表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
海の賢者、気づけば国の命運背負ってました 〜追放されたタコの獣人が異国で勇者と公爵令嬢に見出され、大賢者になる〜  作者: 手羽本 紗々実(てばもと ささみ)
五章 王都防衛戦編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

45/52

45話 気晴らしは必要らしいので行きたかったところに行ってみた

 トニーさんの謀反が判明して逮捕されてから、数日後。


 俺は、意を決して玄関扉を開けた。



「……よし!」



 記者の姿は、どこにもなかった。ほっと胸をなでおろす。


 そりゃあ、うんともすんともない相手にずっと張りついているのはしんどいし、時間の無駄だ。だったら、他の情報が得られそうなところにいこう、と考えるにちがいない。


 これでようやく自由に買い物ができる!……いや、街中で記者に遭遇すれば同じか。気を抜かないようにしないと。


 ところで、今日は買い物だけのために出かけるのではない。実は、ローズさんから労いの電話をもらっていて、「近いうちにおいで」と誘われていたのだ。


 中央広場は、記者がいる可能性が高い。事前にルーファス先生に聞いて、そこを通らない道順を教えてもらった。遠回りになって不便だけど、しばらくは我慢するしかない。


 無事に孤児院に到着し、さっそく中へ。



「こんにちはぁ」



「ああ。いらっしゃい。院長先生が例の部屋でお待ちですよ」



 入ってすぐのところにいた、床を清掃中の老齢の女性がにこやかな表情で教えてくれた。


 例の部屋? 例の部屋……あ、もしかして、占いをしてくれたときの部屋か?


 清掃員の女性にお礼をしてから、うろ覚えながらもその部屋を目指す。


 見覚えのある扉――青紫色の変わった扉が見えた。ここでまちがいない。



「お入り」



 ノックをすると、すぐに中から返答があった。



「失礼しまーす……ローズさん、こんにちは!」


「こんにちは。よく来たねぇ。どうぞお座りな」



 中央にあるテーブルの椅子に座っていたローズさんが振りかえり、むかい側の椅子をさす。


 そして、立ちあがってお茶をいれてくれた。お気に入りらしいローズヒップだ。



「やっぱりライリーさんには不評でした。俺は好きなんですけど」


「それは残念。まぁ、あんたがそう言ってくれるんならいいよ」



 いれたてのお茶を一口。


 なんとまぁ、絶妙な温度。自然と安堵の息がもれる。



「子どもたちの様子はどうですか? 事故の件、トラウマになってたりしません?」


「今はもう大丈夫だよ。事故直後は思いだして夜中に泣きだす子もいたけど」


「そうでしたか……」



 カップをソーサーに置きつつ、泣きわめいていた子どもたちを思いだした。


 ローズさんの言葉を疑うわけじゃないけれど、平気なふりをしている子も多少はいるんじゃないだろうか。


 怖い出来事を忘れるのは難しいかもしれないけど、それに負けないように楽しい思い出をたくさん増やせたらいいんじゃないかと思う。あとで会いにいって元気づけてこよう。



「そういうあんたも。いろいろ大変だったんじゃないかい?」


「はい。記者に張りつかれて、ここしばらく外に出られなかったんですよ。今日になってやっとって感じです」


「そう。箝口令が敷かれたようだから、しばらくは問題ないだろうね」


「……箝口令?」



 お茶を半分ほど飲んで、ティーカップをソーサーに戻しながら聞きかえした。



「ああ。国を代表する五賢人の一人が謀反を起こしたなんて、大問題だからね。そろそろ、それについての協議に参加するようにと私らにお達しが出るはずだよ」


「協議……」


「それが終わるまでは、とにかく国外に情報がもれないようにと上層部が躍起になっているみたいだね。まぁ……時間の問題だろうけど」


「……もしかして、うちの前にいた記者がいなくなったのって、それが理由だったり?」


「だろうね。魔道新聞社は、国から直接援助してもらっているから」



 つい渋い顔をしてしまい、それを見たローズさんが苦笑した。


 それでいいのか、新聞社。正しい情報を広めるのが重要なのに。


 スポンサーにとって都合のいい情報しか流せないなら、はっきり言って終わってるだろ。この時代、この世界で民主主義を主張するのはやはり難しいのか。



「さぁて。辛気臭い話はこのへんにして、久しぶりにあんたを占わせてもらおうかねぇ」


「いいんですか?」


「ああ。子どもたちを助けてくれたお礼をしないとね。お礼になるかどうか微妙だけど」


「なるに決まってるじゃないですか!」



 魔導祭で大行列をこさえていた占いの館の主が、なにを言う。


 ローズさんは、以前と同じタロットカードに似た絵柄のカードをテーブルに並べた。



「じゃあ、いくよ……夜空に吠える月影の導き手よ。星の帳を越え、我が声に応え、未来を示せ……星命典(アウス・パウリナ)



 ローズさんが呪文詠唱すると同時に、淡い光を放つカードたち。気づけば、そのうちの一枚が消えていた。


 そして、ローズさんの隣に黄金の毛のモフモフ――もとい、カミオがカードを口にくわえた姿で現れた。



「いい子だね」



 ローズさんが、そのカードを受けとってなにかを読みとろうとしている。


 カミオに目をむけると、なぜかじっと俺を見つめていた。



「……なにか?」


「フォカロとアスタロトがお前のことを褒めていた。特にフォカロは、『あいつは物分かりがよくていい奴だ』と絶賛していたが……なにをした?」


「へぇ、あの二人が。力を貸してほしくてちょっとおだててみただけだけど……まずかったか?」


「……そういうことか。調子に乗らせるとこちらが面倒になるからな。今後は慎めよ」


「了解です」



 俺のその返事を聞いて安心したのか、カミオは消えた。


 ……まぁ、ローズさんの使い魔と共闘するなんて、今後またあるか分からないけどな。


 にしても、カミオは無口なほうかと思いきや、けっこう喋るんだな。あと、ちょっと面倒くさがりっぽい。


 当然かもしれないが、使い魔にもいろいろ性格があって面白いな。



「これはなんだい……?」



 ローズさんのつぶやきを聞いて、そちらを見る。


 彼女は、訝しげに細めた目でカードを見つめていた。



「陛下の謁見の間にあるタペストリーと……同じ絵?」



 ローズさんは、手にしたカードから俺へと視線をうつした。


 じっと見つめられ、自然と体がのけ反った。



「救世主が再びこの国に現れるのか……でも、なんで坊やを占ってそれが……?」


「え!? じゃあ、俺が救世主ってことですか!?」


「…………」


「そんな嫌そうな顔しないでくれます!?」



 不満を言うと、ローズさんは細めた目を元に戻して、「そうだねぇ」と言いながら苦笑した。



「今回の占いにかぎっては、あまり当たってほしくないねぇ」


「なんでですか?」


「救世主が必要になるほどのなにかが起こる、とも考えられるんじゃないかい?」



 はっとして、カードを片づけるローズさんを見つめた。


 救世主が必要になるほどのなにかって、なんだ? 災害、戦争……はたまた、単純になにかのゲームとか?


 いい感じの助っ人(俺?)が現れて大勝利! みたいな感じになるだけだったらいいよな。


 俺が不思議に思って首を傾げていると、ローズさんは首を振ってため息をついていた。



「私の占いは、いつ起こるかまでは分からない。そこが玉に瑕なんだよ」


「あ、そういえばこの前占ってもらったやつもまだ実現していないんですよね」



 初めて占ってもらったときに見えたのは、「俺が女王陛下に謁見するところ」だと言っていた。


 本当に当たったらすごいけど、なにがどう転んで女王様と会うことになるのか。やはりちっとも想像できない。今回ローズさんが見たものの正体も、さっぱりだ。


 的中率は八割。ならば、外れる確率は二割か。



「もし外れたら、二割に入ったってことだから逆にすごいですね!」


「そうだねぇ」



 カードをケースにしまったローズさんが、笑顔で身を乗りだしてきた。



「二割じゃなくて、二割弱だよ」


「……失礼しました」



 詰めよられてブラックスマイルをむけられた俺は、冷や汗をかきながらか細い声で謝罪した。




 ◇◇◇




 ローズさんに占ってもらった後は、子どもたちのところに顔を出してもみくちゃにされた。


 ざっと見ただけだけど、暗い表情をしていた子はいなかったので安心。また遊びにくると約束して、孤児院を出た。


 さて、じゃあ買い物をして帰りますか。


 ルーファス先生に教えてもらった裏道を通って、市場の方向へ。途中で、図書館の建物が見えた。


 ……そうだ! またこの前みたいに家の中に缶詰めになったときのために、なにか本を借りておくのもいいな。コーデリアさんに頼んで、よさげな本を見繕ってもらおう。


 方向転換し、図書館へ。



「おお……すげぇ!」



 人目をはばからず、つい声を上げてしまった。


 正面から入ってすぐのところは、ロビーになっていた。


 天井には、細かいタッチの絵が描かれてある。祈りをささげる人々の上空の雲が割れて、光が差しこんできている。


 ……なんの宗教画だ?


 加えて、床はガラスのような透明なものでできていて、その下にロビー全体におよぶほど拡大された地図がはめこまれていた。


 「アルシード」とか、「アッシュボーン」などの聞きおぼえのある地名が書かれてある。アルケミリア国内の地図だな。


 さすがは王立図書館。芸術性もかなりのレベルだ。たぶん、本の所蔵数も信じられないほど多いんだろうなぁ。


 ロビーを通りすぎて、書架のあるほうへ進む。


 ずらりと並ぶ書架の手前、まもなく見えてきたカウンターにコーデリアさんの姿を見つけ、歩いて近寄った。



「コーデリアさん、こんにちは」


「こんにちは……ああ、ポルテさん」



 あいさつを返しながら顔を上げたコーデリアさんは、俺を見ると微笑を浮かべた。


「近くを通ったので、ついでに来てみました」


「そうでしたか。どうぞごゆっくりお過ごしください」


「はい……ところで、大丈夫でしたか? ここ最近、忙しかったんじゃ?」



 瞬間、コーデリアさんの顔から表情が消え、ゆっくりと天井を見上げた。そして、また俺を見る。



「……大丈夫です」



 大丈夫じゃなかったっぽいな! どう見ても!


 記者に執拗に追いかけまわされていたのだろう。たちまち罪悪感にかられる俺。



「なんか……すみませんでした」


「ポルテさんが謝る必要はありません。過ぎたことなので、どうかお気になさらず」



 コーデリアさんが、ふっとほほえんで軽く頭を下げる。


 ああ……なんていい人。次の食事会は、コーデリアさんの都合を優先して開こう!



「それで、なにかお探しですか? よければお手伝いしますよ」


「あ、はい。じゃあ、『アルス・ノトリア』はありますか?」


 アリア様などから何度か聞いた、救世主・レリエルスが登場する話がのった本だ。時間があるときに読む本としてはちょうどいいだろう。



「歴史書の『アルス・ノトリア』ですね……現代語訳を易しい言葉に書きかえたものがありますが」


「それでお願いします!」



 そう頼むと、コーデリアさんは「では少々お待ちください」と言って椅子から立ち、書架の奥へと歩いていった。


 まさか、どこになにがあるのか全部把握しているのか? すごすぎる。



「お待たせいたしました。こちらです。借りていかれますか?」


「ありがとうございます! お願いします」



 コーデリアさんにもってきてもらった、適度な厚さのその本を借り――身分証の提示で簡単に手続きできた――お礼を言って図書館を出た。


 あとは、買い物をして終わりだな。


 市場に立ちより、いろいろ眺めながら必要なものを購入。そしてようやく、帰路についた。


 今回買ったのは、主にオニオングラタンスープの材料だ。ライリーさん、また驚いてくれるといいな。



「おわっ!?」



 わくわくしながら家の玄関扉を開けようと手をのばした――直後、中から扉が開いて思わず変な声が出た。


 ライリーさんが外に出てきたようだ。



「帰ったか。ちょっと出てくる」


「あ、ああ……え、待って。どこへ?」


「……召集がかかった」



 ためらいながら口にしたライリーさんの言葉に、俺は息をのんだ。


 留守頼んだぞ、と言いながら慌ただしく去っていく彼の背中を、俺は呆然と見つめていた。

読んでいただき、ありがとうございました。

これからだんだんときな臭い話になっていきます。どうかお付き合いください。

評価だけでもいただけたら嬉しいです。感想や意見などもお待ちしております!

次回は、来週火曜日の20時頃の更新を予定しております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ