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海の賢者、気づけば国の命運背負ってました 〜追放されたタコの獣人が異国で勇者と公爵令嬢に見出され、大賢者になる〜  作者: 手羽本 紗々実(てばもと ささみ)
四章 裏切りの黄色編

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38話 無理難題だと言われたので与えられた手段をフルに活用してみた

 香りたかいローズヒップのお茶を入れて、再び元の席に座る。


 そして、魔導列車用の魔石に汚染魔石がまじっていた件を「ありえない」と断言する二人を見据える。



「……そういやライリーさん。魔導列車が危ないんじゃないかって俺が電話――じゃない、通信機で言ったときに、『それはねぇよ』って即答してたよな? 二人が言ってる『ありえない』っていうのは、それと関係ある?」



 ライリーさんは、お茶を一口飲んで若干眉をひそめて――ローズヒップが気に食わなかった様子――頷いた。



「魔導列車で使う魔石は、一般に流通してるやつとは別ルートで仕入れられてんだよ」


「別ルート?」


「精錬所から直通便で、おまけに騎士団の厳重な護衛つきでな」


「仕入れた後も検査をしてから使えるものとして回されるから、汚染魔石が紛れこむなんてありえない……はず、なんだけれど……」



 ルーファス先生は、語尾をにごして顔を俯け、考えこんだ。



「じゃあ、どこで紛れこんだんですかね?」


「可能性があるとしたら……仕入れて検査した後、保管庫から列車に運びこまれる間だね」


「仕入れる前に混入してた可能性は?」


「ねぇよ」


「なんで?」


「魔石の精錬所は、王族の監視と管理のもとで動いてるんだぞ。そんなことありえない」


「……だから、なんで?」


「ああ?」


「なんで、王族が監視と管理してるからって『絶対安全だ』って言いきれるんだよ? 偉いからか?」



 至極真っ当な、純粋な疑問を口にしたつもりだった。


 だけど、なぜかライリーさんとルーファス先生は、目を見開いて固まった。


 そんなに、そこまで、「王族」という存在は、彼らにとって信頼に値する存在なのか? ろくに会ったことのない人たちを、どうしてそこまで信じられるんだろう。



「たしかに……今回はありえないと思われていたことがいくつも起こっている。魔道具の暴走、国内に魔物が侵入していた件。挙句の果てには魔導列車の暴走……常識にとらわれていたら原因に辿りつかないだろう。精錬所も調査の対象に含めたほうがいいかもしれない」


「先生! 本気で言ってんのか?」


「本気だよ。ただ……精錬所を調べるのは現実的ではない。他の可能性を潰すところから始めたほうがいい」


「なんでですか?……あ、王族が管理してるから?」


「そう。見学を申し入れても、一蹴されて終わりだ。ましてや、汚染魔石が紛れこんだ原因を探りたいなんて言った日には、不敬罪に問われてしまうだろう」



 ルーファス先生は、腕組みをして顔を少し下にむけて考えこんだ。


 ……じゃあ、なおさら怪しくないか?


 王族しか入れなくて、一般には非公開なんて。管理や監視が不十分でも、その人たちのさじ加減でどうにでもできてしまうじゃないか。ちゃんと機能している保証があれば別だけど。


 ふと見ると、ライリーさんがこめかみを揉んでいた。



「どした? 頭痛か?」


「……俺らまでがっつり巻きこまれちまってるじゃねぇか……めんどくせぇ」


「めんどくせぇはねぇだろ! 国の一大事だぞ!? 大勢の国民の命が危険にさらされてるんだぞ!?」


「それは分かってる……けど、なんでお前はそんなやる気なんだよ」


「だからぁ! 俺の知ってる人も危険な目に遭うかもしれないだろ!? そんなの見過ごせるわけない!」


「本音は?」


「……まだ行ってないとこ、見てないとこに行けるかもってちょっとわくわく!」


「素直でよろしい」



 ルーファス先生が苦笑しながら言った。


 けど、実際ローズさん含めた子どもたちが事故に巻きこまれかけたのだ。ライリーさんが面倒臭がっても、原因が分かって解決するまではがっつり関わってやるからな。



「で、話戻しますけど。本当に精錬所に入る方法はないんですか?」


「実に難しい話だよ。女王陛下やそれに準ずる立場のお方に許可をいただけたら可能だろうが……」



 うん、まず無理だな!


 そもそも、そういう方々にお会いするのだって無理じゃ――いや、待てよ?


 そこまで考えて、俺の頭の横のヒレがぴんと持ちあがった。


 いい方法があるじゃないか。これならいけるかもしれない!


 視界の端で、ライリーさんが苦々しげな顔をしていたが、俺は気づかないふりをしておいた。




 ◇◇◇




 その一週間後。


 俺とライリーさん、それからつきそいのコーデリアさんの三人で、とある場所にむかっていた。



「ありえねぇ……」



 ライリーさんが、歩きながら頭を抱えて嘆く。


 一歩後ろを歩いているコーデリアさんも、呼びだされたときからずっと困惑している様子だ。


 それもそのはず。と、いうか、俺もびっくりだ。


 魔導祭のあと、望まない婚約を破棄できたお礼として、アリア様からもらってあった封印蝋。これを用いつつ、彼女に手紙でコンタクトをとったのだ。


 ルーファス先生曰く、「女王陛下やそれに準ずる立場のお方」の中には、まちがいなくアリア様のお父上――公爵様も含まれている。あの方の許可がいただければ、見学は可能だと思ったのだ。


 とはいっても、正直無理だろうと思っていた。


 婚約破棄の件で父娘の関係はあまりよろしくなくなってしまっただろうし、それでまた娘のアリア様から父親の公爵様にお願いをするのは、心境的にも難しいはず。


 その旨も一応手紙には書いておいたのだ。全然、無理にとは言いません、と。


 だが、つい昨日。


 届いたアリア様からの手紙には、無事見学の許可が下りたことが記されていたのだ!


 それを読んで、俺は思わず変な叫び声をあげた。


 ライリーさんにいたっては、超有名な絵画、なんとかの叫びに似た顔をして絶句していた。無関係の人がはたから見れば、笑い話で済まされたはずだけど。



「こんなことを言っていいのかどうか……ポルテさんは、実はとんでもないお方だったのでは?」


「いえいえ。ただちょっと運がよかっただけですよ」


「運じゃなくて悪運だろうが」


「そうとも言う!」



 元気に返事をすると、たちまち後頭部を殴られた。前のめりになり、あわや転びそうになったのをなんとかこらえる。


 すぐ手が出るよなぁ! 困ったもんだ。


 そして、まもなく到着した、待ち合わせ場所の中央広場。


 そこにはすでに、二台の立派な馬車が待機していた。


 こちらが近づくより早く、手前の馬車から麗しきお嬢様が優雅にのんびりと降りてきた。



「アリア様!」



 目があった瞬間に、俺は駆けだした。彼女の目の前に立ち、姿勢を正す。



「このたびは、こちらの希望を叶えていただき本当にありがとうございます。心よりお礼を申しあげます!」



 いつになく丁寧な口調でお礼を言い、背筋をのばした状態から頭を下げた。



「どういたしまして。私も、やっとあなたにお礼ができると嬉しくなりましたのよ。お役に立てて光栄ですわ」



 アリア様が、片手を差しだしてきた。


 俺はその場にひざまずき、その手をとって唇を近づける寸前で止める。


 ……このあいさつ、何度やっても慣れそうにないな。いや、慣れてたまるか。



「皆様に紹介したいお方がおりますの」


「紹介したい人? どなたですか?」



 立ちあがり、首を傾げる。


 すると、馬車から別の人が降りてきた。


 アリア様と同じ長い金髪に、唇の左下にホクロがあるスレンダーな女性だ。目は吊り気味で細く、眼光が鋭い。服装は、ドレス姿のアリア様とは違って動きやすそうなパンツスタイルだった。


 誰だろう。クレアさんとは別の侍女さんか? それとも、家庭教師だろうか。


 気づけば、コーデリアさんが息をのみ、固まっている。どうした突然。



「紹介しますわ。私の姉です」


「ベアトリス・ハイドランジアと申します。お会いできて光栄です」



 その人は、しゃきっと背筋を伸ばしてから、軽く会釈した。


 姉……? アリアさんの、お姉さん? って、たしか宰相補佐の?


 ……え? めちゃめちゃ偉い人じゃん! ヤバくね!?



「こちらこそお会いできて光栄です。このたびは、我が弟子が無理難題を申した件、心よりお詫びいたします」



 ライリーさんが、すかさず胸に手をあててうやうやしく頭を下げる。後ろにいるコーデリアさんも同じようにしていた。


 俺は、どうしたものかとおろおろするばかりだった。



「かまいません。アリアも先程申しておりましたが、婚約破棄において尽力いただいた件の恩をお返ししたかったので」



 アリア様のお姉さんのベアトリス様は、そこで切って悲しそうに目をふせた。



「私はどうしても家を留守にしがちだったため、心配していたのです。まさか、あのような話になっていたとは……鬼畜の所業だとしか思えない。アリアは、父が政界で幅をきかせるための道具ではないというのに!」



 ベアトリス様が、苦々しげに奥歯を噛みしめて拳を握りしめる。


 ……当主である公爵様のことをそんなふうに言えるなんて。気が強い人だな。


 感心していると、ベアトリス様が表情を一変、ほほえみを浮かべて俺を見た。



「婚約破棄のきっかけを作っていただいた件、私のほうからもお礼を申し上げます。可愛い我が妹、アリアの心を守っていただき、ありがとうございました」


「いえいえ、そんな……あ、いえ! もったいなきお言葉にございます!」



 背後からなにかものすごい圧を感じ、きちんとした返事をして深く頭を下げた。


 すると、ベアトリス様が笑みを深くした。



「アリアの言っていたとおりですね。あなたには……どこか不思議な雰囲気が感じられます。魔導祭でも思いましたが」


「え! あの試合、ご覧になっていただけたのですか?」


「もちろんです。女王陛下も宰相殿も、面白い子だと大層お喜びでしたよ」



 俺は、それを聞いて絶句した。


 ウソだろ。俺ってば、陰で女王陛下と宰相――国のナンバーワンとナンバーツーに褒められてたのか!? それ、めちゃめちゃすごくないか!?



「今回の件は、アリアが勉強のために()()()魔石精錬所を見学したいと言っている、と父には話を通してあります。どうぞ気兼ねなく楽しんできてください」


「え? ベアトリス様が話を通してくださったのですか?」


「ええ。私の愛する可愛い妹の頼みでしたから」



 にっこり笑ったベアトリス様の背後にいるアリア様が、恍惚な顔をしているのが見える。


 これは……うん。素晴らしきシスコン姉妹だな。ライリーさんのお兄さん、アーサー様のはどちらかというと一方通行的な愛だけど。家族愛にもいろんな形があるんだなぁ。



「お力添えいただき、恐悦至極に存じます」


「ありがとうございます!」



 ライリーさんが改めて丁寧にお礼を言ったのに続いて、俺も頭を下げた。



「私はこれから、宰相殿の付きそいで隣国に赴く用事があります。よって、ここで失礼させていただきますが……代わりに、アリアの護衛役と案内役をかねて、騎士団の方についてきていただけることになりました。父の推薦した方なので、まちがいはないかと思います」



 ベアトリス様がそう言って、馬車のほうへ視線をむけた。


 馬車の反対側――死角になっていたところにいたらしい人が、こちらに近づいてきた。その人を見て、再び絶句。



「ジェイド・ビヴァリー氏です。魔導祭ではいろいろあったと思いますが、どうぞお気になさらず」



 いやいやいや! めっちゃくちゃ気にしますけど!?

今日もお読みいただき、ありがとうございました。

次回はあさって土曜日の20時頃更新予定です。

ぜひまたお読みください。

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