49話 大事に思われていると実感したので心から謝罪してみた
「なにがだよ!?」
ガバッと起きあがりながら言った。
しかし、瞬時に状況が違うと気づく。
ルーファス先生、フレッドさんに加え、なぜかライリーさんまでもいて、目を見開いて固まっている。
俺はといえば、なぜかどこかの部屋のベッドに横になっていたようだ。
……え? ここ、どこ? ライリーさん、帰ってきたのか? ルーファス先生、防壁はちゃんと張れたのか? フレッドさん、なんでここに?
「なんだよじゃねぇよ……っお前がなんだ!」
たくさんの疑問が噴出する中、ライリーさんがいち早く我にかえり、飛びかかろうとしてきた。
それを、フレッドさんが押さえこむ。
次に、ルーファス先生がベッドの脇に移動してしゃがみ、俺の手をとって脈をとり、顔に両手で触れてきた。
その顔は、未だに困惑している様子だ。
「な、なんです、か?」
「君は……っ死んだはずなんだよ」
「はいっ!? いや、生きてますけど!?」
「だからそれが……! 一体どうなっているんだ?」
知らんがな!
そうツッコミを入れたかったけれど、先生が若干不安げに、悲しそうに目を細めて見てくるものだから、どうしたらいいかわからなくなった。
暴れていたライリーさんが、フレッドさんの手を払って離れて、頭をガシガシかいた。すこし落ちついたようだ。
「王都の上空を覆いつくすほどの黒い霧が突然現れて……まちがいなく君の魔法だと思ったよ」
「あ、はい……影響は?」
「大丈夫。おかげで防壁は無事に張れた……けれど……」
ルーファス先生が、痛みをこらえるかのように目を閉じ、俯いた。
「避難する他の奴らに手を貸しているとき、中央広場を通ったら倒れているお前を見つけたんだ。そこで、ここまで運んできた」
フレッドさんが言った。
「ありがとう。で……ここはどこなんだ?」
「広場近くの診療所だ。すでに主は避難して出払っていたが、他に場所がなかったから無断で借りた」
無断で、かよ。フレッドさん、なかなか大胆だな……っていうか、俺のせいか。
おそるおそる、背をむけているライリーさんを見上げる。
「……ライリーさん」
「ああ?」
こわっ! めっちゃにらまれたんですけど。
「なんで、ここに? 会議終わったのか?」
「終わってねーよ。途中で魔物が王都に侵入したっていう情報が入ったんだよ。それの処理にあたってたときに黒い霧が見えたから、急いで駆けつけたんだ。そしたらこいつに呼ばれて、ここにきた」
ライリーさんが、あごを前に動かしてフレッドさんをさした。
「そうだったのか」
「……そうだったのか、じゃねぇだろうが! 呼ばれてきてみりゃ、青白い顔のお前がいてもう手遅れだって言われて……っ俺がどんな気持ちだったか、わからねぇのか!」
「だ、だから死んでねぇって!……そんなまずかった?」
怒鳴りながら詰めよってきたライリーさんをのけ反りながらよけて、フレッドさんとルーファス先生を見る。
二人は、真剣な表情で頷いた。
「俺が見つけたときには、すでに虫の息だった」
「私が駆けつけたときには……もう脈がなかった」
絶句した。
つまり俺は、まちがいなく瀕死――ほぼ死んだ状態だったのだ。
至大共鳴陣を初めてやったときは、潜在魔力が生命維持のためうまく働いてくれたから、なんとかなった。
けれど、今回はそうはいかなかった。だれにも気づかれなかったら、命を落としていただろう。
一体どうして、そんな状態から生還できたんだ?
ふと、ノクスヴァルドの最後の言葉が脳裏をよぎる。
『二度はないぞ』
……ひょっとして、俺の体に魔力を補充してくれたのか? そのおかげで生きかえられた、とか?
あいつは一体、何なんだろう。なんでこう、ちょくちょく俺の夢の中に現れるんだ?
まさか本当に、前にルーファス先生がこの指輪――『王の鍵』について、「強力な魔物が封印されている」と言っていたとおり、この中にでも封印されているのか?
あの巨体が、この指輪の中に?
……ウソだろ。某有名ゲームで使う、モンスターを入れて持ちはこぶためのボールかよ。
けど、名前は合ってるんだよな。指輪に刻まれている模様も、「ノクスヴァルドの目」らしいから。まんまそうじゃん。
不思議なことばかりだ、と考えていたら、三人の視線を集めているのに気づき、はっとする。
そしてすぐに、ベッドの上で正座した。
「ご心配ご迷惑をおかけして、ほんっとうにすみませんでしたっ!」
そう言いながら、深々と頭を下げた。そう、土下座だ。
反応が怖くて、なかなか顔を上げられずにいると、ポン、と肩に手を置かれた。
おそるおそる顔を上げると、安堵の表情を浮かべたルーファス先生と、フレッドさんが見えた。肩に手を置いたのは、後者だった。
「無事でよかった」
フレッドさんが言って、それにルーファス先生がうんうんと二度頷いて同意した。
一方でライリーさんは、腕組みをして背をむけ、舌打ちをしていた。
……二度と、この人たちに会えなくなっていたかもしれなかったんだよな。
ノクスヴァルド、マジでありがとう! かまってちゃんかよ、とか思ったりしてごめん!
心の中で精一杯お礼を言ったが、なにも変化はなかった。あいつに届いていればいいけど。
と、安心していたら、病室の扉が勢いよく開いた。
「おや……! 意識、戻ったのかね」
「っ!?」
駆けこんできたのは、ザックさん。しかも、その手には……恐怖の注射器が!
すぐに掛け布団をたぐり寄せ、防御姿勢をとる。
「……ザックさん、どうも。それはなんですか?」
「気つけ薬だよ。脈がない患者に打つ、最終手段の強いものなんだが……必要ないようだね。よかったよ」
ザックさんが、にっこりとほほえんだ。
いや、本当に! それを打つ瞬間に目が覚めでもしたら、別の意味で死んでたから!
ノクスヴァルド、もう一回お礼言わせて! ほんっとに、ありがとう!
◇◇◇
ザックさんが慌ただしく出ていくのに続いて、ルーファス先生とフレッドさんも続いた。
ルーファス先生は、最後に「しばらく安静にしていなさい」と言って。
病室に残ったのは、俺とライリーさんだけだ。
「……ライリーさん、ここにいていいのか?」
「騎士団の連中が、王都にいた不審者を捕まえたらしい。新しい情報が入るまでは待機だ」
ベッドの脇の壁に背をつけたライリーさんが、俺のほうを見ずに言った。
王都にいた不審者。
それはやはり、宣戦布告してきた三国のうちのどれかの国のスパイだろうか? 魔物が侵入したのは、そいつの仕業なのか……? なんてことをしやがる。
でも、ひとまず全面衝突はさけられたようで、ひと安心。いずれそうなる可能性は高いかもしれないけれど。
「他の賢者もいたんだよな?」
「当たり前だろ」
「じゃあ……ジェイドさんとも会った?」
「……会ったが、どうした」
「ケンカにならなかったか?」
そう聞くと、ライリーさんが大きなため息をついた。
「お前は俺の親か? なったとしてもお前には関係ねぇだろうが。そもそも、あっちが勝手につっかっかってきてるだけだって知ってるだろ」
「知ってる。けど、それしか知らねぇ」
じっとライリーさんを見つめて言うと、彼はたちまち訝しげに目を細めた。
「ジェイドさんは、ライリーさんのなにがそんなに気に入らないんだ? なにがあったんだよ?」
「なんでお前にそんなことを話さなきゃいけねぇんだよ」
「ずっと引っかかってはいたんだよ。けど、二人の問題だし、他人の俺が口を挟む資格なんてないって思ってた。けど……やっぱ気になるんだよ。だってあんたは、人から恨みを買うようなことをする人じゃないだろ。絶対に」
「絶対に?」
「ああ。すくなくとも、俺の知ってるライリーさんは」
じっと見つめつつ断言すると、ライリーさんは視線を下にむけた。腕を組み、なにか考えこんでいる様子だ。
知ったところで、なにかできるわけじゃないかもしれない。いや、なにもできない可能性が高いはずだ。
けれど、やっぱり嫌だ。
「お前には関係ないって突きはなされるのはもう嫌だし、会うたびにあの人がライリーさんを悪者扱いしてくるのも、いい加減ムカつくんだよ」
俺はそこで、言葉を止めた。
――ライリーさんの過去を知りたい。
それは、俺の自分勝手な希望だ。本来なら、他人である俺がのぞきこんでいいものじゃない。
だから、もしこれでライリーさんが拒絶したら、はぐらかしたら、それでいい。そう思って、彼から視線を外した。
……沈黙が、長く続いた。。
「……俺が騎士団にいたっていうのは、コーデリアから聞いてるだろ」
「……! あ、ああ」
ライリーさんの声色は、なんだか弱々しかった。
聞かせてくれる、のか。
ドキドキしながら、俺は次のライリーさんの言葉を待った。
「自慢じゃねぇけど、入団当初からやたら注目されててな。早々に幹部候補だとか言われてた」
「入団してすぐ幹部候補!? すご!」
「……で、当然それを気に食わなかった奴らがいたんだよ。その中の筆頭が、あいつだった」
ライリーさんは、窓のほうをむいて遠くを見ながら話している。
「あいつ」とは、まちがいなくジェイドさんだ。
「何度も決闘を挑まれた。毎回俺が勝ってた……けどまぁ、負けそうになったことも何度もあった」
「なんかそれ、ライバルみたいだな」
ふと思ったことを言うと、ライリーさんはこちらを見て、ふっと笑った。
どこか、寂しそうな顔で。
「そうだな。あいつはどうか知らねぇけど、俺は……そう思ってた。張りあいのある奴とやっと会えたって」
「…………」
なんとなく、胸の奥がざわつく感覚がした。
ライリーさんが、ため息をつく。
「馬上槍試合ってのがあってな。戦力強化を目的として、部隊ごとに優秀な奴が数人選出されてチームを組んで、別の部隊のチームと戦うっていう……ちょっとしたイベントだ」
「摸擬戦みたいなもんか」
「そうだな。武器は普通に殺傷能力あるもん使ってたけど」
……いや、それ、摸擬戦じゃなくね? 殺しあいって言わね?
「あいつの所属する部隊とやり合うときは、絶対あいつも出てくるだろうと思って楽しみだった。本気でやり合える奴は他にほとんどいなかったからな……あのときも、そうだった」
「……あのとき?」
ライリーさんが、神妙な顔で頷く。
その目は、遠くのなにか――過去に存在したなにかを見つめているようだった。
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次回は、あさって木曜日の20時頃更新を予定しています。
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