55話 会議は滞りなく進んだので意気揚々とお誘いにのってみた
巨大な長方形の部屋。
中央に、これまた長方形の大きな会議卓があり、すでにほとんどの席が埋まっている。
壁際には、書類をもった文官らしき人たちが控えていた。
奥にある一段高くなったところに設置された玉座は、当然ながらまだ空だった。
会議卓には、騎士団の本陣にあったのと似たような地図が広げておいてあり、ところどころに書きこみやマークがある。
ほおお。ザ・会議室って感じだ!
すでにいた貴族や重臣らしき人たちの奇異な視線を一斉に受けたが、覚悟していたおかげでさして気にならなかった。
その中の一人、ルーファス先生も俺を見て目を丸くしていた。
おお、先生も来てたんだな。防壁管理者の一員だからだろうか。
ところで、俺の席は……あるわけない、よな。
たぶん、下座――扉近くの壁あたりにでも立っとけって感じだろう。
「勇者ライリー様、ポルテ様。よくぞお越しいただきました。どうぞこちらへ」
文官の中に紛れていたベアトリス様が近寄ってきて、案内してくれた。
……え? 俺の席、あるんだ? やったぜ。
ライリーさんの席とは離れた末席だったけれど、それは身分的な問題のせいだろう。
「席がある」だけでもありがたいのがわかっているから、文句はない。
そして、騎士団団長、ジェイドさん、ローズさん、ザックさんもやってきて、会議卓の席がすべて埋まった。
ざわざわと、私語やら情報交換の言葉が飛びかう。
「女王陛下、御成り」
しばらくして、俺たちが入ってきた扉とは別の扉のそばに立っていた人が、叫んだ。
途端に室内がしずまりかえり、全員が起立して頭を下げる。
……ちょい出遅れた! 悔しい!
スッスッと、服が床にこすれるような音がした。
目だけでも上げて見てみたいが、ここは我慢。
しばらくして、サッとだれかが椅子に座ったような音がした。
「面を上げよ」
とてもきれいな、凛とした女性の声だった。
顔を上げると、豪華なドレスを身にまとい、王冠をかぶった女性が玉座についていた。
お顔を見られたのはほとんど一瞬だったが、かなり若そうだった。
二十代はさすがにないだろうけど、三十代前半と言われても普通に納得できるレベルだ。
このお方が、女王様か。
全員がなにも言わずに着席――またしても出遅れた――する。
「これより会議を始める。まずは……マリナス騎士団団長、クラーク伯」
「はっ」
呼ばれた団長は、返事をしながら席を立ち、胸元に手を添えつつ一礼した。
……団長、そんな名前だったんだ。いや、「クラーク」っていうのは家名か。
「王都防衛において、よく動いてくれた」
「恐悦至極に存じます」
褒められて、団長が頭を下げて返事する。
「前線の動きについて報告を」
女王様に促され、団長が淡々と報告していく。
ライリーさんから連絡をもらい、王都内に侵入していた屍兵を早々に処理できた件。
メリッシアーノ軍とセラフィア軍が進軍しているとの情報を受け、二国から一番近いグリムフォード領に本陣をかまえた件。
その二つの軍と、軽くぶつかり合った件。
……セラフィアから、降伏を促す文書が届いた件は割愛していた。
勝手に握りつぶしたなどと言ってしまえば、問題になるからだろうか。
それとも、すでに上には報告が上がっているから省いただけか?
「民衆の被害は?」
「……重軽傷者が複数。いずれも命に別状はないとのことです」
団長が一度ザックさんと目を合わせて頷きあったあと、答えた。
女王様はそれを聞き、すこし顔を俯けたのちに頷いた。
……国民を気にかけているのか?
「恐れながら、もう一つ懸念すべき事項がございます。ルーンベルクの灰翼教団の騎士団が動きだしている模様です」
瞬間、会議室がざわめいた。
「メリーベールの件だな?」
「は。小麦の貯蔵施設に、ルーンベルクの一団がむかっているとの情報が入り、我ら騎士団の一部隊に加え……」
団長はそこで言葉を切って、俺に視線をむけた。
「勇者ライリーの弟子、ポルテが迎撃し、一団の中にいた幹部の一人――コンラート・ベッカーを討ちとりました」
すぐさま、全員の視線が俺にむく。
これにはさすがに、ぎょっとした。
女王様まで俺を見て……あ、笑った。優しい笑顔だな。
「ご苦労であった」
陛下は、優しい笑顔からすぐにキリッと表情を引きしめ、俺を見たまま言った。
え、あ……これ、俺が返事するところで合ってる?
ライリーさんが、「早くしろ」とでも言いたげに首を軽く動かしていた。
「は、はい。恐れ入り、ます」
――返事として合ってない感がすごい! けど許してください!
と、心の中で祈っていたら、女王様はなにも言わなかった。
見逃してもらえたん……だな? よかった!
いや、もうマジで団長! いきなり俺に注目集めるのやめてくんないかな!? 光栄だけど、心臓に悪いって!
そんな感じで俺が変な汗をかいている間、メリッシアーノ軍とセラフィア軍に使者を送って降伏するように申し入れをするのが決定。
あとは、ルーンベルクの灰翼教団の騎士団の動きを注視していくように、と話がまとまった。
ライリーさん一人の炎魔法で蹴散らされた二軍は、降伏してくれる可能性は十分あるだろう。
やはり、問題なのはルーンベルクか。
「メリーベールが再び狙われることも考えられる。警備を強化し、すぐに情報が伝達できるように態勢を整えておけ」
「承知いたしました」
「ルーンベルクと領土が接しているレイヴンホルム領、エルドミア領は急ぎ砦の防衛力の強化を」
「はっ!」
女王様から名指しされた領地の当主らしき人が立ちあがり、それぞれ返事をした。
そういえば、ライリーさんのお兄さん、アッシュボーン伯爵の姿がないな。
どこの当主が呼ばれるのかなんて俺にはわからないけど、アッシュボーンにまではまだ戦火が及んでいないせいだろうか。
……伯爵様、ライリーさんに会いたかっただろうな。心配してるだろうなぁ。
「マリナス騎士団は、引き続きグリムフォード領に駐留。
メリッシアーノとセラフィアとの和睦協議が不和に終わる可能性も考え、いつでも動けるよう準備を怠るな」
「かしこまりました。王都の警護は」
「近衛騎士団が主に担当する。万が一のときは力を借りるやもしれぬ。その点についても心しておくように」
「はっ」
団長が返事をし、最後に女王様は参加者全員を見まわした。
「これ以上、だれの侵略も許すな。全力を尽くせ――よいな?」
「はっ!」
キリっと引きしめた表情で言った女王様。
全員が立ちあがり、胸に手を当てて一礼して返事した。
俺も、今度は遅れずに同じタイミングで。
……ああ。かっこいいな、女王様。たしかにこのお方なら、ついていこうと思える。
会議が終了し、女王様は先に会議室から出ていった。
俺たちは全員、一礼した格好のままそれを見送る。
……ふう。なんとか粗相せずに済んだな。
まぁ、こんな場で俺みたいなのが発言を許されるわけがないし、そもそも呼ばれただけでもおかしな話だったからな。
たぶんあの、「四騎士の一人を倒した」件で、当事者に確認しておきたかったとかそんなところだろう。
「ポルテ様」
「は……あ、はい。なんでしょうか」
ほっと息をつきながら出ていこうとしたところ、ベアトリス様に声をかけられた。
彼女は、なぜか困ったような笑顔を浮かべていた。
「陛下が、二人きりで話がしたいとの仰せです」
「……へっ?」
うん? 陛下が……二人きりで話? だれと?
……俺と!?
マジか! 夢か!?……いや、違う!
すげぇ! ローズさんの占い、ガチで当たったじゃん! さすが的中率八割強!
「どうぞこちらへ」
「はい!」
ベアトリス様に促され、うきうきしながら彼女のあとについて、女王が出ていった扉から会議室を出た。
後ろでライリーさんがなにか言っていたようだけど、よく聞こえなかった。
◇◇◇
「ばか、おい待て……!」
ライリーは必死に手をのばし、ポルテをつかもうとした。
しかしそれはかなわず、無情にも扉は閉まってしまった。
唖然として、それを見つめる参加者たち。
ライリーは、がっくりと椅子に座りこみ、頭を抱えた。
「……ライリー。しっかりしなさい」
見かねたルーファスが、そんな彼の肩に手を置いた。
しかし、ライリーは頭を抱えたまま首を横に振る。
「無理だ……! あいつ! 絶対不敬罪で首はねられる!」
――だれも、その嘆きの言葉を否定する根拠をもっておらず、沈黙した。
◇◇◇
ベアトリス様の後ろを、無言でついていく俺。
……帰りも、だれか案内してくれるんだよな?
一人で帰れとか言われても、絶対迷って変なところに入っちゃう気がするんですけど。
「妹の件、ありがとうございました」
一人で余計な心配をしていたら、突然ベアトリス様が話しかけてきた。
妹の件?……魔石精錬所を見学したときの話か?
「あ、いえ。その後なんともなかったでしょうか」
「ええ、もちろん。アリアはとても喜んでおりました。
魔石の精錬作業を見学できた件もそうですが……あなたの魔法と、あなたの獣化した姿を見られたことが相当嬉しかったようで」
「それは光栄です。でも、あの……申し訳ありませんでした。まさか防壁を壊すなんて事態になるとは――」
「防壁を壊す? なんのことでしょうか」
「え? いや、報告が上がっているはずですが」
「……さて。私にはなんのことだかさっぱりわかりませんね」
ベアトリス様が振りかえり、俺に不敵な笑みを浮かべた顔をむけてきた。
こ、この人……まさか隠ぺいするつもりか!? っていうか、したのか!?
妹が関わる件だからか!? さすがだな、おい!
……まぁ、それならそれで、こちらとしても助かる。
うしろめたさは若干残るけど、問題ないなら気にする必要はないか。
「こちらです」
ベアトリス様が立ちどまった。
目の前には、白い木枠にガラス窓がはめこまれた扉がある。その窓から、部屋の中の様子がすこしだけ見えた。
植物が生い茂っている。ここは……植物を育てている温室か?
うん? この中に、女王様がいるのか?
困惑している俺を無視して、ベアトリス様が扉を開けた。
一礼してから、おそるおそる中に入る。
やはりここは、温室だ。大きな葉っぱをもつ南国風の木やハイビスカスに似た赤い花が咲いている。
通路のように整備された道を歩いていくと、途中でバラのような青い花が咲いているのを見つけた。
……待てよ? 青いバラって、自然界には存在しえないんじゃなかったか?
もしや、この中にある植物全部、魔法を応用した技術でつくられたとか?
「美しかろう」
「っ!」
青いバラに触れようと手をのばしたとき、突然背後から話しかけられ、体がびくっと震えた。
振りかえった先には――先程とは違うドレスを身にまとった女王様が、得意げな表情を浮かべて座っていた。
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