43話 心の中がぐちゃぐちゃなのでひとまず泣いてみた
ライリーさんが臨戦態勢に入ったと察知し、俺は身を固くした。
なんで? なんでこの人、こんなときばっかりやる気満々なんだよ。
「いやいや……ライリー、わかってる? 火薬を仕かけたって言ったよね? 君の魔法と相性最悪だよ?」
「それがどうした」
半ばふんぞり返るライリーさんに、俺は目を見開いて唖然とした。
トニーさんも、俺ほどではないが意外そうに目を丸くしている。
「お前を焼きころすのに、列車だろうがなんだろうが巻きこまれたって知ったことか」
「……国を代表する奴のセリフとは思えないな。正気なの? 列車を壊せば――」
「お前もその一人だろ。人のこといろいろ言う前に、自分の胸に手ぇ当てて考えてみろ」
トニーさんが、不服そうに目を細めてライリーさんを見る。
……焼きころすって、言った? この人。トニーさんを?……冗談、だよな?
こんなときにこんなところで焼き肉パーティーなんかできるわけないだろ。しかも、焼くのは獣の肉じゃなくてトニーさんって。
ライリーさんの「焼きころす」発言が信じられなくて、彼をじっと見た。
「第一、列車が破壊されたところでなんだってんだよ。たしかに国の一大事ではあるが、それで滅ぶわけじゃねぇ。また作りなおせばいいだけの話だからな。ついでに言うと……それに関して、お前は別に必要不可欠じゃない」
その言葉を聞いている最中、俺は違和感をおぼえた。
表情が、どこか悲しそうだった。声のトーンも下がり気味だ。
まるで、悲しいのをごまかすように必死に取りつくろっている、みたいな。
「自分の手でこの国を動かせる、なんて思ってんなら大まちがいだ。代わりならいくらでもいる」
「それは君にも言えるんじゃない? 勇者様」
「ああ、そのとおりだ。たとえ俺が死んでも、別の奴がその席に座るだけ――」
「やめろ!」
俺は、ほとんど反射的に叫んでいた。そして、ライリーさんをにらみつける。
「ふざけんなよ! やめろよ、そんなこと言うの! 死ぬってなんだよ!? だれが死ぬんだよ!……っ死なさねぇよ、だれも!」
ライリーさんは俺に背をむけたまま、無言だった。
トニーさんは、冷めた表情で俺を見ている。
「かっこいいねぇ。でも、君に一体なにができるっていうの? この国の人たちみんなを守ってやる、とでも?」
「なんでもやるよ! 俺にできることは、全部!」
トニーさんの小馬鹿にするようなセリフは気にせず、俺はライリーさんの横に立ってそちらをむき、右手をあげた。
ライリーさんが、トニーさんを本気で焼きころそうとしたら、俺が止めてやる。魔法を無効化するのは、魔導祭の修行のときに死ぬほどやったからな! できる! 絶対に!
ライリーさんを注視しつつ、トニーさんにも気を配る。
彼女は、スパナをかまえてはいるけれど、それ以上の動きをみせない。
ライリーさんも、同様だ。
――二人とも、今なにを考えているんだろう。
すると、トニーさんがふっと悲しげにほほえんでスパナを下げた――次の瞬間、
「機導掌握法!」
「黒炎・轟火!」
トニーさんが魔法を唱えた。ほんの一瞬遅れて、ライリーさんが続く。
「……っ黒い霧!」
間に合え……! 頼む! 間に合えよ!
そう念をこめて、俺も魔法を唱えた。
大きな炎が渦のようになって、トニーさんを襲う。彼女が見えなくなる寸前、黒い霧がその体を包みこむ。
目を開けているのも、呼吸をするのもつらいほどの業火が、あたりを覆う。まともに食らっていれば、あとにはきっとなにも残らない。
……なんで。なんでだよ、ライリーさん! こんなのってないだろ!
悔しさと悲しさが一気に押しよせてきて、俺は拳を強く握った。
――そのとき。
「っ!?」
どこからともなく、鎖がついたなにかがブーメランのように飛んできて、炎の中に入っていった。
ライリーさんが左手をあげて、右から左へ横に腕を振る。
すると、あれほどはげしく燃えあがっていた炎が、一瞬で消えた。
そこには――手を後ろに回してその場に座りこんで俯いているトニーさんの姿。
フレッドさんとカトリーナは、うまいこと身をかがめて大事には至らなかった様子。
背後の列車も、少し焼けこげたように黒くなっている部分があるが、おおむね無事だ。
安心したものの、わけがわからなすぎて俺は腕を上げたまま固まった。
「捕らえよ!」
鋭い声がして、それを合図に鎧をまとった騎士たちがわらわらとやってきた。
トニーさんの両脇に移動した騎士が、彼女の腕をつかんで立たせる。
振りかえると、そこにいたのはジェイドさんだった。
遅れて、他の騎士数人が、フレッドさんと彼に羽交いじめにされているカトリーナのもとに駆けつける。フレッドさんが身を引いたところで、カトリーナの身柄も拘束していた。
「二年前、だったか」
ライリーさんが口を開いた。
そして、コートのポケットから手のひらサイズのものを取りだしてみせてきた。
「お前が魔導祭で発表した拡声器を、小型に改良したものだ。こいつを使って、待機してた騎士団の連中にここの声を飛ばしてたんだよ」
魔導通信機の話し口をかぎりなく小さくしたような形の部品がついている。ボイスレコーダーのように見えるが、名前は拡声器らしい。
……声を離れたところに飛ばすことができるんなら、むしろ無線じゃね? ハイテクすぎて違和感ありまくりなんですけど。
「はは……驚いたな。君たち、仲悪いんじゃなかったっけ?」
「お前を捕まえるのに、そうも言ってらんねぇからな」
ジェイドさんを見ると、彼は決してライリーさんのほうを見ようとせず、淡々と部下らしき騎士たちに指示をとばしていた。
……いつの間に連絡とってたんだろう。ひきこもっている最中か?
なんだよ。協力、しようと思えば普通にできるんじゃん。
そうして、煤だらけのトニーさんとカトリーナは、諦めた様子で一切抵抗せずに連行されていった。
俺はそれを、呆然と見送るしかなかった。
すこししてから、こちらに近寄ってきたフレッドさんが俺の肩に手を置いたところで、我にかえる。
「……っなんで……なんでだよ! あんた……っ本気でトニーさんを焼きころす気だったのか!? なんで!?」
その場から動こうとしないライリーさんを見て、言葉をぶつける。
ライリーさんが、ゆっくりと俺のほうに顔をむけた。
そこに表情はなかった。
「お前、言ってただろ。自分にできることは全部やるって」
「それがなんだよ!?」
「だから、俺はそれを信じた」
「……え?」
理解できず、その言葉を自分の頭の中でリピートする。
信じた、だって?
自分が炎で攻撃しても、俺が必ずトニーさんを守る。そう信じたってこと、なのか?
ライリーさんが、俺を? 俺の実力を信じて、認めてくれた……のか?
力が抜けるような感覚がして、その場に座りこんだ。手をついて、地面を見つめる。
「……どうしよう。俺……怒ったらいいのか喜んだらいいのか……悲しんだらいいのか……わかんねぇよ」
笑った。けれど、涙が止まらなかった。
頭にポンと優しく置かれた手がだれのかさえも、わからなかった。
◇◇◇
アルケミリアの五賢人の一人、トニー・ファーロウが国家転覆を企てていた。
そんなセンセーショナルなニュースは、あっという間に国内に広まった。
「ライリー様! なにか一言!」
「トニー氏の捕縛時に現場にいらっしゃったんですか!? 当時の詳しい状況をお聞かせください!」
「ご友人が捕まった今の心境は!?」
……ちょっと用事で出かけると、すぐこうだ。
ライリーさんの姿を見ると、待機していた魔導新聞社の記者たちが一斉に詰めかけ、取りかこむ。
俺はそういう記者が、ライリーさんに触れないように必死にガードしていた。
「はい、道開けて! 進路妨害は法律違反ですよ! 触らないでください!……だぁー! そこ! 道開けろっつってんだろうがっ!」
もうめちゃくちゃだ。
なんとか人の波をかきわけて、家に辿りつく。
中に入ってこないように記者たちを半ば乱暴に押しのけて、玄関扉を閉めた。
「ライリーさん……無事?」
「なんとかな……お前がいてくれて本気で助かった。こういうことはさすがにコーデリアに任すわけにはいかねぇからな」
「だよな……っていうか、コーデリアさんはコーデリアさんで大変じゃねぇの?」
「……たぶんな」
玄関に上がったところで、そろってため息をついた。
俺は、ライリーさんの秘書のコーデリアさんが記者に追いかけまわされているところを想像し、げんなりと肩を落とした。
ごめん、コーデリアさん。絶対混乱してるよな。あとで絶対お詫びするから!
そして、一息つこうとお茶をいれに台所に立つと、俺は衝撃的なことに気づいた。
買い物に……出られるのか? こんな状況で。
急いで保冷庫の中の食材を確認する。チーズに肉、野菜。
……まぁ、明日の昼までならなんとかいけるか。それ以降の分の買い出しは、また隙を見ていくしかない。記者に見つかっても、知らぬ存ぜぬを押しとおせばいいだけだ。
ああ。チヤホヤされてなんかちょっと楽しい気がしてたけど、やっぱ大変だな!
固まってきた筋肉をほぐすために伸びをしてから、ライリーさんにお茶をいれて台所に戻る。
そのとき、玄関扉がノックされた。
すかさず駆けよる。
「事前許可のない取材はお断りです!」
「私だよ。ルーファスだ」
扉ごしに声がした。
……たしかに、先生の声っぽいけど。本当か? 似た声の人は結構いそうだしなぁ。
「じゃあ質問! 俺の正体は?」
「獣人だね。タコとかいう海の生き物の」
おお、大正解! しかも百点満点の答えだよ! 初めて会ったときにちらっと話しただけだったのに、よく覚えてたな。
そっと扉を開けて、先生を中に招き入れる。やはり、本物だった。
まだ待機していた記者が便乗して入ってこようとしたので、阻止するべくすぐに閉める。
「お疲れ様です」
「君こそ、お疲れ様。大変なときにすまないね」
ルーファス先生が脱いだコートと帽子とマフラーを受けとり、ハンガーにかける。
「先生のせいじゃないですから。もうホントに、しつこいったらないですよ。どこ行くにもついてこられて……」
「そうだろうね。本当に……大変、だったね」
大変、と強調して言ったルーファス先生の意図に気づき、手を止める。
引きつる顔をなんとかこらえ、微笑を浮かべて振りかえる。
「いろいろ、教えてほしいことがあるんです。ゆっくりしてってください」
「……ああ。私もそのために来たんだよ」
ルーファス先生の柔らかい声を聞いて頷き、中へと招きいれた。
今日も読んでいただき、ありがとうございました!
今年中に当作品をお読みいただいた方々へ、厚く感謝申し上げます。
投稿は来年も続きます!
完結まで頑張るので、どうか応援よろしくお願いします。
次回は、あさって木曜日の20時頃更新予定です。




