この件は墓までもっていくとおっしゃって」


「……なにが墓までもっていく、だよ。とられた資料の行方もわかってなかったんだろうが」



 ライリーさんが、テーブルの脚を蹴って頭をかきむしり、会議室を出ていこうとした。


 俺は、うなだれているユリシーズさんに近寄った。



「他に、知ってることはありませんか?」


「……他、とおっしゃいますと?」


「禁術についてです。先にも言いましたけど、あなたをここに呼んだのは禁術の対抗策を探すためなんです。もっと詳しく教えてください!」


「やめとけ。そいつに聞いたってなにも得られねぇよ」



 投げやりな発言をするライリーさんを振りかえって、首を勢いよく横に振ってから目をじっと見つめた。



「得られるかどうかじゃない。考えるんだよ。これならこうできるかも、みたいな策が思いつくかもしれない」


「…………」


「俺、できることはなんでもやるって言っただろ?」



 口角を上げて笑ってみせると、ライリーさんは怪訝そうな顔をしていた。



「失礼いたします! 団長、大変です!」


「なんだ」



 決意を固めたちょうどそのとき、騎士団の団員が駆けこんできた。


 なにやらひどく焦っている様子だ。


 ……嫌な予感がするなぁ。



「エルドミア領の処理にあたっている兵から、こちらに怪しげな部隊がむかっていくのを見たとの情報が入り、急ぎ確認に走ったところ……!

 屍兵と思われる軍勢が、近づいてきている模様です!」



 ほら、やっぱり!

読んでいただきありがとうございました。

それでは。次回は、土曜日の20時更新予定です。

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