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海の賢者、気づけば国の命運背負ってました 〜追放されたタコの獣人が異国で勇者と公爵令嬢に見出され、大賢者になる〜  作者: 手羽本 紗々実(てばもと ささみ)
五章 王都防衛戦編

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48話 みんな命を懸けているようなので自分もそうしてみた

 翌日。


 俺は、新聞を見て愕然とした。


 一面にでかでかと、女王陛下からの開戦宣言が掲載されていたのだ。


 ライリーさんが言っていたとおり、ルーンベルク、メリッシアーノ、セラフィア各王国からの宣戦布告を受けた件も書かれてあった。


 ……なんでだよ。対話路線は早々に放棄かよ!


 嘆いていても無駄だ。これは、事実なのだから。


 俺は新聞を放って、出かける支度をした。


 玄関を出る前に、一度振りかえる。



「絶対! またすぐ戻ってくるからな!」



 家の中にむかって、宣言。


 ライリーさんに、フレッドさんから教わったチーズの香り焼きをごちそうしてやらないと! だから待っとけ!


 そして、戸締りをしっかりして家を出た。


 駅に近づくと、大荷物を抱えて慌ただしく移動している人の姿を何度も見かけた。


 列車に乗るのではなく、馬車に乗ったり徒歩で移動していく人も中にはいるようだ。避難しようとしているのだろう。


 ……避難っていっても、どこに行くんだろう? 避難用に安全な領地が開放されているとか?



「ポルテくん!」



 背後から声をかけられ、振りかえる。


 ルーファス先生が、乗ってきた馬車から降りてこちらにやってきた。



「ルーファス先生! 避難中ですか?」


「…………」



 目の前にやってきた先生は、なぜか俺の質問には答えずに、険しい顔で黙りこんでしまった。


 ……え? なに? 俺、なにかした?



「……ついてきなさい」


「えっ?」



 先生は、それだけ言って踵をかえし、馬車の中に戻っていった。


 わけがわからずその場で立ちつくしていると、再びルーファス先生が顔を出して、「早く」と言ってきたので、駆け足でその馬車に乗りこんだ。



「なんですか?」


「出して」



 ルーファス先生が言うと、馬車が走りだした。


 いや、待って。どこ行く気?



「つれていくのは不安だけど、放っておくのはもっと不安なんだよ」


「えーっと……それは俺が、ですか?」


「他にだれがいる?」


「信用ないですね!? っていうか、どこに行くんですか?」



 とても不服だけど、とでも言いたそうに、ルーファス先生はため息をついた。



「今、ライリーは五賢人の一人として、戦術会議に出席しているはずだ。つまり、君はフリーの状態」


「そのとおりです」


「君の手を借りたい。力を貸してくれるね?」


「もちろん。俺にできることなら。けど、説明は事前にしていただきたいんですが?」



 ルーファス先生が苦笑して頷く。


 うおう。ルーファス先生に頼られる日がくるなんて。今なら、たとえ相手がアンデッドでも喜んで――いや、やっぱ無理かも。



「これから、王都と隣り合った領地の境に、防壁を作動させる。その手伝いをしてほしい」


「王都を保護するための防壁ですか? あ、例の魔物を寄せつけないっていう?」


「いいや。今回のは、侵入ではなく攻撃を防ぐ点に特化したものだよ」


「なるほど!」



 不謹慎だろうけど、ルーファス先生の魔法が間近で見られるのはちょっとわくわくするな。しかも、その手伝いができるなんて。


 やがて、馬車は住宅地を離れ、草木が生い茂る平地に到着。そこで降りた。



「ここで張るんですか?」


「ああ。むこうはレイヴンホルム領だ。エインズワース家がおさめている」


「ここで防壁張ったら、むこう側の領地の人たちはこっちに入れなくなるんじゃないですか?」


「そのとおり。けれど、心配はいらない。エインズワース家の騎士団は、マリナス騎士団とも一、二を争うほどの強者ぞろいだそうだから」


「そんなに!?」



 国王直属の騎士団と肩を並べるほどの実力者ぞろいって。私兵でそのレベルはなかなか――いや、かなり優秀じゃないか? じゃあ大丈夫か。


 ルーファス先生は、馬車を下がらせて茶色くて短い棒――杖を取りだした。



「君にやってもらいたいのは、万が一にも邪魔が入らないようにすることだよ。強力な魔法だから、その分呪文も長い。集中が切れると当然最初からやりなおしとなる。他の場所でも連動してね」


「他の場所?」


「当然。王都全体を覆うほどの防壁を、私一人で張れるわけがないからね……そろそろ準備が整う頃だろう」


「他の人と同時に同じ呪文を唱えるわけですね!?」



 ルーファス先生が頷く。


 聞けば聞くほど、とてつもなく大がかりな魔法だと分かる。そんな魔法があるんだなぁ!


 つい口角が上がり、ヒレがぴこぴこ動く。


 途端に、先生が眉を寄せた。



「遊びではないんだよ。緊張感をもちなさい」


「……っ! 失礼しました!」



 慌てて、持ちあがったヒレを手で押さえつけた。


 それを見て、ルーファス先生が苦笑する。



「いや。むしろ……ありがとう」


「へっ?」


「君の明るさは、こういうときこそ必要かもしれない。頼んだよ」


「……っはい!」



 ほほえみつつも、力強く言うルーファス先生。


 信頼。


 その言葉が頭に浮かぶ。


 俺を信じてくれるなんて。絶対、絶対に期待にこたえてみせるぞ! 何人たりともルーファス先生には触れさせない!


 周囲を警戒。邪魔者が現れたとしても、すぐに排除できるよう右手をかまえる。


 それを見たルーファス先生が頷き、そして杖を振りあげ、口を開いた。



「閉じよ、我らの大地。満ちよ、尽きざる魔力。天は割れず、地は揺るがず。生命の灯、脈打つ限り。今結べ、今繋げ、今護れ。不壊の城郭となりて、災いを拒みて――」



 ……めちゃくちゃかっこよくねぇ!? そしてやっぱ長いな! まだ続きがあるっぽいぞ!


 興奮していると、むこう側の領地――レイヴンホルム領のほうから、なにかがやってくるのが見えた。


 黒い、四つん這いの獣のようなもの。


 あれは……黒い犬(ブラックドッグ)!? なんで魔物がこんなところに!?



黒い弾丸(ノワール・エクレール)!」



 相手は、素早さに特化したタイプの魔物。近づかれる前に、遠距離から攻撃するのが定石だ。


 結果、五匹もいたようだが、一匹残らず弱らせて退散させられた。


 けど、なんでいきなり現れた?


 まるでルーファス先生が魔法をかけはじめたタイミングを見計らっていたかのようじゃないか。だれの仕業だよ!?



「……っ!」


「先生!?」



 考えながらも、他にもいないかと警戒していると、ルーファス先生のそばでなにかがはじかれるような音がして、先生が数歩後ろに下がった。



「大丈夫ですか!?」


「……ああ、私は大丈夫。今のは……他の場所で詠唱していただれかが途中で止めたせいだ」


「まさか……別の場所でも魔物が!?」


「その可能性は、大いにある」



 ルーファス先生が、目を細めて遠くを見つめる。


 だれかが妨害しているのか? なんとかしないと!


 でも、同じ魔法を詠唱している他の人全員のところを一つ一つ見回り――なんてしていたら、いつ防壁が張れるようになるかわからない。そうこうしているうちに、別の敵が現れるかもしれない。


 どうする?


 ……あれを、やるしかない。



「先生、待っててください! すぐになんとかします!」


「っ!? どこに……っ待ちなさい!」



 ルーファス先生が俺をつかもうとする手をすり抜け、止める声を無視して、走りだした。


 むかうは、中央広場。


 見覚えのある道につくと、タコに獣化して進みながら、あちこちに魔法陣を描いていく。


 そして、中央広場につくと、ひときわ大きな魔法陣を素早く描いた。


 たぶん、これでいけるはず!


 人間の姿に戻って振りかえり、五つの塔を見上げる。


 ――ごめん、ライリーさん。約束、守れないかも。


 深呼吸を三回。そして――



「影よ、目覚めよ。光を閉ざし、力を封じよ。この者()()()沈黙と混沌を与えよ――黒い霧(ブリュム・ノワール)っ!」



 至大共鳴陣(グラン・シンフォニア)


 巨大な黒い霧が広がっていき、辺り一面を覆う。


 うまくいったのか、それすらもわからないまま、俺の意識は闇の中に沈んでいった。




 ◇◇◇




 ふと、父さんを思いだした。



「海で変なものが釣れてなぁ。食えるのかどうかもわかんねぇから、ちょっと試しに捌いてみようと思ったんだ。まな板の上に置いて、ちょっと目を離して振りかえったら……なんと! そこに赤ん坊が横になってたんだよ! あれには驚いたなぁ……けど、抱きあげてあやしてるうちに、なーんか可愛く見えてきてな。そのまま育てることにしたんだよ。それがお前だ!」



 父さんは、酒を飲んで酔っぱらうと、必ずその話をしていた。笑顔で俺の頭を乱雑になでまわすのもセットで。


 俺は、「もう何度も聞いたって」なんて言っていたけど、その話を聞くのは好きだったし、嬉しかった。


 そうやって父さんが育てる決意をしてくれたから、今の俺があるのだから。それが、実感できるから。


 ……なんでこれを思いだしたんだろう。走馬灯ってやつか?


 辺りは、黒い霧で満たされていて、なにも見えない。


 ん……? 黒い霧?



「ノクスヴァルド? いるのか?」



 ……返事、なし。


 違うのか。ここは死後の世界なのか? やっぱり俺、だめだったのか。



「わからぬ」


「っ!?」



 突然霧が晴れて、ノクスヴァルドの目が目の前に現れた。



「ちょ、お前! 急に出てくるなよ! びっくりするだろ!」


「汝の心の内……我が力を使おうとしない欲のなさ……すべてがわからぬ」



 ノクスヴァルドは、俺の訴えを無視したうえで、不機嫌そうに鼻息を俺にかけた。強風だ。


 なにを言いだすんだろう、この人――じゃない、この竜は。



「そう言われてもな……欲がまったくないわけじゃねぇよ? うまいもん食いたいとか、あったかい布団でぐっすりゆっくり眠りたいとか?」


「…………」



 奴が呆れているのが、空気でなんとなくわかった。


 いやいや。人間の欲なんてそんなもんだって。



「俺は俺の、精一杯できることをやる。それ以上は望んでねぇから」


「それ以上を手にできる力があってもか」


「そうだな。どうせ持てあますだけだし……もしなんにでも使えるっていうんなら、俺は破壊のためじゃなくて、なにかを守るために使いたいって思うよ」


「……守るため……だと?」


「ああ。お前にもそういうのがあるんなら手伝うぞ。あ、その前に自由になりたいんだったか?」



 俺をじっと見ているノクスヴァルドに、笑ってみせた。


 自由、なぁ。


 こいつがのびのびと羽を広げても大丈夫な場所なんてあるのか? 荒野ならどこにでもあるだろうけど、他の生き物もいるだろうし。生態系を破壊するのはいただけない。


 かなり難題だ。けど、いつかは必ず見つけてやりたいな。


 すると、再びノクスヴァルドが大きく息を吐いた。



「だ……っ! だから、超強風なんだって!」



 飛ばされる!……と、思ったら、まもなく強風はやんだ。


 顔を上げると、ノクスヴァルドが首を起こして羽をすこし広げていた。


 ……変だな。心なしか、雰囲気が柔らかくなったような気がする。



「二度はないぞ」


「えっ?」



 黒くて濃い霧が、辺りを包む。


 そして、再びなにも見えなくなった。

ここまで読んでいただいた方々へ、感謝いたします。

ドラゴンと主人公の関係がちょっとずつ変化しているようです。今後どうなるかもぜひ注目していてください。

では、次の話まで。来週火曜日のいつもの時間、20時頃に更新します。どうぞお楽しみに。

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