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海の賢者、気づけば国の命運背負ってました 〜追放されたタコの獣人が異国で勇者と公爵令嬢に見出され、大賢者になる〜  作者: 手羽本 紗々実(てばもと ささみ)
四章 裏切りの黄色編

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42話 なにからなにまで裏切られたので心の叫びをぶつけてみた

 フレッドさんにあることを頼んだ日から、三日後。


 街中の魔導灯がすべて消え、人々が完全に寝静まった深夜。


 肌を刺すような冷えた空気に身を震わせながら、用を足しにベッドから出た。


 寝室に戻る途中、


 バタン。


 ……玄関扉が閉まる音だ。


 俺は慌てて外に出た。


 黒い人影――ライリーさんが、暗い夜道を歩いていく。


 着替えもせず、寝間着に上着を羽織った姿で追いかけた。


 やってきたのは、駅だった。


 誰もいない駅。ライリーさんは、構内をずんずん進んでいき、列車が停まっている格納庫に入っていった。


 そこに、もう一つの人影。列車にむかって、なにかをしている。



「隠す気、ねぇのか」



 ライリーさんが声を張る。格納庫の壁に、それが反響した。


 もう一人の人影が、手を止める。


 俺は格納庫の外に立ち、入口から様子をうかがうことにした。


 突然、明かりが灯った。列車の前にいる人が、足元のランプに火を灯したようだ。



「ライリー? なにしてんの、こんな時間に」



 もう一つの人影――トニーさんの声を聞き、俺は息をのんだ。



「お前こそ。こんな夜更けになにしてんだ」


「整備、っていうか修理に決まってるじゃん。最近いろいろ立てこんでてこんな時間になっちゃったんだよ。明日でもいいかと思ったけど……だめなんだよね、気になっちゃって。わかるでしょ?」



 トニーさんの声は、いつもどおりの明るい声だった。表情も普段となんら変わらない。



「……精錬所で俺らを閉じこめようとしたのはお前だな」


「精錬所?……わけわかんないこと言わないでよ。あたしだってさっさと終わらせて帰りた――」


「残滓がないように徹底するべきだったな。俺が気づかないとでも思ったのか?」



 トニーさんが、作業を再開しようとした手をピタリと止めた。半端な姿勢のまま固まっている。


 ライリーさん?……なんでそんな冷たい声してるんだ? もしかして、具合悪い?



「魔法を使ったのはわざとか? それとも……とっさに使っちまっただけか?」



 トニーさんはそれに答えず、無言で手を動かした。


 カチャ、カチャ──乾いた金属音だけが部屋に響く。二人の間に重い沈黙が落ち、息をひそめている俺の耳まで痛くなる。


 やがて、音が止まった。



「わざとに決まってるじゃん」



 氷を這わせたような冷たい声が落ちてきて、俺は思わず肩をびくりと震わせた。



「そうでもしなきゃ作動しなかったんだよ。別にいいと思ってたんだけどなぁ……気づいても、こんなふうにすぐには追及してこないと思ってたから」



 振りかえったトニーさんの顔には、不敵な笑みが浮かんでいた。



「見張らせてた部下から、君たちが魔石精錬所に行くつもりだって聞いたときは耳を疑ったよ。まさか、ポルテがグレイキャッスル公爵とつながってたなんて……ありえなすぎて笑っちゃった」


「……俺らに魔道具暴発事故の件を話して、調査を手伝わせたのは?」


「それ以上手出しできないところまで導いて、これ以上はどうしようもないって諦めさせたかった……邪魔させないようにしたかったんだよ。ねぇ、国の中と外を隔てる防壁――安全神話が常識みたく受け入れられてたあれに欠陥があるんじゃないかって聞いた時点で、ありえないって思ったでしょ? 精錬所が怪しいなんて、かけらも思わなかったでしょ? でも、あそこを調査することにしたのは国の内部事情をよく知らないポルテが指摘してくれたからだよね?……ああ。そう考えると本当に邪魔だったな、あいつ」



 愕然として、俺はその場から動けなかった。


 口調は聞きなれたものなのに、その声はなんだかとても冷たい。違う人が言っているかのように感じる。


 そんなわけない。


 そう思っていた――思いたかった気持ちが、無惨にも消しとんだ。



「なにを企んでる?」


「そんなの決まってるじゃん。この国を滅ぼすんだよ」



 トニーさんが腕を広げて、天井を見あげた。顔は笑っているのに、目はまったく笑っていない。


 俺は、入口の横の壁に背中をつけて目を閉じた。


 よせよ。そんな、悪役が自分の野望を高らかに宣言するみたいな。こんなの……マンガだよ。マンガでしか見ないやつだよ、こんなの!


 ……あ、でもここ、異世界なんだっけ。マンガみたいで当然……なの、か……?



「ずいぶん壮大な夢をお持ちのようだな」


「おかしい? まぁ別にいいけどさ……ライリーさ、勘違いしてるでしょ。私が純粋な王都(アルシード)市民だって。それが違うんだなぁ」


「それがなんだ。どこ出身だっておかしくはねぇだろ」


「本当にそう思う?……あたしが、『ジルドレ』の生まれだって言っても?」



 瞬間、ライリーさんが息をのんだように空気が震えた。


 ジルドレとは、町の名前だろうか。トニーさんがそこの生まれだと、どうだって言うんだ?


 俺は再び、壁から離れて入口から二人の様子を覗きこんだ。



「例のろくでもない法律のせいでね。あたしを妊娠中だった母さんが、無魔力者だって見事にひっかかっちゃって。身重の体で町を追いだされたって聞いたよ。それだけでもクソみたいな話でしょ?」


「……よく生きのこれたな」


「まだ四歳だったからね、当時は。母さんが、名前から姿まで男の子っぽくしてくれたおかげだよ」



 なんの話をしているのか、俺にはさっぱりわからなかった。


 ……よく生きのこれた? トニーさんは幼い頃、命が危険にさらされるような事件にでも巻きこまれたのか?



「ま、それはひとまずおいといて……それで、これからどうするの? あたしを捕まえる?」


「当然だろ。こんな話を聞いて、見逃せるわけねぇだろうが」


「聞いたのはライリーだけだよね。いくら勇者でも、こんな突拍子もない話、あたしが否定すればただの妄想ってことで片づけられちゃうんじゃない?」


「話だけならな」



 そこで、それまで余裕を見せていたトニーさんが訝しげな表情をした。


 ライリーさんが、片手を腰に当てて呆れたようにため息をつく。



「犯人はお前以外にありえないっていう状況証拠はすでにある。物的証拠なら、あとからでもいくらでも積みあげてやる。第一……」



 ライリーさんが、途中で言葉を切ったちょうどそのとき。


 トニーさんが立っている位置の左奥から、妙な物音がした。


 まるで、鳥が羽ばたくような音。なにかに捕まった鳥が、翼を動かしてもがいているようにも聞こえる。



「俺は、一人じゃねぇからな」



 その言葉の直後、不穏な音の正体が判明した。


 大人一人は乗れるくらいの大きな鳥が、フレッドさんに羽交いじめにされながら飛びでてきた。未だに翼をはためかせ、なんとか逃れようと抵抗している。


 ……そうか。やっぱり、そうだったのか。


 俺は、決意を固めて二人の前に出た。


 驚いて目を丸くしているトニーさんを一瞥したあと、大きな鳥を捕まえているフレッドさんを見る。



「悪い、フレッドさん。嫌な役やらせちまった」


「……気にするな。お前のせいではない」



 彼の優しい声を聞いて、胸が締めつけられるような痛みを感じた。


 その痛みにこらえつつ、捕らわれている大きな鳥を見る。



「カトリーナ……俺のこと、ずっと見張ってたんだろ。初めて会ったあの日から」



 抵抗するのを諦めたらしい鳥が、翼を地面に垂らした。そして、人の姿になる。


 まちがいなく、カトリーナだった。


 人違いならぬ鳥違いだったら、どんなによかったか。



「……いつから気づいてたの?」



 小馬鹿にするような笑みを浮かべ、カトリーナが問う。


 俺は唇を噛みしめ、湧きあがる感情を抑えつつ口を開いた。



「ときどき、見られているような感じはしてたんだよ。理由も、だれの仕業かもさっぱりわからなかったけど……魔導列車の事故のあとに飛んでく鳥とか、魔石精錬所に落ちてた羽とか……いろいろ考えてたら、もしかしてってチラっと思っちまったんだよ。否定したかったし、してほしかった。そのためにフレッドさんに頼んどいたんだ。お前を見張っててくれって。怪しい行動したら、たしかめてほしいって」



 カトリーナが、悔しそうに顔を歪めてそっぽをむいた。


 続けて俺は、トニーさんのほうをむく。


 彼女は、つまらなそうに首を横に振っていた。



「やっぱりね。後々面倒なことになるんじゃないかとは思ってたけど、そのとおりになっちゃった……でも、君はあたしが犯人だって気づいたとしても信じないと思ってたよ」


「信じてねーよ、今でも。あんたはなにもしてない……その証拠を探すつもりだったんだよ!」


「……そう。悪かったね、期待にこたえられなくて」



 トニーさんが、慣れた動作で腰につけていたウエストポーチから、スパナを取りだしてこちらにむけるように構えた。


 反射的に、俺もライリーさんも身構える。



「君たちには悪いけど、すでに手は打ってあるんだよ。あたしが魔法をかければ、列車に仕かけた火薬が一斉に爆発するようになってる」


「……そんなことして、どうするんだよ」


「どうもこうもないよ。この列車を失えば、この国がどうなるかくらい君にもわかるでしょ? 物流がストップすればこの国は――」


「だから! そんなことして、あんたになんの得があるんだよ! ずっと手をかけて整備してきた列車を壊して、どうするってんだよ! 本当にそんなことできんのかよ!?」



 俺がそう叫ぶと、トニーさんの顔から表情が消えた。



「当たり前でしょ? もしかして、多少なりとも愛着くらいあるだろ、なんて思ってる?……あはは。ないない。これが国の生命線。壊せばまちがいなく国に大ダメージを負わせられる。そう考えながら、毎日毎日……手をかけて、恨みをこめて整備してきたんだからさぁ」



 トニーさんは、笑顔を浮かべている。けれどそれは、今まで見てきた朗らかなものではない。冷たい笑みだった。


 一体なにが、彼女をこんなふうにしたんだろう。


 いや、むしろこれがトニーさんの本性だったのか? 今までずっとそれを隠していたのだとしたら……トニーさんの演技力は大御所俳優レベルだ。



「言いたいことはそれだけか」



 ライリーさんが、鋭い声で言った。


 その手にはすでに、黒い手袋がつけられていた。

今日もありがとうございました。

まだまだ緊迫するシーンは続きます。

感想、評価などお待ちしております。お気軽にポチッとしてください!

次回は、来週火曜日の20時更新予定です。

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