57話 絶体絶命なのでたまには人に任せてみた
馬車の中で、改めてルーファス先生に尋ねる。
「レイヴンホルムって、マリナス騎士団並みに強いところなんですよね? ヤバ――大変、っていうか。一大事じゃないですか?」
「ああ。あそこには要衝となる砦があって、幾度も敵の侵略を防いで――」
「つまり、めちゃくちゃ堅いってことですね?」
「……そのとおり。まさか、落とされるとは……」
ルーファス先生が、口元に手を添えて嘆く。
「砦が落とされたとなると、被害も甚大じゃないですか。領主様とか領民とか……大丈夫ですかね?」
「あそこの領主って……だれだっけな」
「デズモンド・オブ・レイヴンホルム・エインズワース辺境伯。君もお会いしたことがあるはずだよ」
言われても、ライリーさんは「そうだっけな……?」と、覚えがない様子だった。
っていうか、名前、ながっ。よく噛まずにスラスラ言えたな、先生。
いや、それよりも。
我が国の重要拠点の、防衛力に優れた砦を突破した敵とは、だれなんだ?
「もしかして、例の四騎士の一人が出てきたとか?」
「確証はねぇが、その可能性が高いな。メリッシアーノとセラフィアに、あそこを突破できるほどの力があるとは思えねぇ」
ライリーさんの炎魔法で、尻尾まいて逃げだすような軍隊ですしね。
精鋭ぞろいの騎士団を撃破するほどの実力者……どんな奴だろう。
前の、コンラートとかいう金髪マッシュみたいな、人を見下すタイプだったら嫌だな。弱い奴には興味ない、みたいな。
しばらく行ったところで、ルーファス先生が途中下車した。王都を守る防壁の強化のためだ。
「二人とも、くれぐれも油断しないように。自分の力を過信してはいけないよ」
「わかってるっての」
「先生もお気をつけて!」
神妙な顔で頷くルーファス先生に見送られ、先へと進む。
レイヴンホルム領に入る手前で馬車を降り、そこからは徒歩でライリーさんと一緒に砦へとむかった。
……砦がどこにあるかは、一目瞭然だった。
煙が、もうもうと上がっている。
「あれ、だよな」
「ああ」
砦が攻めおとされたのは、本当だったようだ。ガセネタであってほしかった。
近づくほどに、煙や火薬のきな臭いにおいが強くなってくる。
「油断するなよ、ポルテ」
「ああ!」
緊張感を保ちつつ、一歩一歩近づいていく。
辿りついたそこは、やはり荒れ放題だった。
未だにちろちろと火がくすぶっている。その音がよく聞こえるほどしずかで、人の気配はない。
「だれもいない……な?」
「だから、油断すんじゃねーよ。どこかで敵が待ち伏せしてるかもしれねぇ」
「わかってるって」
一旦二手に分かれて、異常がないか、生存者はいないか捜索することにした。
しずかすぎて、かえって落ちつかない。っていうか、不気味だ。
「どこにいったんだ……? なんでだれもいないんだよぉ」
「俺が一人残らず潰してやったからだ」
瞬間的に、背筋がぞわっと粟立つ。
背後から、低くて重い声。
ゆっくりと振りかえった先にいたのは、異質なオーラを漂わせている人物だった。
剣を杖のようにして地面に刺し、柄の先に両手を重ねて座っている。
そいつが、ゆらりと立ちあがった。
で……っでかい!
あきらかに二メートルは超えている。たぶん、ジェイドさんよりもでかいぞ。
顔はゴツゴツした岩のようで、目は獲物を狙っている肉食動物のようにギラギラしている。
その大男が、俺を見てニヤリと笑った。
――金髪マッシュと同じ、黒い鎧。
やっぱり、灰翼教団の四騎士の一人だな!?
「どんな強者がくるのかと楽しみにしていたが……まさか、お前のような子どもとはな」
「な……っなんだとコラ! 子ども言うな!」
そりゃ、あんたから見たら子どもに見えるだろうけど! 主に身長差のせいで!
「強いのか」
「……はぁ?」
「お前は……強いのか?」
大男が、品定めをするかのようにジロジロとこちらを見る。
強いのかって?
そりゃまぁ……多少なりとも強いと自負してますけど。
「やってみろ」
「……なに?」
「お前の魔法、この身で受けきってみせよう。試しにやってみろ」
大男は、力を抜くように腕をおろした。
……え? なに、誘ってる?
くそ、余裕ぶっこきやがって。もしや、罠か?
相手の魔法を反射する、カウンターのスキル持ちかもしれない。もしそうなら、相当ヤバいぞ。
なんたって、俺の魔法の威力は折り紙つきだからな!
「カウンターしようとしている、とでも思っているならまちがいだ。俺にそんな力はない。安心しろ」
……安心、できませんけど!?
っていうか、また心読まれた! 俺ってそんなに顔に出やすいタイプですかね!?
どうしよう。信じていい……わけ、ないよな。
けど、俺にはこの魔法しかないし。カウンターされるのを想定しておけば、対応できなくはないはず。
よし! お望みどおり、やってやる! せっかくだし、魔法陣からのフルセットをくらえ!
魔法陣を描く。今回は、急いではいないので人型のまま。
手先に力をこめ、無唱発動でほんのりと黒い霧を出してから、呪文。
そして――
「黒い霧!」
黒い霧が、もろに大男にかかり、覆いつくした。
どうだ! さぞかし体が重いだろう!
やってみろ、なんて言ったのを後悔するがいい!
「やはり……な」
「っ!?」
――大男に、変化はなかった。
そんな……ウソだろ?
当たらなかったわけじゃない。まちがいなく直撃した。
フルセットの、無唱発動込みの最大威力の、俺の弱体化の魔法が。
なのに、なぜ?
「ギルベルトの言ったとおりだった。お前、コンラートを討ちとった奴だな?」
「……だ、だったら、なんだ」
「気にするな。あれはただの子どもだ。むしろ片づけてくれて助かった」
大男が、鼻で笑う。
「片づけって……仲間だろ!?」
「ばかを言え。立場は同じだろうが、そのように思ったことは一度もない。
ボスの言うことをろくに聞かず、好き勝手飛びまわる……目障りなハエのような奴だったからな」
金髪マッシュの顔を思いうかべる。
……それは逆にハエに失礼では、と思わなくもない。
すると、大男がニヤニヤしながら剣を抜いてかまえた。
「お前を倒せば、もっと強い奴がくるか?」
地面を蹴り、素早く間合いをつめてくる。
言葉さえも、発する間はなかった。
斬られる!
――そのとき、俺と大男の間に、火柱があがった。
大男が後方に跳び、距離をおく。
唖然としている俺を庇うように、ライリーさんが前に出た。
「ライリーさん……!」
「下がってろ」
いつになく真剣な表情。か……っかっけぇ!
「ライリーさん! あいつ、俺の魔法が効かねぇんだよ!」
「知ってる。見てた」
「はい!?」
しれっと言ってのけるライリーさんを、目を見開いて見上げる。
こんにゃろ。さては、様子見してたな?
「相当面倒な奴だってことは……言われなくともわかる」
ライリーさんが、大男を見ながら、手袋がしっかりはまるように引っ張った。
大男は、さらに目を輝かせている。
「お前……強いな?」
「……どうだかな」
「強いに決まってんだろ! この人は、賢者で勇者の国一番の魔法使いなんだぞ!」
「お前は小者か」
指をさしながら教えてやると、ライリーさんの拳骨が降ってきた。
すこしはビビる……わけ、ないか。
大男は、目を大きく開いてさらに口角を上げていた。
「勇者……お前、ライリー・クロックフォードだな? 俺の名は、フランツ・ローゼンミュラーだ。さぁ、勇者よ。俺を! 楽しませてみろ!」
フランツと名乗った大男が、再び剣を振りあげて間合いをつめてくる。
俺は、遠慮なくライリーさんから離れて、崩れかけた壁を盾にして見守る。
「黒炎・紅蓮断!」
ライリーさんが、容赦なく斬撃のような炎を飛ばす。
大男フランツが、怯まずそれを剣で振りはらって消し、突っ込んでくる。
振りおろされた奴の剣を、ライリーさんが槍の先のような形にした炎を腕にまとって、受けとめる。
「さすがだ。いい火力だな」
……満足させただけだったようだ。
ライリーさんが舌打ちをする。
「ポルテ! 周りに飛び火しないようにしとけ!」
「っ! まかせろ!」
つまり、周りに影響が出るほどの高火力の魔法をやるつもりだな!?
壁の前に出て、いつでも魔法を使えるように準備をする。
ライリーさんが、フランツの剣を振りはらう。
すこし距離をとって、呪文を唱えだした。
「黒炎・火竜咆!」
名を叫んだ途端、手の先からドラゴンの頭部をかたどった炎が噴出する。
それが、まっすぐフランツへむかっていった。
奴はよけられずに、炎のドラゴンに飲みこまれた。
よし……! これは大ダメージだろ! っていうか、あんなのくらって立ちあがれるわけが……
「……終わりか……?」
フランツは、体から煙をあげながら若干前かがみになった状態で立っていた。
大やけどを負っているはずなのに、その顔は苦悶に歪むどころか、笑みをたたえている。
立ちあがる以前の問題!? 倒れてすらいなかった!
いつも冷静沈着なライリーさんでさえ、その狂気の笑みを見て、目を見開き驚いていた。
「悪くはない……だが、こんなものではないだろう? もっと……もっと俺を楽しませろ!」
あいつ、薬でもキメてんだろ! 絶対そうだ!
「厄介な強化魔法、使ってやがる」
「強化魔法!?」
「痛みを麻痺させるタイプか……もしくは、快楽に切りかわるタイプだ。魔法っていうより、呪術に近い」
「じゃあ、俺の魔法が効かなかったのは……!」
「それのせいだ。加えて元々、魔法耐性が強いってのもあるかもしれねぇ」
一旦距離をとって離れたライリーさんが、こっそり解説してくれた。
それはめちゃくちゃヤバすぎる。
もしも快楽に切りかわるほうなら、攻撃して傷つければ傷つけるほどあいつを喜ばせるだけだ。
戦闘が長引くほど、こちらが消耗して不利になる。
なにかこう、一撃で仕留める方法はないものか。
……ああ! 俺の魔法が通用すれば!
嘆いている間に、ライリーさんが再び炎の槍を出現させる。
それで大男にむかっていき、剣をなぎ払った。
その影響で、あちこちに飛び散る炎。
消火活動に走る俺……のもとに、飛んでくる剣。
「は!?」
ちょ、なんでこっちくる!? 今、手がふさがってるんですけど!?
獣化してよけようとしたが――すでに遅かった。
間に合わなかったわけではない。
その剣を、駆けつけたある人――ジェイドさんが叩きおとしたのだ。
「ケガはないか、獣人の」
……ウソぉ。なに、このおいしい展開!
読んでいただいた皆様、本当にありがとうございました。
次回は戦闘決着もとい、仲直りパートになります。ご期待いただけたら幸いです!
来週火曜日の20時頃の更新を予定しております。どうぞお楽しみに。




