40話 絶体絶命なのでみんなで力あわせてみた
絶望した様子で立ちつくしたジェイドさんの顔を、しきりにのぞきこむ。
「作動してたら解除すればいいんじゃないんですか? 入るときみたく」
「……あれとは違うのだ」
「はい?」
そう言って、絶句するジェイドさん。あきらかにただ事ではない。
「ようするに、解除できねぇんだな?」
「……通常の防壁とは違う、強固なものに切りかわっているのだ。何者かが無理に侵入しようとしたときに発動するようになっているものだ」
「だれかが侵入しようとした……俺らが中に入ってくところを見てついていこうとした奴がいるってことか?」
「確証はない。が……すくなくとも、俺たちがここから出る術を失ったのはたしかだ」
「はいっ!?」
ジェイドさんが悔しそうに奥歯を噛みしめる。
なんでそうなるんだよ!? だれだよ、侵入しようとした奴!
そのまま進むとどうなるかたしかめてみるため、落ちていた小石を投げてみた。すると、バチっとはげしい音とともに、溶けるようにして消滅した。
……ヤバいなんてもんじゃない!
「他に出口は?」
「あるわけがなかろう」
「ですよね!」
「では、どうされるので?」
不安げに問いかけてくるアリア様の顔を見て、うなだれる俺たち三人。
一大事だ。
俺たちだけならいざ知らず、麗しき公爵令嬢・アリア様も一緒なのだ。なにがなんでも脱出しなければならない。
「じゃあ俺の魔法で――」
「やめろ」
ライリーさんとジェイドさんの声が完璧に重なった。そして、嫌そうに顔を見あわせてそっぽをむく。
息ぴったりかよ。やっぱり元は仲がよかったんだな。
「なんでですか?」
「ここは王族管轄の重要な施設だぞ。どんな理由があれど、魔法を使おうものなら大問題になる。防壁を破壊するなんてもってのほかだ」
「そうかもしれませんけど、このままなにもしないほうが大問題じゃないですか? やですよ、俺。ここで四人そろって餓死なんて」
俺の言葉を聞き、ジェイドさんが忌々しげに歯を噛みしめる。
そんなこと、言われなくても彼自身も嫌だろうし、あってはならないとは分かっているんだろう。
ここは、立ち入るだけでも王族レベルのお方から許可をいただかないといけない。俺たちが行方不明だとだれかが気づいても、「魔石精錬所に閉じこめられている」とは考えないだろうし、考えたとしてもたしかめる術がない。
つまり、外から救助にきてもらえる可能性は、かぎりなく低い。
「やっぱ壊すしかないですね!」
「楽しそうに言うな! だれの責任になると思っている!?」
「……大事なのはそこなのかよ。命のほうが大事じゃねぇのか」
「軽々しく言うな!」
「軽く見てんのはそっちだろうが!……責任なんざ、命が助かってから考えろよ。自分のことばっか考えてんじゃねぇよ!」
ライリーさんが、珍しく声を荒らげた。びくりと肩が跳ねあがる。
いつも冷静で、どこか他人事のように見る傾向が強いこの人が、声を荒らげるなんて戦闘以外ではほぼない。
それをジェイドさんも知っているのか、困惑した様子でライリーさんを見て、その後すぐに目をそらした。
「……貴様のような、誇りを捨てた者にはわからんだろう。私と貴様とでは、背負っているものが違うのだ」
「そうやってカッコつけんのは一人だけのときにしてろ。俺らを巻きこむな」
ライリーさんが鼻で笑って、ジェイドさんの言葉を切りすてる。
ジェイドさんは、それに思いきりにらみつけることで応戦。
……あーあ。今この場での仲直りは無理っぽいな。仲違いした理由もわからない俺では、アシストするのも難しいし。吊り橋効果的なものがあるかと期待したんだけどなぁ。
「ジェイド様。責任でしたら、私がすべてを負います。そもそも、『私が友人と精錬所を見学したい』と申し出たという話になっているわけですし」
「しかし……!」
「皆様のことは、『私の命を救うためにやむをえず行動した』とお伝えしておきます。それで問題はないはずですわ」
アリア様に真剣な目で見つめられ、反論の言葉を失うジェイドさん。
「じゃ、どこらへんいく? さすがに正面はまずいよな?」
「別にどこだって同じだろ」
「貴様ら! すこしはためらえ!」
「じゃあ、ジェイドさんが決めてくださいよ。どこに穴あけたらいいんで?」
「そんな場所はない!……ない、が……っ」
ジェイドさんが、気まずそうに目線を左端へと動かす。
……なるほど。あそこならすぐそばにでかい木があるし、穴があいていると気づかれる心配はかなり低いだろう。
「次期団長がここにしろってよ」
「私はなにも言っておらん!」
「わかりました! 次期団長殿!」
ライリーさんの煽るような言葉に、俺も乗っかる。
思ったとおり、ジェイドさんににらまれた。
さて。戯れはこのくらいにして。
魔法の墨を取りだして、地面に魔法陣を描く。今回は戦闘中ではないので、人型のまま。
「影よ、目覚めよ。光を閉ざし、力を封じよ。この者に沈黙と混沌を与えよ――黒い霧!」
黒い霧が、防壁に当たって風穴をあけた。
おっしゃ、これで……と、思っている間に、じわじわとその穴が塞がっていく。
「なんで!?」
「当然だろ」
「……ありえん。この強固な防壁に、一瞬でも穴をあけるなど……」
反応は、様々だった。
ショックを受けた俺。
平然としているライリーさん。
訝しげに目を細めているジェイドさん。
アリア様は、なぜか物珍しそうに目を丸くしていた。
「ポルテ様の魔法をこんな間近で見られるなんて! 感激ですわ!」
「恐縮です……けど、どうする?」
アリア様に返事をしたのち、ライリーさんを横目で見る。
すこし考えたあと、ライリーさんがため息をついた。
「お前の魔法に、俺の魔法を重ねてみるか」
「おお! それなら絶対いける!……あ、じゃあついでに、ジェイドさんの魔法も重ねたら?」
「はぁ?」
「強化魔法、使えるんですよね? 俺が魔法やって、ジェイドさんがライリーさんの攻撃力を強化して、それでライリーさんの魔法でとどめ! これでどうだ!」
途端に、ジェイドさんとライリーさんが嫌そうに顔を歪める。
いや、ジェイドさんはともかく、なんでライリーさんまで?
「なんで俺がこいつの魔法を食らわなきゃいけねぇんだよ」
「それはこちらのセリフだ! なぜ俺が貴様を強化せねばならんのだ!」
「みんなで無事に、確実にここを出るためですけど。ね、アリア様!」
「え? ええ、そのとおりですわ。お二方、どうか協力してくださいまし」
不敬だろうが、アリア様を盾にして言ってみた。
すると、アリア様に見つめられたジェイドさんが、再び歯を噛みしめる。
この人、さっきからこんな顔してばっかだ。ストレスたまってんのかな?
「……今回かぎりだ……」
ジェイドさんが、ぼそりと呟く。そして、ライリーさんと俺を見て、頷いた。
優柔不断なのはしょうがない。次期団長――責任ある立場の人だしな。
アリア様にできるだけ離れておくよう促してから、三人そろって魔法陣を描く。
「……魔法陣なんて久々に描いたな」
「自慢か!」
「事実だよ」
ライリーさんが鼻で笑いながら言う。
ようするに、名称を唱えるだけの低威力の魔法でも十分乗りきれてこれたってことか。
完全自慢だろ! さすが賢者で勇者!
……いかん。気持ちを落ちつかせないと。深呼吸……からの、呪文!
――俺が呪文を唱えてからすこし遅れて、ジェイドさんが鋭い声で呪文を詠唱。それにライリーさんが続く。まるで輪唱のように。
「覇気昂法!」
「黒い霧!」
先に、ジェイドさんが抜いた剣をライリーさんにむけて振って、魔法をかける。
直後、俺が防壁にむけて黒い霧をとばす。
「黒炎・火竜咆!」
ジェイドさんの魔法を受けて、陽炎のようなオーラを背負ったライリーさんが、炎で竜の頭部のようなものを生みだした。
そしてそれが、俺の黒い霧があたって開いた穴にむかってまっすぐつっこんでいく。
竜の頭部が穴を広げ、人が余裕で通れるほどの大きな穴ができた。
か……っ!? かっけぇ! 俺もあんなのやってみたい!……って、だから言ってる場合じゃないんだっつうの!
「アリア様!」
俺が叫ぶと、ジェイドさんが「ご無礼を!」と言いながら、アリア様を姫抱きにして脱出。続いてライリーさんが出る。
するとそこで、穴がじわじわと塞がろうとしているのが見えた。
先程、俺が単独で魔法をかけたときよりはスピードは遅い――いや、錯覚だった!
ものすごい勢いで、穴が塞がっていく。さすがは強化版の防壁!
「ポルテ!」
ライリーさんが出てすぐに、俺も外へ。
穴をくぐる瞬間に獣化したのが功を奏して、狭い穴から通りぬけることに成功した。
ぼて、と変な音を立てて、俺の体が地面に落ちる。逆さまになってしまった状態から足をじたばたさせてもがくと、なんとか足を地面につけられた。
あ……危なっ! あのまま人型で通りぬけようとしたら、はじかれて終わりだった! ナイス判断、俺!
ひやひやしながら人型に戻ろうとしたところ、なぞの浮遊感。
「な……なんて……なんて愛らしい……っ!」
「っ!?」
アリア様が、俺を持ちあげて頬を赤くそめ、目をキラキラさせている。
まるで大好きなぬいぐるみを前にした子どものように、抱きしめられる俺。
……そうか。アリア様はメンダコが好きな人だったんだな。
やっとこの姿を好意的に思ってくれる人に会えたのか……! どうぞいくらでもご堪能あれ!
けれど、残念ながらアリア様はすぐに帰りの馬車に乗せられて、ジェイドさんに送られて去っていった。帰り際の顔が、非常に名残惜しそうだった。
なにはともあれ、みんなが無事で本当によかった。
「一件落着だな!」
「どこがだよ」
精錬所の敷地内から外に出て大きく伸びをして言ったが、すぐにライリーさんに否定される。
「強化版の防壁が作動していた件も気になるが……汚染魔石がどこで紛れこんだのかわかったわけじゃねぇだろうが」
「そうだった!」
なんのためにここに来たのかを思いだし、俺は片手で頭をかきむしった。
隅々までチェックできたわけではないが、ひとまず製造工程においては怪しいところはまったくなかった。
となるとやはり、検査後になんらかの理由で紛れこんだ可能性が高いのか?
「やっぱ駅側の問題か?」
「……の、可能性が高いな。けど、そもそも汚染魔石ができること自体――」
ライリーさんが、不自然なところで言葉を止めた。その場で立ちつくし、空を見上げている。
どうしたのか、と尋ねる言葉は、妙な緊張が走ったため出てこなかった。
「……いる……どんな防壁も、検査もかいくぐれる奴が……一人だけ」
俺は息をのんだ。
空気が張りつめるような感覚。
「……トニーだ」
ライリーさんの口からこぼれたその名を、しばらく理解できなかった。
読んでいただき、ありがとうございます。
おかげさまで、これで40話に到達しました!
話は不穏な展開になってまいりました。ここからどう追及していくのか、そもそも本当にあの人が犯人なのか。難しい局面に入ります。どうぞお楽しみください。
リアクションなどで応援いただいている皆様、本当に感謝です!
とても励みになるので、これからもよろしくお願いいたします。
次回は、あさって木曜日の20時頃の更新を予定しております。




