53話 小生意気な奴がちょっかいだしてきたので一蹴してみた
野営で鹿らしい肉入りスープを作っていた騎士から一杯もらって食べていたときに、遅れてザックさんが到着した。
団長に報告をする場に、俺とライリーさんも同席する。
……ジェイドさんは、いない。
「屍兵の一部に、ルーンベルクが有する地域にしか存在しない薬草の断片が付着しているのが確認されましてね。ルーンベルクの仕業と確定したと言っていいでしょう」
「そうか……」
団長が神妙な顔をして頷く。
付着していた薬草って、なんだろう。ひっつき虫か?
……どうでもいいか。
こんなに簡単に犯人がわかってしまうなんて。ルーンベルク側は、「バレてもかまわない」とでも思っているのだろうか。
「どういうわけか、ルーンベルクでは裏で屍兵の研究が行われていた……いや、行えていたわけか」
「そのようで。この先も、攻撃手段として用いてくる可能性は高いでしょうな」
「対処法について、具体的に教えてもらいたい」
「魔術そのものを無効にするか、体内に埋めこまれた魔石を壊すか取りのぞくのが有効です。他の体の箇所を攻撃しても、まともにダメージは与えられません」
ザックさんは、そこで一旦言葉を切って、俺のほうに顔をむけた。
「つまり、ポルテくんの魔法がよく刺さるということですな」
途端に、全員の視線が俺に集まる。
たしかに、フレッドさんには一発で効いたからな。
もしまた同じような人が目の前に現れたら……やるしかない。
「おまかせください!」
ドン、と胸を拳で叩いて、言った。
団長から「その際は頼む」と、言葉をもらい、胸を張って頷いた。
「団長! 大変です!」
そこへ、一人の騎士が慌てて駆けこんできた。
「どうした」
「メリーベール領にむかって、ルーンベルクの一団が進軍しているとの情報が入りました!」
「メリーベール領、だと?」
一瞬で、空気が張りつめる。
そこがどこかは知らない。けど、重要なのは「ルーンベルクの一団が進軍してきた」点だ。
「それはたしかか? 情報源は?」
「ローズマリー様です。他の領地をあちこち飛びまわっていた使い魔が発見したそうです」
団長は、険しい顔をしながら「ふむ……」と頷いた。
ローズさん、来てたんだな。「あちこち飛びまわっていた使い魔」とは、まちがいなくミミズクもどきの魔物、フォカロだ。
そこで、ライリーさんをこっそりつついて呼んだ。
「メリーベール領って?」
「王都の北東にある領地で、流通してる小麦のほとんどを生産してる穀倉地帯だ」
「王都に滞在されていた王族や貴族の一部には、ここを避難所として使っている方々もいるらしいね」
「……王都にいた王族や貴族、の!?」
ザックさんの補足を聞いて、ある可能性がよぎる。
――もしかして、その中にはアリア様もいるんじゃ?
大変だ……! いや、そうじゃなくてもだ!
早く行って食いとめないと!
「ライリーさん!」
「行ってこい」
名を呼んだだけで、ライリーさんは俺の考えを察知し、頷いて背中を押してくれた。
さすがは相棒。
「すぐに部下たちにも行かせる。よろしく頼む」
「はい!」
団長にむけて敬礼し、ライリーさんとザックさんとアイコンタクトをしてから、走りだした。
……ええと? ところで、どうやって行きゃいいんだ?
「坊や!」
移動手段を探していると、ローズさんに声をかけられた。
足元には、フォカロが大人しく待機している。
「やっぱり来てたんだね」
「はい! ローズさん、俺――」
「わかってるよ。メリーベールに迎撃しにいくんだろう? この子に乗っておいき」
「……え!?」
ローズさんが、フォカロの首元をなでる。
話が早くて助かるけど、「この子」って……フォカロのこと、だよな?
「乗れるんですか?」
「なめんじゃねぇ。お前みたいなちんちくりん一人くらい、乗せられないわけねーだろうが」
「悪かったな、ちんちくりんで!」
言いかえした俺の言葉を聞いて、ローズさんが笑った。
「説明は省かせてもらうよ……フォカロ、いい子ね」
「はっ!」
ローズさんの言葉に反応したフォカロが、翼を広げる。
すると、フォカロの体がむくむくと盛りあがり、二回りほど大きくなった。
すっご……! これなら余裕で乗れるぞ。なんならもう一人くらい一緒に乗れそうだ。
「さぁ、これでいいね? お行き」
「ありがとうございます! フォカロ様! よろしく!」
「いいからさっさと乗れ!」
すこし前かがみになったフォカロの背中にまたがる。
そして、フォカロが羽ばたいて、飛びあがった。
「振りおとされるなよ!」
「やめてください!?」
縁起でもないことを言ってきたので、俺はしっかりとフォカロにしがみついた。
しばらくしてうっすら目を開けると、すでに地上にあるものが豆粒のように見えるほどの位置にいた。
背後のほうから、少数の騎馬隊のようなものが走っている。たぶん、団長が手配してくれた彼の部下の一団だ。
……っていうか、高っ! こんな高くまで飛べるなんて。
「すっげ……! フォカロ様、すごいな! 超気持ちいいんですけど!」
「ずいぶん余裕だな。呆れた奴だ」
「いやいや! だってフォカロ様がすごいんだし! 人乗せてここまで飛べるなんて。こんなに飛行能力優れてたなんて知らなかった! すげーな、ホントに!」
「……そうだろそうだろ!」
すげーすげーと調子にのっておだてると、フォカロは上機嫌に翼を動かし、絶叫マシンさながらに上下左右に動いた。
うわ、楽しい!
……あ。いけね。占い担当のカミオに、「あまり調子にのらせるな」って注意されてたんだっけ。
ごめん、カミオ。もう手遅れだ。許してくれ。
「そろそろ着くぞ。覚悟はいいな?」
「おう!」
しばらくして、フォカロがそう言って高度を下げはじめた。目的地のメリーベール領が近いらしい。
たしかに、地上の景色が一変していた。
広大な畑が広がっていて、ドームのような形をした建物が一つある程度だった。
「あの建物は?」
「貯蔵庫だ。小麦を寝かせるための施設だよ」
「……! よくご存じで!」
「なめんな! 偵察はアスタロトだけの専売特許じゃねぇんだよ!」
フォカロの抗議はおいといて。
前方を見ると、貯蔵庫にむかっている謎の騎馬隊がいるのが確認できた。
「あいつらか?」
「そうだよ。見ればわかるだろ」
フォカロの言うとおり、騎馬隊の全員が黒い鎧を身につけていて、味方の部隊とはあきらかに違う。
あいつら、なんで貯蔵庫にむかっているんだろう。どうするつもりだ?
……まさか、あれを燃やして兵糧攻めでもするつもりか!?
腹減ってるのに食べ物手に入らないなんて、めちゃくちゃ絶望的なんだぞ! させるか!
「あの連中の先頭にまわって降ろしてくれ! そしたらフォカロ様は離れてていいから!」
「はぁ!? ばかか!? 俺が連れてってなにかあったら、俺がご主人様にどやされるんだぞ! 勝機はあるんだろうな!?」
フォカロの不安げな質問に、俺はニヤリと笑った。
「勝機は、作るもんだよ」
「……あっそ」
冷たくあしらわれた! 俺の渾身のイキりがスルーされたんですけど!? ひどい!
そうして、フォカロがスピードを上げ、貯蔵庫にむかっている集団の先頭にまわり、そこで体を傾けた。
俺は、そのタイミングでフォカロの背中から飛びおりた。
「全体、止まれ!」
黒い鎧の騎馬隊が、俺の姿をとらえて止まる。
人数は、ざっくり数えて十人いるかどうか。
……まぁ、なんとかなるか。
「何者だ!」
「それはこっちのセリフだよ。あれになんの用だ?」
先頭の騎士に問われ、貯蔵庫を指さして聞きかえす。
……だれも答えず、にらみ合いが続く。
「なんの用、だって? 決まってるだろ」
前にいた騎士がよけて、道を開ける。
中心あたりにいた一騎が、一団の先頭に移動。
その騎士が、俺を見下ろしながらうすら笑いを浮かべた。
「奪うためだよ。この世のすべてのものは……俺のものだからなぁ!」
「はぁ?」
胸を張って得意げに言うそいつに、俺は半ば困惑して目を細めた。
なんか、いろんな意味でヤバそうな奴が出てきたな。
「コンラート・ベッカーだ。お前はなにを持っている?」
「……なにって言われても。あんたの欲しがりそうなものはなにもねぇよ」
「はっ! なにも持ってないのに俺の前に立ちふさがったのか! 度胸あるな。名は?」
「ポルテだ。家名はない」
「……なに? 家名を持っていない?」
コンラートと名乗った奴は、一瞬きょとんとしたあとで、声を上げて笑った。
他の騎士も、それに続いて。
いや、別に普通だと思うけど。家名がない奴なんて、そこら中にいるだろ。
ひとまず、彼を観察する。
きれいなサラサラした金髪を、マッシュルームヘアーに整えている。
胸元には勲章がいくつもつけてあって、只者じゃないとわかる。
人は外見では判断できない、しないほうがいい、とはわかっているけれど。どう見てもこいつは、俺と同世代だ。
そんな年で、あれだけの勲章を授かれるとは。かなりの凄腕か。
「じゃあ、そこの――ポルテ、とかいったか? 死ね。蒼焔葬呪!」
「はっ!?」
金髪マッシュルームが、懐から本を出して、俺にむけて手を振りかざした。
途端に、その手先から出た青い炎が襲ってきて、俺は身をかがめてよけた。
よけた炎が地面に当たると、そこにあった雑草が――たちまち、灰になった。燃えあがるのを通りこして。
化学反応を無視している。マジでヤバいやつだ!
「よくよけた……こうでなくちゃなぁ。けど、次はどうだ!?」
金髪マッシュが、再び呪文を唱える。
「黒い霧!」
無唱発動からの魔法発動で、再び襲ってきた青い炎を黒い霧で完全に包みこんで打ち消した。
おかげさまで、炎の相手なんて慣れっこなんだよ。
どうだ、とばかりに腰に手をあてて鼻から大きく息を吐いてみせると、金髪マッシュは面白くなさそうに舌打ちをした。
「そうか……お前、ボスの作った屍兵を一つ残らず消した奴か!」
「……一つってなんだ。一人、だろ」
「はぁ? なに言ってんだ。あれは死体。物だろうが」
――瞬間、ブチっと頭の中でなにかが切れるような音がした。
こいつ、許さねぇ。潰す。
「お前みたいな甘ちゃんはぁ、さっさと灰になれよ!」
青い炎が、むかってくる。
黒い壁。
目の前に黒い霧が集まり、巨大な壁が出現。炎を完全に遮る。
その壁を、思いきり殴る。
壁はそのまま、前へと倒れていく。
悲鳴のような声が聞こえたが、すぐにやんだ。
倒れた壁は、金髪マッシュだけでなく、その後ろに控えていた他の騎兵たちも巻きこんだ。
――だれも、起きあがってはこなかった。
「お前の炎なんて、ライリーさんのと比べたら……弱火どころかとろ火だっつーの」
今度は俺が、奴らを見下ろして言った。
読んでいただきありがとうございます。
今回より新章突入です!
敵国の肝となる強敵との戦闘が続きます。お楽しみいただけたら幸いです。
次回は、あさって土曜日20時頃の更新を予定しています。




