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海の賢者、気づけば国の命運背負ってました 〜追放されたタコの獣人が異国で勇者と公爵令嬢に見出され、大賢者になる〜  作者: 手羽本 紗々実(てばもと ささみ)
四章 裏切りの黄色編

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37話 早い情報に助けられたので詳しく説明してみた

 魔導列車暴走事故のごたごたから解放されたのは、太陽が真上にのぼった頃だった。


 早く帰って昼食の用意をしないと……と、急いで帰ったら。



「やあ、ポルテくん。ずいぶん大活躍だったそうだね?」


「あ……え?」



 家の玄関扉を開けて、「ただいま」と言うより前に、そこに仁王立ちしていたルーファス先生と対峙する。


 そう、まさしく仁王立ち。腕を組んで、顔は笑顔。しかし、幻覚だろうか、背景には般若の面が見える。そして、圧がすごい。



「ルーファス先生……いらっしゃい。どうか、されたんです、か?」


「駅で事故があったと聞いて、情報収集をしていたんだよ。そうしたら……ライリーから連絡をもらってね。君も駅にいたんだろう?」


「……はい。まぁ」



 これは、説教モードか?


 覚悟しながら家の中に入り、ひとまずお茶の用意をしようとしたが、応接室に引っ張りこまれて「座りなさい」と言われる。


 大人しく従うと、そのタイミングでライリーさんもやってきた。



「ターナー卿からも話を聞いたよ。君……また危ないことをしていたんだね?」


「……ターナー卿……」



 その名を聞いて、思わず体が震えた。


 たぶん、例の旧なんとか侯爵別邸の件だな。至大共鳴陣(グラン・シンフォニア)、だったか。そっちの話も耳に入っているのか。さすがルーファス先生。



「どうなんだね?」


「あ、はい。いや……でも、あれも今回の件も、なんていうか……知らないうちにそうなっちゃったっていうか」


「知らないうちに?」


「……いえ。あの……不可抗力、なんです」



 至大共鳴陣は、やろうと思ってやったわけじゃない。そもそも、その存在自体を知らなかったし。


 列車の件は、ああでもしなきゃ止まらなかった。止められなければ、大勢の死傷者が出ていたかもしれない。


 ……うん。不可抗力って言葉しか思いつかないな。


 悪いことはなに一つしてないぞ、と意味をこめて、ルーファス先生をじっと見つめる。


 すると、まもなく先生が肩を落としてため息をついた。



「どうしてこうなった……やっとライリーが落ちついたと安心していたのに、今度は君か……」


「悪かったな、悩みの種第一号で」


「じゃあ、俺が第二号?」


「なにを喜んでいるのかね」



 顔を手で覆って嘆いていた先生が、すぐに切りかえて怒りを滲ませた顔をむけてきた。


 俺は、開いていた足をきゅっと閉じて縮こまり、「すみません」と呟く。



「失礼いたします! 大変です、ライリー様!」



 そんな重い空気の中、慌てた様子で駆けこんできた人がいた。


 この声は、コーデリアさんだな。



「どうした。列車事故の件か?」


「ご存じだったので――ルーファス先生。ご無沙汰しております」



 ライリーさんが顔をのぞかせると、コーデリアさんが応接室に入ってきた。そして、すぐにルーファス先生がいると気づいたようで、姿勢を正して頭を下げてあいさつ。


 切りかえ早っ。さすがと言うべきか。



「やあ、コーデリアくん。ご苦労様。新聞の号外が出たのかね?」


「はい。こちらを」



 コーデリアさんが、折れないように半分に曲げられた薄い新聞を広げて、先生に差しだす。


 見出しには、「魔導列車暴走!」と、でかでかと書かれていた。



「は!? なんでこんな早く情報入るんだよ!? 明日出るならまだしも!」


「コーデリア。魔導新聞の仕組みについて解説」



 ライリーさんは、ルーファス先生が受けとった号外新聞を横からのぞきこみながら、人差し指を動かして指示。


 俺は期待して、頷いたコーデリアさんを見つめた。



「魔導新聞は、毎日記者が各地を回って情報を集めております。その中でも、『実際にあったこと』については、いち早く情報を回すように指示されているようです」


「つまり、あのとき駅に記者がいたんですか?」


「いたどころか、どうもその列車に乗りあわせていたそうで。情報が入りさえすれば、新聞自体はすぐに作れるのです。文字をおこして刷る工程には、専用の魔法が構築されているので」



 感心して頷いた。新聞づくりにも魔法か。


 この世界では、新聞は貴重かつ唯一の情報源だからな。いかに早く情報を回せるかが重要なのだろう。


 しかし、まさか新聞記者まであの列車に乗っていたとは。それならこんなに早く号外が出るのも納得だ。



「のちに別の記者が事実確認をした際に、誤報だったと判明するケースも少なくありません。ですが……今回の件は、先程も申しましたが記者が乗客として現場にいあわせていた点と、同じく乗客だったローズマリー様の証言も掲載されているので、信憑性は高いかと」


「そういうことですか……よくわかりました。ありがとうございます」



 コーデリアさんにお礼を言ってから、遅れて俺も号外新聞をのぞきこむ。


 ……字ばっかりで目が滑る。


 分かったのは、事故の経緯。列車が走りだし、普段とは違うありえないスピードで次々と駅を通過。ベルヘブンズ駅でようやく停車した、と。


 ちなみに、ローズさんの証言もおおむね同じような内容だった。


 たしかに、乗客視点だとそう見えるだろうな。さすがになにが原因かまでは、今の時点では知られていないようだ。



「ローズ院長も乗っていたのか……これはトニーくんの責任を問う声があがるだろうね」


「え!? なんでトニーさんが!?」


「整備責任者だからだよ。原因が不明のうちは、どうしても追及の的になってしまうんだ」


「違いますよ! 悪いのは汚染魔石を動力炉に入れた奴ですよ!」



 俺が思わずそう叫んだ瞬間、まるで時間が止まったかのような感覚がした。


 全員が、言葉を失って固まっている。


 ……え? なんだ、この空気。



「汚染魔石? 動力炉?……なぜ君がそれを知っているんだい?」


「お前、やっぱりあの列車に乗ってただけじゃなかったんだな!? なにをした!?」


「なにって、別にそんな大したことは……!」



 二人に詰めよられ、目を泳がせる俺。そこでようやく失言に気づく。


 そうだった。「俺がなにをしたのか」は、まだ話してなかったんだった!



「……う、運転手っぽい人がさ、『列車が急に走りだした!』って言って腰抜かしてたんだよ。で、慌てて飛びのって……たぶん動力部が原因かなって思って――」


「お待ちください。動力部と客席は分離されているはずです。内側からは入れないのでは?」


「そうだったんですか。いや、俺は外側から入ったんで」


「外側? 猛スピードで走る列車の……外側から、ですか?」



 コーデリアさんが、信じられないとばかりに目を見開き、眉を寄せる。


 ……ルーファス先生とライリーさんのほうは、どうしても見られなかった。



「俺だけじゃないですよ? ローズさんの使い魔の力も借りて、なんとか。で、その……動力炉が暴れてたから開けてみたんですよ。そしたら中に黒い魔石があって……それをこう、がっと取りだして――」


「炉の中に手をつっこんだのか!?」


「違う! 魔法をまとった状態で!」



 そう言ったあと、その場はお通夜状態になった。


 コーデリアさんは、ドン引きして真っ青な顔で後退り。


 ルーファス先生は、燃えつきたといわんばかりに顔を天井にむけている。


 ライリーさんは、腰に手をあてて俯いていた。


 ……どうしようか、これ。


 別に、子どもたちに「ヒーロー」と呼ばれて調子に乗ったわけじゃない。俺にできることをしようと思って行動しただけだ。その結果がああだったってだけなんだけどなぁ。


 考えこんでいると、どこからか小さな笑い声が聞こえてきた。


 ライリーさんだ。彼が、顔を俯けたまま肩をくりくり上下させて笑っている。



「なぁ、先生……とんでもねぇな。あんたの悩みの種第二号は」


「……なにを他人事のように言っているんだい?」


「まぁ、しょうがねぇさ。だってこいつはもうすでにこうなんだから」



 ライリーさんが、俺の肩を強めに叩いてなおも笑う。ようやく落ちついた頃、今度は不敵な笑みを浮かべて俺を見た。



「かなり無謀だったようだが……まぁ、よくやった」


「へっ!?」


「なにを言って――」


「事実。こいつのおかげで大勢の乗客の命が救われた……だろ?」



 ライリーさんが言うと、とがめようと腰を浮かせたルーファス先生が押し黙った。そして再び、うなだれる。


 ……まさか、ライリーさんから褒められるなんて。めちゃめちゃに怒られるかと思ってたのに! なんだ? 教育方針の転換か? 大歓迎です!



「もう大人だって言いはるんなら、他人に迷惑がかかるかどうかの判断くらいは当然できるよな?」


「……たぶん!」


「ならいい。好きにしろ」


「おう!」



 ご主人様からのお墨つきをもらって嬉しくなり、両腕を天井に突きあげた。


 けどまぁ、未だにうなだれているルーファス先生の悩みの種が、これ以上増えない程度には自重しないとな!




◇◇◇




 ルーファス先生とコーデリアさんを昼食に誘ったが、コーデリアさんは「せっかくですが、仕事がたくさん残っているので」と言って、急いで帰ってしまった。


 忙しいのに、事故のニュースを知らせるために来てくれたのか。相変わらず真面目な人だ。



「先生は大丈夫ですか?」


「ああ、いただくよ。さっきの話で気になることもあるしね」



 そう言われて一瞬ドキリとしたが、先生の表情は穏やかなものに戻っていた。


 俺を追及したいわけじゃないようだ……たぶん。


 昼食は、普段は比較的簡単なもので済ませる。今日は、この前炉辺亭(ろべんてい)で学んだ、フラットブレッドを使った挟みパン。いわゆる、サンドイッチ的なものだ。具が好みで選べるので非常に便利なのだ。


 リクエストにより、ルーファス先生はレタスと焼いた川魚の切り身。ライリーさんと俺は、レタスに加えてカリカリに焼いたベーコンを。


 トマトがあれば完璧なんだけどなぁ。魔法で栽培できないのか?……さすがに種か苗がないと無理か。



「君がさっき言っていた件についてだけど……見たのは本当に、汚染魔石だったのかい?」


「まちがいないです。前にトニーさんに見せてもらってたので。魔道具暴発事故はこれが原因かもしれないって言ってたときに」


「……ありえない」



 ルーファス先生が、食べかけの挟みパンを皿に戻して、あごに指をそえて考えこんだ。


 あれ? 俺、疑われてる?



「本当ですってば! 実際、あれを取りだしたら暴走が止まったんですよ!?」


「いや。君を疑っているわけじゃなくてね。魔導列車に使う魔石に、汚染魔石が混じっていたのがありえないという意味だよ」


「……たしかにありえねぇな」



 ライリーさんが、挟みパンの最後のひとかけらを飲みこんでから同意した。


 ……なんでそんな、「ありえない」なんて断言できるんだろう? 


 目の前の食べかけの挟みパンをほおばって咀嚼。詳しい話を聞くために、先にお茶の用意をした。

読んでいただき、ありがとうございました!

感想、評価などいただけたら励みになるので、もしよろしければお願いします。

次回はあさって木曜日の20時頃更新予定です。よければご覧ください。

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