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海の賢者、気づけば国の命運背負ってました 〜追放されたタコの獣人が異国で勇者と公爵令嬢に見出され、大賢者になる〜  作者: 手羽本 紗々実(てばもと ささみ)
四章 裏切りの黄色編

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39話 仲良くできそうにはなかったので勉強のほうに集中してみた

 その人――ジェイドさんは、護衛役らしく鎧を身にまとっていた。仏頂面で、あきらかに不本意そうな様子だ。


 公爵様……なかなか粋な人じゃないか!


 ジェイドさんと初めて会ったのは、魔導祭の試合。


 あんな状況では、どう考えても和気あいあいと語りあうのは不可能だった。


 でも、今は違う。うまくいけば、ライリーさんと仲直りさせる糸口がつかめるかもしれないぞ!



「では、アリア。殿方たちにご迷惑にならないように。屋敷に帰るまで気を抜かないように気をつけるのですよ」


「はい。肝に銘じておきますわ……お姉様、次はいつお会いできますの?」


「早ければ今週末ね。隣国から帰ったら、一番に会いにいくわ」


「お待ちしております。お姉様も、どうかお気をつけて」


「ええ」



 二人は、互いをうっとりとした顔で見つめ、抱きあった。


 シスコン姉妹が二人の世界に浸っている傍らで、ライリーさんとジェイドさんがにらみ合いをしてその真逆ともいえる雰囲気をかもしだしていた。


 なんだこれ……温度差がはげしくて面白いな!



「では、サー・ジェイド。妹をよろしくお願いいたします」


「かしこまりました。命を賭してお守りいたします」



 ジェイドさんは、ベアトリス様に声をかけられると表情を引き締めて敬礼。


 騎士が言う「命を賭して」という言葉は、なかなか重みがあるな。


 そして、馬車に乗ったベアトリス様へ一礼、その馬車が見えなくなった頃を見計らって顔を上げた。



「では、皆様。参りましょう」


「はい! 楽しみですね」


「ええ。本当に」



 残ったもう一台の馬車の客席の扉を開けて、アリア様に先に乗ってもらう。


 さて、だれが運転するのかと視線をさまよわせていると、ジェイドさんがさっさと御者台に乗ったので解決。


 俺とライリーさんも、客席に同乗させてもらった。見送り役のコーデリアさんに手を振り、動きだした馬車に身をゆだねる。



「こんなに遠出するのは久しぶりですわ。胸が躍ります」


「遠出、ですか?」



 魔石精錬所は、王都の中にあるはず。そこへ行くのが遠出?



「ええ。普段はお父様の監視が行きとどく別邸の中ですごすことがほとんどですから。しかも今回は、そのお父様の目を離れての外出……! 思いきり羽がのばせますわ!」



 アリア様は、自分の両手を合わせて目を輝かせ、天井を見上げた。


 監視、されているのか。それは公爵家に生まれた者の宿命なのか。姉が宰相補佐なんて超絶エリートだから、その妹も当然……みたいに思われているのだろうか。


 単なる工場見学だし、一日中のんびりとまではいかないだろうけど、すこしでもアリア様が楽しめたらいいな。


 ふと窓の外を見ると、景色が一変していた。


 住宅や施設の建物がなくなって、ずっと先までレンガでできた道が続いている。


 乗りだして前方を見ると、そこには荘厳な建物がそびえ立っていた。


 中央に丸いドームのようなものがあり、そこから左右に広がっているような造りだ。すぐそばは森になっていて、建物の周囲を囲っている。


 まるで教会か礼拝堂のような形のそれを見て、目を見張る。


 あれが、魔石精錬所なのか?


 どうしてこの国の施設の建物は、それらしい見た目をしていないのか……いや、その感覚は現代日本人としての感覚が残っているせいなのか。それにしても不思議だ。



「あれが魔石精錬所……! なんて素晴らしい!」


「っ! お待ちください!」



 一番先に降りたアリア様が興奮して、建物へと駆けよっていく。


 すぐにジェイドさんが鋭い声を発した。


 なにやら焦っている様子に、慌ててアリア様の腕をつかんで引く。



「きゃっ!?」


「うお!?」



 アリア様が足元のバランスを崩し、転びそうになる。


 そんな彼女の腰に手を回して、体を支えて抱きとめた。


 ――瞬間、まるで社交ダンスでも踊っているときのポーズのような体勢になってしまった。


 いや、違う。俺は王子様なんかじゃないぞ。自分で言うのもどうかと思うが、普通に考えてそんな柄じゃない。


 なんてアホなことを考えていると、俺を見つめるアリア様が、ぽっと顔を赤く染めた。



「……! す、すみません! 大丈夫ですか!?」


「は、はい……!」



 すぐに離れて、ケガがないかを確認。顔が赤いのはともかく、他に異常はない様子だ。


 そこへ、遅れて駆けよってきたジェイドさんが、ほっとしたように息を吐く。門の手前で立ちどまり、右手を胸くらいの高さまで挙げた。



「封壁よ、眠りに還れ」



 ジェイドさんがなにかの呪文を唱えて、あげた右手を横にさっと振った。


 ……なにも変化はないように見えるけど。今、なにをしたんだろう?



「先にお伝えできず、申し訳ありません。精錬所には関係のない者がむやみに立ち入らないように、防壁が施してあるのです。どうか、私のそばを離れないようお願いいたします」


「もしあのままつっこんでいたら、どうなってたんですか?」


「……生身の人間では、跡形もなく消しとんでいたと言っても過言ではない」



 ぼそりと言ったジェイドさんの言葉に、ぎょっとする。


 それ、ただの防壁じゃねぇだろ。



「ちゃんと見とけよ、護衛役」


「……貴様はどの立場で物を言っている」



 後ろからのんびりやってきたライリーさんが指摘すると、ジェイドさんがたちまち顔を歪めてにらんだ。



「立場とか関係ねぇよ……次なにかあってももう庇ってやれねぇからな」


「……っそれ以上口を開けば、侮辱罪としてこの場で斬りふせてやる!」



 ジェイドさんが、鬼の形相になって腰の剣に手を当てた。


 あー……はいはい。楽しそうですね!


 アリア様が不安げにしているのに気づき、腕を引いて二人から離れた。



「あのお二方は……仲がお悪いので?」


「いえ。ただちょっと虫のいどころが悪いだけだと思いますよ」



 ごまかしつつ、一触即発状態の二人に視線を送る。


 それに気づいたライリーさんが、あごを俺のほうにくいっと動かした。


 すると、アリア様がいることを思いだした様子のジェイドさんが、舌打ちと咳払いを一回ずつ。気をとりなおして、先頭に立って歩きだした。


 やはり、二人が仲直りするのはかなりハードな道のりらしい。今はとりあえずおいといて、工場見学のほうに集中しようか。


 いよいよ、建物の中に潜入。


 入口のすぐ先のホールのような場所は、床も壁も大理石仕様だった。


 その先は、すこし進んではいちいちセキュリティを解除していく必要があった。


 ……どんだけ強固なんだよ。これじゃあ、精錬所内で働いている人たちも面倒だろうに。



「この先が製造エリアとなっております」



 ジェイドさんが、工場長よろしく案内。


 アリア様が、わくわくがおさまらない様子で目を輝かせた。気持ちはとてもわかる!


 扉をくぐると、そこはとても広い部屋になっていた。空気がひんやりとしていて、外とは明らかに違う。


 俺たちは、一階にある製造ラインを二階から見下ろすような立ち位置だ。



「もっと近づけないのですか?」


「申し訳ありません。製造工程の中には、危険をともなう部分もございますので」



 アリア様がしょんぼりと肩を落とす。


 いや、「危険をともなう部分」ってなんだよ。怖いんですけど。



「あちらをご覧ください。粗精製(そせいせい)の工程――魔石の原料となる魔素結晶(まそけっしょう)の魔力を振動させ、不純物を取りのぞく作業をしているところです」



 ジェイドさんが腕をのばす。


 その先には、滑車にいくつもの箱がついた機械が動いているのが見えた。


 箱の中にはたくさんの石が入っていて、それを重厚な防護服を着た職人が、一つ一つ丁寧に取りだしている。


 それを魔法陣の上に乗せると、石が振動。一瞬だけ淡い青色に光ったように見えた。



「あの方々は、なぜあのような格好をされているのですか?」


「魔素結晶の光が人体に有害だからです。直接目に入れてしまった場合、失明の恐れがあるほどの強い毒性があるとされています」


「はいっ!?」



 聞いた瞬間、俺は目を閉じると同時にアリア様の目を手で覆った。


 すぐに、「この距離からなら問題はない」とジェイドさんに言われ、安心して目を開けてアリア様から離れた。



「粗精製されたあとは、安定化の工程です。石を炉の中に入れて、熱と圧力を加えます」



 粗精製の作業場の奥に、レンガでできた釜戸のようなものがあった。


 そこに、石が次々と放りこまれている。


 炉から取りだされた石は、入れる前と比べてかなり透明度が増していた。



「この作業が一番重要で、かつ熟練の腕が必要とされています。粗精製された石の状態によって、加える熱の温度と圧力を微調整しなければならないからです」



 ジェイドさんの解説どおり、炉の前にいる職人はそこからほとんど一歩も動かず、取りだすタイミングを注視しているように見えた。まさしく職人技か。



「安定化が済んだ石は、熱を完全に冷ますため数日間寝かされます。そしてようやく、魔石が完成します」



 そのときちょうど、手前にある巨大な両開きの扉が開いて、中から大量の石が運びだされていった。石はどれも、虹色の見覚えのある姿をしている。


 透明になった石を寝かせることで、あの輝く虹色の石になるのか。なるほど……わからん。



「怪しいところは……ないな」


「っ!? なにを言うか! 当たり前だ!」



 ぽつりと呟いた言葉に反応してきたジェイドさんを、「失礼しました」と言ってなだめる。


 険しい顔のまま歩きだしたジェイドさんの背中を見つつ、最後尾にいたライリーさんに近づいた。



「どう思う?」


「どうもこうも……汚染魔石が紛れこむ余地なんかねぇよ」


「そうだよな。防御魔法もかなり厳しく設定してあったもんな」



 ライリーさんの意見を聞き、俺は腕を組んで考えこんだ。


 この中で汚染魔石が紛れこむには、誰かが意図的にそれを作るしかない。


 けれど、できあがった魔石を数十人の職人が検査しているところを見ると、それは不可能だと言わざるをえなかった。


 そして、建物の外へ。厳重な検査をくぐりぬけた魔石たちが出荷されていくところを見送りにいった。


 魔石を積んだ大きな荷台を馬に引かせて、精錬所から離れていく。


 別の馬に乗った護衛役の騎士が、そのあとに続いていった。



「ああ……素晴らしい。とても勉強になりましたわ」


「喜んでいただけて私も嬉しく思います」



 アリア様もジェイドさんも満足している様子だが、俺とライリーさんは不完全燃焼だった。



「ここじゃないなら、どこが原因なんだ?」


「ルーファス先生が言ってただろ。駅の保管庫から列車に運びこまれる間が一番怪しいって」


「あ、そっか。じゃあ次はそっちを――」



 俺が言いきる前に、先頭を歩いていたジェイドさんが急に立ちどまった。


 その背中にぶつかるギリギリのところで、こちらも立ちどまる。



「どうしました?」


「……防壁が、作動している」



 ジェイドさんは、まるでこの世の終わりとでも言うかのように、目を見開いて立ちつくしていた。


 その異常なまでの反応に、俺たちはただ困惑するばかりだった。

今日もお読みいただき、ありがとうございました。

4人は無事脱出できるのか、どのように脱出するのか、期待していただけたら嬉しいです。

次回は、来週火曜日の20時頃更新予定です。

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