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海の賢者、気づけば国の命運背負ってました 〜追放されたタコの獣人が異国で勇者と公爵令嬢に見出され、大賢者になる〜  作者: 手羽本 紗々実(てばもと ささみ)
五章 王都防衛戦編

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49話 大事に思われていると実感したので心から謝罪してみた

「なにがだよ!?」



 ガバッと起きあがりながら言った。


 しかし、瞬時に状況が違うと気づく。


 ルーファス先生、フレッドさんに加え、なぜかライリーさんまでもいて、目を見開いて固まっている。


 俺はといえば、なぜかどこかの部屋のベッドに横になっていたようだ。


 ……え? ここ、どこ? ライリーさん、帰ってきたのか? ルーファス先生、防壁はちゃんと張れたのか? フレッドさん、なんでここに?



「なんだよじゃねぇよ……っお前がなんだ!」



 たくさんの疑問が噴出する中、ライリーさんがいち早く我にかえり、飛びかかろうとしてきた。


 それを、フレッドさんが押さえこむ。


 次に、ルーファス先生がベッドの脇に移動してしゃがみ、俺の手をとって脈をとり、顔に両手で触れてきた。


 その顔は、未だに困惑している様子だ。



「な、なんです、か?」


「君は……っ死んだはずなんだよ」


「はいっ!? いや、生きてますけど!?」


「だからそれが……! 一体どうなっているんだ?」



 知らんがな!


 そうツッコミを入れたかったけれど、先生が若干不安げに、悲しそうに目を細めて見てくるものだから、どうしたらいいかわからなくなった。


 暴れていたライリーさんが、フレッドさんの手を払って離れて、頭をガシガシかいた。すこし落ちついたようだ。



「王都の上空を覆いつくすほどの黒い霧が突然現れて……まちがいなく君の魔法だと思ったよ」


「あ、はい……影響は?」


「大丈夫。おかげで防壁は無事に張れた……けれど……」



 ルーファス先生が、痛みをこらえるかのように目を閉じ、俯いた。



「避難する他の奴らに手を貸しているとき、中央広場を通ったら倒れているお前を見つけたんだ。そこで、ここまで運んできた」



 フレッドさんが言った。



「ありがとう。で……ここはどこなんだ?」



「広場近くの診療所だ。すでに主は避難して出払っていたが、他に場所がなかったから無断で借りた」



 無断で、かよ。フレッドさん、なかなか大胆だな……っていうか、俺のせいか。


 おそるおそる、背をむけているライリーさんを見上げる。



「……ライリーさん」


「ああ?」



 こわっ! めっちゃにらまれたんですけど。



「なんで、ここに? 会議終わったのか?」


「終わってねーよ。途中で魔物が王都に侵入したっていう情報が入ったんだよ。それの処理にあたってたときに黒い霧が見えたから、急いで駆けつけたんだ。そしたらこいつに呼ばれて、ここにきた」



 ライリーさんが、あごを前に動かしてフレッドさんをさした。



「そうだったのか」


「……そうだったのか、じゃねぇだろうが! 呼ばれてきてみりゃ、青白い顔のお前がいてもう手遅れだって言われて……っ俺がどんな気持ちだったか、わからねぇのか!」


「だ、だから死んでねぇって!……そんなまずかった?」



 怒鳴りながら詰めよってきたライリーさんをのけ反りながらよけて、フレッドさんとルーファス先生を見る。


 二人は、真剣な表情で頷いた。



「俺が見つけたときには、すでに虫の息だった」


「私が駆けつけたときには……もう脈がなかった」



 絶句した。


 つまり俺は、まちがいなく瀕死――ほぼ死んだ状態だったのだ。


 至大共鳴陣(グラン・シンフォニア)を初めてやったときは、潜在魔力が生命維持のためうまく働いてくれたから、なんとかなった。


 けれど、今回はそうはいかなかった。だれにも気づかれなかったら、命を落としていただろう。


 一体どうして、そんな状態から生還できたんだ?


 ふと、ノクスヴァルドの最後の言葉が脳裏をよぎる。



『二度はないぞ』



 ……ひょっとして、俺の体に魔力を補充してくれたのか? そのおかげで生きかえられた、とか?


 あいつは一体、何なんだろう。なんでこう、ちょくちょく俺の夢の中に現れるんだ?


 まさか本当に、前にルーファス先生がこの指輪――『王の鍵』について、「強力な魔物が封印されている」と言っていたとおり、この中にでも封印されているのか?


 あの巨体が、この指輪の中に?


 ……ウソだろ。某有名ゲームで使う、モンスターを入れて持ちはこぶためのボールかよ。


 けど、名前は合ってるんだよな。指輪に刻まれている模様も、「ノクスヴァルドの目」らしいから。まんまそうじゃん。


 不思議なことばかりだ、と考えていたら、三人の視線を集めているのに気づき、はっとする。


 そしてすぐに、ベッドの上で正座した。



「ご心配ご迷惑をおかけして、ほんっとうにすみませんでしたっ!」



 そう言いながら、深々と頭を下げた。そう、土下座だ。


 反応が怖くて、なかなか顔を上げられずにいると、ポン、と肩に手を置かれた。


 おそるおそる顔を上げると、安堵の表情を浮かべたルーファス先生と、フレッドさんが見えた。肩に手を置いたのは、後者だった。



「無事でよかった」



 フレッドさんが言って、それにルーファス先生がうんうんと二度頷いて同意した。


 一方でライリーさんは、腕組みをして背をむけ、舌打ちをしていた。


 ……二度と、この人たちに会えなくなっていたかもしれなかったんだよな。


 ノクスヴァルド、マジでありがとう! かまってちゃんかよ、とか思ったりしてごめん!


 心の中で精一杯お礼を言ったが、なにも変化はなかった。あいつに届いていればいいけど。


 と、安心していたら、病室の扉が勢いよく開いた。



「おや……! 意識、戻ったのかね」


「っ!?」



 駆けこんできたのは、ザックさん。しかも、その手には……恐怖の注射器が!


 すぐに掛け布団をたぐり寄せ、防御姿勢をとる。



「……ザックさん、どうも。それはなんですか?」


「気つけ薬だよ。脈がない患者に打つ、最終手段の強いものなんだが……必要ないようだね。よかったよ」



 ザックさんが、にっこりとほほえんだ。


 いや、本当に! それを打つ瞬間に目が覚めでもしたら、別の意味で死んでたから!


 ノクスヴァルド、もう一回お礼言わせて! ほんっとに、ありがとう!




 ◇◇◇




 ザックさんが慌ただしく出ていくのに続いて、ルーファス先生とフレッドさんも続いた。


 ルーファス先生は、最後に「しばらく安静にしていなさい」と言って。


 病室に残ったのは、俺とライリーさんだけだ。



「……ライリーさん、ここにいていいのか?」


「騎士団の連中が、王都にいた不審者を捕まえたらしい。新しい情報が入るまでは待機だ」



 ベッドの脇の壁に背をつけたライリーさんが、俺のほうを見ずに言った。


 王都にいた不審者。


 それはやはり、宣戦布告してきた三国のうちのどれかの国のスパイだろうか? 魔物が侵入したのは、そいつの仕業なのか……? なんてことをしやがる。


 でも、ひとまず全面衝突はさけられたようで、ひと安心。いずれそうなる可能性は高いかもしれないけれど。



「他の賢者もいたんだよな?」


「当たり前だろ」


「じゃあ……ジェイドさんとも会った?」


「……会ったが、どうした」


「ケンカにならなかったか?」



 そう聞くと、ライリーさんが大きなため息をついた。



「お前は俺の親か? なったとしてもお前には関係ねぇだろうが。そもそも、あっちが勝手につっかっかってきてるだけだって知ってるだろ」


「知ってる。けど、それしか知らねぇ」



 じっとライリーさんを見つめて言うと、彼はたちまち訝しげに目を細めた。



「ジェイドさんは、ライリーさんのなにがそんなに気に入らないんだ? なにがあったんだよ?」


「なんでお前にそんなことを話さなきゃいけねぇんだよ」


「ずっと引っかかってはいたんだよ。けど、二人の問題だし、他人の俺が口を挟む資格なんてないって思ってた。けど……やっぱ気になるんだよ。だってあんたは、人から恨みを買うようなことをする人じゃないだろ。絶対に」


「絶対に?」


「ああ。すくなくとも、俺の知ってるライリーさんは」



 じっと見つめつつ断言すると、ライリーさんは視線を下にむけた。腕を組み、なにか考えこんでいる様子だ。


 知ったところで、なにかできるわけじゃないかもしれない。いや、なにもできない可能性が高いはずだ。


 けれど、やっぱり嫌だ。



「お前には関係ないって突きはなされるのはもう嫌だし、会うたびにあの人がライリーさんを悪者扱いしてくるのも、いい加減ムカつくんだよ」



 俺はそこで、言葉を止めた。


 ――ライリーさんの過去を知りたい。


 それは、俺の自分勝手な希望だ。本来なら、他人である俺がのぞきこんでいいものじゃない。


 だから、もしこれでライリーさんが拒絶したら、はぐらかしたら、それでいい。そう思って、彼から視線を外した。


 ……沈黙が、長く続いた。。



「……俺が騎士団にいたっていうのは、コーデリアから聞いてるだろ」


「……! あ、ああ」



 ライリーさんの声色は、なんだか弱々しかった。


 聞かせてくれる、のか。


 ドキドキしながら、俺は次のライリーさんの言葉を待った。



「自慢じゃねぇけど、入団当初からやたら注目されててな。早々に幹部候補だとか言われてた」


「入団してすぐ幹部候補!? すご!」


「……で、当然それを気に食わなかった奴らがいたんだよ。その中の筆頭が、あいつだった」



 ライリーさんは、窓のほうをむいて遠くを見ながら話している。


 「あいつ」とは、まちがいなくジェイドさんだ。



「何度も決闘を挑まれた。毎回俺が勝ってた……けどまぁ、負けそうになったことも何度もあった」


「なんかそれ、ライバルみたいだな」



 ふと思ったことを言うと、ライリーさんはこちらを見て、ふっと笑った。


 どこか、寂しそうな顔で。



「そうだな。あいつはどうか知らねぇけど、俺は……そう思ってた。張りあいのある奴とやっと会えたって」


「…………」



 なんとなく、胸の奥がざわつく感覚がした。


 ライリーさんが、ため息をつく。



「馬上槍試合ってのがあってな。戦力強化を目的として、部隊ごとに優秀な奴が数人選出されてチームを組んで、別の部隊のチームと戦うっていう……ちょっとしたイベントだ」


「摸擬戦みたいなもんか」


「そうだな。武器は普通に殺傷能力あるもん使ってたけど」



 ……いや、それ、摸擬戦じゃなくね? 殺しあいって言わね?



「あいつの所属する部隊とやり合うときは、絶対あいつも出てくるだろうと思って楽しみだった。本気でやり合える奴は他にほとんどいなかったからな……あのときも、そうだった」


「……あのとき?」



 ライリーさんが、神妙な顔で頷く。


 その目は、遠くのなにか――過去に存在したなにかを見つめているようだった。

読んでいただきありがとうございました。

次回は、あさって木曜日の20時頃更新を予定しています。

よければまたお越しください。

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