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海の賢者、気づけば国の命運背負ってました 〜追放されたタコの獣人が異国で勇者と公爵令嬢に見出され、大賢者になる〜  作者: 手羽本 紗々実(てばもと ささみ)
五章 王都防衛戦編

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51話 絶望の底に落ちたので必死に希望を探してみた

 初めて会ったとき。



『俺もお前と同じ獣人だからな。助けあうのは当然だ』



 初めて炉辺亭(ろべんてい)で会ったとき。



『またいつでもこい』



 出身国の事情を知って、ショックを受けたとき。



『お前は、これまでどおりありのままで……明るい奴でいてほしい』



 再び行った炉辺亭で、料理のレシピを教えあったとき。



『お前は面白いな。表情がころころ変わって、見ていて飽きない』



 そして、ついさっき。


 俺が、瀕死状態から奇跡的に回復したとき。



『無事でよかった』



 ――それらのセリフが、まるで走馬灯のように頭の中でかけめぐった。


 なんで……? どうして、フレッドさんが屍兵(アンデッド・トループ)になってるんだよ!?



「どういう、ことだよ……」


「…………」



 もはや、問いかけてもなにも返ってこなかった。


 そのフレッドさんの目は、すでにいつもの精悍なものではなく、虚ろになっていた。


 唖然としていると――急に、彼の目の色が変わった。



「っ!?」



 体毛が逆立ち、みるみるうちに獣化していく。


 ――ああ。オオカミって、やっぱりかっこいいな。


 そんな現実逃避までする始末。


 気づけば、全身がブルーグレーの毛に覆われた、大柄なオオカミが目の前にいた。


 四つん這いの格好で、俺をにらみつけている。


 そして――鋭く長い爪をもった腕が、俺に襲いかかった。


 ギリギリでよけて、なんとか距離をとる。


 ……わけがわからない。さっきまで普通だった人が、どうしてこうなるんだ?


 ふと、ライリーさんから聞いた、屍兵についての話を思いだす。


 ――屍兵は、術者の命令に忠実で暴走することはなく、「軍事用ゴーレムみたいなもの」だと。


 じゃあ、いつからだ?


 フレッドさんは、いつ死んだ?


 まさか……俺と会うより、ずっと前から?


 嫌な考えを振りはらうように、目を閉じて頭を横に思いきり何度か振る。


 どうしよう。どうしたらいい?



「無理だ。あれは死者……助けるだの、守るだの、すでにそんな領域にはおらぬぞ」



 (……っうるさい、黙れ!)



 頭に浮かんだ、ノクスヴァルドの声を遮り、前を見る。


 フレッドさんが、再び鋭い爪をもった腕を振りあげて、襲いかかろうとしている。


 身構える俺。



「……コロ……ス……コ、ロ……ス……」



 フレッドさんの声ではない異質な声が、彼の口からもれる。


 ……そんな言葉、聞きたくなかった。



「コ、ロス……コ、ロ……ポ、ル……テ……」



 ……え? 


 今、俺を呼んだ?



「フレッド、さん?」



 呼びかけてみるも、返事はない。


 彼は、振りあげた腕を下げてだらんと垂らし、すこしだけ前のめりになって目だけ俺にむけている。



「……ポル……テ……ニ、ゲ……ロ……」


「……っ!」



 かすかに聞こえたその言葉に、俺は唇を噛みしめる。


 死んでからも人のこと気にしてんじゃねぇよ……! このお人好しが!


 ――次の瞬間、再びフレッドさんが鋭い目に戻り、腕を上げて走りだした。


 そんな彼に、人差し指をむける。



黒い弾丸(ノワール・エクレール)!」



 黒い弾のようなものが俺の指から発射され、まっすぐフレッドさんの首元にむかって――当たった。


 彼は止まり、一瞬頭を後ろにそらした。


 さらけ出された首元にあった紋章が、消えていく。


 直後、体が砂状になって崩れはじめた。



「フレッドさんっ!」



 慌てて駆けよる。


 前のめりになった彼の体が、こちらに倒れてくる。


 そのとき――フレッドさんが、かすかにほほえんだような気がした。


 しかし、倒れるその体を支えようと手をのばした瞬間、跡形もなく消えた。


 なにも、残らなかった。


 俺はその場に膝から崩れおち、息をすることも忘れて、ただ呆然としていた。




 ◇◇◇




 なんとかしてザックさんのいる魔導医療研究院に到着したあとも、俺はなにも考えられずにいた。


 やはり他にも屍兵が紛れこんでいたようで、ライリーさんを含めた騎士団の部隊が処理にあたっているらしい。


 ……と、そばでだれかが言っていた気がする。



「お茶でもいかがかな」



 耳元で声がして振りかえると、そこには湯気が立つティーカップをもったザックさんがいた。



「……ありがとう、ございます」



 かすれた声でお礼を言い、それを受けとる。


 ……においがほとんどしない。なんのお茶だろう。


 一口飲んでみたが、味もよくわからなかった。



「水は必要かね?」


「……いえ。大丈夫です」



 ザックさんが、空の水槽をさして言ったが、首を横に振りながら断った。


 ――水。海。潮風。


 砂浜に打ちあげられた、肘から先がない人の腕。


 手首についたままのミサンガ。


 考えるより先に、わかってしまった。


 父さんだ。


 その腕を拾いあげた瞬間、すぐそばで騒がしい声がした。


 ――俺の、泣き叫ぶ声だった。



「……っ」



 瞼をぎゅっと強く閉じる。


 意味がわからない。どうして今、思いだしてしまったんだろう。



「ポルテくん」


「……っはい」


「屍兵の中に、闇魔導師がいたことがわかったよ」


「闇魔導師?」



 顔を上げ、穏やかな表情をしているザックさんを見上げる。



「その者が国内の一般人を殺害し、屍兵の術を施していた。すなわち、大本の術者は安全圏からその魔導師を介して屍兵を増やす方法で攻撃を仕かけ、アルケミリア(われら)を混乱に陥れようとした……というわけだね」


「そんなことが……できるんですか」


「不可能ではないよ。ただ、そもそも屍兵の術を扱うには、かなり高度な技術が必要だ。屍兵にしたあとも、命令に従わせる必要もある」


「……ライリーさんが言ってました。屍兵は、いわば軍事用ゴーレムみたいなもんだって」


「それはなかなか的確な表現だね。まぁ、私の言いたいのはようするに……遠隔操作で屍兵にされた者は、なったばかりの頃は不安定な状態にあったはず、ということだよ」


「……じゃあ、フレッドさんは……」


「君が見た彼の様子――おぼつかない足取りと、かすかに残っていた意思。それらを加味すると、屍兵にされたばかりだった可能性が高い」



 そのザックさんの言葉は、救いになった。


 跡形もなく消滅してしまった以上、調べようがないので確証は得られない。


 けれど、今まで接してきたフレッドさんの優しさは、決してまがいものではなかった。


 ……そう、言ってもらえたようで。


 目元を手で覆って、顔を俯ける。


 そのとき、部屋の扉が勢いよく開いた。


 ずかずかとだれかが踏みこんでくる足音。



「状況はどうだね?」


「あらかた片づいた。あんたの部下のおかげだよ。どいつもこいつも優秀だな」


「君にそう言われるとは。私も鼻が高いよ」



 頭上で、勝手に会話がされている。


 顔を上げるまでもなく、やってきたのはライリーさんだとわかる。


 顔を上げられずにいたら、突然後頭部を叩かれた。



「……っなに?」


「メリッシアーノとセラフィアの軍が、うちにむけて進軍してきているっていう情報が入った。俺はこれから、騎士団と合流する。お前はどうする?」


「どうする……って?」



 叩かれた後頭部をおさえながら、ライリーさんを見上げる。


 そう言われても。


 一緒に行ってもいい――わけが、ないよな。



「屍兵を仕込んだのは、まちがいなくルーンベルクの手の者だろう。彼らが、その二つの軍の進軍を手助けした、とも考えられるね」



 ザックさんの言葉に、ライリーさんが頷く。


 戦争を、有利に進めるために。そのせいで、フレッドさんが?


 ……なんでそこまでするんだろう。


 人の命を使い捨てみたいにして、そこまでの多大な犠牲を払ってまで、なにを得ようとしているのだろう。



「で、ポルテ。お前はどうする? うちに帰るか?」



 改めて聞かれて、俺は膝の上に置いた手を握って拳をつくり、歯を食いしばった。


 ……ごめん、フレッドさん。


 逃げろって言ってくれたけど、無理だ。


 待ってるだけなんて、俺はもう無理なんだ。



「行く。俺も、戦う」



 顔を上げ、まっすぐライリーさんを見つめて言った。



「一応聞くが、復讐なんて考えてねぇよな?」


「ねぇよ、そんなの。だってフレッドさんは……俺が、殺したような、もんじゃん」


「違う。お前が『解放』したんだ。敵の術に囚われてたあいつを」


「…………」



 解放、と強調されたライリーさんの言葉を、頭の中で反芻する。


 体が消滅する寸前、フレッドさんは、かすかに笑ったように見えた。


 気のせいだったのかもしれないけれど、もしライリーさんの言うとおりだったら。


 ……それでも、本当に「ああするしかなかったのか」と問われれば、断言はできない。


 フレッドさんを、生かすのを前提に助けられなかったのか。


 答えは一生出ないだろうけど、考えるのをやめてはいけないと思う。



「……大本がいるんなら、そいつを止めないと。俺は、戦うよ。だめって言われても、一人でも」



 もう一度、ライリーさんの目を見つめて、はっきり宣言した。


 ライリーさんは、しばらく俺を見つめたあと、不意に目元を緩ませた。



「一人でなんて、行かせられるかよ。行くぞ……相棒」


「おう。もどき、だけどな」


「違う」



 差しだされたライリーさんの手をとろうとしたら、ライリーさんが否定しつつその手をひっこめた。



「俺が……認めたくなかっただけだ」


「え?」


「もう一回、言わねぇとだめか? お前は……俺の相棒、だろ?」



 ライリーさんが、不敵な笑みを浮かべて拳を差しだしてくる。


 途端に目が潤んできて、涙がこぼれそうになる。瞼を閉じてそれをなんとか阻止。


 大きく息を吐く。



「……っああ!」



 ライリーさんの拳に、自分の拳をぶつけた。


 認めてもらえて、いたんだ。


 俺は、賢者で勇者の相棒。


 本人に、そう認めてもらえた。こんなに嬉しいことはない。



「おめでとう。お祝いと言ったらあれだが、よければお茶をもう一杯いかがかな?」


「ありがとうござ……っ!?」



 ザックさんがお茶をいれてくれたが、受けとった瞬間に鼻を突くような青臭さと土っぽさがまじった強烈なにおいを感じ、腕を伸ばして遠ざけた。


 ひどいにおいだけど、なんだこれ!?



「薬草茶の一種、月光茶だよ。滋養強壮にいいとされている」


「……すみません。せっかくですけど、俺には厳しそうです」


「そうかね。さっきは普通に飲んでいたけれど」


「……えっ」


「報告してくれたあとにね。においも味もなにも感じなかった……相当参っていたようだね。まぁ、無理もない」



 唖然として、ザックさんを見る。


 たしかにそうだ。あのお茶が、これと同じものだったなんて。


 ……俺、ヤバいな。


 腕をまっすぐのばして遠ざけているティーカップを見つめ、そして、引き寄せて――一気にあおった。



「……っありがとう、ございました!」


「こちらこそ。若者が成長する姿を見るのは好きなんだよ。では……私も、後片づけが済んだらむかうとしよう。気をつけていってきなさい」



 温かい言葉をもらって、ザックさんに一礼。


 そして、ライリーさんと一緒に病室を出た。


 ……出てすぐ、俺は口に手を当てて、



「にっが……!」


「当たり前だろ」


 必死に嘔吐しそうになるのを、体をかがめてこらえた。


 ライリーさんが、すこし乱雑だが背中をさすってくれたのが救いだった。


 良薬は口に苦し。たぶん、体にはめちゃめちゃいいものなんだろう!


 ……もうちょい味をどうにかしてほしかったんですけど!?

読んでいただきありがとうございました。

悲しいシーンで私も書いてて正直泣けてきました……!

次回は、来週になります。火曜日の20時頃更新予定なので、是非またご覧ください。

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