59話 対策されているようなのでさらにその対策を考えてみた
攻めおとされたレイヴンホルムの被害は、甚大だった。
最高指揮官である領主さえも重傷を負い、未だ意識不明の状態だそうな。
助かったのは、領主の跡取り息子。それから、その護衛役の騎士が数人と領民たち。
いずれも、領主の命令で地下のシェルターに避難していたらしい。
たくさんの犠牲者を出してしまったわけだが、全滅を免れたのは不幸中の幸い……と、思うしかない。
確認を終え、三人で領主の屋敷を出た。
「俺は部下とともにここにとどまり、他に敵がいないか探索する。新たな警備体制を敷く必要もあるな。また別の刺客がやってこないとも限らん」
「そうか。俺らは一足先に帰らせてもらうぞ」
「で、団長に報告、だな」
「ああ。よろしく頼む」
俺とライリーさん、ジェイドさんは頷きあって、二手に分かれた。
……あ、そうだ。その前に。
「ジェイドさん! 『ギルベルト』って人、知りませんか?」
「ギルベルト?」
「さっきの大男――フランツって奴が言ってたんです。俺の魔法を無効にしたあとで、『ギルベルトの言ったとおりだった』って」
尋ねると、ジェイドさんはあごに手を添えてすこしの間考えこんだのち、ハッとして険しい表情になった。
「急ぎ団長へ報告を。頼んだぞ」
ジェイドさんはそう言い、踵をかえした。
「……あっちの騎士団の要職についてる奴か。もしくは……」
「四騎士の三人目、とか?」
神妙な顔で頷いたライリーさんを横目で見て、ため息をつく。
あれはまるで、こちらの手の内を知られているかのようなセリフじゃないか?
仮に本当に四騎士の三人目だとしたら、分析とか解析が得意な頭脳派かもしれない。
そいつと対峙するときが近いうちにくるんだろうな……ああ、厄介だな。
◇◇◇
こうして、俺とライリーさんは無事本陣へと帰還。
ザックさんもいる場で、団長に詳細を報告した。
「まず、二人目を退けた件。ご苦労であった」
「恐れ入ります。それでその、『ギルベルト』というのは?」
聞いた途端、団長が眉間にシワを寄せる。
「やはり……出てくるか」
ぽつりと呟いたザックさんの声を聞きのがさず、近寄った。
「だれなんですか? やっぱり、四騎士の一人ですか?」
ザックさんが頷く。
「ギルベルト・イェーリング。私と同じ魔導医師だよ……道を踏みはずしたほうのね」
「え!?」
俺はぎょっとして、ザックさんから後ずさりして下がった。
待って。敵で、魔導医師って。
む……無理無理無理!
注射器もって追いかけられたら秒で逃げる! まともに戦える気がしないんですけど!
「やはり見知った相手なのだな」
「はい。まず……ライリーとジェイドくんが倒したフランツという男について」
ザックさんが、顔を引きつらせている俺を見る。
「魔法が一切効かなかったと言ったね?」
「は、はい。魔法陣から呪文詠唱までしたんですけど」
「それは彼の体質――もともと魔法耐性が強かったというのもあるだろうが、加えて君の魔法が解析されていたせいもあると思う」
「か、解析……」
やっぱりそういうタイプだったのか。
ただの頭脳派だったらまだよかったのに、よりにもよってザックさんと同じ医師なんて。最悪だ。
「待てよ。ポルテの魔法を解析って、いつどうやってしたって言うんだよ?」
「タイミングとしては、四騎士の一人目を倒したときだろうね」
「……ど、どういうことですか? 俺、なんかやらかしました?」
「いいや。君がなにかをしたわけではない。
前に話したね? モルス・パクトゥムの護符。あれは一種の麻薬ともいえる呪術なのだよ。
十中八九、施したのは彼だ」
「……術がきれたのを察知して、それで解析したわけか」
「そのとおり。監視役がいた可能性も否定できないけれど」
頭脳派キャラらしい行動だ。聞くば聞くほど厄介だと感じる。
……いや。でも、それって悪い話じゃないよな?
「それだけ、早くに対策しないとまずいって思われるほど、俺の魔法が強力だって認識されてるってことですね!?」
「喜んでんじゃねぇ、よ!」
「いだっ!?」
ライリーさんの拳骨をくらい、その場にしゃがみこむ。
「解析されちまってるってことは、この先お前の魔法は通用しない可能性が高いってことだぞ。もっと危機感もて」
「……そ、そっか……! そうとも考えられるよな」
「そうとしか考えられねぇだろうが。この能天気野郎」
拳骨が当たった箇所をなでながら、立ちあがる。
まぁ、たしかに唯一使える魔法を完璧に対策されてしまったのなら、俺はまともに戦えない。
なんとかして、対策の対策をしないと。
……いたちごっこじゃね?
「ターナー卿。それでは、屍兵を生みだしたのも?」
「いえ。それは別の者の仕業ではないかと」
団長の問いを、ザックさんが首を横に振って否定する。
「屍兵の術には、高度な技術が必要です。それだけ必要とする魔力も多い。
……ですが、彼の魔力は魔法使いと呼ぶにはあまりに低い。なにかの補助があったとしても、それを使えた可能性はかなり低いでしょう」
「そうか……ではやはり、もっと上の?」
「おそらくは」
団長は、ザックさんの回答に満足したのか、腕を組んで、また一人で考えこんでいた。
……さっきから気になってたけど、ザックさん、敵の魔導医師についてやたら詳しいよな。フルネームも知っていたし。
まさか、友達か?
「ザックさん。そのギルベルトって人とどういう関係だったんですか?」
「……彼はね、留学生だったんだよ」
「留学生?」
「ああ。魔導医療の研究のためにやってきたんだ。同じチームで、競いあうように研鑽を積んでいた。
だが……とある法律のせいで憂き目にあい、別れたんだよ」
「とある法律って……『王都居住制限令』ですか?」
ザックさんが、悲しげな笑みを浮かべて頷き、遠くを見つめた。
……また、あの悪しき法律の被害者か。
それにより、ギルベルトは本国へ強制送還。研究の道は志半ばで閉ざされてしまったわけか。
悔しかっただろうな。ギルベルトって人も……ザックさんも。
「団長殿。彼を止めなければ、今後甚大な被害が出かねません。早いうちに手を打たねば」
「そのようだな。なにか策があるのか?」
団長の問いに、ザックさんが頷いた。そして、ライリーさんを見る。
「ライリー。すまないが、ポルテくんをお借りできるかな?」
「へっ? 俺?」
「ああ。好きにしてくれ」
「ちょ! 俺の意思は!?」
「どうせついてこいって言われたら、喜んで行くだろうが」
「行くけども!」
ザックさんのほうをむいて、尋ねる。
「俺になにができますか?」
「油断させる役、とでも言うべきかな」
「油断?」
「ポルテくんの魔法を解析されている件に我々が気づいたことは、すでにあちらに知られているはずだ。その上で、君が前線に出てくればあちらはどう思う?
それでも頼るしかない、他に手がないと油断させられる……かもしれない」
「かも!?」
「つまり、囮か」
不敵な笑みを浮かべ、ザックさんが頷く。
なるほど、囮か。
……魔導医師対決で、俺が、囮に。
一瞬だけ、喉の奥がひりつく感覚がした。けれど、すぐに消える。
「わかりました! 喜んでお供します!」
拳を握って即答すると、なぜかザックさんが目を丸くした。
ライリーさんも同じく。
そして、その二人が顔を見合わせる。
「意味を理解できていると思うかね?」
「できてるけど、その先にどんな危険があるかは理解できてないってところだろ」
「なるほど」
二人が、俺を見る。
めっちゃ聞こえてますけど!?……否定はできないけどな!
「どんな危険があったってかまいません! ザックさんには何度か助けられましたから。ここらへんで恩返しさせてください!」
力強い口調で言うと、ザックさんが穏やかにほほえんだ。
「ありがたい。では、遠慮なく力を借りるとしようか」
俺とザックさんは、頷きあった。
魔導医師対決か。
状態異常系の魔法を多用されるかも、と考えたら怖すぎるけど。腹をくくるしかない。
「死なねぇようにな」
「縁起でもねぇ!……あ、そうだ! ライリーさん、あれ教えてくれ!」
「あれ?」
「フランツって奴と戦ってたときに、炎であいつの剣を受けとめてたやつだよ」
首を傾げるライリーさんに、手を合わせてお願いのポーズをする。
冷静に考えれば、炎(自然物)で剣(物理攻撃)を受けとめられるわけがない。
あれも、無唱発動と同じく、大本の魔法とは独立した技術の一種ではないか、と思ったのだ。
「物質化のことか?……時間は?」
「問題ないよ。すこし準備が必要だからね。その間でよければ」
ザックさんはそう言って、団長に近づいてなにか話したのち、作戦会議室を出ていった。
物質化、か。俺にもできるだろうか。
「そうだな。相手はなにしてくるかわかんねぇ奴だからな。身につけとけば、一矢くらいは報いれるだろ」
「一矢どころか、存分に報いるつもりですけど? 物質化って、つまり魔法で出したものを……なんだ……?」
「実体化、って言えばわかるか?」
「……ああ! そうか!」
納得して、感動すらおぼえる。
すぐにわかりやすい言葉に変換できるなんて、頭の回転が速いんだなぁ。さすがライリーさん。
「あんまり時間はねぇだろうから、容赦しねぇぞ。覚悟しろ」
「望むところ!」
腹に力を入れて返事をし、団長にむけて一礼してからライリーさんと一緒に会議室を出た。
ライリーさんの「覚悟しろ」は、地獄を見るはめになる合図だ。知ってる。
けど、新技術の習得のためだ。がんばれ、俺!
◇◇◇
超スパルタな特訓をへて無事に新技術を習得して、まもなく。
俺とザックさんは、本陣があるグリムフォード領から離れ、ルーンベルクと国境を接しているエルドミア領にむかった。
「レイヴンホルムはすでに二人目が攻めおとした。となると、次は国境が接している別の領地――エルドミアが危ないかもしれない」
「そうですか……ところで、ザックさん?」
「なんだね?」
「この、変なマスクはなんですか?」
身につけている、顔全体を覆っているそれを指さした。
エルドミア領にまもなく着くところで馬車を降り、ザックさんから奇妙なものを渡されたのだ。
全身を覆う黒いローブと帽子。うん、それはまだいい。
問題なのは、顔を覆っているマスク。
目の部分にはガラスが入っていて、鼻から口にかけての部分は、まるで鳥のくちばしのように尖っていた。
別物だろうけど……ペストマスクに激似なんだよな。
「私が開発した、エヴァラックという名の防毒マスクだよ」
「防毒!?」
「ああ。彼はまちがいなく、毒や薬草を多用してくる。そのマスクの内部には解毒剤が仕込んであるから、万が一のときでも安心だよ。素晴らしいだろう?」
「……そうですね」
いや、素晴らしくはねぇよ。どう見ても異様な仮装だよ。
「この森の先がエルドミア領だよ」
「いますかね?」
「可能性としては、半々といったところか。
彼は、とにかく実験が好きな研究者だったからね。新しい薬を開発しては、自身の体を使って実験していたくらいなのだよ」
途端に悪寒が走る。
自分の体で実験って! マッドサイエンティストすぎる!
「……そ、それでなんでエルドミアにいるかもしれないと?」
俺が問いかけた直後、ザックさんが足を止めた。
――霧が、立ちこめている。
「遅かったか……」
「え!?」
ザックさんの絶望的な呟きが聞こえ、うろたえる。
わけがわからないまま、「行くよ」と言われ、あとについていった。
今日も読んでいただいた方々、感謝申し上げます!
注射が苦手な方々がもしいらっしゃったらごめんなさい。
ブックマークなど、してくださった日にはもう……一人で小躍りするほど嬉しくなります笑
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次回は、あさって土曜日の20時頃更新の予定です。




