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追放されたタコの獣人、海の賢者として覚醒する 〜異国で勇者と公爵令嬢に見出され、大賢者へ〜  作者: 手羽本 紗々実(てばもと ささみ)
六章 灰翼教団の四騎士編

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59話 対策されているようなのでさらにその対策を考えてみた

 攻めおとされたレイヴンホルムの被害は、甚大だった。


 最高指揮官である領主さえも重傷を負い、未だ意識不明の状態だそうな。


 助かったのは、領主の跡取り息子。それから、その護衛役の騎士が数人と領民たち。


 いずれも、領主の命令で地下のシェルターに避難していたらしい。


 たくさんの犠牲者を出してしまったわけだが、全滅を免れたのは不幸中の幸い……と、思うしかない。


 確認を終え、三人で領主の屋敷を出た。



「俺は部下とともにここにとどまり、他に敵がいないか探索する。新たな警備体制を敷く必要もあるな。また別の刺客がやってこないとも限らん」


「そうか。俺らは一足先に帰らせてもらうぞ」


「で、団長に報告、だな」


「ああ。よろしく頼む」



 俺とライリーさん、ジェイドさんは頷きあって、二手に分かれた。


 ……あ、そうだ。その前に。



「ジェイドさん! 『ギルベルト』って人、知りませんか?」


「ギルベルト?」


「さっきの大男――フランツって奴が言ってたんです。俺の魔法を無効にしたあとで、『ギルベルトの言ったとおりだった』って」



 尋ねると、ジェイドさんはあごに手を添えてすこしの間考えこんだのち、ハッとして険しい表情になった。



「急ぎ団長へ報告を。頼んだぞ」



 ジェイドさんはそう言い、踵をかえした。



「……あっちの騎士団の要職についてる奴か。もしくは……」


「四騎士の三人目、とか?」



 神妙な顔で頷いたライリーさんを横目で見て、ため息をつく。


 あれはまるで、こちらの手の内を知られているかのようなセリフじゃないか?


 仮に本当に四騎士の三人目だとしたら、分析とか解析が得意な頭脳派かもしれない。


 そいつと対峙するときが近いうちにくるんだろうな……ああ、厄介だな。




 ◇◇◇




 こうして、俺とライリーさんは無事本陣へと帰還。


 ザックさんもいる場で、団長に詳細を報告した。



「まず、二人目を退けた件。ご苦労であった」


「恐れ入ります。それでその、『ギルベルト』というのは?」



 聞いた途端、団長が眉間にシワを寄せる。



「やはり……出てくるか」



 ぽつりと呟いたザックさんの声を聞きのがさず、近寄った。



「だれなんですか? やっぱり、四騎士の一人ですか?」



 ザックさんが頷く。



「ギルベルト・イェーリング。私と同じ魔導医師だよ……道を踏みはずしたほうのね」


「え!?」



 俺はぎょっとして、ザックさんから後ずさりして下がった。


 待って。敵で、魔導医師って。


 む……無理無理無理!


 注射器もって追いかけられたら秒で逃げる! まともに戦える気がしないんですけど!



「やはり見知った相手なのだな」


「はい。まず……ライリーとジェイドくんが倒したフランツという男について」



 ザックさんが、顔を引きつらせている俺を見る。



「魔法が一切効かなかったと言ったね?」


「は、はい。魔法陣から呪文詠唱までしたんですけど」


「それは彼の体質――もともと魔法耐性が強かったというのもあるだろうが、加えて君の魔法が解析されていたせいもあると思う」


「か、解析……」



 やっぱりそういうタイプだったのか。


 ただの頭脳派だったらまだよかったのに、よりにもよってザックさんと同じ医師なんて。最悪だ。



「待てよ。ポルテの魔法を解析って、いつどうやってしたって言うんだよ?」


「タイミングとしては、四騎士の一人目を倒したときだろうね」


「……ど、どういうことですか? 俺、なんかやらかしました?」


「いいや。君がなにかをしたわけではない。

 前に話したね? モルス・パクトゥムの護符。あれは一種の麻薬ともいえる呪術なのだよ。

 十中八九、施したのは彼だ」


「……術がきれたのを察知して、それで解析したわけか」


「そのとおり。監視役がいた可能性も否定できないけれど」



 頭脳派キャラらしい行動だ。聞くば聞くほど厄介だと感じる。


 ……いや。でも、それって悪い話じゃないよな?



「それだけ、早くに対策しないとまずいって思われるほど、俺の魔法が強力だって認識されてるってことですね!?」


「喜んでんじゃねぇ、よ!」


「いだっ!?」



 ライリーさんの拳骨をくらい、その場にしゃがみこむ。



「解析されちまってるってことは、この先お前の魔法は通用しない可能性が高いってことだぞ。もっと危機感もて」


「……そ、そっか……! そうとも考えられるよな」


「そうとしか考えられねぇだろうが。この能天気野郎」



 拳骨が当たった箇所をなでながら、立ちあがる。


 まぁ、たしかに唯一使える魔法を完璧に対策されてしまったのなら、俺はまともに戦えない。


 なんとかして、対策の対策をしないと。


 ……いたちごっこじゃね?



「ターナー卿。それでは、屍兵(アンデッド・トループ)を生みだしたのも?」


「いえ。それは別の者の仕業ではないかと」



 団長の問いを、ザックさんが首を横に振って否定する。



「屍兵の術には、高度な技術が必要です。それだけ必要とする魔力も多い。

 ……ですが、彼の魔力は魔法使いと呼ぶにはあまりに低い。なにかの補助があったとしても、それを使えた可能性はかなり低いでしょう」


「そうか……ではやはり、もっと上の?」


「おそらくは」



 団長は、ザックさんの回答に満足したのか、腕を組んで、また一人で考えこんでいた。


 ……さっきから気になってたけど、ザックさん、敵の魔導医師についてやたら詳しいよな。フルネームも知っていたし。


 まさか、友達か?



「ザックさん。そのギルベルトって人とどういう関係だったんですか?」


「……彼はね、留学生だったんだよ」


「留学生?」


「ああ。魔導医療の研究のためにやってきたんだ。同じチームで、競いあうように研鑽を積んでいた。

 だが……とある法律のせいで憂き目にあい、別れたんだよ」


「とある法律って……『王都居住制限令』ですか?」



 ザックさんが、悲しげな笑みを浮かべて頷き、遠くを見つめた。


 ……また、あの悪しき法律の被害者か。


 それにより、ギルベルトは本国へ強制送還。研究の道は志半ばで閉ざされてしまったわけか。


 悔しかっただろうな。ギルベルトって人も……ザックさんも。



「団長殿。彼を止めなければ、今後甚大な被害が出かねません。早いうちに手を打たねば」


「そのようだな。なにか策があるのか?」



 団長の問いに、ザックさんが頷いた。そして、ライリーさんを見る。



「ライリー。すまないが、ポルテくんをお借りできるかな?」


「へっ? 俺?」


「ああ。好きにしてくれ」


「ちょ! 俺の意思は!?」


「どうせついてこいって言われたら、喜んで行くだろうが」


「行くけども!」



 ザックさんのほうをむいて、尋ねる。



「俺になにができますか?」


「油断させる役、とでも言うべきかな」


「油断?」


「ポルテくんの魔法を解析されている件に我々が気づいたことは、すでにあちらに知られているはずだ。その上で、君が前線に出てくればあちらはどう思う?

 それでも頼るしかない、他に手がないと油断させられる……かもしれない」


「かも!?」


「つまり、囮か」



 不敵な笑みを浮かべ、ザックさんが頷く。


 なるほど、囮か。


 ……魔導医師対決で、俺が、囮に。


 一瞬だけ、喉の奥がひりつく感覚がした。けれど、すぐに消える。



「わかりました! 喜んでお供します!」



 拳を握って即答すると、なぜかザックさんが目を丸くした。


 ライリーさんも同じく。


 そして、その二人が顔を見合わせる。



「意味を理解できていると思うかね?」


「できてるけど、その先にどんな危険があるかは理解できてないってところだろ」


「なるほど」



 二人が、俺を見る。


 めっちゃ聞こえてますけど!?……否定はできないけどな!



「どんな危険があったってかまいません! ザックさんには何度か助けられましたから。ここらへんで恩返しさせてください!」



 力強い口調で言うと、ザックさんが穏やかにほほえんだ。



「ありがたい。では、遠慮なく力を借りるとしようか」



 俺とザックさんは、頷きあった。


 魔導医師対決か。


 状態異常系の魔法を多用されるかも、と考えたら怖すぎるけど。腹をくくるしかない。



「死なねぇようにな」


「縁起でもねぇ!……あ、そうだ! ライリーさん、あれ教えてくれ!」


「あれ?」


「フランツって奴と戦ってたときに、炎であいつの剣を受けとめてたやつだよ」



 首を傾げるライリーさんに、手を合わせてお願いのポーズをする。


 冷静に考えれば、炎(自然物)で剣(物理攻撃)を受けとめられるわけがない。


 あれも、無唱発動(ブランク・コード)と同じく、大本の魔法とは独立した技術の一種ではないか、と思ったのだ。



物質化(コアギュラ)のことか?……時間は?」


「問題ないよ。すこし準備が必要だからね。その間でよければ」



 ザックさんはそう言って、団長に近づいてなにか話したのち、作戦会議室を出ていった。


 物質化、か。俺にもできるだろうか。



「そうだな。相手はなにしてくるかわかんねぇ奴だからな。身につけとけば、一矢くらいは報いれるだろ」


「一矢どころか、存分に報いるつもりですけど? 物質化って、つまり魔法で出したものを……なんだ……?」


「実体化、って言えばわかるか?」


「……ああ! そうか!」



 納得して、感動すらおぼえる。


 すぐにわかりやすい言葉に変換できるなんて、頭の回転が速いんだなぁ。さすがライリーさん。



「あんまり時間はねぇだろうから、容赦しねぇぞ。覚悟しろ」


「望むところ!」



 腹に力を入れて返事をし、団長にむけて一礼してからライリーさんと一緒に会議室を出た。


 ライリーさんの「覚悟しろ」は、地獄を見るはめになる合図だ。知ってる。


 けど、新技術の習得のためだ。がんばれ、俺!




 ◇◇◇




 超スパルタな特訓をへて無事に新技術を習得して、まもなく。


 俺とザックさんは、本陣があるグリムフォード領から離れ、ルーンベルクと国境を接しているエルドミア領にむかった。



「レイヴンホルムはすでに二人目が攻めおとした。となると、次は国境が接している別の領地――エルドミアが危ないかもしれない」


「そうですか……ところで、ザックさん?」


「なんだね?」


「この、変なマスクはなんですか?」



 身につけている、顔全体を覆っているそれを指さした。


 エルドミア領にまもなく着くところで馬車を降り、ザックさんから奇妙なものを渡されたのだ。


 全身を覆う黒いローブと帽子。うん、それはまだいい。


 問題なのは、顔を覆っているマスク。


 目の部分にはガラスが入っていて、鼻から口にかけての部分は、まるで鳥のくちばしのように尖っていた。


 別物だろうけど……ペストマスクに激似なんだよな。



「私が開発した、エヴァラックという名の防毒マスクだよ」


「防毒!?」


「ああ。彼はまちがいなく、毒や薬草を多用してくる。そのマスクの内部には解毒剤が仕込んであるから、万が一のときでも安心だよ。素晴らしいだろう?」


「……そうですね」



 いや、素晴らしくはねぇよ。どう見ても異様な仮装だよ。



「この森の先がエルドミア領だよ」


「いますかね?」


「可能性としては、半々といったところか。

 彼は、とにかく実験が好きな研究者だったからね。新しい薬を開発しては、自身の体を使って実験していたくらいなのだよ」



 途端に悪寒が走る。


 自分の体で実験って! マッドサイエンティストすぎる!



「……そ、それでなんでエルドミアにいるかもしれないと?」



 俺が問いかけた直後、ザックさんが足を止めた。


 ――霧が、立ちこめている。



「遅かったか……」


「え!?」



 ザックさんの絶望的な呟きが聞こえ、うろたえる。


 わけがわからないまま、「行くよ」と言われ、あとについていった。

今日も読んでいただいた方々、感謝申し上げます!

注射が苦手な方々がもしいらっしゃったらごめんなさい。

ブックマークなど、してくださった日にはもう……一人で小躍りするほど嬉しくなります笑

よければ、ポチっとしてください。

次回は、あさって土曜日の20時頃更新の予定です。

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