58話 友情が復活したので喜んで協力してみた
人型に戻り、振りかえって聞いてきたジェイドさんに頷く。
キリッとした目をしたジェイドさんも、頷いた。
あー……危なかった!
ジェイドさんが来てくれなかったら、串刺しになっていたかもしれない。もしくは刺身か。
こちらがほっと息をついている間に、ジェイドさんがライリーさんと横に並び、敵をにらみつけた。
「……なにしにきた?」
「…………」
ライリーさんの質問に、ジェイドさんは沈黙。
……待ってくれ。ここでもめるのは得策じゃないぞ?
わかってくれるよな、ジェイドさん?
「俺を許せとは言わん。だが今は……一人より二人のほうが都合がいいだろう」
ジェイドさんは、フランツを見つめたまま言った。
それに対し、ライリーさんはすこし驚いたように目を丸くする。
それから微笑を浮かべて、「そうだな」と返事した。
こ、これはもしや、共闘するパターンですか!? わああ! 友情復活!?
あわよくば、一時的じゃないといいけど!
俺が一人で興奮している一方、フランツは物珍しそうにあごに手を添え、ジェイドさんを観察していた。
「騎士団の者……たしかお前も賢者の一人だったか? 加勢しにきたのか……それとも、邪魔をしにきたか?」
「貴様らは我らに戦争を仕かけた。ならば、卑怯も誠実もあるまい。二対一でも、文句は言わせんぞ」
「かまわないさ。お前が、強者ならな!」
フランツが、新たな剣を抜く。
ジェイドさんも、腰にさしていた剣を抜いた。刀身が黒くて、神秘的な雰囲気のある剣だ。魔武器だろうか。
斬りかかってきたフランツの剣を、ジェイドさんが受けとめる。
……って、風圧!
受けとめた瞬間に、突風が吹いた。
どんだけ剣圧、すごいんだよ!?
「黒炎・火花」
ライリーさんが、指をはじいて火の粉のような小さな炎の玉を連発。
フランツは一切よけず、体で受けとめた。
ジェイドさんと剣を合わせて力くらべをしているような体勢でいるせいか、動けないまま悔しそうに歯ぎしりをしている。
「こいつに気を遣っているのか……? さっきまでの威勢はどうした! 失望させてくれるなよ、勇者!」
不満げに吠えた直後、ジェイドさんが腕を下げたせいで、フランツはわずかにバランスを崩した。
瞬間、ジェイドさんが剣を受け流すように払う。
そして、再び横一線に剣を振る。
鉄が砕ける音。
ジェイドさんの一振りで、フランツの剣と身につけていた鎧が砕けた。
「気を遣ったんじゃねぇ。気をそらしたんだよ。お前のな」
ライリーさんが、奴に冷ややかな視線をむけながら言った。
……すごすぎて、言葉がない。
ジェイドさん、馬鹿力すぎる。
強化魔法なしの状態で、剣で鎧を砕くなんて。刃こぼれも……全然してないし!
すいません、ジェイドさん! 魔導祭での印象が強いせいで、あんま強くないかもとか思ってた!
普通に、いや、めちゃくちゃ強かったんだな!
「……ふ……ははははは!」
うなだれていたフランツが、狂ったような笑い声をあげた。
背中をそらし、空を見上げて高らかに笑っている。
「いいぞ……! もっと、もっとだ! 剣ならいくらでもある! さぁ、もう一度だ!」
フランツが、新たな剣を抜いた。どこに隠しもっていたのかは不明だ。
「キリがないな。どうする」
「……ジェイド」
ライリーさんに名前で呼ばれ、ジェイドさんが目を見開いて振りかえる。
「力貸すから、お前が仕留めろ」
ライリーさんが、手の先から無唱発動で炎の玉を出した。
ジェイドさんが、キリッと細めた目をむけて、頷く。
フランツの剣が、ジェイドさんにむけて振りおろされた。
――しかし。
黒い弾丸。
「っ!? な、んだ……これは!」
奴の驚愕の声を聞いて、俺はニヤリと笑った。
俺の指から放たれた魔法が地面に突きささり、フランツの足元が一気に陥没した。
身動きがとれなくなった奴の、憎しみにゆがんだ目がこちらをむく。
彼の目の前で、ジェイドさんが剣を掲げ、ライリーさんがそれに炎をまとわせる。
「覇気昂法!」
ジェイドさんが、炎の剣に攻撃力アップの魔法をかける。
剣の炎が、さらに勢いを増した。
そして――ジェイドさんが、それを振るった。
「おの……っおのれぇぇぇ!」
吠えるフランツを、ジェイドさんが炎の剣で横に真っ二つにした。
切断されたフランツの上半身が宙に浮いたあと、地面に落ちる。
それを、ライリーさんとジェイドさんが、冷めた目で見つめた。
「……見事、だ……! お前らの、ような奴らに……倒される、の、なら……わ、るくは、ない……!
この、先も……この醜い、争いの、中……を……生き、抜いて、みる、が……いい……!」
途切れ途切れの言葉とともに、フランツの体が塵となって消滅した。
金髪マッシュと同様、あとにはなにも残らなかった。
……お前らが仕かけた戦争だろうが。醜いっていう自覚はあったのかよ。
若干の不満を抱えつつ、ライリーさんとジェイドさんのもとに駆けよる。
ジェイドさんは、剣を大きく振って残った炎を消し、鞘におさめた。
どこか物憂げなその横顔を、見つめる。
「さすがだな」
ライリーさんが、ジェイドさんの肩を軽く叩いて言った。
「鎧を砕いたのもすごいけど、あんなきれいに真っ二つにするとはな。さすが騎士団一の馬鹿力」
……すごい褒め言葉だな!
けれど、ジェイドさんは困ったように目を泳がせた。
「……お前の炎があってこそだ」
そう言って、ジェイドさんは体をライリーさんにむける。
そして、ぐっと歯を噛みしめてから、頭を下げた。
「すまなかった。なにも知らなかったとはいえ、お前を逆恨みしてしまった」
「……あれを、信じるのか」
今度は、ライリーさんが気まずそうに目をそらした。
ジェイドさんが顔を上げ、頷く。
「団長を問いつめたのだ。はっきりとした回答を得られたわけではないが……ただ一言。
当時のことは、私自身も後悔しているとおっしゃっていた」
ジェイドさんが、下をむいてつらそうに目を細める。
ああ! やっぱり直接問いつめたんですね!?
よくお咎めなかったな!? こんな状況だからか?
にしても、団長! 後悔してたんなら、もうちょっとなんとかできなかったのか!?
「俺は……俺よりも高みにいたお前を倒してこそ、本当の意味で『次期団長』という立場につけると思っていた。
そんなお前が、理由も話さず去っていった。それで、勝手に失望していたんだ」
「……悪かったな」
「謝るな! 悪いのは……俺だ」
ジェイドさんが首を横に振り、否定。次に、なぜか俺に視線をむけた。
「獣人の。お前が言ったとおりだ。もし当時、真実を知っていたら俺はきっと……絶望して騎士団をやめ、落ちぶれていた。
今の俺があるのは、ライリー。お前のおかげだ」
「…………」
「俺の数々の非礼を、許せとは言わない。この先、どんなそしりも受けいれる」
ジェイドさんが、再び腰を曲げて深く頭を下げた。
想いは、俺にも十分伝わった。
ライリーさんは、どうだろう。
ちらりと横目で見ると、彼は呆れたようにため息をついていた。
「お前は……ほんっとに、クソまじめだな。昔っからちっとも変わってねぇ」
ライリーさんが、ジェイドさんの頭の後頭部を、拳で軽く叩く。
「もっと気楽にかまえろよ。ずっと気ぃ張りつめてたら疲れるだろうが。
たまには手抜きしろ……って、前にも言っただろ?」
「……っ!」
いつになく優しい口調。
ジェイドさんの体が、わなわなと震えた。
……そうやって、悪友みたいな感じで、ときにはライバルとして、友情を深めていったんだろうな。
顔を上げたジェイドさんは、なにかをこらえるように歯を噛みしめていた。
そして、差しだされたライリーさんの拳に、自身の拳をつけた。
これで、晴れて仲直りだな。
……っ泣ける! いいコンビじゃん、この二人!
いや、ライリーさんの今の相棒は俺だけど!
「獣人の」
感動して言葉が出てこない俺を、穏やかな表情を浮かべたジェイドさんが呼んだ。
「礼を言う。お前のおかげだ」
「え? いやいや。そんなことないですよ」
「ある。お前には、返さねばならない借りがいくつもできてしまった。今回の戦いの件、ライリーとの件。それから……魔導祭での件と」
「そんな。さっき助けてくれたじゃないですか。ライリーさんとの件は、俺が二人に仲直りしてほしくて勝手に言っただけですし。
魔導祭の件は、まぁ……そうですね……」
あれを、借りと思われても困るんだが。
すこし考えて、思いつき、手をポンと叩く。
「じゃあ、呼び方。獣人の、じゃなくて名前で呼んでくれません? それでチャラでどうですか?」
「それでなんでチャラになるんだよ」
「名前で呼ぶってことは、ジェイドさんの中で俺のランクが上がったとも言えるから! 違いますか?」
ジェイドさんの肯定を求めて見ると、彼は一瞬キョトンとしたあと、笑った。
「お前は……本当におかしな奴だな」
ジェイドさんが、俺に手を差しだす。
「そうさせてもらおう。改めて……礼を言う。ポルテ」
「……! こちらこそ!」
俺は、満面の笑みでその手を握りかえした。
戦争中。まだまだ課題は山積みだけど、ようやく一つの懸念が払しょくされた。
そしてなにより、灰翼教団の四騎士を、また一人討ちとった。
自信もっていいよな。俺たちは、最強だって!
けれど――そのとき。
『ギルベルトの言ったとおりだった。お前、コンラートを討ちとった奴だな?』
なぜか、大男フランツのその言葉が脳裏をよぎり、ほのかに不安をおぼえた。
読んでいただき、ありがとうございました。
まだまだ続きますので、引き続きお楽しみください!
次回は、あさって木曜日の20時頃更新予定です。




